第三十一物語 「true end… ~ユウトの苦悩~」
ユウトの苦悩のお話
~ ユウト negative story ~
不命の残したもの。
かつて家だった物の燃えかす…。
安否不明なアリサちゃんたち子供達への不安。
三人分の犯罪歴
色々な人達の心の傷。
どうしようも無いくらいの、三人組と村の人達との心の距離。
そんな数々の負の遺産なんだ。
「……………………」
ずっと無言でいる三人組に対して、ヒマリちゃんはマリ姉の後ろに隠れる。
「あ、そっか…、ヒマリちゃんは知らないか…。さっき倒した男は不命って言って、この事件の黒幕なんだよ…。この三人は操られてただけだから…、悪いやつじゃないんだよ…」
事情を知らないヒマリちゃんには説明をしとかないとね。
「そ…、そうなんですか…?」
俺の説明を聞いて多少は気を緩めたヒマリちゃんだったが、警戒心は消えてない…。
「ユウちゃん…。そういう問題じゃないでしょう…」
「…分かってるよ……」
だけど、それは明らかに空気を読めていない発言。
この場には、全く相応しく無い台詞にマリ姉からお咎めを貰ってしまう。
だけど、言わずにはいられない…。
昔から空気ブレイカーなんて不名誉なあだ名を頂いた位に空気の読めない俺は喋られずには要られない…。
「なぁ~に、黙り込んでんだよ~。3人組!会話しようにゃ~」
なんで…、なんで…、
「……………………お前は…何も感じないのか…」
ドスの効かせた声で、シャーガは俺に向かって話す。
誰も悪くないのに…。
「なんのことかにゃ~」
「ふざけるな!俺達は人を傷つけたんだぞ!」
シャーガは、怒鳴るがそんなことは知らない…。
あいつが、不命がかき回していっただけで、
「だって、操られてたんだから、仕方無いだろうよ~」
「仕方ないだと!貴様!」
「止めろ!シャーガ!」
「ユウちゃん!」
シャーガにはアルマが、俺にはマリ姉が、止めろと言おうとする。
こんなにこんなに…。
「お前は何も感じないのか!」
叫ぶシャーガ。
だが、俺は…、俺も…。
「し・る・かぁああああああ!!!!」
叫んだ…。
何でこんな結果になるか分からずに…。
呆気にとられる皆。
「何で誰も悪くないのに!不命が悪いのに!お前がうじうじしてんだよ!被害者面してないで!さっさと国に帰れ!」
「な…何を………」
何かを言おうとするシャーガだったが、知ったことか。
俺は更に捲し立てる。
「ああもう!さっきの会話の方が何倍も何十倍も楽しかったよ!こんちくしょう!でもな!うじうじしてても変わらねぇんだよ!村の人に謝るなり、子供達を救いに行くなり好きにしろよ!だからな!過去を振り返ってんじゃねぇよ!」
叫び、言いたいことを全部言った。
言い終わると同時にふぅ…、と一息。
通常状態にない周りの人達を普通の状態に戻す方法…。
「何てね~。はぁ~スッキリした…。さて、さっさと全部片付けようぜ…」
それは、自分より精神状態の芳しくないやつがこの場にいること。
そしたら、自分のことを皆は見つめ直す。
この場にいる皆は、黙り混んでいた。
そして、もう、いつも道理の俺だった。
「いつぶりかしら…、ユウちゃんが怒ったの…」
「ん…?」
今は色々あった後、宿屋に帰ってきていた。
疲れた後のふかふかのベッドはとても最高なのだよ!
「ああ…、あれね……。むぅ…、怒ったっていうのかな?あれ?だって、丸っきし演技だぜ?」
そう演技だ。
あそこは、場の主導権を握るために怒るシーンだったって、だけなのだ…。
別に他意は無い…。
「他意が無かったら、あんなことしないと思うんだけど…。どうかしら?」
「さぁね~。揚げ足を取ろうとしないでよ…。マリ姉…。つうか、心を読むな…」
あいも変わらず、マリ姉はマリ姉なのだ…。
「良いじゃないの…別に…ユウちゃんは本気だったんだから…」
だが、その言葉はあんまり理解できなかった…。
結局、ハッピーエンドにはほど遠いんだから…。
「本気……ねぇ…。僕は本当に本気だったのかね~」
そして、同時にそんな疑問が浮かぶ。
確かに、その場、その場では僕は全力を出していた。
でも、結局、誰かの為で…自分のためじゃない…。
自分からは行動していない。
それを本気って言うのは、少しおこがましくないだろうか…。
後味悪いね~。全く。苦いしさんかな?
「それに、僕が心から全力で感情を露に……」
「ユウちゃん」
俺が言わんとしたことを、マリ姉は遮る。
オウケイ。確かに、今言おうとしたことは不謹慎極まり無かった。
「すまん…。マリ姉…僕が悪かった…」
「良いのよ…。今回のこと納得してないんでしょ?」
「まぁね…。いきなり、闇の組織とか世界を裏から操ってるとか…、超展開過ぎて混乱中…」
「まぁ、異世界だもの…。何でもありなのよ…」
あの後、俺の知らない不命とのことをマリ姉に説明された。
キーワードは、
不命。
闇の魔法使い。
世界最強。
謎の組織。
って、ところか…。
あ~、これから、面倒臭そう…。
だって、あんなにウザかった不命すら組織の末端しょ?
今回、偶々、相性が良かっただけだぜ?
ダークボールとかチートだよ。チート。
つうか、その不命すら倒せていない現実だし…。
「そういえば、あの不命って男…。どうなったの?」
「十中八九生きてるよ…。俺が行ったのは、シャーガの異常状態を俺の通常状態に合わせただけ…」
「そういえば、大ホラ吹いていたわね…」
「言うなよ…。能力打ち消しなんて力、俺には無理だよ…。で、不命だけど、今は元の体に戻ってんじゃないかね?まぁ…、運良く、あの攻撃が強制シャットダウンの役割を果たしてくれていたら、ダメージにはなってる」
マリ姉のちゃちゃに返しながらも、キチンと説明する。
今回の元凶の話を…。
じゃないと、次はやばい…。
そんなことを考えていると…。
「ねぇ…。ユウちゃん…」
マリ姉が話しかけてきた…。
多分、真面目な話…。
不命の起こした災厄の、結末のお話…。
「ん?…なぁに?」
だから、俺はいつも道理に軽く返す。
「あれで、良かったの…?」
「……………………」
だって、次の問いには答えられないだろうから…。
結局、あの結末が何を呼ぶのか…、俺には分からないのだから…。
「で、鍵は?」
「要らん…。あれは元々俺の魔法だ…。解除する分には、魔法で十分だ…」
そんなことをシャーガは言いながら、不機嫌そうだった。
そもそも、洗脳されて、人を捕らえる魔法を使ったという事実を飲み込むのが、嫌なのだろう。
あの後、全員で村の人達の部屋に向かっていた。
若干、ヒマリちゃんが、3人組と距離を置くのは、まぁ、仕方ないっちゃあ、仕方ない。
そもそも、戦っていた相手と普通に横を歩いている俺とマリ姉の方がおかしいのだろう。
世間的には…。
「ここだよ…」
檻の前に着いた時、村の人達は、俺達を見て様々な反応をし始めた…。
怯える者。
抵抗心を抱く者。
ヒマリちゃんを見つめる者。
そして、疑心を抱く者。
「う~ん、面倒い…。ヒマリちゃん任せた…」
「わ…、私ですか…!?えぇっと…、み、皆、助けに来たよ!」
突然の俺の無茶ぶりに答えて、くれるヒマリちゃんだったが、どうやら、村の皆さんはその言葉はお好みじゃなかったらしい…。
しばらくの沈黙の後、「何を言ってるんだ!」とか「その3人組がそもそもの元凶なんだぞ!」とな「その二人は誰だ!」とか、強気な人達から余りお好みではない返答を頂く。
不味いな~。このままだと、話の流れを持っていかれる。
折角、「助けに来た」の台詞に期待する者や、ヒマリちゃんの姿に喜ぶ人達を飲み込みかねない…。
「ヒマリちゃん…。パッとでの俺が言っても、話がややこしくなるだけだから…お願いしても良い?」
「わ、分かりました」
なので、一気に畳み掛ける。
「み、皆…、この三人は悪い人達に操られていただけで…本当は悪い人じゃないよ……」
でも、やっぱり、ヒマリちゃんは、不命を目にしてはいるけど、操られているかどうかは人伝えで、聞いただけだから、心の底からはその台詞が言えなかったみたいだ…。
また、一拍おいてヤジが飛んでくる。
早いとこ檻を解除しないと不安を煽るだけなんだけど、今、解除したら、乱闘だな…。
大乱闘スマッシュうんたらはマジで勘弁願いたい…。
ヤジは加熱していき(まぁ、それでも片手の指ほどの人達からだけれど)ついに話はこちらに飛び火する。
「そもそも、そこにいる怪しい二人組はなんだ…」と…。
最初は小さな波紋みたいな物だったが、段々とそれが、大きくなるのが分かる。
得体が知れない二人組。
人は分からないものが怖のだから…。
あえて、内容は伏せるが、俺達の方にも疑いの言葉がかけられる。
段々と俺達が実は今回の黒幕だとか、ヒマリちゃんを洗脳しただとか、そんな想像力豊かそうな内容。
そんな内容に…。
「この二人を…。この二人を!悪く言わないで!!!!」
ヒマリちゃんが突如声を張り上げたのだった…。
言葉こそ平和的だったが、それよりも滅多に怒りそうに無いヒマリちゃんが怒ったことに驚く。
どうやら、村人達も怒る所をあまり見たことが無いのか、村人も呆然としている…。
「えぇっと…、ヒマリサン?」
「この二人は私の大切な恩人なの!例え、皆でも悪く言うのは許さない!!」
あの…、怒ってくれるのは嬉しいんだけど…、皆ついていけてないよ?
そんなヒマリちゃんを宥めるために、今の事態に唯一動じてないマリ姉が、ヒマリちゃんの後ろから、肩に手を置く。
「落ち着いて…、ヒマリちゃん…」
「ま、マリナさん…。」
「私達の為に怒ってくれるのは嬉しいけれど、ここは任せてくれない…?」
「わ、分かりました…。すいません、場を乱して…」
うぅん…。ヒマリちゃんを落ち着かせたのは良いけど…、あながち洗脳って言うのも間違えじゃない気がしてきた…。うん…。
だけど、まぁ、これはチャンスだ…。
ヒマリちゃんのお陰で場が落ち着いた。
「シャーガ…頼む…」
「あ、ああ…」
すかさず、俺はタイミングを逃さないようにシャーガを呼ぶ。
今が一番チャンスなのだ…。
シャーガは俺の頼んだ意味を正しく理解して、魔法で作られた檻を解除する。
村人達は突然の事態に更に混乱するなか…。
「「「本当にご迷惑をおかけしました…」」」
3人組は精一杯頭を下げたのだった。
あ~、俺は謝れなんて一言も言ってないけど、自分達からやるか…。
そりゃそうだよな…。操られたとはいえ、本当にすまないと思ってるんだもんな…。
その状況を見て、更に混乱を増す村人達…。
しかし、それも場に組み込む。
「マリ姉…頼む…」
「ええ、分かったわ…」
最後にマリ姉に誘導にかかって貰う。
これで、万事解決…。
ああ…、ほんと…、自分のことが嫌いになりそうだ…。
俺がしたことは、至極単純。
混乱した場の中で、三人組の無抵抗を見せて、自分達が自由だと言うことを見せ付ける。
捕まって、疑心暗鬼に陥っていた村人達にはかなり有効なのだ…。
別に元々悪い人達の集団じゃない筈なんだ。
ただただ、我が身の不幸を呪い、心情が落ち着いていなかっただけで…。
だからこその無抵抗と無条件の自由を見せて、一瞬だけ思考を奪う。
後は、話術や大人達、集団に相対するのが、得意(と言うよりは、身に付いた)なマリ姉に全てを任せる。
真実を洗いざらい話し、さも、誰も悪くない悲劇の物語を作り上げて…、誘導する…。
ああ…、本当に、俺は最低だな…。
思考の仕方がグズっぽい…。
単純に助けるでいいじゃん。
謝るでいいじゃん。
説得するでいいじゃん。
なんで、そうなんだ…。
なんで、そんな風にしか出来ないんだ…。
なんで、あいつみたいに単純に全力をかけれないんだ…。
だから、俺は主人公なんかには絶対なれないんだよ!
だから、ハッピーエンドにはならないんだよ!
だから…、俺は俺のことが…、き…ら…
「ユウちゃん!!」
ふと、マリ姉が言う…。
「止めなさい…」
何を…?
「自分を否定するのは止めなさい…」
ああ…、ずるいや…、マリ姉…。心を読むなんて反則だって…。
「ユウちゃんが読みやすいだけよ?現に私は他の人の心を読んだりしてないでしょ…?」
はぁ…、マリ姉は相変わらずだね…。
「それにね…。心を閉ざしたりしたら、私には何も分からなくなるわよ…?」
そう言って、マリ姉は…。
俺のことを抱き締める。
はぁ…、精神不安定な時は、人肌を…は、俺の自己理論なんだけど、される側はちょっとな~。
でも、今だけ……。って、二回目か…。
「良いのよ…ユウちゃん……」
はぁ…、全く…、マリ姉には叶わねぇ…。
「良いのね…ユウちゃん…その選択で…?」
「まぁ、良くは無いけどね~。でも、まぁ、仕方ないっちゃあ、仕方無いでしょう…」
いかがでしたか三十一話?
個人的にはあまり好きではないですが、思い入れのあるお話です。
不器用なユウトが空回りするそんなお話です。
次回ヒマリを中心に回します。