短編物語 「とある入学式の後輩ちゃん」Ⅱ
違いはあっても、ユウトはユウトだというお話。
「さぁ、ついたぜ?後輩ちゃん…?」
そう言って、俺は今までお姫様抱っこして、ここまで連れてきた後輩ちゃんを優しく下ろす。
ちなみに、俺の中では彼女の呼び方は後輩ちゃんで確定したのだったりする。
「つ、ついたってぇ……、が、学校ですかぁ~!?」
そんなことをツユ程も知らない、後輩ちゃんは、これから、通うことになる学校を見て、思うところがあるのか、盛大に驚いている。
無理矢理連れてきたのが、正解だったのか、後輩ちゃんは今だ混乱の中に居ながらも、大分、話してくれるようになったのだった…。
「あ…、あの…?明らかに抜け道の様な場所なのは…何でなんですか…?」
「細かいことは気にしなぁ~い!」
うちの学校には現在三つの門があるけれど、実はそれに加えて、秘密の扉があったりする…。
昔、門の取り壊しに失敗したらしいが、ここは犯罪とは無縁の町。
普通に草とか板とかでカムフラージュされているだけで、特に何かある訳じゃない。
余裕で誰にも見付からずに学校に忍び込めると言うわけだ…。
「あの…一旦家に帰って、着替えた方が…良かったんじゃないんですかぁ~?」
おずおずと、まだ汚れてしまっている後輩ちゃんが言うが、それじゃあ入学式に間に合わない…。
「物事には何事も裏技と言う物があるんだよ~」
「はぁ…」
今一、納得がいってないらしい後輩ちゃん。
まぁ、普通は仕方無いだろう…。
「それじゃあ、行こうか…!」
そう言って、後輩ちゃんの手を握る俺。
「ふぇっ!?はわわわわっわ!」
ん?どうしたんだろう?いきなり慌て出して…?
「大丈夫?」
「は、はい!だ、大丈夫ですよぉ~!!!」
?
「まぁ…、大丈夫なら…。行こうか?」
「お、お願いしますですぅ~!」
俺は女の子を成るべく優しく誘導する。
「こ、こんなことして良いんですか~?」
「ハッハッハ!気にするな!後輩ちゃん!」
暫くして、混乱よりも良心が上回ったのか、そんなことを聞いてくる後輩ちゃん。
俺は校舎の裏口からこっそり忍び込み、人の気配を避けながら、中間地点の教室に辿り着いた。
問題はその後。
鍵がないから、窓を外して入った。
うん。後輩ちゃんの言うことは最もだった。
問題児の特性1。
無駄な小技と侵入術。
「大丈夫。大丈夫~。ここ、俺の教室だから!問題なし!」
そう、ここは俺達の教室だから問題無い。
いや、本当は、入学式だから、入っちゃ駄目だよ?
大問題だ。
良い子は絶対に真似しないように~。
そういや、窓を開けた時点でアウトか…。
俺は、そのまま自分の机にある目的の物を取り出して、窓から華麗に飛び出した。
勿論、窓は着け直しておいた。
問題児の特性2
証拠隠滅。
「お、怒られちゃいますよ~?」
「日常茶飯事!気にしちゃアウト!」
まぁ、普段はここまでしないけれど…。
女の子のためなら見境なんて無くなる黒石さんなのですよ!
問題児の特性3
校則を破るのに躊躇しない!
そのまま、ある一室まで近付き、ようやく後輩ちゃんの手を離す…。
「ついたよ…」
「ここって…、保健室ですか…?」
そう…、後輩ちゃんの言った道理。
そこは保健室だった。
そして、入学式の為に誰も居ないその部屋の鍵穴に…。
俺は教室から取ってきた鍵を刺した。
鍵を開けて右にドアをスライドさせるとそこは紛れもない保健室だった。
「そ、それって、保健室の鍵なんですかっ!?」
「うんにゃ…、取り合えず、入った入った」
「あ、はい…」
俺の勢いにおされて入室した後輩ちゃん。
早く入らないと、誰かがくるかも知れなかったからね~。
「電気はつけなくても、見えるよね?」
「だ、大丈夫です…」
ちょっと、何時もと違った空間に迷い混んだかの様な後輩ちゃんは、戸惑っていた。
俺はドアを閉めて、先程使った鍵を見せびらかす。
「じゃあ~ん!マスターキー!!」
「えっ…?」
そう俺が手に持っているのはこの学校のマスターキー。
俺はこの鍵を使って全ての部屋を開けることが出来ちゃったりする。
問題児の特性4
割りと反則級のアイテム。
「なっ、何でそんなものを持ってるんですかぁ~!」
「ああ…、安心して…。レプリカだから…」
「成る程…。納得ですぅ~。って、そんな訳無いじゃないですか!!逆にアウトですよ!アウト!」
おお…、この後輩ちゃん、ノリ突っ込みとは、中々レベルが高い…。
「ナイスだ!後輩ちゃん!」
「何がですかぁ…!!と言うより、何で私は後輩ちゃんって呼ばれてるんですかぁ~?」
「ん…?ああ…。一応は、先輩にあたりますから~。後輩ちゃんは間違って無くないかな?」
うむ。我は割りと適当なり。
「間違ってはませんけれども…、でも!何だか納得いきませんよぉ~!」
「おっす!オラ黒石ユウト!つぇえ奴と戦いたくてワクワクすっぞ!」
「しないでくださいよぉ~!そして、何の脈略も無く自己紹介をしないでくださいですぅ~!なおです!孤林七緒!」
おっと、自己紹介をここで挟むとは中々の手練れのようだ…。
「うん!宜しく!七緒ちゃん…」
「はぅ~……」
ん…?
そう言って、握手を求めたら、謎に顔を赤くした。
変なの…。
「先輩だけには言われたくないです!」
「何で俺の心は、こうも簡単に皆にばれるのっ!?」
何故に会って一時間も経っていない女の子に心の中を読まれなあかんのさ!
割りと個人的に悲痛な叫びだったりする…。
俺が悩んでいる時、向こうも向こうで悩んでいるようだった…。
「…………うぅ…さっきからなんなんですかぁ~…………。王子様みたいだったり……だらしなかったり……強引だったり……不真面目だったり……優しかったり…………」
「え?なんだって…?」
「何でも無いですぅ~!!!」
な、なら良いんだけど…。
「兎に角!何で私をこんな所に連れてきたんですか!」
何故か知らないが、怒りながら話題を変えようとする後輩ちゃん…。
謎だ…。
だけど、質問にはキチンと答えなければならない…。
「いや、ほら、そっちに見えるの分かる…?」
そう言って、保健室の端っこを指す。
割りと広い保健室の一角…。
「ええっと…」
小さなシャワー室が一部屋存在した…。
何故かシーンとなる場…。
暫くの、沈黙の後、後輩ちゃんが、
「何だか、複雑ですぅ~……」
俺をジロリと睨みながら、そう言った…。
「あれ?俺怒られるようなことしたっけ?」
全く検討がつかない…。
俺が小首を傾げていると「はぁっ…」と大きな溜め息が後輩ちゃんから漏れた。
「先輩~?」
あ、いつの間にか先輩と呼んでくれるようになっていた…。
「おう!」
元気良く返事した俺に。
「デリカシーって知ってますぅ~?」
残酷な質問をされた。
「いや、そのくらい知ってるよ!」
馬鹿にしないで、ほし……
「じゃあ、先輩って…、デリカシーにかけているって言われませんかぁ~?」
「何故それを!?」
な、何だって!?
この後輩ちゃんは既に俺の個人情報を掴んでいると言うのか!?
なんて、やってたら、ジロッて睨まれた…。
うん…。何で俺の心の中にはプライバシーって無いんだろうね?
「仕方無いから、今の私の心の中を丁寧に説明してあげますとぉ~」
あれ、馬鹿にされてる…?気のせい…?
「例え、私の為であっても、女子に堂々とシャワー室を紹介できる先輩に呆れてますぅ~…」
「な、何だってぇ!?」
「付け加えるなら、これが代案ってあの時に言ってましたら、絶対についてきてませんでした…」
「グハッ!」
確実な拒絶の言葉に胸を抉られる…。
膝をついて、思いっきり項垂れてしまう。
「まぁ…、楽しかったから…、今はそうでも無いんですけどぉ……」
後輩ちゃんが何か言ったが、全く持って聞こえなかった…。
傷心中の黒石さんである…。
「ほらほら、先輩!早く出ていって下さあぁい~!」
そう言いつつ俺を追い出そうとする後輩ちゃん。
「ええっと…何故に…?」
普通に疑問に思った…。
「シャワーかりるて、髪を直さないといけないからですぅ~」
「え、別に出なくても…?」
別にシャワー室は個室だ…。
俺がいても問題は無いと思うんだけれど…?
そんな馬鹿な思い違いをしていたのが悪いのか、
「私が出ていって欲しいんです!!!」
強い否定をされて…。
「少しは女の子の気持ちを考えて下さぁい~!!」
「グハッ!!?」
大ダメージを受けた。
方膝をついて何とか踏ん張る俺。
今のは俺でも分かった。
言外にデリカシーが無いと、また言われたのだ…。
うぅ…、小学生上がり立てと思ったら、そうか…。
そう言うお年頃だったな…。
娘を持つ親の気持ちが分かったぜ…。
いや、普通に傷付く。
これ以上は本当に、申し訳無いので、トボトボと保健室を後にした。
「いや、別に目的の場所が無かった訳じゃないから…良いけどさ……」
そう独り言を呟きながら、入り込んだのは放送室。
ちょうど、廊下を挟んで職員室の反対側にあるのだが俺のボッチスキルなら余裕!
隠密行動がアサシンレベルだ。
自分で言って悲しくなった…。
問題児の特性、その何とか…。
このコーナー途中で止めたから、続きが何番からだったから忘れた。
勿論、マスターキーを使って入っりましたが…、何か?
うぅん…。マスターキーの存在がバレなきゃ良いんだけど…。
誰かが、鍵を閉め忘れたと思ってくれたら万々歳。
鍵をゆっくりと閉めて中の機材を見渡す。
さっぱりわかんね…。
取り合えず、何か放送の鍵盤?場所の名前が書いてあるスイッチを見つけた。
教室とか、音楽室とか、書いてあるやつだ…。
それらを手当たり次第に押していく。
唯一、保健室だけを残して…。
放送室に立て掛けられていたり、ディスプレイされていたりする、いくつもの時計を見る。
入学式の十分前。
うぅん…?あの後輩ちゃんは何で急いでいたんだろう?
あの、パンを食わえて、走らなければ、十分、間に合う時間だったと思うんだけど……?
いや、まぁ、俺のせいで絶対に間に合わなくなったけれど…。
うぅむ…。友達や家族と待ち合わせでもしてたのか…、はたまた、時間を見間違えたか…。
まぁ、後輩ちゃんならありそうだ…。
それにしても、十分か…。
こびりついたジャムやマーガリンを落とすのに五分。
女の子のキューティクルを治すために+α
着替えと乾かす時間が五分。
どの行程も外すことは出来ないだろう…。
計、10分強。
ギリギリアウトかな?
でも、まぁ、一先ず俺のやることは一つ。
取り合えず学校中にドーンと!
作業が終わったら、ずっしりと偉そうな態度でマイクの前に腰掛ける。
マイクを口元に手繰り寄せ、マイク音量と書かれたキーを適当に上げて、試しに声を出した…。
「あー、あー………?ん?」
これで、放送が流れると思ったのだけれど、どうも違うみたいだった…。
音量ゲージが上がらないし、放送室のスピーカーからは何も無い。
首を捻って辺りを見渡すと、主電源のボタンを見つけた。
成る程…、これか!
急いでボタンを押して、マイクに向かう。
さぁ!イッツ!ショータイム!
『「ご来賓の保護者の方、及び新入生に申し上げます」』
学校中に俺の声が流れる。
『「予定されていた入学式は、諸事情により、20分遅れまして、開始されることとなりました」』
周りはどんな反応なんだろうね~?
『「ご迷惑をお掛け致しますが、もう暫くお待ちください」』
そこまで言って放送を切る。
よっし!噛まずに言えた!
ドンドンドン!!
突如として、放送室のドアを強く叩く音がする。
こんな大それたことをしたから、まぁ当たり前のことだ…。
ここは職員室の前。
寧ろ、対応が遅い方がおかしい。
俺は防音の為に2重となっている窓を開けて外に飛び出す。
そのまま、誰にも見付からないように保健室までの道を駆け抜ける。
放送室がもぬけの殻だと気付くのにもう少しだけかかるだろう…。
俺がしたことは、校内放送で、でっち上げの嘘を流すこと。
何故こんなことをしたのかと言うと、これが、後輩ちゃんが遅刻しない方法だからだ。
まぁ、普通はこんなことをする人間の方が圧倒的に少ない…。
だけど、これで後輩ちゃんの願いは叶ったも同然だ。
だって、後輩ちゃんだけが遅れて恥ずかしい思いをするくらいなら、全員を遅らせてしまえば、後輩ちゃんが遅れたことにはならないだろ…?
そしたら、こちらが標準時間だ。
そのためにあの嘘の放送を流した。
開始が遅れると。
別に騙すのは進行側じゃなくて良いのだ。
客が騙されれば、進行はそちらに合わせなければいけないのだから…。
進行側が今の放送はデマだと分かり、対処しようと呼び掛けても、既に信じた何人かは席を立った後。
それに対して、進行側の誰かが「今の放送はイタズラです!」なんて言って、はい通常道理とは絶対にならない。
まず、信用を無くすし、例えデマだとしても、席を立った人達が戻らずに事を進めると、保護者から多大なる反感を買う。
主にPTAから…。
最大の見方は保護者ってね!
もう、こうなったら、犯人側の道理に進まないといけない…。
よく考えたら、あの放送には所々おかしいところがあるのだと気付ける筈なのに、そんなことをいちいち考える人間は割りと少ないのだ。
勿論、いきなりの変更に多少ざわつきはするだろうが、それはその場の先生方にまかせるとしよう~!
さぁ~て、お仕事終了!
万事解決!てね!
まぁ、俺中心に考えたらだけど…。
ほらね…?
社会って言うのは、一つの事柄で大きく動くんだぜ?
俺の個人的な干渉で乱した何百人分の二十分は本当は重いんだ…。
この日の為に集まった数名のお偉い方の機嫌が悪くなったり、次の仕事に差し支えるかも知れない…。
この学校の評判が悪くなるかも知れない…。
保護者一人一人の時間を奪って、この日の為にお祝いする予定のお店にも迷惑をかけるし、お仕事に遅れさせてしまうかも知れないのだ。
ほら…、考えてみると一大事だ…。
だけど、そんなこと考えてたらキリなんて無い…。
俺は俺のしたいことをやっただけだ…。
人の為に行動するのに王道を選ぶ必要なんて無いのだ…。
俺は主人公で無いのだから。
俺のやることは、女の子を笑顔にさせることだけで十分だ…。