第二十五物語 「まずはそのふざけた幻想をぶちkill!」
~ マリナ side story ~
「行くぞ!アルマ!」
「分かった!」
アルマとシャーガが戦闘開始のゴングをならす。
それに対し、マリナは詠唱を始めたシャーガに黒の鞭を振るう!
だが、その鞭は、アルマの瞬間移動で、二人の間に割り込むように出された、壁に阻まれる。
面倒に思い、今度はアルマを攻撃しようと、鞭を振るう、が、アルマは瞬間移動で移動して、その攻撃は回避される。
更に、詠唱の終わったシャーガによる、地面から尖った土の槍による、反撃を受けそうになり、後方へ飛ぶ。
そこに待ち構える様にアルマが移動するが、マリナは当然気付いている。
アルマが空中に滞空するマリナに掌程を叩き込むより先に、マリナは鞭を地面に叩き付け、自身の方向を右にずらしてかわす。
そして、地面についたと同時に鞭をシャーガに放つが、シャーガごとアルマが瞬間移動を行っていて、鞭は空をきる。
ここまで、十秒にも満たない、高速の戦闘。
高度な戦闘が繰り広げられた後の、僅な硬直時間に、マリナは謎の微笑みを浮かべる。
その姿に、背筋に寒い物が浮かんだ、アルマとシャーガを責める事が出来る者等いないだろう。
元々、彼等は戦闘のプロ集団だったのだ。
そんな彼等と互角に渡り合い、尚且つ、余裕を見せるマリナの方が異常なのだ。
だから、こうなるのも仕方無いのかも知れない。
「やっぱり、強いね…」
「そう?お褒めに預かり光栄よ?」
そう言って、妖艶に笑みを輝かせるマリナ。
だが、全く目が笑っていない。
「どうすれば、君を倒せるんだい?例えば…」
「ねぇ?何時まで時間稼ぎを続けるのよ?」
「……………」
何故なら、アルマが時間稼ぎをしようとしていたことも詠めていたからだ。
「ばれちゃったか…」
「えぇ、とっくの昔にね?」
潔く自分のしていた小細工を認めるアルマ。
そして、それを余裕で気付いていたマリナ。
両者の腹の探りあいは続くかと思われたが…。
「シャーガ、もういいよ…。本気じゃないと、負ける…」
そのアルマの一言で全てが変わる。
途端に場の空気が、静まりかえり、死の匂いが場に広がる。
手加減と言うほどでは無いが、アルマとシャーガは本気を出して、いや、出せていなかった。
彼等の戦いは相手を無力化させるより、壊す方に向いているからだ…。
その二人が容赦を無くした…。
だから……、ここから先は、……………。
「シャーガ」
決して、強くは無いが妙に響く声が響く。
普段のアルマからは、想像できない声。
それだけ、本気なのだ。
「ああ」
それに答えるシャーガも本気の反応だった。
次の瞬間…。
天井が崩壊したのだから…。
「!?」
「流石に読みきれないよね?これが、シャーガの全力さ。じゃあ、バイバイ?」
そう言って、瞬間移動でシャーガを連れて、消え去るアルマ。
つまり、壁に阻まれて脱出もままならない状況で、天井が崩壊する中、マリナは一人取り残されたことになる。
~ ユウト side ~
俺がアリバックの能力に気付いたのは、『鷹の目』に疑問を抱いたからだ。
きっかけは、前の戦闘の際。
アリバックの『鷹の目』は、名ばかりで、上から物を見ていないことを確認した俺は、ならば、その正体を考察した。
最初は、周りを知覚する能力かと疑ったが、どう考えても、二つ目の使い方の『種も仕掛けもございません』の説明がつかなかった。
ならばと、周りを他の方法で知覚する方法を考えて…、コウモリを思い出したのだ。
コウモリは、超音波を回りに発して、物の位置を特定している。
そして、その方法を使って周りを見ずに把握しているのでは無いかと…。
そして、超音波以外に、周りを知覚する物で思い付いたのが、音と空気と光…。
そして、その中で、小さな物を見えない様に出来るのは、
高純度に圧縮して光を曲げて蜃気楼みたいな現象を引き起こす空気。
光を屈折させて、周りの光を直前で反射し、そこに物が無いように見せる、光。
だが、空気では出来ないことがある。
それは、空気を纏わせたまま、長距離の間飛ばすことだ。
それが出来るなら、相手を窒息させる方が早いから。
だから、光の能力者と分かった。
だが、それにより、解けない謎が一つ生まれたのだ。
何故、光を操れるなら、フラッシュや光線を使わないのかと……。
最初は演出かと思ったが、やがて使えないのだと言う結論に至った。
そして、更に悩んだ挙げ句ようやく答えにたどり着いたのだった。
奴は光を屈折させたり、光の屈折を感じ取れるのだと。
『鷹の目』は物体が動くことで変わる、光の角度を利用して何百メートルも先の動物体と静体と物体を見分け、尚且つ物の動きを把握出来る使い方。
『種も仕掛けもございません』は、光を屈折させて物体を見えない様に調節する使い方、ただし、相手に近付くと流石に誤魔化しきれなかった、と言うわけ。
はぁ…、全く…、苦労をかけさせてくれたよ…。
あ~あ、説明面倒臭かった。
だが、冷静さは取り戻せた。
あのままだと、間違えなく摘んでいた。
そして、今、黒石さんは絶賛ピンチー!
ピンチ石さんなのですよ。
アリバックのナイフを後ろに下がりながら、回避してそんな事を思う。
正直、何処に虚像があっても反応してしまいそうになるので、今のところ後方回避が最適だ。
だが、ナイフを降り終わった後、シャーガの蹴りが飛んでくる。
何とか、トンファーでバッテンの字を作りガードするが後ろに飛ばされてしまう。
「まだまだ、行くよ♪」
無駄に元気なのはうざい。
はぁ、回想再開しよ。
能力の正体に気付いたのは昨日のことだ。
だが、そこで、新たな疑問が生まれた。
何故、普通に光を曲げて、有る物の位置をずらした様に見せないのか?と。
一番楽に使用できて、一番効果的な方法を何故アリバックがとらないのは謎だった。
悩んだ挙げ句、答えは出ずにマリ姉に意見を頂いた所、「だって、それやると仕掛けが全部ばれちゃうじゃない?」とのことだった。
確かに盲点だった。
それを使われたら、戦闘中にでも俺は能力を判別できただろう。
それを自分で理解していた故の隠す行為。
だが、それを表に出して来たってことは…。
マリ姉は言っていた「気を付けなさいよ?そいつが能力を見せる時は、ユウちゃんを無事で帰す気が無いときよ?」とも…。
現実に戻る思考、回想終了。
目の前では、アリバックが迫ってきていた。
そして、そこで…、アリバックの攻撃をもう一度回避しようとして…、当たらない距離で体を掠める。
「あぶな…!」
「左右だけじゃなくて、前後にも可能なんだよ♪」
今のは、危なかった。
まさか、本来の位置より手前の自分の方に腕の位置を見せて、リーチを鯖読みするとは!?
これは、本当に不味いかも知れない。
だが、不味いからって何もしな石さんで終らない。
アリバックが右手で攻撃してくる。
やはり、アリバックと俺の目では、位置がずれていて相も変わらず、光を曲げて座標を惑わしているのが分かり…、しかし、対処できない…。
平常運転を続ける、俺の反射神経のせいでガード出来ないのだ…。
仕方無く、バックステップをとる。
「甘いね!」
しかし、そのステップに合わせて、アリバックは踏み込み、無手の左手で掌程を打ち込んで来た!
「クハッ!」
その攻撃も光の屈折により、本来とはずらされた位置に存在して、ガードをいとも容易くすり抜けた。
だが、俺だって馬鹿じゃない、三撃目はナイフがくる可能性が高いのだ。
ダメージを訴える体を無理矢理動かし、右に緊急回避。
かろうじて、次に放たれた予想道理のナイフ攻撃を回避出来た。
しかし、俺が回避したと見るや、否や、地面を蹴り、ナイフをふった腕で肘鉄を仕掛けるアリバック。
俺は回避が間に合わず、全身ガードの体勢をとり、運良く攻撃がガードの一部に当たり、ダメージを半減できた。
「さっきまでの威勢はどうしたの?」
「うるせぇ!黙ってな!」
完全に防戦一方の俺をからかうように、ナイフ攻撃に移行したアリバックと、このままだとヤバイと、バックステップを酷使し始める俺。
ヒュッ!スカ!ヒュッ!シュ!ヒュッ!スカ!ヒュッ!サクッ!
そのまま、何度も何度も攻撃とバックステップが交互に繰り返され、ワルツのようなリズムを刻む。
だが、回避出来ずに幾つかの攻撃が体を掠めた…。
増える切り傷。
当然、奴は余裕を醸し出し、俺は必死だ。
あぁ、もう!
こればっかりは、やりたく無かったが…。
八度目のステップを刻むその瞬間…。
俺は後ろに下がると見せ掛けて、前に踏み込んだ!
「!?」
アリバックは慌ててナイフの軌道をずらす。
俺の右の何も無いところに…。
だが、それは俺視点の話であり、あれは光を屈折させて出来た虚像。
ならば、本物は俺の頭上!
左手を上に突き出し、アリバックのナイフがそこに突き刺さる。
腕に刃物が突き刺さり、激痛が走る。
だが、これでナイフは封じた。
「ギッ!」
声が出そうになるのを必死に抑え、驚いた顔を見せるアリバックにニヤリと笑う。
初めて出来た、アリバックに対するガード…。
何故ガード出来たのかと言うと、アリバックの虚像が虚空を攻撃していたから…。
いくらなんでも、人間の反射は自分に害が無いものまで反応しない。
ならばと、さっきの俺は自由にガード出来たわけだ。
「くらっときな!」
更に俺はアリバックの懐にいる。
右腕は突っ込んだ時に、振りかぶっていたので、後は腹にぶちこむだけ…。
「ふっ!」
肺の空気を吐き出し、がら空きの脇腹に、トンファーの先端をぶちこむ。
「ガハッ!」
「連!」
撃、と続ける掛け声を途中で打ち切り、後ろに倒れかけるアリバックに、更に俺は、蹴りをぶちこむ。
「クッ!」
だが、その蹴りは手でガードされて威力を半減させられた…。
俺は追撃を諦め、後ろに飛び、距離を置く。
肉を切らして、骨を絶つ。
そんな言葉が頭に浮かんだ…、激痛が走る左腕のせいで…。
「む、無茶するねぇ……」
「生憎、そう言うのは得意分野でね!」
強がってはいるが、ダメージはヤバイ。
早めに決着をつけないと…。
「………使いたくは無かったけど…あれを使うかな?」
「あれ?」
ボソリと呟くアリバック…。
まだ、俺の予想を越えた能力の使い方でも有るのか?
「行くよ♪」
そう言って、腕を上に上げるアリバック。
くっ!考えがまだ、纏まって無いのに…。
「『目眩まし!』」
「はっ?ぐっ!?目がぁ!!」
そんなのって、有りなのか!?
光を屈折させて、一点に集めて強い光で目をくらませる。
恐らく、手が起点。
予備動作で何をしているのか、バレルから、一度しか多分使わないし、使っても意味の無い技。
それを見事に俺はくらってしまい、目が見えない。
ぐっ、アリバックが近付いて来るのが分かる…。
だが、どうしょうもない…。
人は、見えない攻撃をガード出来ないからだ。
そして、横凪ぎされるナイフ。
そのナイフに対して、闇雲に当たる筈のない、トンファーをつきだし…。
アリバックの攻撃をガードした。
「なっ!?」
「はっ?」
ガード出来たと言うのに、間抜けな声を出す俺。
とりあえず、アリバックも驚いているようなので、慌てて後ろに何度も下がり、距離をとる。
アリバックの驚きも理解出来る。
運が良過ぎる…有り得ないだろ、普通……。
………………
いや、待て…。
何かを見落としている…。
俺はアリバックの……を……していなかったか?
「いやぁ、偶然って有るんだね…♪まさか、僕のあれを回避出来るなんて…♪」
「偶然じゃねぇよ…三下!」
目が段々と見えるようになり、笑ってそう喋るアリバックにそう言い放つ。
「偶然じゃない?どういうことだい?」
「今から、それを証明してやんよ!」
俺は折角元に戻ってきた視力を捨てる。
つまり目を閉じる。
そして、トンファーを構え、防御の体制をとる。
切り傷が痛むが、そんな物無視。
「諦めたのかい?」
そんなアリバックの台詞も無視。
集中力を極限まで高めるんだ…。
はぁ…、と溜め息を付くアリバック…。
失礼なやつだ。
俺は呆れられる人間じゃ無いと言うのに…。
「なら、じゃあね……」
ナイフを振り上げる、アリバック…。
だが、目をじていても……………………、
「僕には……まだ…、見えている…!!」
キンッ!と甲高い音が響き、アリバックのナイフを弾く!!
「なぁ!?」
簡単な話だった…。
俺が見ているから反射してしまう。
ならば、俺の目を閉じて、視界を共有しながら、最初からアリバックの視界に頼れば良かったんだ!
パッチリ、目を開けて無防備になったアリバックの懐に強く強く踏み込む。
「噛み殺す!」
そんなふざけた掛け声を宣いながらトンファーによる大きく振りかぶった一撃を鳩尾に叩き込む!
「ガハッ!」
まだだ!
「チェイサー!」
トンファーを捨てて、踏み込み、痛みで録に動けないアリバックにローファーによる、回し蹴りをかます。
ラストォオ!
「まずはお前のそのふざけた幻想をぶち殺す!」
おもいっきりパクリだった…。
掌程を腹にぶちこみながら、俺はとある能力を発動させる。
『魂の共鳴』!
アリサちゃんの時に発動した能力の応用。
相手の心と自分の心を強制的に繋げする力。
途端に俺はその場に倒れる。
一つの可能性にかけて…。
アリバックも起き上がる様子は無い…。
何をしているのか?…新世界の神になる。
そんなネタ満載の最後に満足しながら俺は意識を手放した。
いかがでしたか、二十五話。
もうちょい自重しましょうというお話でした。
では、また次回。