短編物語 「とある新学期のボッチ話」
ううん、最近ユウトのキャラが落ち込み気味かな?
二年生春…。
新学期の始業式。
春休みが終わり、俺が憂鬱な学校生活へと戻ることとなる日。
あの春休みの騒動から一月も経っていないのに、随分と代わり映えしない日々に戻るのだった…。
「布団から出たくない…」
偽らざる本音が出る。
だって、学校なんて、非生産的な場所にわざわざ自分から出向くとか…ねぇ?
そうだ、二度寝しよう…。
うんうん、それはいい考えだ…。
まだ眠石。
そう考えに思いいたり、布団を深く被り直す。
しかし、この家、黒石家では、そんな暴挙は許されないのだ…。
この家は理不尽を暴虐により駆逐する魔のモンスターハウスなのだから…。
「兄ちゃん~!いつまで寝てんの?」
俺の部屋は二階にあり、既に起きて準備を整えた優秀な弟(小5)が一階から大きな声で俺を「クラッチ!」
「ゲブラバッフ!!」
何が起きたかと言うと、俺は、説明の途中で背後から忍び寄ってきた何者かに間接技を決められて変な声を出してしまった。
と言うかお母さんだった。
と言うか、文章的には弟が声で俺を「クラッチ!」した感じになっているが、そんな意味不明な声を出したのは弟ではなく母だし、別に弟は悪魔の実の能力者とかでは無い。
お母さんが真の「クラッチ」犯だ。
そもそも良く見たら、間接技をかけられてすらいなかった…。
寝惚けていたせいで、掛け声だけで間接技をかけられたと錯覚して悲鳴を上げていた。
いや、何故に耳元で「クラッチ!」って言われたんだよ…。
行動が謎過ぎるよ!お母さん!
「ワンピ○スって面白いよね~」
「そして、第一声がそれかよ!」
狙っての話だったんですか、お母さん!
「さて…さっさと起きなさい!」
「誰かさんのせいで起きてるよ!お目目パッチリだよ!最早起こす必要は皆無だよ!」
相変わらず、お母さんは朝からフルスロットだった…。
なんかもう…、溜め息しか出ない…。
「なんで、うちの家にはこんな希少種を通り越して、異常種しかいないんだろうか…」
「お兄ちゃんには負けるけどね…」
「どういう意味ですか!お母さん!」
ちなみにお兄ちゃんとは俺のこと…。
兄弟の兄方だからお兄ちゃんと呼ばれるが、弟は名前だったりする…。
あれ?差別?
「でも…、ほら…お兄ちゃんが良く見てるテレビだって…良くあるけど…?」
「朝に間接技で起こしにかかるのは幼馴染みだけの特権だよ!」
「間接技をかけた覚えはないけれど…?」
「うっ、確かに…。いや、耳元で変なかけ声を出すのも十分に異常だよ!」
もう、何だよ…。これぇ…。
カオスだよ!カオス過ぎるよ!
俺の家には人間がいないんだよ!
結局、俺は流れに流されて学校へ行く羽目になった…。
始業式
『えぇ~、春を迎え皆さんは~』
「zzZ」
「ん?」
見ると、どうやら始業式は終わったみたいだ…。
皆、ちらほらとバラバラに去っていく…。
始業式の間は完全に寝てたわ…。
皆は苦戦するであろう校長の話も俺は立ったままでも寝れるから、ノープログレム!
立ち寝石さんなんだよ…。
つうか、何故にクラスごとに教室に戻らないんだろうか…?
あ、今日から新クラスだわ…。
新学年、それはクラス替えの季節。
やべぇ、確認するの忘れてた!
うちの学校では、新しい学年になった時、朝から下駄箱近くに新クラスの割り振り紙を張り出していたりする。
道理で学校ついた時に人だかりが出来ていたのか…。
くそっ、こんな時間に慌てて、確認しに戻るなんてアホ以外の何者でも無いぜ…。
流石に、そんな馬鹿がいたら、笑われてしまう…。
急いで、下駄箱に行き、恐らく誰も居ないであろう張り紙を確認しに行く…。
いや、居た…。
一人だけ…残っていた…。
つうか、知り合いだった。
「何してんのさ?八橋…?」
「うっ!」
間違えることなく、春休み振りの八橋だった…。
つうか、挙動不審過ぎるんだけど…。
「べ、ベツにナニモシテナイヨ~」
そして、怪しさ数割り増しましたよ…。
えっ?どういう化学反応があればこうなるのよ…?
暗黒物質+ロリコン=八橋?
「いやいや、落ち着けよ…変態」
「ああっ…って、変態じゃないわ!何?第一声から喧嘩売ってんのか!」
喧嘩など、俺は売ってないんだけどね~。
こいつは、何を勘違いしているんだろうか…?うん…。
「ふっ、変態と拳を交えるなど、気が汚れるわ!」
「何キャラだよ!?そして、何と書いてやつはしと読んだ!」
「ん?神聖なる幼女を愛でる男だけど?」
「よっしゃ、喧嘩うってんだな!ちょっと、表に出ろやこらぁ!」
そのまま、ふざける俺の襟を掴み、外に連れていこうとする八橋。
いや、ちょ、おまっ!
ふざけた俺も悪いんだけど、このままじゃ遅刻するからね!
「ところで、お前何してんのよ?」
仕方無いから、話題を変えにかかる。
「うっ…」
すると突然、嘘のように黙り始める八橋。
「べ、別にあんたに会いに来たんじゃないんだからね!」
「ツンデレっぽく誤魔化すなよ!お前は突っ込みキャラだろうが!しかも、僕の方が後から来たからな!」
馬鹿な!八橋がボケるだとっ!?
こいつにボケることが出来たのか!?
ジトッっとした目で八橋を見ると…、ぐっ…とバツの悪そうな顔を八橋はした…。
「いや、ホントたまたまだって…」
帰す言葉が見付からなかったのか…、そんな台詞を言って場を切り抜けようとする八橋…。
いやいや、諦めようぜ?
お前が何しに来たのか、俺にはお見通しだ…。
「いやいや、どうせクラスの確認に来たんだろ?」
「ギクッ!なんのことやら…」
「うわぁ…、分かりやすい……。からかわないから素直に言いなって…」
「……クラスを確認するの忘れてました…」
「あっはっは!バーカ!ブァーカ!」
「嘘つきぃい!!死ね!」
思いっきり馬鹿にしてやったら、本気で殴りにかかってきた…。
馬鹿な!こいつは人間か!?
血も涙も存在しないのか!?
「こっちの台詞だよっ!」
「心を読むだとっ!」
「分かりやすい顔しながら言ってんじゃねぇぞ!!こらぁあ!!」
む…、そんなに分かりやすくないぞ…?俺…。
って、顔をしたら…、全力で首を振られた。
成る程…、タグ理解。
「つうか、お前こそ何しに来たんだよ…ユウト…?」
「む?そりゃあ…あれですよ…?クラスを確認しに来たんですよ?」
「人のこといえねぇじゃねぇかぁあ!!」
いや、そんな叫ばれても…ねぇ?
「うっさい…八橋…。遅刻するぞ…」
「今、遅刻したら、確実にお前の責任だよ!こんちくしょう!」
「ほらほら、さっさと確認しろ…、お前なん組だ?」
「くぅ…、ええっと…、少し待て……、…あったあった…これだ…」
ゆっくりと自分の名前を探す八橋。
どうやら、自分の名前が見付かったようだ…。
俺はその指差した場所に目をよせる…。
「何々…、二年…魔界組?」
「そうそう…、クラスメイトにサタンが…って!違うわ!何その!?魑魅魍魎としたクラス!!三組だよ!さ・ん・く・み!」
「そうかそうか…、ええっと…、僕は~」
「人の話を聴けよ!」
なんか、ピぃピぃ…うっさいが、無視無視…。
クラス発表の紙を覗き込む…。
お、名前あった…。
クラスは…。
「あ、三組だ……」
「はっ…?」
「おい、黒石…?」
「何だよ…八橋…?」
「何で俺達は外に出されてるんだと思う…?」
「さぁ…知らね…」
「お前のせいだよぉおお!!!!」
「ヒトノセイ…良くない……」
「確実にお前だよっ!」
あの後、ぎゃあぎゃあ騒いでたら、結局、集合に遅れてしまったのだ…。
そして、こともあろうに…、クラスから追い出された…。
二人揃って「「すいません!遅れま…「廊下で立っててね~」」」の言い訳を教師に遮られた屈辱がまだ忘れられない…。
くっ…八橋め…。
そんな茶番を繰り広げていると教室のドアが開いた。
「ほら…、皆で自己紹介するから…、中に入りなさい…」
それは、これから一年間の担任となる先生だった…。
「今年から、この学校に赴任して来ました。今日から、皆の担任となります、辻原です。三組の皆さん!仲良くしましょう!」
俺達の担任は20代後半の女性の先生だった。
見ない顔の先生だと、思ったら今年からこの学校に来たのか…。
「先生は美術を担当するので、授業の時には宜しくお願いします。」
美術ねぇ…苦手だにゃ~。
まぁ、適度にこの新クラスで頑張ろう…。
「じゃあ、皆の自己紹介をしよっか」
えっ…!?
今、あの先生…なんと…?
自己紹介だと…?
おまっ…ボッチの俺にはハードル高くないか…?
くっ、ここは「只の人間には興味がありません」から始まるあの台詞を言うべきなのか?
「先生~、皆はお互いに皆のこと知ってますよ~」
お!誰かがそんなことを言うが、ファインプレーだ。
そうそう、皆、田舎で育ったから、知らないやつなんて居ないんだよ…。
だから、消えろぉ~、自己紹介…。
「皆は知っていても、私はまだ皆のこと分からないから。名前と顔の確認も兼ねて、ね?」
オワタ…。
「六番、小野原来夜です…。好きなものはメロンで、嫌いな物は瓜。皆、知っていると思うけど仲良くしてね」
ちゃくちゃくと進んでいく、死の宴。
小柄な女の子が自己紹介を終えて座る…。
俺は九番。
あと、少しで俺の番だ…。
次の男の子も終えて、ついに、俺の一つ前の席の番に回る…。
すっと、立ち上がり…、
「紅聖二です…。」
と、自己紹介をした…。
そう、俺の前の席は、紅君なのだ…。
覚えているかは知らないけれど、春休みに少し紹介した、俺の数少ない友達…。
「好きな物は梨で、嫌いな物は無しです」
「プッ…」
やべぇ、何人か軽く噴き出した…。
いや、普通は下らないギャグも真顔で言われたら、くるものがあったのだろう…。
なんて、ハイレベルな自己紹介なんだ…。
あ、俺?緊張でそれどころじゃない…。
紅君が座り、俺は代わりに立ち上がらざる終えなかった…。
「くら、黒石ユウトです!」
そして、早速噛んだ…。
軽い失笑は聞こえるが、それよりも冷めた雰囲気の方が強い…。
こういう時なんだよ…。自分がボッチだと自覚するのは…。
「好きな物はお寿司…」
結局、無難に好きな物をチョイスしてしまうし…。
ああ…、ちくしょう!
そのまま、締めにかかり…。
「嫌いな物は…「やつはしだろ…?」」
思わぬ横槍に動揺した…。
紅君だ…。
俺は、そのパスを…。
「そうそう…、やつはし、嫌いなんだよな~」
ニヤリと笑って受け取った…。
「ちょ!何で俺の自己紹介の前にそんなこと言うんだよ!」
慌てて立ち上がる八橋…。
だが、その光景にクラスメイトは思わず笑いだす…。
「えっ?えっ?えっ?」
そして、八橋本人だけが、何故笑われているのかが理解できていない…。
思わず、クラスメイトが突っ込みにかかる。
「いや、お前が嫌いな訳じゃなくて、京都の名物の方だって…!」
「あっ…。イヤ、ベツニマチガエタ訳じゃナイヨ?」
「いやいや、もろバレだっよ…。八橋くん…。おちょこちょいだね~」
「グハァ…!じょ、女子におっちょこちょい言われた…」
「お~い!おっちょこ橋?」
「何その!不安定な名前!ネーミングセンス皆無だよ!」
「でさ、おっちょこ橋!」
「おっちょこ橋おっちょこ橋!」
「おっちょこ橋君!」
「ぎゃあああ!定着させるなぁあああ!」
あっという間に教室は明るい雰囲気に包まれた…。
これが、八橋という人間なのだ…。
後悔は五秒間だけ。
「楽しそうだな~。八橋」
「お前のせいだよっ!!」
その後、自己紹介は八橋を中心に上手くいった…。
ああ…、多分こういうのを主人公って言うんだろうな…。