第二十八物語 「bad cancel ~そんな理不尽なんて認めねえ…~」
再開を喜ぶ少年の理不尽嫌いのお話
~ ユウト side ~
『夢現な人形劇~!さぁさぁ~、躍りあかしましょう~!』
その台詞が聞こえたと同時に俺は無数の人影に囲まれていた。
これが、不命のとっておきなのだろう。
油断していなかったと言ったら嘘になる…、でも、この数は…あまりにも多すぎた…。
いったい、何処から…?
そして気付く。
周りは、先程まで倒れていた筈の子供達で埋められていたのだと…。
そして、その内の一人が……。
俺に向かって突撃してきた。
顔は見えないが、活発そうな男の子で…。
『どうしますか~?』
右手にキラリと光るナイフを持っていた。
「くっ!」
一先ず、身長差を利用して頭を右手で抑えるが、男の子はその手をナイフで切り落とそうと振りかぶる。
俺は成るべく怪我をさせないように力加減をしながら、頭を押し、バランスを崩した男の子の小さな手からナイフを弾く。
そして、そのまま後ろに下がろうとするが、取り囲まれているので、それが出来ず、
さらに、弾いたナイフを今度は別の女の子が拾った。
ああ、やべぇ…。
これはピンチじゃん…。
「不命…。テメェ、こんなのありかよ……」
『ありなんじゃないですか~?』
恐らく、不命は能力を使って、夢に囚われた子供達を操っている。
皆、意識が無い人形の様だった。
というより、事実そうなのだろう。
いや、子供達だけじゃ無いな……。
よく見ると、子供達の後ろに三人ほど大人がいた。
つうか、アリバック達。
あ~、ヤバイ~。
黒石さん最大のピンチ!
最ピン石さん!
最早、意味が分からない。
まぁ、それくらい焦ってますってことで、ここは許してくれないかにゃ~。
とか、言ってたら二人の女の子がこちらに突撃してくる。
モテる男は辛いね~。
まぁ、女の子二人は剣と槍を持っているけどな…!
「ちくしょう!」
現実逃避を終了して、あえて二人に向かってこちらも近付く。
そして、振り下ろされた剣を靴底で受け止めて、あえて隙を作る。
そこを槍を持った女の子に攻撃させるためだ。
無理矢理避けようとすると何が起こるかは分からない。
ならば、わざと分かりやすい攻撃をさせれば良い。
狙い通り、女の子は分かりやすい軌道で槍を振るった。
なので、あまり力の無い体で剣と靴底のつばぜり合いを続ける女の子を優しく押し返しつつ、体を捻るように槍を避けた。
そのまま、かわした槍を掴みとり、強く引っ張る。
当然、力の差でこちらに倒れそうになる女の子。
その女の子を優しく受け止めつつ、バランスを崩した体から槍を抜き取る。
意志が無いから結構簡単に出来る芸当だ。
精神世界なのに意識が無いとは、これいかに?
まぁ、不命が創った世界だからな~。む、待てよ?
成る程な~、そう言うことか…。
何でいきなり武器が現れたかと思ったら、ただ単純に不命が創ったのか…。
え?それなら、この世界やばくない?だって、圧倒的にピンチじゃん。
黒石さんアウェイ……。
アウェイしさん、取り囲まれ中。
そして、一番厄介なのが…、
二本のナイフを手に男が突進してくる。
そして、そのまま俺を切りつけようとする、その前にその鳩尾に槍の刃と反対の棒の部分をぶちこむ。
「ゴフッ!」
男は、それにより一時行動不能になり、その隙にユウトはもう一度突きを繰り出す。
男はそれにより、よろよろよろめきながら距離を離していった。
まぁ、その男とはアリバックだったが…。
え?野郎なんかに、手加減する義理はねえよ?
それに思った通り、動きが単調だ。
どうやら、操つられているというより、単純な命令を与えられているだけなのだろう。
だが、それでも……、同時に残り二人も来ると不味い……、いや、既にこの戦いは詰んでいるのかもしれない…………。
俺がアリバックを突き飛ばした隙を狙ってナックルをつけたシャーガと、棍棒を持ったアルマが挟み撃ちをけしかけてくる。
棍は槍を振るって、ガードするが、シャーガのナックルをガード出来ずにそのままくらう…。
「ウグッ!」
さらに、空いたガードを抜け、アルマの棍の一薙ぎが肺辺りにクリーンヒットした。
「…ッ!」
肺から息が抜け、後ろに倒れそうになるのを踏ん張りながら、一歩下がる。
下がりながら、近付き過ぎていたシャーガに槍の棒の部分で突きを喰らわし、距離を取った。
ギリギリかよ………。
たとえ、あいつらの一人には打ち勝てたとしても、三人集まると、手に終えなくなる。
それが、今の現状だ…。
それに、さっきは力とリーチで受け流せていた子供達も、数が増えれば次第に無理がたかる。
さっきまでの優勢は…、三人の傭兵と数の暴力で意図も簡単にひっくり返る……………。
『おやおや、もう終わりですか~?』
「いちいちうるせえよ!」
『じゃあ、これで終わらせてあげますね~』
そう言うと、一人の赤く長い髪の女の子を前に出す…。
……………………っ!
「アリサちゃん…!?」
その女の子はアリサちゃんだった。
思わず、その名を口に出してしまう程に驚く…。
その目には薄く霞がかかっている様で、まるで眠りから覚めたお姫様の様だった。
まさか、アリサちゃんも操られて……!?
しかし、アリサちゃんは何をすると言うことも無く、俺の声を確認するかのように…、
「………?ゆ、…うと…お兄…ちゃん……?」
ボソリとそんな言の葉を発した……。
『「!?」』
意識がある…のか…!?
もしや、これが、不命の作戦なのか?
そう思い、不命を見ると、奴も驚いていたのだった。
奴にとっても予想外の反応…、ならば、チャンスはある!
「そうだよ!僕はユウトだ!」
声を大にして、名前を名乗る…。
もしかしたら、アリサちゃんを助けれるかも知れないと…。
「…ゆー…、う…と、おに…いちゃ…ん…」
対して、アリサちゃんは、夢から覚めた後直ぐに、寝惚けているような喋りかたをしたのだった…。
その話し方は続く。
「…ゆうと…おにいちゃん…。ユウトおにいちゃん…?」
そして、一言一言を確かめるように単語を発していき、段々と良くなっていく語感。
定まっていなかった焦点も次第に俺に合わせ…。
「っ!!ユウトお兄ちゃん!!」
そんな一際大きな声を嬉しそうに出したかと思うと、こちらに、たたっと、走り出し、こちらに向かって来て、
そのまま、俺との距離が近くになった瞬間、その可愛らしい笑顔のまま、飛び込むように抱き付いてきた…。
俺がそれを優しく受け止めると、アリサちゃんと目が合う…。
クリクリとした目は、パッチリと開かれ、先程のような霞は無い。
『馬鹿な…』
そんな不命の呟きは俺の耳には入らなかった。
ただ…、
「久しぶりだね…」
まだ、心の中で驚きが多く、先にその言の葉を言えた事が奇跡のようにも感じられた…。
「うん!」
元気良く、そう返すアリサちゃん…。
そして、思い出す。
そうだった…。言わなきゃいけないことがあったんだった…。
「あれから、頑張ってくれたんだよね?」
「うん!お兄ちゃんの言った通りに、アリサ頑張ったよ!」
「そっか…、ありがとう。良く頑張ったね……」
場違いだし、空気を全くよんでいない行動だったが、それでも、俺はアリサちゃんの頭を優しく撫でた。
「えへへ~」
アリサちゃんは、嬉しそうにされるがままになっている。
シリアスムード?ボス戦?沢山の敵に囲まれてる?知るかそんなもん!ああ、知ったこっちゃ無いね!
俺は主人公じゃないし、自分の好き勝手やって良いだろうが!
どんな状況であれ、こうやって誰かの努力が報われなきゃならないし…、
女の子が笑顔でいられるなら俺は満足なんだよ!
と言うか、それすら出来ないなんて展開なんて馬鹿らしい。
そんな不条理を認めない。
だからな、不命?
『まぁ、そこの女の子は気掛かりですが~、やることには変わりありませんよ~』
そんな至福の一時を邪魔する気なんだろ?
どうせ、お前みたいな奴のやることだ…。
アリサちゃんを囮にして、アリサちゃんごと俺を皆に潰させる気だったんだろ?
『いきなさい!』
実際、その通りなようで、不命の声により、俺がアリサちゃんを抱き締めているこの場面を、全方位から皆で一斉に襲わせると言う、漫画の一枚絵にして欲しいくらいの状況が生まれていた。
アリサちゃんは抱き付いたままなので気付いてはいない、否、気付かせていない。
空気読まないな~。俺の言えた義理は無いけど…。うん…。
でもさぁ、お前?
「アリサちゃんごと潰す気だったんだろ?」
気に食わねぇ…。
あぁ、気に食わねぇ…。
「ふざけるなよ!そんな理不尽認めねえ!」
これ以上はな?
大概にしろよ?
じゃねぇと…。
「殺すぞ?」
そう言って不命を一睨みした。
しかし、状況は最悪。
逃げ場も無く、アリサちゃんに友達に襲われる恐怖を味あわせる訳にもいかず、抱き締めたまま片手で上着を脱ぎ、少し強くアリサちゃんを胸の中に押し込み、目と耳を強引に塞ぐ。
勿論、痛くなどしてないよ?
そして、そのままアリサちゃんに被害を被らないようにその上に上着を被せる。
いちを魔法具だからにゃ…。気休めくらいにはなるかな?
俺の悪い癖だ…ピンチの時におちゃらける。
次の瞬間、無防備となった俺の体に…
ザクッ!ズシュ!バキ!グサッ!シュッ!
二桁単位の武器の攻撃が繰り出され…、叫びが辺りに響いた…。
~ ユウト side story ~
「うっがぁ!う
『うぁあああああああ!がああ゛ああああぁああぁあ!!!!!!!!!!』
ぐぅ…」
その場に広がっる叫びは、本来ユウトだけの筈が…、ユウトより大きな不命の叫びが辺りに児玉した…。
『あぁああぁああああああ!!ぁあぁあ、ああ!!』
アリサには一つも武器が当たった形跡は無い。
先程まで、不命の命令を強制的に聞かされていた子供達やアリバック達は、術者の混乱により、能力が解けて全員倒れていた。
先程、ユウトに攻撃した沢山の武器も消えている…。
やがて、世界がぐにゃりと曲がり始める。
『あぁあああぁあああ!あぁああ!!』
そして…、そのまま………。
「…じゃ……あね……アリサ…ちゃん………」
不命の創った精神世界が崩壊した…。
現実に意識を戻された、ユウトは全身に痛みを感じながらも立ち上がる…。
『はぁ…はぁ…、何をしたぁあ!?』
目の前に敵がいたからだ…。
「痛み分け!って技だぜ?」
痛み分け
それはユウトが精神世界のみにおいて使うことの出来る荒業。
その名の通りにダメージを共有することが出来る技で、自分のくらったダメージを相手にも与えることが出来る技だ。
だが、前記ように現実では使うと、ダメージを共有することは出来ずに痛みだけを精神にぶつけるのみで終わってしまう。
精神世界だからこそ、ダメージを精神体として具現化出来たのだ。
先程は、ユウトに与えられた数十の攻撃をそっくりそのまま、不命に返したのだった。
ユウトは心構え出来ていたが、不命は全く出来ておらず、いきなり出現した痛みに訳も分からず、精神世界であの様に不様とも言える声を出し続けたのだった。
未知と痛みとは恐怖であり、無限であり続ける物なのだ。
それを、人の命を弄び、アリサを傷付けようとした不命に、ユウトは仕返しとして、打開策としてくらわせたのだった。
結果として、能力が解けて現実に戻れたのではあったが…。
余りも無茶苦茶過ぎる。
例え、相手を倒すためにでも、自らが大怪我を負ってまで行動する者がどのくらいいるのだろうか?
場合によっては、周りを助けるためには、自らの命を顧みないともとれる行動。
常識から大きく逸脱したその行動は、その選択以外無かったとしても…、
果たして正しかったのだろうか?
「だから言ったろ?殺すぞ?って!」
切れたユウトが何をしでかすのか、誰にも想像もつかない…。
いかがでしたか二十鉢話
ユウトは大好きな人達への理不尽なんか絶対に認めないお話でした。