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第三十三物語 「moon night~月夜の下で~」

3章開幕

無情な現実のお話

 やぁ、おひさしぶり!黒石ユウトだよ!


 今、俺は絶賛ピンチなのさ…。


 何故かって?


 極々単純…。


 年下の女の子にマウントポジションを取られて、頬を刷り寄せられているからだ…。


 他でも無い、ヒマリちゃんさ!


 まぁ、これだけなら大丈夫、いや世間的にはアウト、でも少し嬉しいかもゲフンゲフンで、済むかも知れないんだけれど、


 今にもマリ姉がシャワーから上がってきそうなんだ…。


 うん、まだ死にたくないや俺…。


「ユウトさぁ~ん…」


 つうか、こっちもこっちでヤバい…。


 ヒマリちゃんは正気を失ってしまっている。


 つうか、服が乱れることを気にしてないのか、ちょっとヤバめの格好になりかけている…。


「ユウちゃん…?何をしているのかしら…?」


「オワタ……」


 ああ、別のこと考えたのがいけないんですね…。分かります…。分かりたくなんか無かったけど…。


 いつの間にか、シャワーの音が止まっていたことに気付かないなんて、黒石ユウト一生の不覚…。


「ねぇ、ねぇ、ユウちゃん?」


 そんなことを明るく可愛く言うマリ姉。


 普段なら、抱き締めたくなる可愛さなんだけれど、如何せん、目が死んでる。


水死体(おふろ)にします?切り身(りょうり)にします?それとも… わ(ざ) ・ た(ん) ・ ()?」


 さぁ、全くもって嬉しくもなんともない狂乱の(おもてなし)、この中からどれかを選ばなければ、ならない…。


 それは勿論こう答えなければならない…。


「勿論、全部だよ~。マリ姉~」


 そう言って、俺はマリ姉に抱きついた…。


 さぁ、これで怒りを納めてくれ……マリ姉……。


 あ、やべぇ、目の死に具合が一気に増した。


 そういや、ヒマリちゃん、まだ、背中に抱き付いたままだったわ……。


「ユウトさぁ~ん!」


 ああ、背中に頬をスリスリさせるのが心地好い……。


 あ、今の考えマリ姉に読まれたわ、最早、怒りの笑顔度合いが100%越えたもん。


「じゃあ、全部(フルコース)ね~」


 笑顔でそんなことを言っちゃうマリ姉。


 てな訳で皆さん、あの某不幸系主人公の合言葉をご一緒に……。


「不幸だぁあああああ!ゲボラ!!ユギッ!?」


 そんな中、俺は意識を失いながら、どうしてこうなったのかと言う走馬灯を見るのだった…。






「さて……」


 今、俺達は次の町へと来たのだった。


 ヒマリちゃんと、一緒に。


 あの後、きちんと話をつけた俺達は一緒に旅をすることになった。


 ヒマリちゃんは、外の世界を見たいと言って、俺は命に変えてもそれを守る、と。


 そして、ヒマリちゃんは俺のメイドさんになると……。


 そんな内容だった。


 いや、最後のは気にしたら負けだと思う。割りと本気で。


 決して、ヒマリちゃんが俺の奴隷になりかけたわけじゃない!絶対に。


 兎も角、ヒマリちゃんとは、まだ、少し、気まずいながらも、徐々に関係を取り戻しつつある。


 と言っても、ヒマリちゃんは外の世界に目をきらきらと輝かせる時間の方が圧倒的に多かったけれど……。


 これじゃあ、黒石さん形無しだぜ…!


「つきましたね!」


「うん……。着いたよ?ついたから……さ?そろそろマリ姉、そのアイテム解除して頂けないでしょうか?」


 実は、現在重力が三倍……。


 マリ姉の魔法のアイテムのせいだ。


 うん。使われるまで完全に忘れてたよ。


「仕方無いわね~?」


 そう言って、嬉々とした様子で魔法具を解除するマリ姉。


 マリ姉は俺を虐める趣味でもあるのか?


 あ、元からか。


 諦めるしか無いのかな?


「ユウちゃん~?」


「おぅっふ!僕は何も考えてないよ!だから、その魔法具をもう一度展開するのだけは止めようか!」


 もうこれ以上は無理!


 くっ、マリ姉の笑顔が黒く輝いているぜ!


 そんなこんなで、やり取りをしながら、俺達は宿を取りに行く。


 あ~、ヒマリちゃんの村に大分寄付してきちゃったから……足りるかな……?


 クエストを受けるための村は、あと一山越えた所にある。


 で、今は夕方だから、宿を取るしか無い。


 はぁ……、異世界つれえ。


 まぁ、そんなことを言っても始まらないので、さっさと宿を取らないと……。


「あ、ユウちゃん?先に言っておくけれど、皆一緒の部屋よ?」


「はがっ……!?」


 そこまで、頭が回ってなかった!


 マリ姉は仕方ないとしても、ヒマリちゃんと一緒の部屋だと……?


 それは、何か気不味いぞ?


 多分、ヒマリちゃんも同じ気持ちのはず!


「え?でも、ひまりちゃんはそれで「大丈夫ですよ?私、メイドですし……」お、おお……」


 話終わる前に言われて、しまった……。


 何だか顔を赤らめて「む、寧ろ……一緒の方が……」とか意味が分からないことまで呟き始めてるし。


 メイドになったのは事実だしな~。


 まぁ、そこまで、弊害は……無いか。


 いや、無いのか?


 良く考えよう。


 あの時は、ほぼ緊急事態だったけれど、身内じゃない女の子と同じ部屋……。


 あれっ?アウトじゃね?


 いや、まてまてまて、冷静に考えろ!黒石ユウト!


 相手は現実世界に当たるところの小学生……恋愛対象に入れる方が…………、いや、俺、中二じゃん!


 2才年下なら恋愛対象に入りそうじゃんか!


 ヤバいじゃんか!


 なんか、最近キャラ崩壊しつつある……。


 今日この頃……。


 はぁ、まぁ、同じ部屋くらいで戸惑う必要は無いか。


 取り敢えず、お近くの宿(この村にも1つしか無かったが)に入り、フロントの人に元気良く声をかけた。


「すいません。三人用の部屋をお願いします」






「どうして……、こうなった……」


 目の前には、複数寝ても大丈夫な様な大きなベッドが一つ(・・)だけあった。


「………………ゆ、ユウちゃん……いつから、そんなに大胆に……」


「ほら!有らぬ誤解が発生してるじゃないか!」


 マリ姉が顔を赤らめる。


「………………」


「沈黙では伝わらないが、今、ヒマリちゃんの顔は真っ赤だかんな!」


「が、頑張ります……」


「なぁにぃおおお!!!」


 もう、嫌だ!何をどう間違えたんだ!


 何がどう間違えられたら、三人用の部屋で、ベッドまで三人用にしなくちゃならんのだ!


 何でベッド三つじゃなくて、キングサイズ!


 加えて言うなら、フロントの人のドヤ顔してる時点で気付くべきだったのだ!


 どうせ、「こっちの方が何かと都合が良いよね?」みたいな思いだったんでしょうけれど、余計なお世話だよ!こんちくしょう!


「まぁまぁ、ユウちゃん……、落ち着きなさい……、一応は、私子供を産んでも大丈夫な年よ?」


「俺はまだそんな社会的な立場を持ってない!と言うか、気付こうよ!マリ姉!そんな自身のボケで、足をプルプルさせるぐらい今不安定だと言うことに!!」


「私の村では、もう結婚できる年齢ですし、重婚も大丈夫です!」


「その言葉の意味を考えよう!遠回しな社会的死亡フラグだから!と言うか、ヒマリちゃんも自分の目がぐるぐる回っていることに気付こう!」


 くっ、最早、収集が束なつつある。


 確かに、女の子からしたら(おれ)からベッドに誘われた様なあれなんだろうけど!


 無いから!


 黒石さんヘタレだからぁあ!!






 はぁ……、何が好きで自爆したんだろ。


 もう、そんな思いで一杯だ。


 取り敢えず、全員冷静になった後、夜飯を食べ、ヒマリちゃんがお風呂に入り、そして、マリ姉が次に風呂に入り始める。


 つまり、風呂上りのヒマリちゃんと二人きりだ。


「「………………」」


 何だろう?凄く気まずいや……。


 風呂上りの女の子と部屋で二人きりだなんて、マリ姉以来である。


 そして、ベッドは一つ。


 お互いに反対を向いて、座っている。


 うん。この状況で普通な奴がいたら、神認定してやるよ。


 だが、沈黙のままじゃ、駄目だ。


 ヒマリちゃんを置いていこうとしたあの件もあるし……。


 会話は大切だよね?


「ヒマリちゃん?」


「は、はい!まだ、心の準備が!!」


「しなくて、良いから!されたら困るから!」


「困る……。わ、私は要らないんですか!」


「わぁ!俺が悪かったから!まず、俺の話を聞いてほしいな!」


 駄目だ!ヒマリちゃんはヒマリちゃんでテンパってらっしゃる!


 ここは、俺が落ち着かねば!


「ヒッ、ヒッ、ふぅ~。ヒッ、ヒッ、ふぅ~」


「何で、ラマズ呼吸なんですか!」


「う、生まれりゅ~」


「ユウトさん、男じゃないですか!」


 うん。落ち着いたわ。俺はな。


 ヒマリちゃんは、ワタワタしてるけど。


 全く、誰のせいだ!誰の!


「で、ヒマリちゃんにさ聞きたいことが~」


「私、生まれませんよ!」


「まだ、そこに、囚われてんの!?」


 くっ、何か普通の話題!普通の話題を!!


 そうだ!


「ヒマリちゃんの能力について教えて!」


「え?えっと……、はい、分かりましたけど……?」


 うんうん。唐突な話題変換についていけてないや!


 黒石さんの作戦成功だぜ!


「ま、まさか……!?獣耳プレイの考察ですか!?そ、それは、レベルが高いと言いますか……!!」


 うん。失敗しだったよ?







「何で、能力を使ったら、耳とかはえちゃうの?」


「それはですね……。人間の体では限界があるからと言いますか……」


 その後、場は収まり、普通に質問タイムとなっていた。


 これから、旅をする上で必要なことだからだ。


 まぁ、ヒマリちゃんの能力は前聞いた説明とそんな変わらなかった。


 取り敢えず、能力の聞かなければならない所は聞いたので、後は単純に俺の好奇心を埋めたいが為の質問となっている。


「じゃあ、尻尾は何故にはえるの?」


「そ、それは……、すいません、分かんないです」


「いや、答えられる範囲で大丈夫だよ!」


 寧ろ、尻尾は男のロマン!付いてて当然!いや、何でも無いです。


「他にどんな違いがあったりする?」


「ええっと、ですね……。その動物の行動とか、特有の性質とかも少しだけ……。毛繕いとかを無意識にしちゃってたりします」


 成る程。大体、分かってきた。


「猫だったら、爪。犬だったら、牙が伸びたりする?」


「します。流石ユウトさんです!あと、能力を解除したら、元に戻りますね!」


 等々、そんな会話を繰り返す俺達。


 お陰で、大分、ヒマリちゃんの能力を掴めてきた。


 俺の能力より、実用性も高いし、正直勝てる気がしない。


 あと、他に確かめたいことは……。


 見当たらない。


 実物を見せてもらった方が早いのか?


「じゃあさ、ヒマリちゃん?」


「はい?何ですか?」


「能力を使って見せてくれない?」


 後に俺はこの台詞を後悔することになるとは思わなかった。


「わ、分かりました」


 ヒマリちゃんは、意外そうな顔こそするが、特に異論は無いようで、能力を発動させる。


 白い光に包まれ、その光が消えたとき、能力は確かに発動していた。


 頭の両サイドから、犬のようなモフモフとした耳がはえて、その腰から尻尾が出ていた。


「成る程。前も見たけど、これがヒマリちゃんの能力か」


 モフモフ……。


「ゆ、ユウトさん……?」


「ん?何かな?」


 モフモフ……。


「そ……、その恥ずかしいので、尻尾を触らないでいただければ……」


「はっ!?」


 見ると、俺は知らぬ間にヒマリちゃんの尻尾をモフモフしていた。


 馬鹿な!?


 俺はいつの間にヒマリちゃんの尻尾に囚われていた?


「ご、ごめん!」


 無意識のうちに……なのか?


 最近、疲れてきたのかな?


 ヤバイな。自重しなければ。


 サワサワ……。


「ゆ、ユウトさん!?」


「ん?何かな?」


 サワサワ……。


「す、凄くくすぐったいです……」


「え……?」


「み、みみが……」


 見ると、俺は知らぬ間にヒマリちゃんの耳をサワサワしていた。


 馬鹿な!(以下略)


 いや、結局何が言いたいかと言うと、ヒマリちゃんの耳と尻尾は想像を絶する威力を持つと言うことだ。


 うん。男はそう言うのに弱いよね?


「うぅ……」


 ヒマリちゃんは顔を赤らめて自分のモフモフされた尻尾を優しくなでていた。


 その目はこちらを批難している。


 何だろうか?この可愛い生き物は?


 ただ、無意識とは言え、いきなりあんな行動に出て、ヒマリちゃんには凄く申し訳ない。


「ご、ごめん……。あまりにも可愛かったから」


 俺は素直に謝る。


 ヒマリちゃんはと言うと、「べ、別に良いですよ……」と、更に顔を赤らめて言うことから、よっぽど恥ずかしい思いをさせてしまったのだろう。


 うっ、こっちまで赤くなって来た、顔を冷やそう。


 窓を開けて、冷たい夜風を取り込む。


 ふぅ、涼しい。


 そのまま、何気無く上を見ると、ちょうど、見上げた夜空が満月の月夜だったのだ。


「ほら、ヒマリちゃん。今日は満月みたいだよ?」


「へっ?」


 話を反らす、話題転換のつもりで、そうヒマリちゃんに話しかけるが、驚いた声の他にヒマリちゃんは何も話さなくなってしまう。


 俯くヒマリちゃん。


 うっ、また、なんか間違えたか?


 ヤバイ、どうしよう。


 そんなことを考えてたら、


「へっ?」


 急に視界が暗転した。


 な、何が起きた?


 背中にから、ボスッ、と何かに体を突っ込ませる俺。


 そこには、柔らかなベッドがあった。


 だが、問題はそこじゃない。


 問題は、上からも柔らかな感触があることだ。


 それは、布団ではなく人だった。


「ユウトさぁ~ん」


 と言うか、ヒマリちゃんだった。


 ヒマリちゃんは倒れた俺の上に乗って、俺を逃がさないようにホールドしている。


 恐らく、俺を倒したのもヒマリちゃん。


 ヒマリちゃんは、そのまま、俺の胸板に頬を刷り寄せる。


 ど、どういうことだ?


 ヒマリちゃんはいきなりどうしたんだ?


「ユウトさぁ~ん…」


 甘い声を出して、俺を誘惑するヒマリちゃん。


 目が虚ろぎみで、全然、正気じゃない。


 つうか、服が乱れることを気にしてないのか、ちょっとヤバめの格好になりかけている。


 くっ、色々と不味い。


 なんだ?なにが原因だ?


 そう思考して、一つの可能性に行き当たる。


 ヒマリちゃんが可笑しくなる前に見たもの。満月。


 確か、今のヒマリちゃんは狼を基準として、自分を進化(トレース)させているのでは無かったか?


 狼と満月と言えば、色々な話がある。


 狂暴になるとか、積極的になるとか、……発情するとか……。


 兎に角、全部正気を失う話だ。


 そして、今、ヒマリちゃんが正気を失っているとしたら……。


「ユウちゃん…?何をしているのかしら…?」


「オワタ……」


 答えに行き着いた所で、絶対的なピンチが襲ってきた。


「ねぇ、ねぇ、ユウちゃん?」


水死体(おふろ)にします?切り身(りょうり)にします?それとも… わ(ざ) ・ た(ん) ・ ()?」




 さてと、走馬灯からお帰り!俺。


 そして、ただいま!現実。




「まだ、終わらないわよ?」


 神は死んだ……。


「ぎゃああああああ!!!」


 夜の悲鳴は良く響く。






~満月の世の暗闇の中で~


「足りない……」


 一人少女が呟く。


「うっうっ…………」


 苦しそうに何かを我慢するように。


「早く、奪わなきゃ……」


 何かを襲うように。


「誰かを…………さないと……」


 闇夜に溶けるように。

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