第三十二物語 「bad end…?~ヒマリの届かぬ思い~」
思いが伝わらない物語
「お父さん…お母さん…私!決めたことがあるの…!」
それは昨晩の出来事…。
一人の少女の決意のお話…。
「…………………」
「…………………」
その問いにこの少女の親は答えられ無かった…。
近くでは少女の友達の動物達、三びきも黙って見守っている…。
やがて…、少女の父は答えた…。
「………行きたいんだね……旅に…」
優しそうな顔をした少女の父は、少し、真剣な顔をした。
娘が…何かしたいのなら、応援してやりたい気持ちは父にはある…。
だが、それよりも不安の方が大きいのが、今の本音なのだ…。
あんなことがあった後に、娘を笑顔で行かせてあげれる自信など、父には無いのだろう…。
ただでさえ、日本に比べてこの世界は治安があまり整っていないのだ。
「うん……、私は、ユウトさんやマリナさんに着いていきたいよ……。ついて行って、足手まといになっちゃうかもだけど…、一緒に旅をしたい……」
少女は、ちゃんと父に分かって貰うために、宣言する…。
自分のしたいことを…。
「なぜ?あの人達が好きだから?」
だから、はっきりさせないといけないのだ…。
自分がどうしたいかを…。
「うん…。それもそうだけど、…でも、それ以上にやりたいことがあるの…」
少女は宣言する。
「何をしたいの…?」
その少女の言葉に少女の母は初めて返答した。
「強くなりたいの…。そして、世界を知ってみたい…」
それは明確な少女の意思だった。
だが、いきなり、言い出したその言葉に少女の親は理解が追い付いておらず、数秒の沈黙の後…。
「どうして……なんだい……?」
少女の父は、やっとの思いでその言葉を口にすることが出来た…。
娘の言葉を理解出来なかったのは、少女の父にとって、これが初めてだった…。
「私が、弱かったからかな…?」
「それは…」
娘の言葉に母が何かを言おうとするが、少女の方が早い。
「目の前で、襲われている人を誰も助けれなかったから……」
「「…………………」」
その言葉に二人は黙ざるおえなかった…。
娘が考えていることがやっと、ようやく、理解できたからだ…。
この村は、三人組に襲われ…、家が焼かれ、そして、全員が奴隷として売り捌かれようとしていたのだ…。
その中で運が良いのか悪いのか、唯一、逃げ延びたのが、この少女。
そのトラウマは直ぐに捕まってしまった二人より、いや、この村の誰よりも大きい。
そして、目の前で人が連れ去られる様子を見て、何も出来なかった無力感は今後の生活に悪影響を及ぼすかも知れない。
肝心な時に、何も出来ない…、と…。
だから、少女はそんな気持ちに自分で打ち勝つ為に、強くなりたいのだ…。
娘が自ら成長を願っているのだ…。
そんな娘の考えが痛いほど、長年一緒に暮らしていた、両親には分かった…。
だが、それが、分かっていて、それでも、母親は…。
「そんなの……貴女じゃなくても良いじゃない………、きっと、もう一回同じことは起こらないし……、こんな小さな女の子が…行く必要なんて……」
そんな言葉を言ってしまう…。
娘の言うことを叶えてあげたい気持ちはあるが、それよりも娘の安全の方が大切なのだから…。
少女は、そんな娘を思ってくれている母の気持ちを凄く嬉しく思う。
だけど、だからこそ、少女にとっては、ちゃんと説得しなければならない…。
「お母さん…。あのね…。確かに、私じゃないといけない理由は…どこにも無いよ…」
「だったら…!」
少女の言葉に母は強く反応する…。
「だけど…、私が自分の意思でやりたいって、思ったの…」
「……っ!?どうして…?」
少女の意志は強く固いが…、母はまだ、納得など出来ていない…。
いや、最悪、娘が死ぬかも知れない所に、送り出せる筈がない。
少女はそんな母の気持ちを痛いほど、感じる。
だが、少女は…。
「私はね…、色々な人に助けて貰って…今、ここにいるから……、お父さんやお母さん…。ペンギー、ラッセル、ミカン、それにこの村の人達…。病気の時、助けてくれた人達に…、マリナさんと…ユウトさん……」
少女の気持ちは…。
「そんな人達に恩返しをしたい…。でも、今の私は何も持ってない…。外に行く勇気も、困った時に使える知識も、一人で何かをすることも、辛そうな人にかける言葉も、助けて上げるだけの力も………」
それよりも、強い…。
「勿論、世界がどんなところかも……。だから…、探しに行ってみたいの…。色々な人に会って、価値観を学んで…、色々なことをして…、知識を蓄えて、色々な場所を回って…、世界を見てみたいの!」
母を心配させるのは、確かに、心が痛む…。
「……それで…、もし…、もしだけど……、困っている人が居たら、助けたい…。私がユウトさん達にしてもらったみたいに……」
でも、だから、母に納得してもらい、旅に出たいのだ…。
「不幸が…少しでも…減るように……」
少女が優しいから…。
「………………………本気…なんだね…」
場を沈黙が包み…、少女の父が、それを破った…。
「あなた……!」
少女の母が父の言わんとすることを、察し止めようとするが…。
「この子の人生だ…。誰もこの子を止めることは出来ないよ……」
「…………………」
悲しそうに、そう呟いたのを見て、止めた…。
そして、最後の確認をする。
「行きたいんだね?」
「うん」
少女はそれに自分の意思を込めて答える。
「後悔しないんだね?」
「うん…」
この確認が終わったら、どちらも後戻りは出来ない。
「絶対、戻ってくるんだよね?」
「うん…、絶対に戻ってくるよ……」
そして、その問答は終わった…。
これで、どちらも後戻りは出来ない。
しばらく、いや、可能性には永遠に会えないことだって存在する…。
この世界の治安はまだ、整っていないのだ。
だが…。
「そっか……」
父は一言…、そう呟いて笑顔を見せた…。
「お父さん…」
その笑顔に少女は、笑顔で反す。
それを見て、母も覚悟を決めたのか、
「………仕方無いわね……あなたの決めたことだもね……」
そう言って、多少作り物めいた笑みを見せた…。
その複雑な心境だが、娘を応援してくれようとしている母の姿を見て…。
「お母さん…ありがとう!」
少女は素直にその言葉を発した…。
「あなたの成長をお母さん…、期待してるわよ?」
「父さんも、ヒマリが元気に帰るのを待ってるからな…?」
「うん!うん!」
父と母のその暖かい声援に少女は背中を押されて、元気良く返事をする。
「お父さん!お母さん!大好き!!」
そして、父と母の胸に飛び込んでいく、少女…。
その目からは、涙が流れていた。
本当は、少女も不安で、ここを離れたくないという本音が隠れ見えるような涙を…。
だけど、そんな気持ちよりも旅に出たいの方が強いという証明の涙を…。
暫く、お互いの存在を確かめ合うように抱き付く三人…。
そのまま、場を静寂が包む…。
そして、どれだけ経ったか分からないが、ようやく親子は離れたのだった…。
そのまま、少女は動物達に顔を向け…、一言…。
「行ってくるね…!」
「わん!」「にゃ!」「ピッー!」
それは、一緒に連れていけないとの現れだ…。
だけど、それだけで、三びきは十分だった…。
人間と違い、複雑な思考を展開しない動物達は、少女を応援してやることを既に決めている。
少女には、その言葉が分かる。
だから、笑顔で「ありがとう…」と一言だけ言った…。
簡潔だが、全ての意味がここには込められている…。
だが、もし…、ユウトがこの場に居たら、確実に何かを言っただろう…、夢と同じように…。
そんなことを父が察したかは分からないが、
「そうと決まったら、村を救ってくれた二人に…、ついていきたいと言って来なさい…」
と言って、一度場を仕切り直す。
その応援ともとれる言葉に…。
「うん…!」
少女は、力強くうなずいた…。
そして、そのまま、いてもたっても居られず、土と石で出来た簡易な家を出た。
このまま、ここに居たら、決意が揺らぐかも知れない…。
そう思って…。
そのまま、唯一、村に残った宿屋に向かう…。
村を救った二人は、二人ともあまり乗り気では無かったが、この宿に泊まっている…。
少女は宿に着くやいなや、ドアを開け、中には入り、二階へかけ上がる…。
この宿の主は、ここには居らず、少女を咎める者など居ない。
そして、二つしか無い内の、ユウトとマリナが泊まっている部屋を開けた。
「ユウトさん!」
だが…、
そこには誰も居なかった…。
「えっ…?」
代わりのように、置き手紙と大量の金貨が机に置いてあり、部屋は綺麗に整理されている。
まるで…、この村を既に去ったかのようなありさまだった…。
それを見て…、少女は…、ヒマリは…、立ち尽くすのだった。
~ letter message ~
『拝啓、この手紙読んでいる貴女は何処で何を~痛い!叩かないでよ!マリ姉!』
『もう、ネタを入れたくらいで騒がしいよ、マリ姉は…え?このネタ、ヒマリちゃんは分からない?あ、別の世界なのか…』
『ごほん…。書き直すの面倒臭いから、続きね?』
『ごめん…、ヒマリちゃん…。僕とマリ姉は、皆に内緒でここを旅立つことにした…』
『今のここに僕らは歓迎されてない…。寧ろ、居たら邪魔な感じだ…』
『悪者を倒した証拠が何一つ無いんだから、仕方ないっちゃあ、仕方無い』
『村の人達は、どう扱って良いか、困ってるみたいだし…』
『早く、出ていってほしいけど、村を救ってくれた手前、言い辛いって感じかな…?』
『勿論、ヒマリちゃんはそんなこと思って無いだろうけれど…、僕達がここに居たら、不命みたいなのが報復に動く可能性だってある…』
『僕達はイレギュラーここにいちゃあ、いけないんだ…』
『どちらにしろ、早く、ここを誰にもばれないように立ち去りたかったんだ…』
『ごめん…、お別れも言えなくて…』
『大丈夫…。いつかきっとまた会えるよ…』
『だから、本当にごめん…』
『その代わりに、財産のほとんどを置いておくね。村の復興に役立ててくれないかな?』
『言いたいことは、沢山あるけど、もう行かないといけないや…、ごめんね?』
『ヒマリちゃんと過ごした日々はとっても楽しかったよ!僕は絶対に忘れない自信がある…』
『それじゃあ…、本当にありがとう。そして、さようならだ』
『PS、何でも言うことを聞く件については、再開の時に…お願いします』
「そんな…」
私はその場にへたりこんでしまった…。
だって、これは…、こんなのは…あんまりだからだ…。
これじゃあ、結局、私は何も出来てない…。
確かにユウトさん達がこの村からは、直ぐに出ていった方が…、誰にもばれないように出ていった方が…、得策かも知れない…。
「でも…でも…でも…」
でも…、
「それでも…それでも…」
何も言わずに立ち去るなんて……。
「あんまりじゃ…無いですか……」
分かっている…。
これは、ユウトさんはなにも悪くない。
ユウトさんの判断は客観的に見て、取るのは最善の行動なのだ…。
責められるべきところなどない…筈なのだ…。
だって、私は伝えてないから…、一緒に行きたいと…。
連れていって欲しかったと…。
それでも…、感情の波は押さえれるものじゃなく…。
次第に涙が、出てきていた…。
そして、
「…悪くないのに…ユウトさんは…、悪くないのに……」
悪くないのに…。
「何で…何ですか…」
言いたくないのに…。
「そんなものだったんですか……」
言ってしまう…。
「私と…ユウトさんとは……こんな置き手紙一つで…方がつくことだったんですか………」
間違えることなく…、本音を……。
嗚咽が止まることなく、あふれでる…。
でも、多分、ユウトさんは、本当に再開するために戻ってくるだろう…。
これが、最後じゃないから、会わなくても大丈夫だっと、思ったんだと思う…。
だから…、言わなかったんだと思う……。
だけど…、ユウトさんは大丈夫でも…、
私は…、私は…、そんな風に強くない…。
「強くないんです……。強くなんか無いんです……」
だって、ユウトさんの前だから、強がっていれたんですよ…?
泣かずにすんだんですよ?
「違うんです…違うんです…ユウトさん…」
私は弱いんです…。
「だから…、だから…、離れたくなんか…無いんです……」
私が求めていたのは、再開の約束なんかじゃない…。
私は私は…、ユウトさんに…。
「連れていって貰いたかったんです…」
私はユウトさんについて行って、甘えさせて貰ったりはしたけれど…、
強いあなたの側なら、弱い自分は強くなれたんですよ…?
さっき、誰か助けたいなんて、お父さん達の前で言ったのに、ずるいかもしれないけれど。
だって、私の言っていることはさっきと変わってしまっている。
でも、それでも…、
ユウトさんと見たかったんだ。
世界を…。
ユウトさんと変えたかったんだ。
自分を……。
そして、何より…。
好きな人と一緒に居たかったんです
神様は…、許してくれないんですか…。
そんな当たり前の願いなんか…?
「ユウトさん…………」
いつの間にか呟いていた………。
「ユウトさん………ユウトさん……」
愛しい人の名前を……。
「ユウトさん…」
涙は止まらずとも…。
「ユウトさん」
強く…。
「ユウトさん!」
強く……。
「ユウトさん!!ユウトさん!!!」
世界で一番…。
「ユウトさぁん!!!!」
大好きな人の名前を……。
だが、
答えるものなど、居ない…。
「うっ……うっ……」
いつもなら、完璧なタイミングで来てくれる…ユウトさんも……今は…、居ない……。
「ゆっ………うっ……」
最早、精神的に、これ以上…まともに…話せそうに…ない…。
涙は止まらず、悲しみは膨れ上がり…、私は……蹲ったまま…動けなかった……。
ああ…、もう…、駄目なのかな…?
こんな願いは……。
そんな時だった…。
回りに人の気配がしたのは…。
「諦めるのは早くは無いかい?」
宿の二階…。
「そうそう…、あいつはどんなときも諦めないって!」
もうひとつの部屋…。
「だから、お前も諦めるな……」
当初、真似かねざる客人だった三人組が…。
「「「今、恩をかえすよ(そうかな)(そう)…」」」
声を揃えてそう言った…。
いかがでしたか?三十二羽。
書いててちょっとむしゃくしゃしたお話でした。
次がラストです。
シリアス続きですいません。