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第二十二物語 「やっぱりlostなんてさ…」

人は過ちを繰り返す。

それが、前に進む為の工程でも

過ちは過ちだ…。


~ ユウト side 少し前 ~


思考がぐるぐると回転して、安定しない…。


この世界と俺のいた世界では、こうも考え方に違いがあるのか?


確かに奴隷制度が身近に無く、平和だっただけで、俺達の世界でも国を渡ると年に何万と言う数の子供が人身売買されていた。


それを気付かず大抵の奴が普通に過ごしていた…。


それと同じことがここで起きているってのか?


ここでは、それすら常識なのか?


そんな時に頭に直接響く様にヒマリちゃんの声が聞こえた…。


「私の全てをあなたにあげます!だから、皆を助けて下さい!」


…………………。


ああ、違う…。


それもあるけど、そうじゃない…。


俺が…、俺が悪いんだ……。


俺が安心させられなかった…。


目を背けていた……。


もっと早く行動すべきだった……。


考えてみれば分かることだろうが!黒石ユウト!!


家族を連れ去られて、心配にならない奴はいないだれう!


仲が良くなくとも同年代の子を連れ去られて、不安にならない訳がないだろう!


村の人達が消えて、苦しく感じないなんてないだろう!


友達が連れ去られて、助けにいこうとしない子じゃないだろう!!


何で気付かなかった!


ヒマリちゃんは必死に自分の暗い部分を隠そうとしていたことに…。


何で気付かなかった!


自分が行っても状況を悪化させるだけだと、必死に自信を抑え込んでいたことに…。


何で気付かなかった!!


俺達に心配をかけまいとしていたヒマリちゃんが時折見せたSOSに!!


あの時何かしてやれば良かったろう!


いや…、今からでも何とかしてやる。


どんなことをしても!


そう決意し、ヒマリちゃんの顔をこっそり除き見てみる…。


………………。


思えば、俺は冷静さを失っていたかも知れない。


この言葉「どんなことをしても」が、あとで悲劇を生むとも知らずに…。


この時から場面は一転すると分からずに…。


そこには、心配や不安を抱えながらも決意を瞳に宿した一人の女の子がいた…。





~ ユウト side dark after ~


その姿を見た瞬間、懐かしい記憶を刺激されたような感覚がして…………………………………。


『壊せば良いんじゃないですか~?』


声が響いた。


そして、続けざまに『吐羅卯魔』と何かの技名が紡がれる。


(『あ…と……くり…えす…?』)


途端に頭にノイズが走った!!


何かとヒマリちゃんが重なった気がして、何故か分からない衝撃を感じ頭の奥がズキリと傷む…。


(何だよ!これはっ!)


色んな物がぐちゃぐちゃに混ざっていく様な感覚に襲われながら、一つの思考が頭を埋め尽くす。


『壊せ』と…。


駄目だ…。


それは、駄目なんだ……。


駄目だ、駄目だ…。


今は、逆にもう一つの回答も心の中で何度も繰り返すことにより、自我を保っている状態だった。


何故、自分がそんなことを頭の中で思っているのかすら、分からないまま、心の中で何度も呟く。


まるで、トラウマを恐れるように…。


今までの決意が崩れ去る様な音がして、思考を黒いものが埋め尽くす。


突然の事態に訳も分からないまま………、更に事態は発展し、二つの声が聞こえた。


一つは女の子の声『あ…と……くり…えす…?』


さっきと同じで、ノイズが激しく意味が分からない。


もう一つは単純に『壊せ』の一単語だった。


ドスが効いたこの世の物とは思えない声で、相手にうむを言わせない強制力があった。


何度も、繰り返される声。


『あ…と…『壊せ』…くり…え『壊せ』す…?』


『あ…と…『壊せ』…くり…え『壊せ』す…?』


『あ…と…『壊せ』…くり…え『壊せ』す…?』


何度も何度も何度も。


次第に頭が黒いものに浸食されていくことを感じて…。


ピシッ…。


俺の頭の中で何かが壊れる音がする…。


()は思考することを放棄したのだと、自分のしている行為すら理解出来ていなかった。


後に残ったのは目的意識。


どんなことをしても。


どんなことをしても、ヒマリちゃんを助ける。


意識の不確定なまま「分かった」と言葉を放つ…。


「え?」


ヒマリちゃんの驚く声が聞こえた。


だけど、何故驚いたのすら分からない…。


ああ、考えたくない…。


()はするべきことをするだけだ…。


思考をしない。


自分が別人の様に…、いや別人になっていることにも気付かない。


「えぇええええ!!!」


また、外部からの音声情報。


関係ない…。


するべきことをするだけだ…。


ベッドの上にいることを利用して、ヒマリちゃんの腕を掴み押し倒す。


「きゃっ!!」


女の子らしい可愛らしい声が聞こえた時、一瞬、自分のしていることの意味が分からなかった。


だけど、こうすれば救える。


根拠の無い行動をしている筈なのに、体は停止しようとはしなかった。


それは、間違ってる!


と、声が聞こえた気がする。


するだけだ。


「ゆ、ゆっ、ゆうとさん!?」


ヒマリちゃんが何かを喋っているが、それが頭まで届くことはない。


「ユウトさん!こう言うことは、ま、まだ早いと言いますか!えぇっと…、そのぉ………」


焦った調子で言う、ヒマリちゃん。


何を言っているんだろう?


分からない…。


大事なことを聞き逃しているような気がする。


まぁ、行動に変更は無い。

このまま……。


………………………。


一つの波紋が頭に広がるイメージが頭を過った。


このまま?このまま、()は何をするんだ?


そこで、漸く初めて、自分の行動に疑問がしうじた…。


今、()は何をしているんだ?


「…えっ………?」


ようやく、ヒマリちゃんの呟きが頭に直接届く。


そこには、何処と無く、怯えが感じられた…。


ヒマリちゃんと目が合う。


その目には、俺に対する恐怖が含まれていた。


俺は何をやってる!


強く、深く、激しく、そう思った…。


狂気が正気に戻った様な感覚に襲われながら、一つの答えが頭に浮かんだ。


今、俺のやっていることは、間違ってる、と…。


ならば、止めるべきだと…。


…………………。


だが…。


体の自由が効かない!?


自分の思うように体が動かなかった。


まるで、誰かに支配されたように…。


気が付くと、俺の腕がヒマリちゃんの服の端に手を伸ばしている……。


そんな光景が目に情報として入る…。


止めろぉ!!


低く、祈りと怒りが混ざりあった言ノ葉。


だが、叫び声は喉を通り越すことはなく、胸の中で反響した。


ふざけんな!ふざけてんじゃねぇぞ!


何で自由に動かねぇんだよ!


止めろよ!


しかし、心の叫びは虚しく、腕はヒマリちゃんの服に手をかけようとして………、


「ぃ……す…」


声が聞こえた。


心の内ではなく、外から…、


聞き取ることは出来ない、でも、聞かなければならない言の葉。


精一杯、聞き取ろうとして…、


「い…で……」


もう一度響く声。


もう、内容は理解した。


でも、次の言葉も聞かなければならない……。


そして、


「いやです…」


小さいけれどはっきりと、聞こえた声。


その声を聴いて俺の手は完璧に静止した…。


「嫌です…!」


ああ…、当たり前だ…。


それなのに俺は何をやってるんだ…。


『嫌です…!今のユウトのさんの物になるのは…!今のユウトさんは、ユウトさんじゃない!」


続く言葉が頭の奥深くまで届いた…。


「何時もの優しいユウトさんは何処にいっちゃったんですか?」


何処に行ってたんだろうな……、ホント…。


「…………」


言葉を返そうとするが、声は出なかった。


本当に出ないのか……、自分の過ちを認めたくないのか…。


「あの、優しく頭を撫でてくれる…あの…ユウトさんは……何処に…いったんですか!」


恐らく、後者…。


なら、やることは決まっているだろ?


ヒマリちゃんの声が勇気をくれる…だろ…?


「ユウトさんが…、ユウトさんだったから………私は……、ああ……言ったんですよ………?」


ヒマリちゃんを見ると、目から大量の涙を流していた…。


ああ、最低だな俺…。


こんなことして、許して貰えないよな…。


でも、やるべきことはしないと…。


躊躇、いや逃げが生じて思わずヒマリちゃんの目を見詰めてしまう…。


明らかに逃避以外の何物でも無い選択…。


そんな、選択を選び、後悔する…。


何故なら…、


ヒマリちゃんが見つめ返してくれたからだ…。


そして、思い出す…記憶。


笑うヒマリちゃん、驚くヒマリちゃん、怒るヒマリちゃん、心配するヒマリちゃん、意地を張るヒマリちゃん、拗ねるヒマリちゃん、甘えるヒマリちゃん…。


どれもどれも大切な宝物で…。


でも……、最後の最後に、涙を流すヒマリちゃんが頭を過って…。


ああ、もとの関係には戻れないんだろうな…って、


気付いてしまって…。


……………。


自らの戒めが堪らなく辛くて…。


ああ、嫌われちゃっただろうな…。


許してくれないだろうな…。


思わず弱気になる…。


ああ、死にたい…。


このまま消えてなくなりたい…。


消えちゃいたい…。


死にたい死にたい消えちゃえ消えちゃえ死にたい死にたい消えちゃえ消えちゃえ死にたい死にたい消えちゃえ消えちゃえ死にたい死にたい消えちゃえ消えちゃえ死にたい死にたい消えちゃえ消えちゃえ死にたい死にたい消えちゃえ消えちゃえ死にたい死にたい消えちゃえ消えちゃえ死にたい死にたい消えちゃえ消えちゃえ死にたい死にたい消えちゃえ消えちゃえ死にたい死にたい消えちゃえ消えちゃえ………俺…。


ああ、もういっそ、何もしないほうが…。


そう思った…。


そんな時…だった…、


「私は…、私は…、元の……ユウトさんが……大好きなんです………」


その言葉に…勇気を貰った…。


「戻って…下さいよ……あの…、やさしい…、やさしい………ユウトさんに…………」


その願いに…勇気を貰った…。


「私の……大好きな………ユウトさんに………」


その思いに……、勇気を……貰ったのだった…。


驚き、思わずヒマリちゃんを見ると……。


涙を流しながらだったけど…、


満面の笑顔で笑うヒマリちゃんがいて……、


ヒマリちゃんは、そのまま、俺の肩の後ろに手を回して抱き寄せ………、


その可愛らしく愛らしい顔を俺の元に近付けて…………、


俺の唇に……………。


キスをした………………。


「(ユウトさん…。ユウトさんは、私を助けてくれた……だから、今度は私に…、私に……、貴方を私に助けさせて下さい……)」


そんな声が聞こえた気がした…。


!?!!??!!?


思わず、驚く…。


まさか、キスをされるとは夢にも思っていなくて…。


驚きやら、驚愕やら、ビックリやら、ドッキリやら、全部同じじゃねぇか!が混ざりあった感情に頭を埋め尽くされた…。


でも、その行動に、世界最高の勇気を貰った……のだ………。


しばらく、お互いを見つめ合う俺とヒマリちゃん…。


だけど、そんな中に自分のした過ちを強く意識させられて…。


もう、2度と仲良く出来ない…。そう、思った瞬間…。


余りにもの心の痛みに力が抜けた…。


体から、顔の表情(・・・・)から…。


当たり前の様に俺はヒマリちゃんの上に居たわけで、重力落下に合わせて落下してしまい、最後の力で踏ん張って勢いを殺すが、ヒマリちゃんと完璧に密着してしまった…。


更に俺は何を思ったのか…そのまま、ヒマリちゃんを抱き締めた…。


そうしなければならない、という慰めようとする気持ちと、そうしたいと願ってしまう、嫌われたくない、この手を離したくない、という子供じみた欲求の二つが混ざり合った思考に頭を支配される…。


自分で貶めて何を…、と自虐的な言葉が胸を過るが、何故か手は放さなかった…。


「きゃっ…」


ヒマリちゃんが単純な驚きの声をあげる…。


「ユウト…さん……?」


純度が驚きだけに満たされた…、だけど、俺への恐怖を感じない問いを出してくる…。


俺はその答えに…。


「ごめん…………」


何重もの意味を乗せた、その言葉で返した…。


別に許して欲しい訳ではなかった…。


ただ、絶対に言わなければならなかったその言葉に、


ヒマリちゃんは…。


「よしよし…」


何時もしていたみたいに、俺の頭を撫でてくれた…。


そして、


「許しますよ…」


と、だけ告げられた…。


そのまま、もう一度、俺の頭を撫でるヒマリちゃん…。


様々な感情に心を支配されてしまい…。


もう、何も言えなかった…。


ただ、思ったのは…。


あ~あ、年下に甘えちゃってるよ…。


そんな、現実逃避の思考と、もう1つ…。


また(・・)、女の子に惚れてしまいそうだと、言うことだ…。






~ 暗闇 side ~


『吐羅卯魔を克服~?いや、圧倒的な想いの精神量で押し潰しましたか~!』


暗闇の中不命が呟く…。


驚きと称賛が混じったその声を放った後、帰ろうとして…。


一言…。


『おやおや…』


と、呟いた…。


その理由は、暗闇の中、今の今まで不命に接近を気付かせなかった黒い影があったからだ…。


影は…。


「ユウちゃんに何かしたわよね~?」


と、優しく呟く…。


もう、お気付きだろう、その人物は一言…。


「痛め付けてあげるわ!!」


そう、言った。


現在彼女の近くに誰も居ないことが幸いだろう…。


何故なら…、圧倒的な怒気を放つ女王の逆鱗に、触れてしまわない保証は無いのだから……。


はい…。

夕凪です。


ううん、暗い話を書くとこっちまで暗くなるな~。

頑張れ俺!


今週のナゼナニユウトさん!


『吐羅卯魔』

 ・過去のトラウマを刺激するとともに、精神を不安定にさせ、判断能力ややる気などの社会適応能力を低下させる。

 ・また、受けたものは、孤立や嫌われるような行動をし始め、黒く染まっていく。

 ・過去が重いものや、心に暗いものを抱えていると効果は増大する。




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