短編物語 「とある入学式の後輩ちゃん」Ⅴ
後輩ちゃん編最終話
~ 七緒の後日日記 ~
『今日は不思議な先輩に会いました』
『私は何時もの様にドジを踏んでしまったのです』
『入学式と言う晴れ舞台の日に、寝坊をしてしまった私は、急いでいました』
『入学式には間に合う時間でしたが、友達との約束に遅れそうになってしまったのです』
『パンをくわえて急いで走った私』
『でも、そのせいで私は曲がり角で、人とごっつんこしてしまったのです』
『今から思えば、少女漫画の様な出会いをしたなぁ~、と思いますが、その後の事が印象的で、その時はそんなことを考える余裕がありませんでした』
『くわえたパンの表面に付いたジャムがベットリと髪の毛についてしまったから…』
『こんな状態で入学式に行くことになるなんて…』
『ただただ、また、失敗した…その思いでした…』
『ぶつかった人に恨みなんて、全く無かったです』
『だって、これは何時ものことですから…』
『イベントがあるごとに失敗してしまう私』
『楽しかった思い出を探すのに苦労するくらいです…』
『ああ、今日もかっ…て諦めようとした時でした。ぶつかった人…先輩が話し掛けてくれたのは…』
『最初はぶつかった人に謝らないといけない、位の気持ちだったんですけど…その相手は可笑しな人でした』
『だって、私に「君はこれからどうしたい?」なんて聞いてきたんですから』
『最初は、謝罪しようと思ってるんだ…って考えて…断ろうとしたんですけど、押しの強い先輩に負けて、つい本音を出してしまったんです』
『そしたら、先輩は「だったら、僕が全部叶えるよ…。君の願いを…」って、言ってくれたんです…』
『最初は…、訳が分からなかったんですけど…、その言葉の意味を理解した時…素直に』
『格好いいなぁ~、って、そう思いました…』
『だって、その姿はあまりにも現実離れしていたんです…』
『そんな漫画みたいな台詞を現実に言う先輩が凄く格好いいと思いました』
『そして、そのまま、お姫様抱っこしてくれた時は、驚いたけれど、心の何処かで少しワクワクしていて、気分はまさに夢心地でした』
『先輩はまるで王子さまみたいで…』
『今から客観的に考えると誘拐と遜色が無いと、思えるくらいですので、本当に不思議ですね…』
『でも、学校に辿り着いた時、一気に現実に引き戻されました』
『入学式を目の前にして、自分の姿(現実)を思い出したのです』
『そして、先輩が先輩だと聞いて、名前を聞いて、現実にちゃんと帰って来たのです…』
『ただ…、先輩がお風呂を進めてきた時は、もう一度、驚きました…世の中にはこんなに…デリカシーにかけ…ゲフンゲフン…面白い人がいるんだって…』
『正直、家に帰っていたら入学式に間に合わないどころでは無かったですから、有難いとも思いましたけど…』
『先輩の薦めはデリカシーをかける以外は本当にりがたかったですから…』
『そのまま、先輩を追い出して、シャワーを浴びながら色々なことを考えました』
『先輩のこととか…入学式のこととか…髪のこととか…』
『不思議な先輩のことに思いを馳せたり…』
『入学式に間に合うかだったり…』
『髪についたジャムは思ったより中々とれなくて…』
『こびりついたジャムは…中々の強敵で…』
『乙女の髪は雑に扱ったら、絶対にダメ…だから、しっかりと…丁寧に…』
『じゃないと、他の女の子に、笑われちゃう…』
『でも、どうしても時間がかかってしまうから…入学式は諦めようと思って…』
『先輩に申しなく思ったのを覚えてる…』
『そう言えば、あの場所のジャンプーはとても良いものだったな』
『髪は時間がかかったけど、何とかなったから、お風呂から上がろうとしたら…』
『タオルが無かった…』
『へっ…?って、一瞬、混乱したのを覚えてる…』
『焦って、仕方なく、先輩の名前を呼ぶことにしたけれど…、先輩からの返事は一向に無くて…』
『悩んで、悩んで、悩んで…』
『仕方がないから、タオルを取りに外に出ようと思ったけれど、恥ずかしくって…』
『でも、制服を濡らすわけにはいかなかったから…、恥ずかしいけど…下着だけ…うぅっ…思い出しただけで…』
『外に出て、誰も見てないのは分かっていても、もじもじしてしまったことは覚えてる…』
『でも、一番印象に残ったのは、中々見当たらないタオルに四苦八苦していたら…、先輩が入ってきたことだ…』
『恥ずかしいより…、驚きが先に来て、叫ぼうとしたら、口を塞がれて、押し倒されて…、うぅ…』
『後は、精神的に割愛します…』
『変な所…触られ…たし…』
『後から、事情は分かったんですけれど…、それでも…、うぅ…』
『と、兎に角!色々あって…』
『先輩が新しい制服を持ってきてくれたんです』
『あの時は凄く嬉しかったなぁ…』
『現実なのに非現実的で、何でも出来そうで…』
『少し、私より大きな服が新入生!って印象が強くて』
『着たばかりの服を誰かに見せて、…自慢するのが、とても楽しくって』
『誉めてもらえるのが、とてもとても心地好くて…』
『入学式のことは忘れてました…』
『いや、忘れたかったんです…』
『現実を見たくなくって…』
『でも、先輩の口から、また信じられない言葉が出ました…』
『「入学式は諸事情で20分遅れることになったんだよ」って…』
『最初聞いた時は耳を疑いました…』
『そして、その言葉を聞いたときに思わず涙を流してしまったことを覚えています…』
『だって…、初めて…だったんです…』
『私だけが取り残されないイベントだなんて…』
『イベントごとに何かをしてしまう私は…何時も…皆に…取り残されて…』
『とっても、悲しかったんです…』
『でも、今日は違って…』
『立ち止まって…くれた人がいて…』
『そのまま、皆の所まで連れていってくれて…』
『だから、今日は、とってもとっても嬉しかったんです!』
『だから、泣いてしまったんです…。嬉しくって…』
『多分、全部、先輩がしてくれたんだと私は思ってます…』
『どんな、手品を使ってくれたのかは全く分かりませんけれど…』
『大企業の社長だったりするのか…、校長先生の弱味を握ってたりするのかも…』
『もしかしたら、本当に偶々なのかもしれないです…』
『でも、やっぱり、先輩は漫画の中に出てくる人みたいで…』
『とっても、不思議でした…』
『私は今日と言う日を忘れません』
『不思議な先輩に出会って、助けて貰った、今日と言う入学式を…』
『学校でもう一度、先輩に会えたら………………って!』
~ 現在 ユウト ~
今、俺はよくある体育館の二階にいる。
保護者は皆、下で見てるから、全然すいている…。
ふと、入学式の椅子に座った後輩ちゃんと目が合った…。
後輩ちゃんは、笑顔でこちらを向き、俺だけに分かるように手を振ってくれた…。
誰にも見られることは無いだろう俺は大きく片手を降り返す…。
後輩ちゃんは、それに満足したのか、最後に笑顔を見せてくれて、それ以上こちらを見ようとはしなかった…。
さて…。
後輩ちゃんも見れたことだし…、行かないと…。
ん?何処にいくんだったっけ?
「見付けたわよ…。白石くん…」
「ゲッ…」
そんなことを考えていると、担任教師に見付かってしまう…。
思い出すのは、家庭科室での出来事…。
そういや、あの場の説明をまだしてない!?
このままじゃ、変態の汚名を元に社会的に死んでしまう!?
「あ、あの…」
「どういうことか…説明…は…、まぁ、しなくて…大丈夫よ…」
「え…」
はぁ…、とため息をついて、やれやれといった感じの先生…。
あれ?思ってたのとなんか状況が違うぞ?
「あの子のため…だったんでしょ…」
むむ…、不覚にも手を振っていたのが見られたか。
え?でも、先生なんで知ってんのさ…?
エスパー?
とりあえず、何故か、おとがめなしになるみたいだ…。
だけど…この分だと…あれも…。
「まぁ…まぁ…」
と、とりあえず、適当に誤魔化す方向に…。
「所で…、変な放送があったのだけれど…何か…知らない…?」
「サ…サァ…?ナンノコトヤラ…?」
うん、無理っぽい…。
どうやら、俺の人生は終わるみたいだ…。
まぁ、最後に後輩ちゃんを笑顔に出来て良かっ…
「だけどね…?不可解な話があってね…」
ん……?
不可解な話?
「一本の電話…それも…まだ若い女の子からの電話…」
「それがあって、うやむやになったそうよ…?」
それって…。
「ねぇ?白石くん?君は何か…知らない…?」
「さぁ…ちょっと…分かんないですね…?」
うん…。俺はその相手を知っている…。
当然のようにマリ姉だ…。
だが、それを言ってはいけない…。
だって、折角、マリ姉の好意を言うのは…裏切りに値する…。
相変わらずすげぇや…マリ姉は…。
「そう…」
先生は、そう一言言って、睨んでくる…。
うっ…。
絶対に怪しまれてる。
「白石くん」
「はい…」
呼ばれたら返事をするしかない雰囲気。
「君が何者かは知らないけど…、私は先生です…」
そう言って、一泊おいて。
「間違ったことをしたら止めにいくし、良いことをしたら誉めて上げる」
「はい」
「今回の件は、多目に見て上げるけど、学校に危害を加えたら…あなたの敵になるわよ?」
釘を刺されてしまった…。
まぁ、当然だよな。
あんなことをしでかしたんだし。
先生からしたら、俺は学校を脅かすかもしれない危険人物なのだ…(本当は危険なのはマリ姉で、俺はなんの力も無い一般人なのだが)。
だけど、このまま黙ってるだけじゃ、ユウトさんの名が廃る。
「先生…」
「何かしら?」
「俺は常に弱者の味方です」
俺の信念は曲がらない。
「自信が弱者の立場に立ってでも、俺は困っている人を手助けしますよ」
それが、俺の中の唯一無二の答えなのだ。
まぁ、今回の出来事は、流石にやり過ぎたけど…。
止める気は無い…。
「はぁ…、ずいぶんな…問題児のようね…」
呆れたように呟く担任教師…。
失礼だな…全く…。
俺の何処が問題児だと言うんだか…。
真っ当な一生徒じゃないか!
「…………」
何故だろう?
何気無い視線が痛いや!
まぁ、取り敢えず、俺はしなきゃいけないことがあるし…。
「それでは、俺はこの辺で…」
ん?
今俺は、重要なことを見失って無かったか?
しなきゃいけないこと……?
あれ?俺はそもそもバスに乗るために急いでたんじゃ無かったか?
バスに乗って何処か…、いや、具体的な待ち合わせ場所に行く予定が無かったか!?
「あ、そうそう…」
先生が何かを言いかけ、俺はそちらをバッと振り向く…。
嫌な予感がしたからだ…。
「電話の女の子が最後にこんなことを言ったらしいわよ?」
その台詞を聞いて、背筋が固まった。
「約束に遅れるのって、最低よね?って…」
オワタ…。
「はぁっ……はぁ……」
かつて無かった程、全力で走るのは俺。
マリ姉からの電話の意味。
それは、俺がそもそも待ち合わせをしていたことを理解しないといけない…。
別にマリ姉と約束していた訳じゃない。
マリ姉を介して井坂ちゃんと約束をしていたのだ…。
だけど、そこに行くまでにバスで駅に行って、そこらか30分は電車に揺られて初めてつくことが出来る。
そして、この田舎では、駅に行くためのバスは30分に一度あるか無いか。
だから、俺は急いでいた。
だけど、俺の不注意のせいで後輩ちゃんに迷惑をかけてしまい、そのことで頭が一杯になったことにより、忘れてしまっていた。
俺は目の前のことに集中してしまうと、周りが見えなくなってしまうのだ。
くっ、最低だ……。
今は目的の駅について、待ち合わせ場所に走っているが、なんて、言葉をかければ良いか……。
そして、マリ姉の死刑にはどう対処すれば良いか……。
そんなこんなで、待ち合わせ場所が見えてくる。
辺りを見渡し、直ぐに井坂ちゃんを見付ける。
向こうもこっちに気付いてくれたみたいで、手を振ってくれた。
その顔は笑顔だ…。
「ごめん!遅れた!」
だけど、女の子を待たせるなんて男のすることじゃない。
頭を九十度下げて、謝罪の意を証明する。
ちゃんと、謝らない「へっ?何言ってんの?ユウト?」ふぇ?
言葉を遮られて、そんなことを言われた。
え?あれ?
どういうこと?
俺は女の子との約束に遅刻した筈なんだけれども……。
井坂ちゃんは何でこんなにもナチュラルに接してくるんだ?
まるで、俺が謝っている理由に心当たりが無いみたいな。
「と、兎に角、顔をあげなよ?」
と言うか、俺が頭を下げたことに焦っている。
そんな井坂ちゃんが一言。
「だいたいさ……、遅れたって、言われても」
それが、俺の悩みを解決することになる。
「まだ、待ち合わせより二十分も早いよ?」
え?
ええっ?
「くっそぉ!マリ姉にやられた!!」
どうにも噛み合わない会話を繰り返して、漸く、その理由が分かった。
マリ姉だ。
マリ姉は、俺と井坂ちゃんに違う待ち合わせ時間を告げていたのだ。
俺は本来、井坂ちゃんよりも、一時間は早くついて待たなければ、無かったみたいだ。
だけど、それは幸か不幸か、俺のミスによって……。
と言うか!
「マリ姉どれだけ恐ろしいんだよ!俺が遅れることを絶対によんでただろ!」
「あはは……。まぁ、マリナさんなら、素で出来ちゃいそうだよね……」
井坂ちゃんは俺に同意してくれるが、それはより、マリ姉の事実を拡張させるようだった。
くっ、俺は所詮、マリ姉の掌の上なのか。
「でも、まぁ、感謝しないといけないんだよなぁ……。井坂ちゃんを心配させることにならなくて」
はぁ、複雑だ。
いや、それでも、井坂ちゃんには後で謝らないといけない。
マリ姉の気回しが無かったら、俺は遅れていただろう。
あれっ?
「そういや、井坂ちゃん。随分と早いけれど、いつから来てたの?」
「…っ!?」
そんな俺の何気無い言葉にビクリと肩を震わせる井坂ちゃん。
ん?俺は何かいけないことを言ったのだろうか?
まだ、待ち合わせより二十分も前だからそれより前にはいたのだろうけれど。
「……言えない。今より、十分以上前には来ていたなんて、言えない……」
「井坂ちゃん?」
「うわぁああ!何でもない!何でもないよ?ユウト?さっき来たばっかだから!ね?」
ぼそぼそと、何かを呟く井坂ちゃんだったが、良く聞き取れなかった。
「そ、それより、ユウトは、何で遅れたの?そんなに汗だくになって?」
「うぐっ!」
や、ヤバイ……。
痛いところを突かれた。
知らない女の子を助けてたなんて口がさけても、言えない!
=あなた以外の女の子を選びましたよって意味になる。
それはいくらなんでも失礼だ。
何とか、誤魔化さないと!
「いや、ちょっと!言葉じゃ説明できなくて……」
「ふぅ~ん?」
焦って弁解する俺に対して、特に疑うようすも無く、頷く「ん?」、前に頭にクエスチョンを浮かべた。
井坂ちゃんは、何かに気付いたような顔をして、俺との距離を縮める。
「い、井坂ちゃん?」
そのまま、顔を俺の胸元に近付ける。
今にも抱き締められそうな距離だ。
井坂ちゃんは何を?
「ねぇ?ユウト!」
語尾にキラッと!星が付きそうな声で俺を呼ぶ井坂ちゃん。
何故だろう?今、背中に悪寒が走った。
「何で、ユウトの服から花のシャンプーの匂いがするんだろうねぇ~?」
「はぅあっ!!」
やばっ、変な声を出して、しまった。
さっきまで、井坂ちゃんは俺の服の匂いを嗅いでいたのか!?
「後の匂いは~、イチゴじゃむ~、マーガリン~、おんなのこ~!!」
「(ガタガタガタガタ)」
あれ?何だろう?体の震えが止まらないなぁ~!!
井坂ちゃんは顔を上げて、ニッコリスマイル。
あれ?あの満面の笑顔から恐怖を感じるのは何故だろう?
「言葉じゃ説明できなくて、かぁ~?」
井坂ちゃんの目はどす黒く死んだ魚のようだった。
「一体、何をしてたのかなぁ~?」
そう言って、テヘッ(目は死んでいます)とした表情をして……。
「あ、違うか!何と何してたのかなぁ~?」
確実な誤解を産んでいた……。
俺の右手を可愛く握ったと思ったら、次の瞬間、腕が悲鳴を上げる。
だが、俺は声を出すことなど許されない。
更に、右手の主導権を奪われたために逃げ出すことも叶わない。
そして、
「コタエヨウカァ~?ユ・ウ・ト?」
「いやぁああああ!!」
死刑宣告。
その後、俺がどうなったかは、精神衛生上の面で伏せさせて貰おう。
~ マリナ after ~
「全く、ユウちゃんは……」
「いつもいつも、女の子ばかり追い掛けるんだから」
「挙げ句の果てには、教育委員会やら市長やらに裏から手を回さないといけなくなったじゃない……」
「でも、あの町は安全みたいで、良かったわ」
「その分、牙を建てやすいってことでもあるから、注意はしないといけないけれど」
「あれとは、関わらないようにユウちゃんには生きて貰わないと……」
「それにしても、弧林 七緒ちゃん、ねぇ~」
「少しだけ、プランを変更する必要があるわね……」
「あと、何回、変更することになるのかしら?」
「全く……、ユウちゃんったら……」
「ユウちゃんたら……」
「ユウちゃん……かぁ……」
「…………」
「ユウちゃん。ユウト。黒石 優斗。」
「やっぱり、ユウちゃんかしら?」
「私の予想を本当の意味で上回ってくれる人」
「表面上は分かりやすくて、でも、本当は絶対につかめない人」
「優しくて、素直じゃなくて、可愛くて、子供みたいで」
「私の世界を壊した咎人で」
「私を救ってくれた善人で」
「私に居場所をくれた恩人で」
「私が世界で一番……、好きだった人……」
「まぁ、昔のことよ」
「今は目の前のことに集中しましょう」
次回、キャラまとめして、三章へ