短編物語 「とある入学式の後輩ちゃん」Ⅳ
遅れて申し訳ない詳しくは活動報告を
『新入学生の皆さん…入学おめでとうございます…』
今は入学式…。
俺は二階から入学式を眺めているのだった…。
新入学生を見渡し後輩ちゃんを見付ける…。
「居た…、後輩ちゃん………」
後輩ちゃんは真面目に話を聞いていた…。
まぁ、少しだけ期待に胸を膨らませているのか、ソワソワしてるけれど…。
あの後何があったかと言うと…、案外普通だった…。
「先輩…?」
唐突に後輩ちゃんに声をかけられる。
「はい…?何でしょう…?」
「何で固いんですか…?」
「いえ、何でもないで…「変た…」どうかしたのかい?後輩ちゃん?なんなら、お茶でも注いでこようか…?」
「そっちの方が先輩らしいですよぉ~」
今、後輩ちゃんボソッと変態って言おうとしなかったか?
うん、何だか弱味を握られた様な気分だ。
ちなみに現在、俺と後輩ちゃんは反対を向いている。
まぁ、後輩ちゃんは下着を隠すために掛け布団を巻いてはいるが…。
「タオルありますかぁ~?」
「シャワー室の横の引き出しにあるよ…?」
そうは言うが、シャワー室は俺の前…。
後輩ちゃんは反対側を向いている
後輩ちゃんが取るより、俺が取った方が良いだろう…。
俺は棚を開けて、タオルを二枚ほど取って、
「後ろ向いても大丈夫…?」
「ジロジロと見ないで下さいよぉ…?」
良かった。
一応は許可を貰った…。
許可を貰えなかったら、バッグステップをしなければいけなかった…。
そのタオルを手渡そうと振り向くが顔をまともに見れない。
やべぇ、顔が赤くなる…。
「うっ……」
「先ぱぁ~い、可愛いですね~」
「うぐっ……」
からかわれた。
凄く屈辱だ。
無言でタオルを渡し、話題を変える…。
「ええっと、後輩ちゃんまさか…それを探してたの…?」
「はい…。先輩にタオルを取って貰おうと…お呼びしたんですけど…返事がなくて…」
後輩ちゃんは髪を拭きながら、俺の質問に答える…。
俺はどうして、後輩ちゃんがうろうろしていたかに思い当たり、先に謝る。
「うぅ…すいません…」
「仕方がないから、制服を濡らすわけにもいけませんし、本当は嫌だったんですけど下着だけ着てたら……」
「俺が入ってきた訳ですね…。すいませんでした…!」
うん。俺にしか落ち度は無い…。
俺が気を効かせてタオルを置いておけば問題は無かったんだ…。
「全く、いきなりいたいけな少女に抱き付いて押し倒すとか、最低ですよぉ~?」
うっ…。返す言葉が見付からない…。
見付からな石さん…。
「そ、それには事情が……」
「先生方に見付かりそうだったんですよね?」
「はい…」
だけど、隠れるためとは言え、自分でもあれは駄目だと思う…。
うっ、あのシュチェーションは……。
思わず、光景がフラッシュバックした…。
「せんぱいのエッチ…」
「何故に俺の考えは筒抜けなのですかだよ!」
何で皆俺の考えていることが分かるんだろうね?
「先輩は何をしにいかれてたんですかぁ~?」
「こ、これをね?ちょっとね…?」
そう言って、さっきまで、隠して置いた物を取り出す…。
「これって、女の子の制服ですか…?」
さっき家庭科室から拝借してきた物を…。
「うん…。汚れちゃったまま晴れ舞台には立たせれなかったからね…?一生に一度の晴れ舞台を…さ?」
「せんぱい…」
まぁ、失った物は大きいけれど…。
人間としての尊厳がゼロだ…。
だけど、まぁ、もう、どうでも良いや…。
後輩ちゃんは笑っていた…から…。
「先輩…それ受け取っても良いですか…?」
「どうぞ?」
俺はそう言って後輩ちゃんの近くに制服を置く。
「こっち見ないで下さいよ…?」
それに対して、俺は慌てて反対を向く。
途端に静かになる場…。
布で肌を拭く様な僅な音が聞こえるが、多分、タオルで体を拭いているんだろう…。
その小さな音以外、何も聞こえなかったのだが…。
だから、意識してしまう…。
うん…あれだね…?
男子中学生の煩悩を擽るようなことは止めてほしい…。
いや、止めたら風邪引くけれど…。
それに俺が出ていくのも少し危険だ…。
「はぁ……」
まぁ、こうするしか無いのか…。
「むむ…。今、溜め息をつきませんでしたか…?先輩…?」
「き、気のせいじゃない…?」
慌てて誤魔化す俺…。
やばっ、聞かれてた…。
「そんなに魅力が無いのかなぁ……」
呟く後輩ちゃんの声は今度は聞こえた。
「ん?いや、十分可愛すぎて、魅力的だけれど…」
「ひ、独り言に反応しないで下さいよぉ~!」
「ご、ごめん……」
な、何か怒られた…。
聞かなかったことにすれば良かったのだろうか?
女心は難しい…。
その後、また、会話が途切れる…。
暫くして、体を拭く音は布が擦れる音に変わった…。
多分、タオルで拭き終わって、服を着はじめたのだろう…。
うぅ…、何だかなぁ~。
煩悩が擽られてばかりだ…。
また、後輩ちゃんのあの光景がフラッシュバックしそうになる…。
やばい、別のことを考えよう…。
じゃないと、また変態の汚名を頂いてしまう…。
ええっと、ええっと、確か後輩ちゃんはBサイ……、「センパイ?」止めよう…背後の殺気が尋常では無くなった…。
今にもハサミが飛んできそうだ…。
というよりも、無意識に移る話題がそれだったら、変態も強ち間違いではない気がしてきて悲しくなった…。
そのまま、また、沈黙。
だけど、暫くしたら、完全に音が消えて…。
「もう、良いですよ…?」
そう、後輩ちゃんが言った…。
「ええっと…」
その意味が分からず聞き返そうとすると…、
「こっちを見て、大丈夫ですよぉ~!と、言いますか…感想を聞かせていただけないかなぁ~って…」
許可を貰ったので振り向くが後半の意味が分からず、「何の感想…?」と聞こうとしたけれど…、どうやら、その必要は無かったみたいだ…。
見た瞬間、分かった…。
後輩ちゃんはベッドの上に立って、両手を後ろに、制服を自慢気に着ていたのだから…。
「どうですかぁ~?」
そのまま、くるりとその場で一回転する後輩ちゃん…。
うん…。
「似合ってるよ」
「えへへ~。ありがとうございまぁ~す!」
後輩ちゃんが嬉しそうに笑う…。
まぁ、ちょっと、制服が大きめ気味ではあったけれども…。
制服はノーマルサイズなんだが、後輩ちゃんが小柄なのだ…。
そろそろ頃合いかな?
「じゃあ、行こうか?」
俺は今まで言えなかった本題に入る。
「ええっと…、入学式ですか…?」
戸惑う後輩ちゃん…。
「でも…、もう…入学式には…」
あ、そういや、後輩ちゃんには伝えて無かったっけ…。
こう言ったら、おこがましいかも知れないけれど…俺の騒動の成果を…。
ならば、伝えよう…。
「あれ?知らないの?入学式は諸事情で20分遅れることになったんだよ?」
俺はなに食わぬ顔でそう後輩ちゃんに告げたのだった…。
数秒の間の後…。
「それは…、本当なんですかぁ…?」
後輩ちゃんが確かめるように、そう聞いてくる…。
「うん…。本当だよ?」
「ホントに…ホントですかぁ…?」
「うん。本当に本当…だよ?」
何だろう…この恋人がやるようなやり取りは…。
何と無く、楽しいかも知れない。
これが、二人だけだけれどハッピーエンドへの道なのだ…。
全部だなんて…、俺には荷が重すぎる…。
だから、俺がしたことの真実は絶対に伝わってはならないのだ…。
一応は表情には出てないはず…。
だけど、後輩ちゃんの反応が悪い…。
まさか…ばれた…?
「…そう…なんですか……」
「後輩ちゃん…?」
喋りながら、ゆっくりと、顔を下に向けた後輩ちゃん…。
髪で顔が隠れてしまって、表情が見えない…。
だけど…何と無く…分かった…。
後輩ちゃんが涙を流しているんだって…。
「違いますよ…?悲しい訳じゃないんですよ…」
「なら」
いや、答えは分かっているんだ…。
「凄く…凄く…嬉しいんです…!」
屈託の無い笑みでそう言い切った後輩ちゃん…。
別に後輩ちゃんが涙脆い訳ではないんだと、思う。
後輩ちゃんには、後輩ちゃんなりの理由があって、涙を流しているのであって、その理由を俺が知らないだけなのだ…。
それでも…。
「せんぱぁ~い!」
「なんだい?後輩ちゃん?」
元気にそう言ってくれる後輩ちゃん、いや、可愛い女の子…。
「今日は本当にありがとうございました!」
「どういたしましてかな?」
そんな女の子が俺の後輩になるなんて、何と無くワクワクしないかな?
俺は着替えた後輩ちゃんの手をとって…走り出す…。
一旦、会場を出ていった親や新入生達が続々と体育館に戻っていっている。
それに、体育館まで、まだまだ距離があったりする。
俺達はほとんど、最後の組だ…。
間に合うっちゃあ、間に合うけれど、ギリギリだし、こう言うのは周りから与えられる第一印象の問題だ…。
最後に一人だとイメージが悪い…。
後輩ちゃんが望むのは普通の入学式…。
とりあえず、遅れることは無いようにしないと。
あと、出来れば、誰にも走っていることには気付かれないように。
話の種を作るのは、却下だ。
普通って案外面倒臭いな。
いや、普通に見せ掛ける行為事態普通じゃないけれど。
これが矛盾か…。
とか、何とか、考えているうちに人が減っていく。
時間がない…。
どうしようかと、迷って後輩ちゃんを見る。
見て、気付く、後輩ちゃんが走るのが少し辛そうなのが。
些細すぎて、見過ごしそうな位の小さな物だが、それは、後輩ちゃんが隠そうとしているからだ。
多分、靴が原因だ…。
うちの学校は上履きを履いて行動するのが、基本。
そして、新入生と言うことは新しい上履きを買ってすぐと言うことは、まだ、その靴に慣れて無いということ。
だから、必然的に足に負荷がかかり、痛いのだろう。
何でそのくらい気付けない!とかのご託は良い!それは、後で考えれば良い!今は兎に角、現状をどうにかしろ!俺!
「先輩…?」
「なんだい?後輩ちゃん?」
俺は後輩ちゃんに呼ばれて後輩ちゃんの方を見て気付いた…。
いや、正確には引き寄せられたのだ…。
後輩ちゃんの目に…。
強い意思と信頼が伴った、その魅力的な瞳に…。
そして、後輩ちゃんの言わんとすることは分かった。
だから、俺はそれに全力で答える。
信頼は数じゃない質なんだ…。
「失礼いたしますよ!お姫様!」
「お願いします!先輩!」
そんなかけ声と共に俺は後輩ちゃんをお姫様だっこする。
後輩ちゃんは、俺に全てを任せてくれたのだ…。
ならば、それに答えるのみ。
そのまま、走り出す俺…。
これなら!余裕で間に合う。
問題は今現在もまだ外に残っている何人かの人間。
ならば、問題児は問題児らしく!
「裏の道を行く!」
体育館へと続く道。
そこには屋根がある。
だから、俺は近くにあった足場を踏み込んで、
屋根の上に飛び登った!
後輩ちゃんは、流石に予想外だったのか、一瞬、驚いた顔をしたが、直ぐに「先輩だから仕方ない」みたいな顔に、おい!ちょっと、待てや!後輩!
走りながら、そんなことを思う。
誰にも見られず、誰にも気付かれない。
そんな状況が少し楽しくて、二人とも笑っていた。
やがて、体育館まで、つくと、二階のベランダへと移り、中に入る。
しかし、後輩ちゃんとは、ここでお別れだ。
一階に俺が降りることは出来ないから。
後輩ちゃんをゆっくりと降ろして、「じゃあね」と手を振る俺。
後輩ちゃんは一言。
「ありがとうございます!」
そう言って駆け出して行った。
次回今度こそ後輩ちゃんシリーズ完結