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第三十四物語 「girl night~乙女の憂鬱な夜~」

悩む乙女のお話


「で、どういうことかしら……?」


「ボッコボコにしてから、聞くのは止めようよ!マリ姉!」


正直、身が持たないからさ!


気絶した後、起こされたと思ったら、能力の解けたヒマリちゃんと一緒に状況説明をさせられたぜ!


理不尽じゃね?


「うぅ、すみません……」


本心からすまないと思っているであろうヒマリちゃんは、シュンと縮こまって反省しているようだ。


「ヒマリちゃんは良いのよ。大抵の出来事、否、全ての出来事はユウちゃんの責任だから!」


「そんな、俺が地球を回してるみたいなことありますか!!」


そんなに俺は凄い奴じゃない。


そんなやり取りをしていると、ヒマリちゃんが申し訳なさそうな顔で、


「じ、実は狼に変身したんですけど、満月の夜は使っちゃダメだったんです。理性が効かなくなってしまうので」


と、説明した。


成る程。狼モード(勝手に名称)にそんな弱点があったのか。


外を見ると、さっきと同じく満月が浮かんでいる。


変身をお願いしたのも、満月を見せたのも俺の誤算。


「ごめん。マリ姉。全ての出来事は俺の責任かも知れない」


「分かれば良いのよ」


「分かっちゃ駄目ですよ!?」


「はぁ……、第二次世界大戦も、フリーメイソンも、未確認飛行物体も俺の責任か……」


「何だか良く分かりませんが、絶対に違うと思いますよ!?」


はぁ……、エジプトの起源も俺にあるのか……。


まぁ、いっか!


「そこを、まぁ、いっか!で済ませる辺りがユウちゃんクオリティね」


「相変わらず、心を読まないで欲しいな!」


そして、それを無視するのが、マリ姉クオリティ。


頭が落ち着いた所で、ヒマリちゃんの能力について、もう一度、考えてみる。


戦闘では、俺以上のパフォーマンスを見せるであろうその力。


だけど、俺は何と無くだけれど、ヒマリちゃんを戦闘には参加させたく無かった……。


エゴなのかな?


こういうのは本人の意思が大切だと言うし。


でも、女の子が傷付くのはなぁ~。


「……、ユウちゃん?私も女の子なのだけれど……?」


ああ、マリ姉は普通に戦ってたね。


うん。確実に忘れてたよ。


でも……。


「マリ姉は……さ?信じてるからさ?」


マリ姉は傷付かないって……。


俺なんなが心配しなくても、怒らなくても、無事に帰ってきてくれるそんな存在だから。


頼れるパートナーだから。


「はぁ……。私も女の子なのよ……?」


相変わらず、心を読んだマリ姉がそんなことを言う。


いつも道理だ。


だけど、そんないつも道理の中、気のせいかも知れないけれど、頬が赤い気がした。


するだけかな?


「羨ましいです……」


ヒマリちゃんも何かを呟くが、聞き取れなかった。


むぅ、ボッチは耳が進化する生き物なんだけどなぁ~。


ボッチは対話をすることこそ少なく、代わりに耳が異様に進化して、俺くらいになるとクラスのひそひそ話は全て聞こえる。


誰と誰が付き合ってるとか直ぐに分かる、情報通さんなのだ。


まぁ、悲しいかな話す相手がいないんだけどね?


兎に角、話が脱線してしまった。


「ヒマリちゃん?」


俺はヒマリちゃんが何を言ったのか聞こうとしたが、


「大丈夫ですよ~」


先手を取られてしまった。


むぅ……。


「すいません。ユウトさん。少し、外の風を浴びてきます!」


更にそう言って、ヒマリちゃんは部屋を出ていく。


慌てて、追おうとするが、マリ姉にそれを止められた。


「むぅ、何だよ?マリ姉?」


ちょっと、それに強めに返してしまう。


だけど、マリ姉は相変わらず冷静だ。


「五分だけ、待ちなさい?女の子にも一人になりたい時くらいあるのよ?」


そう言いながら、腕を組むマリ姉。


なんか、納得がいかない。


正直、ムッとなってしまう。


が、マリ姉の言うことの方が正しいとは思ってしまう。


「でもさ……」


ちょっと、弱腰になってしまう。


だけど、マリ姉も思うところがあるのか……。


「それに、今のは私が悪いのよ。だから、私にいかせてくれないかしら?」


そして、そう言われて、俺は黙ることしか出来なくなった。


女の子にしおらしくされると、黒石さんはとても弱い。


はぁ……、仕方ないかな?


女の子の気持ちは俺よりもマリ姉の方が詳しいだろうし……。


それに、五分だけなら、大丈夫の筈だ。


五分たったら、ヒマリちゃんを向かえに行こう。


だけれど、その油断が後に事件を引き起こすことを俺は知らない。


常に選択は正しいものを選べば良いと言う訳じゃないことを。






「はぁ……」


宿を出てすぐの場所で、空を見上げながら、私は外に出ていた。


空のお星様は綺麗に輝いている。


溜め息の理由は至極単純。


私、自身に対してだ。


何で、部屋を出てきちゃったんだろう……。


そんなことを思って、もう一度、ため息をついてしまう。


あの時、ユウトさんとマリナさんが、言葉じゃない所で分かりあっていたあの時。


羨ましいなぁ、って思ってしまった。


そして、同時に疎外感も感じた。


私は、本当にここにいて良いんだろうか?って。


勿論、二人は快く、居てもいいって、言ってくれると思う。


でも、「居ても良い」と「居て欲しい」じゃ、大きく違う……。


前者は、居ても良いけれど、迷惑をかけてしまう。


後者は、居てくれないと困るくらいに、助かってる。


私は前者にはなりたくなくて、後者を目指しているから……。


もし、私がいることによって、迷惑をかけてしまうなら、私は……ここにいて良いのか分からなくなっちゃう。


そんなのは嫌だ……。


無理を言ってついて来させて貰った、ユウトさんやマリナさんの邪魔になってしまうくらいなら…………。


はぁ……、と三度目のため息をついて、お星様達を見上げる。


すると、段々と心が落ち着いてくるから。


暫く、そうした後。


「戻ろう……。二人に心配かけちゃう……」


そう言って、前を向いて立ち上がろうとした。


でも……。


前を向いた瞬間、少し離れた所に人がいた。


少し、びっくりしたけれど、直ぐにそのビックリは収まった。


だって、目の前にいたのは女性だったから……。


「綺麗……」


思わず、そう呟いてしまう。


それほどまでに女の人は綺麗だった。


こんな薄暗い、満月の出る夜の元でもはっきりと分かった。


目の前の女性の髪は長く、綺麗な青空の色をしていて、瞳は水色。


白が強い、雪のような肌をしていて、背が私が憧れるくらい高かった。


そして、その顔はまさに綺麗と言うのに相応しく、切れ目の二重に、冷たく吸い込まれそうな唇。


まるで氷の女王の様な冷やかで危うい魅力を纏っていた……。


私が、見とれていたのも束の間、女性はこちらに近付いてくる。


「えっ……?」


漸く、そこまで思考が追い付いた私は、女性が近付いてくることに疑問を持ったけれど、宿を取りに来たのかと、その疑問に自己完結させる。


だから。


「……は、いっ……」


最初、その女性がなんて言ったのか聞き取れなかった。


その言葉が、こちらに向いているのに気づいて、


「えっと、なんでしょう?」


そう返した。


女性はもう一度。


「まず…、…ぴき……」


言葉を繰り返す。


何だろう……、この続きを聞いてはいけない。そんな気がする。


だけれど、女性は、すぐ近くまで来ていて、それは、声がはっきりと届く距離だった。


そのまま、告げられる声。


「まずは、いっぴき……」


私がその言葉の意味を理解する前に、女性の冷やかな水色の目が、情熱的な深紅の色へと変色する。


そして、そのまま、その美しくも冷たい声で私に命令した。


『動くな』


綺麗で冷たい。


まるで、耳を溶かし頭に溶け込む様な、その言葉を言われて、


「(えっ……)」


私は本当に動けなくなってしまう。


一瞬、訳が分からなくなって、でも、ようやく、事態の大変さを悟れた。


このままだと、私は、この女の人に……。


体を恐怖が包む。


だけど、『動くな』と命令された私は、震えることすら許されない。


そして、ただただ、その表情を見続けなければならない。


その麗人の食事前の様な姿を。


そして、気付く。


その女の人に歯に二本の牙があることに。


私も、狼に変身した時にはえる牙。


でも、女性のそは皮膚を噛み千切るためでは無く、ただ、噛み付く為にあるようで……。


私の頭に一つの人外が思い浮かんだ。


吸血鬼。


絵本の中でしか見たことが無いけれど、本当にそっくりで、そのことを証明するかの様に、その女性は私の首元へと、その口を近付ける。


逃げ出そうとしても、体が動かず、頭を恐怖が包みこむ。


「(ユウトさん……)」


声は口から出ていかず、心の中で反響した。


女性の吐息が首元までかかり、ゾワリと寒気がしたかと思うと。


ガブリっ…。


「あっ……」


「………………」


そのまま、まるで吸血鬼の様に、いや、本物の吸血鬼に噛み付かれた。


痛い。凄く痛い。


だけれど、痛みを叫ぶことは許されない。


「(ユウトさん、ユウトさん!)」


代わりに、心の中で痛みを和らげる魔法のような言葉を繰り返すことだけが頭を埋め尽くす。


凄く怖いのだ。


そんな中、首元に激しい痛みが走る中、血を啜る音が聞こえる。


体から物凄い勢いで血が抜けていき、それと共に生気が抜けていく気がする。


いや、実際に抜けているのだ、体に力が入らない。


動くなとの命令がなければ、その場にへたり込んでしまう程に。


「(ユウトさん!ユウトさん!ユウトさん!)」


思わず、意識が遠くなるのを堪えるように好きな人の名前(まほう)を唱え続ける。


だけど、その続きが切り出せない。


言ってしまったら、私は本当に迷惑をかけてしまう。


だけど、本当に不味いことには変わりがない。


最早、痛みも感じないほど血が抜かれてしまっている。


そんな、中、ふと……。


小さな頃に見た吸血鬼の絵本を見た時の記憶が蘇る。


吸血鬼に血を吸われた者は、最後、


死ぬ。


ああ、私このままじゃ本当に、


死んじゃう。


その単語が頭を埋めつくし、恐怖に体が支配され、思わず思ってしまう。


「(ユウトさん!助けて!)」


言わないと決めていた言葉を。


次の瞬間、不意の振動が来て私から吸血鬼が引き離される!


「ヒマリちゃんになにしてやがる!!」


それは、私の血に夢中になっていた吸血鬼に飛び蹴りをかました誰かだった。


そして、いきなり現れた人が誰かは分かっていた。


他でも無いユウトさんだ。


分かっていた。


呼んだら、例え、心の中の声だとしても、ユウトさんは来てくれるって。


でも、言いたくなかった。


また、迷惑をかけてしまうから。


だけど、恐怖に負けて私は呼んでしまった、その名前を助けを……。


私、弱い子だ……。


これじゃあ、ホンとに……。


そこまで、思った所で、誰かに体を抱き締められる。


分かってる。それもユウトさんだ。


ユウトさんは、一言。


「ヒマリちゃんの馬鹿!」


と、言った。そのまま、


「我慢したのは凄いけれど、あのままじゃ、ヒマリちゃん死んでたんだぞ!」


私を叱る。


だけど、その声は優しくて、抱き締めてくれる体は暖かかった。


何より。


「ヒマリちゃんが死んだら、僕は悲しい!僕はヒマリちゃんに傍にいて欲しいんだ!」


その心が暖かくて優しかった。


瀕死の状態なのに微笑んでしまう程に。


ああ、そっか……、あんな心配……、しなくても良かったんだ。


ユウトさんは最初から私を必要としてくれていたんだ……。


馬鹿だな……私。


思わず、私は、感謝の言葉が言いたくて、


「好きです……ユウトさん」


そんなことを言ってしまう。


そんな私にユウトさんは、


「僕もヒマリちゃんが大好きだよ!だから、こんなこと、二度とするな!」


そう、叱ってくれた。


ああ、私こんなに思われてるんだ……。


嬉しいな……。


そこで、私は意識を失った。

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