第二十六物語 「私の中の my mind」
マリナ回
「やったか?」
「あれで、やれなかったら…、人間じゃないよ…」
二人の人間がボロボロになった洞窟内(外?)で呟く…。
この一角に関しては、青く晴れ渡る空が見えている…。
周りには瓦礫で出来た山が立ち並び、空中に漂う粉塵が辺りに漂っていた。
「それにしても、早く移動しないといけなくなったな…」
「ああ、それもこれも全部あいつの…」
そんな愚痴に対して…。
「誰のせいかしら?」
返答があった……。
「「!?」」
その返答者は長くさらさらとした黒い髪を青空の下に棚引かせ…、所々についた服の上の砂塵を叩き落としていた………。
崩れた岩の山の天辺に立つ、その姿は絶対王政の女王様を連想させる…。
いっそ、見とれてしまった方が楽なくらい、有り得ない状況だった…。
そして、砂塵を全て叩き落とした後、前を向くとその美貌が隠すことの出来ない顔でニヤリと笑った…。
~ マリナ side ~
天井が落下してくる…。
いや、楽観視してる場合じゃないけど…。
「どうしましょうか?はぁ…」
そう愚痴の様にこぼしながら、私の頭上に落ちてきた岩を、鞭で粉砕する。
岩は粉々となり、下から加えられた力で辺りに飛び散る。
危ないわね…?
とりあえず、この状況を打破する方法を考えましょうか…。
次に落ちてきた岩を、ワンツーステップでかわしながら、思考を開始する。
①現状を維持し、ステップと鞭でかわす…。
これは、まぁ出来るでしょうけど…、傷を負うかもしれないわね…。
私も女の子だから、それは余りよろしく無いわ…。
とりあえず、保留にしておきましょう。
じゃあ、次。
②爆だ○岩を投げまくる
う~ん、微妙ね…。
爆弾の投げる位置をミリ単位で計算しないといけないし…、外れたら危険よね…。
却下ね…。
じゃあ、最後。
③限界を越える。
…………………。
そうね、それが私には必要ね…。
この程度の相手に苦戦しているようじゃ、まだ、駄目だから…。
目を閉じて、瓦礫の存在を頭から遠ざけて、集中する?
五倍の速度は確かに、強いけれど、まだいける筈なのだ。
思い浮かべたのは、ユウちゃんの顔だった。
私はユウちゃんの力になりたい…。
それは、私の本音だ…。
でも……………。
ユウちゃんがこの世界に来た目的は3つあって…。
一つは前に言ってたらしい、異世界を渡る術をてにいれることだけれど…。
その内の一つは私に勝つことだろうから…。
この私よりも強くなることだから…。
だから、私は負けられない…、絶対負けたくない!
ユウちゃんはこっちに来て強くなった。
何故かは分からない。
でも、その強さを持ってしても私には勝てないだろう。
だけど、そうじゃない。
私は常に圧倒的であり、最強でなければいけないのだ…!
只の私の我が儘だけど、譲れない物は私にだってある!
だから、あんな奴等と互角じゃ、駄目なのだ。
もっと、最強で在る為に…。
私に力を寄越しなさい!
パリン!
そんな、ガラスが割れるような音が私の頭に浮かんだ。
~ マリナ side story ~
この世界の能力には熟練度が存在している。
それを上げるには、その能力をを良く理解して、長年能力を使い続ける、努力があっての物だ。
だから、だから、いくらなんでも、この世界の人間より遅れて能力を手に入れたからって……、
能力すらも支配するのは規格外すぎる………。
他人が何年もかけて、強さを上げるのに対して、自らの意思を使い更に上へ行くマリナ。
もし、これから起こることに、理由を上げるとしたら、能力を手に入れた時点でそれだけの力を手に入れていたや、時を早める力で熟練度を早く上げたなど考えられるが、そんな理屈など並べてるより、多くの者が、マリナがやったと言った方が納得させられてしまうだろう…。
最強にして最凶、強者にして恐者、それが、藤井…マリナと呼ばれる…存在なのだから…。
そして、その規格外の………………。
マリナの能力の熟練度が、今、この瞬間、一つ上がったのだった。
~ マリナ side ~
生まれ変わった様な気分…………、には、全然なれなかったわね…。
ただ、私が変わったのだけは分かる。
周りが、遅いのだから…。
いつも使っていた5倍……、よりも更に遅く確かに確実に流れる時間…。
10倍…。
それが、今、私が出せる全力にして、全快。
全てが十分の一のスピードで進んでいく…、
私だけの世界。
「もう、何も怖くない……」
そう呟いて、私は地面を蹴って、中に飛ぶ…。
簡単な動作だったけれど、結果は簡単では終らない。
【現実では、マリナの蹴りは通常の10倍の速さで地面にぶつかっている。物理では、力=質量×加速度、という公式がある為、それを、単純に考えるとマリナの蹴りは10倍の威力を誇り飛び上がる威力も約10倍となる(筋肉やその他諸々を考えない物とする)】
空中に高く舞い上がり、落下する岩の上に着地し、そのまま岩の表面を蹴る。
更に高く飛ぶために!
そして、また、次の岩に移り、飛ぶ!
そんなことを何度も繰り返し、飛ぶ、飛ぶ、飛ぶ!
すると、いつの間にか私は一番上の大きな岩に辿り着いていた。
最後に一際強く、その岩を踏みつけて、空気の抵抗を心地好く感じながら、高く高く空を舞う。
己の存在を示すように。
私が最強で在る為に…。
「この空は誰の物でも無いのよ?」
そんな台詞を吐きながら。
やがて、段々とスピードが落ちて行き、ついにゼロとなる。
一瞬の浮遊感のあと、落ちていく。
体を自由落下に任せながら、そんな不思議な感覚を存分に楽しむ…。
…………………………。
だが、昇るのは長くても、落ちるのはすぐだ。
段々と地面を意識しないといけなくなる。
やがて、地面まで十メートルになった所で……。
能力を反転させる!
途端に落ちるのが遅くなる体。
ふわりと服が、遅さをを感じさせる動きに変わる。
私の時間の流れを十分の一にしたのだ…。
私が感じる落ちる速さは変わらない。
だけど、世界は違う。
世界から見ると、私は十分の一遅いのだ。
つまり、地面に衝突する速さも十分の一。
私は着地の体制に入って、スタッと地面に足をつける。
本来なら砕けていただろう地面も私の足も、スピードが十分のーになった為、地面への衝撃が減少し、被害が見当たらない。
能力を完全に解除すると、辺りにはさっきまで落下していた岩で埋め尽くされていた。
只、私の周りを除いて…。
だって、私の下には、空中で落下の方向を変えさせた岩が山を作っていたから。
それは、まるで、女王を歓迎する玉座の様だと私は思って、自嘲してしまう。
そして、事実確認の様にこう宣言する。
「私は常に最強だ!勝ちなさい!圧倒的に!」
~ マリナ side story ~
「シャー「遅い!」」
アルマとシャーガの思考が平常運転を始めたのは、マリナが空を見上げていた顔を、二人に向けた時だった。
だが、遅い。
視界に入った時点で、彼らはマリナの標的。
アルマの声はマリナの声に遮られ、神速の鞭がシャーガに当たり、シャーガは吹き飛んで行く。
「カハッ!」
呻き声でも叫び声でも無く、肺から空気を漏らす音が、いやに、響いた。
「シャ…………クぅ!」
アルマは安否を尋ねようとするが、マリナの二撃目が自分を狙ってきたので、仕方無く瞬間移動で回避する。
だが、その回避は長年の経験で培ってきた物。
アルマの目では鞭の残像しか捉えることは出来なかった。
先程とは、桁違いの速さ…。
最初から全力の、マリナを止められる者など居ないのかもしれない。
だが、アルマは諦めない。
ここで諦めたら、子供達の命が危ない。
なら、諦められる道理など無い…、それが、アルマの精神が歪められていても…。
一応は、経験に基づいて鍛え上げた、己の勘で一度避けれたなら、もう一度だって避けれる筈と思い、バックステップをとりながら、瞬間移動で後方に飛び、距離をとる。
その選択が幸をそうし、それにより、実は既に放たれていた鞭を回避することが出来たのだった。
これで、どちらも攻撃範囲から外れ、数秒の硬直が訪れる。
先に仕掛けたのはマリナ。
マリナが鞭の有効打撃範囲に入るために突っ込み、二撃放つ。
だが、アルマは瞬間移動で回避。
踏み込む段階が見えていたから、出来たからこその回避。
アルマとマリナの実力を補う物。
それは、経験の差と相性だろう。
経験の差は説明するまでも無いが、相性の差は説明しないといけないだろう。
相性の観点から言うと、実はマリナが不利だ。
理由は鞭にある。
鞭は、遠距離では近付かないと効果を発揮できず、近距離では振るう事が難しい。
だから…、
「貰うよ!」
前触れ無く、背後に表れるアルマには攻撃できない…。
仕方無く、アルマの打ち込む拳を、十倍速で振り向き、鞭の柄(?)でガードする。
10倍のマリナからすれば難なくガード出来るが、その後の反撃手段が無いに乏しい…。
マリナは様々な武術の技を習得しているが、技をかける前にアルマは離脱してしまい、逆に拳を使おうとすると、攻撃の瞬間、10倍速のせいでマリナの拳に反作用として何割かの威力が加わってしまい、間違えなく折れる。
この能力は決して、マリナ自身を強くする訳では無い。
相手の攻撃は十分の一のスピードで当たる為、威力は落ちるが、自身から攻撃は、反作用が10倍になってしまい、結果的には自分もダメージを大きく受けてしまう。
仕方無く、半歩後ろに下がりながら、後ろに鞭を引き、前に放つ。
だが、引くという動作が余分な分、アルマに気付かれ瞬間移動で回避された。
(仕方無いか…)
マリナは心の中で呟いた…。
実を言うと、マリナには時間がない。
マリナの元々の能力制限時間は一時間。
しかし、10倍の能力を使っているためマリナは、6分しか能力を使うことは出来ない。
迷っている暇など、無いのだ。
離れた距離にいるアリバックに、わざと鞭の攻撃を放つ。
一回目は、難なく能力によりかわされた。
二回目は、ギリギリかわされるが、ここしか無いと思った。
次の三回目は必ず、かわすことが出来ずに飛び込んで来る。
そこに、白の鞭『カタストロフ』を出して、横凪ぎで削り取る。
予定だった…、だが、アルマは三撃目をわざとくらった。
「グフッ!」
バキッ!
あばら骨を何本か持っていかれたのだろう音が響いた…。
口から血を吐きながら、後方へ飛ばされていく。
よって、マリナの出していた白い鞭の攻撃は空を切る。
元々、相手が瞬間移動してくる前には振らないと間に合わないから、既に鞭は軌道を描いている。
そこに、ニヤリと笑ったアルマが、傷を負ったまま、マリナの懐に瞬間移動で飛び込む。
マリナには、現在反撃の手段が無い。
自身の時間を速く出来ても、鞭の可動には限界があり、今は、手元に戻すより先にアルマが攻撃する方が早い。
まさに千載一遇のチャンス(アルマにとって)……。
の様に見えた。
マリナの二段構えが無ければ…。
マリナとアルマの間に…、
マリナが隠していた……、
爆弾○が無かったら…だったが。
「はっ!?」
アルマが気付いた時には、もう遅い。
マリナがニヤリと笑い返すと、○弾岩は、光を放ち……、爆発した……。
「くぅう!」
アルマは爆発に巻き込まれながらも、瞬間移動でその場を離脱する。
咄嗟に思い付いただけの、なんの策略も無い背後に…。
だが、それは間違いだ。
火傷を負いながら逃げ込んだ、アルマの行動をマリナが読めない筈がない…。
つまり、その場所には神速の鞭が飛んで来ていて…。
チェックメイト。
その恐ろしい鞭の動きはアルマにはスローモーションで見えてしまったと言う。
第二十六話いかがでしたか?
向上心を持ち続ける少年の目標でありたい淑女のお話でした。
時間の能力の説明は分かりにくいかもしれませんが
許してください。