第二十一物語 「ああ dead or zero」
すいません。
ちょっとダークでビターなお話です…。
「ユウトさん…」
突如として、真剣な表情で話を切り出すヒマリちゃん…。
「何かな?」
時刻は夕刻。
俺はヒマリちゃんに何時もの様に笑顔を向ける…。
だが、ヒマリちゃんは表情を崩さない。
「二人でお話があるんです」
俺は分かった、と返して、二人きりで話をすることになった…。
個人的には、ヒマリちゃんが気に入っているので、断る黒石さんではないのですよ~。
いつになく、真剣な表情のヒマリちゃんは何かを覚悟したような顔だった…。
「で、話って何かな…?」
マリ姉に外に出てもらい二人だけの部屋では、何故か緊張してしまう雰囲気が流れていた…。
まんまり、好きじゃないんだよな…。
シリアス場面。
俺はそんなことを考えながら、話の内容がどんなものなのかと考えていた。
「ユウトさんは、傭兵なんですよね?」
そんな中、そんな始まりかたは、意外と言えば意外だった…。
「うん。まぁ…」
話の意図が分からず、答え方が曖昧になってしまう…。
「でも、実際には一回も依頼をやったことないけどね…」
付け加える様に話す。
実は依頼の途中とか、口が裂けても言えない。
ヒマリちゃんが気を使ってしまう…。
「お金が払えれば、大抵のことは受けてくれるんですか…?」
……………。
「うん。俺の信念にそぐわない内容ならね…」
ここまで来て、ようやくヒマリちゃんの意図が読めて、軽い牽制をする…。
ヒマリちゃんは俺に依頼を頼もうとしているのだ。
あの三人組に関わる依頼を…。
お金は一生かけて払うって、言いそうだな…。
だが、その依頼は受けられない。
何故なら、俺は自主的にやると決めてあるからだ…。
お金なんて貰わない…。
要らない。
そんなんで、ヒマリちゃんの人生を邪魔したくない。
理不尽にあっても、無償で助かるべきだ…。
「実は依頼を…お願いしたいんです…」
ヒマリちゃんが声のトーンを下げた…。
何故か言葉の歯切れが悪くなった気がする。
「どんな依頼かな?」
そんなヒマリちゃんに助け船を出すように返答する。
一瞬、目が合う。
ヒマリちゃんの瞳の奥が羞恥に染まっている様に見えたのは気のせいだろうか?
「はい…。村の人達を…助けて欲しいんです!」
最初は口ごもっていたが、最終的に威勢意欲を全面に押し出すように答えるヒマリちゃん。
依頼内容は俺の予想と違わないことを確認出来たので、安心する…。
良かった…。予想の範疇で…。
安心した俺にとって、次に紡ぎ出された言葉は理解の範疇を越えていた…。
「報酬は…、私の……全てで払います………」
……………。
…………………………。
思考がフリーズする…。
瞳に顔を真っ赤に染めていながらも、真剣な表情を作るヒマリちゃんが写っている…。
意味が分からない…。
分からないまま、兎に角返事を返そうとする。
「ど、どういうことかな…」
「私にはどう足掻いてもこんなに危険な依頼の報酬は、払えません…」
確かにこんな仕事は個人が動くものではない…。
アジトを探しだし、高レベルであろう敵と戦い、更に無事に村人を救出しなければならない…。
国が正式に依頼する様な高ランク依頼を小学生が依頼できる筈がない…。
でも、だからと言って、そんなことしなくても…。
「だから、私がユウトさんの奴隷になります…。それでは、駄目ですか?」
眼に決意を込めて言うヒマリちゃん…。
奴隷。
この世界では奴隷は廃止されていない。
奴隷には戦いに負けた戦士や、罪を犯した者や、借金を抱えた者などがなる…。
但し、一部例外があって進んで誰か専用の奴隷になることが出来る。
その場合、契約におおじた見返りを貰えることが出来るのだ…。
大抵の場合、お金を見返りに奴隷になる。
人には自らの人権をかけてでもやらないといけないことがあるのだ。
ヒマリちゃんは依頼料を免除する代わりに自分は奴隷になると言っているのだ…。
「………………」
唖然として、言葉がでない…。
その沈黙をどう受け取ったのかは分からないが、ヒマリちゃんは更に続ける。
「それだけで…、ま、満足して貰おうとは……思ってません…。わ、私は…全人権を…ユウトさんに託します……。だ、だ、だから…、その……、ユウトさんが……、望むなら…………、そ、そういうことも……………」
「え………?」
そこに続く言葉に更に唖然とする…。
ヒマリちゃんは、全人権を俺に渡すと、その意味が理解できなかったからだ…。
いや、頭は理解している。
だが、心が理解していない……。
この世界では、奴隷にも小さいながら人権は存在する。
労働を強制するのは良いが、死を強制してはいけない。
ある程度の躾(と称した軽い暴力)は大抵見逃されるが、過度な暴力はしてはいけない。
本人が同意の上ならば良いが、性行為を強要してはいけない等の最低ラインの人権は保証されるのだ…。
だが、全ての人権を無くすと言うのは、それら全てが適応されなくなって、何をされても文句が言えなくなる…。
そんなことをしようとしているのか…?
ヒマリちゃんは……?
思考がぐるぐると回転する。
考えが纏まらない…。
そんな時だ…。
「ユウトさん!」
ヒマリちゃんの力強い声が響く。
ヒマリちゃんの方を見ると顔を真っ赤にしてはいるが、瞳には決意が込められていた…。
そして、紡がれる言の葉…。
「私の全てをあなたにあげます!だから、皆を助けて下さい!」
真摯なヒマリちゃんの答えに戸惑う。
俺は、俺はどうすればいいんだ…?
考える。
悩みつつも様々な思考をして、ようやく答えが纏まりだす。
しかし、思考しているうちにも時は進む。
予想外の方向に…。
次の瞬間場面は一転した…。
『壊せば良いんじゃないですか~?』
!?
突然心の中に声が聞こえた。
生きていることを感じさせない不気味な声。
その声は知り合ったことの無い筈なのについ最近聞いた覚えがあった。
更に言葉は続ける。
『じゃあ~、時間無いんでサクッと壊れましょうかね~?……吐羅卯魔……』
声が技名を唱えると知らない二人の声が頭の中でノイズ混じりに響き合い始める。
それが、とてつもなく苦痛で、それを聞いていたら壊れそうで…。
ピシッ…。
俺の頭の中で何かが壊れた…。
まるで、全てを闇で塗りつぶすかの様な圧倒的な黒に視界が染まる。
そこにいる俺は、俺であり俺でない者になっていることを感じながら、俺の意識は薄れていく。
最後に呟いた、「逃げて」、の言葉は届かず。
後に残ったのは、真っ黒な何かだけだった…。
~ ヒマリ side ~
「………………分かった…」
「え?」
その時、私は変な顔をしていたと思う…。
今、ユウトさんが言ったことを理解するのに、私は数秒時間を使ってしまったのだ…。
だって、あのユウトさんがyesって答えるなんて、って、私は何を考えているの!?
それじゃあ、相手の弱味に漬け込んでるのと同じじゃない…。
そんなのは駄目だよ!
……………あ、れ?
ユウトさんが「分かった」って、答えたってことは、私はユウトさんの奴隷?
……………………。
「えぇええええ!!!」
自分から提案した筈なのに凄く驚く。
それだけじゃない…。
ユウトさんが望むなら…、その…、そ、そ、そ、そういったこともしないと……………。
プシュ~。
わ、わ、わ、私てば!何を考えてるのぉお!!
…………………。
しばらくして、思考が落ち着いてきて、深く考える。
真剣に考えて出した答だったけど、実は今も凄く迷っていた。
皆を助ける為には、この方法しか考え付かなかった。
私の能力じゃあ、あの人達に絶対に太刀打ち出来なくて…、ここには私達以外居なくて……、でも、また命を無償でかけて貰うこと、なんか出来なくて…。
多分、相手がユウトさんじゃ無かったら、こんな答えは出さなかったと思う。
それくらい、私はユウトさんを信頼している。
他の人だったら、絶対この答は出さなかったから…。
相手がユウトさんだから、一生懸命考えた後に、ちゃんと、この答えを出せた。
もしかしたら、私はユウトさんが好きなのかも知れない…。
………………………。
べ、別に普通には好きなんだけど!けれども、その好きとあの好きは違くて!
つ、つまり!仲の好い人としては好きだけど!愛してるの好きとかかは分からなくて!!
わ、私、何言ってるの!?
私は…、ユウトさんが好きなのかな……?
でも、まだ分からなくて…。
と、兎に角、そんなユウトさんの奴隷になってしまった訳で…。
こ、これから、どうなっちゃうんだろう?
このまま、一緒にいたら分かるのかな?
って、え?
「きゃっ!!」
突然、ユウトさんに腕を捕まれて倒される。
な、なっ、なぁ!
いきなりのことに頭が回らない!
「ゆ、ゆっ、ゆうとさん!?」
ま、まさか?このまま、押し倒されちゃって、そのままっ……って!きゃあああ!何考えてるのよ!私!!
と、兎に角、まだ、心の準備が!!
「ユウトさん!こう言うことは、ま、まだ早いと言いますか!えぇっと…、そのぉ………」
あぁ、駄目だぁあ!舌がまわらないよぉお!
このままだと、私はユウトさんの物になっちゃってぇ!
いや、もう既にユウトさんの物でって!うにゃあああ!
だ、駄目だ。
このままだと、頭が麻痺しちゃう!
そ、そうだ…。
ユウトさんなら!
そう思いユウトさんの顔を見て…………。
「…えっ………?」
さっきと同じ言葉を呟いた。
さっきとは、全く違う声で…。
だって、そこにいたユウトさんは……。
さっきとは、別人の様で…。
ユウトさんには、私を押し倒している筈なのに、欲情や劣情といった感情が、全くと言って良いほど感じられなくて…。
それどころか、何の感情も読み取れなくて……。
優しかったユウトさんが、今は無表情で、………怖くて…………。
目が死んだ魚の様に濁っていて…。
そこには私は写っていなかった…。
この人はほんとにあの優しかったユウトさんなの?
その問に答える人はいない…。
でも、答えは出た。
この人は私の知ってるユウトさんじゃない…、と
そんなことを考えているうちも時は進む。
ユウトさんが私の服の端に手を伸ばしていた…。
その光景が目に入り…。
「ぃ……す…」
私の口はポツリと何かを呟いた。
「い…で……」
もう一度呟く私。
自分が何を言おうとしてるのかは分からない。
でも、次に呟いた言葉は…。
「いやです…」
小さいけれどはっきりと、ユウトさんの耳に届いたと思う。
ユウトさんの手がピクリと止まる。
それを見て、私は続ける…。
「嫌です…!」
何でこう言ったのかは分からない。
でも、言わなければならないと思った。
そう決意すると次第に続きを紡ぐ言の葉。
「嫌です…!今のユウトのさんの物になるのは…!今のユウトさんは、ユウトさんじゃない!」
何故か分からない確信のまま答える。
けど、間違ってはいないと断言できる。
「何時もの優しいユウトさんは何処にいっちゃったんですか?」
「…………」
ユウトさんは答えない…。
普段、感情に任せて物を言うことの無い私の本音をぶつける。
「あの、優しく頭を撫でてくれる…あの…ユウトさんは……何処に…いったんですか!」
気が付くと私は目から涙を流していた…。
「ユウトさんが…、ユウトさんだったから………私は……、ああ……言ったんですよ………?」
止まらない涙は気にしない…。
ユウトさんの目をしっかりと見る。
ユウトさんからの動きは何もない…。
でも、その目が僅かに救いを求めている様な気がして…。
何とかしたいと思った。
思ってしまった…。
何で、こんな風に思うんだろう?
そう思って…。
その時、気付いてしまった…。
私が前のユウトさんを凄くいとおしく思っていることに…。
これが恋なのかは分からない…。
でも、ユウトさんが私にとって大切な人だと言うことは分かってしまった…。
その理由について考える。
助けて貰ったからだろうか?
きっと、それもある。
でも、それだけじゃない…。
楽しくお話して、優しくしてもらって、嬉しくなって……。
そんな短いけれど、かけがえの無い全てがあって…、私はユウトさんが大切だと思っている。
言葉にすると、気持ちがポカポカして…。
伝えなきゃ、って思った…。
この温かい気持ちを分けて上げないと、って…。
だから、人は紡ぐんだ。
言葉を…。
「私は…、私は…、元の……ユウトさんが……大好きなんです………」
泣きながら、纏まらないまま、嗚咽をしながら、至らない所は沢山あるけど…。
「戻って…下さいよ……あの…、やさしい…、やさしい………ユウトさんに…………」
伝える…、ぶつける……、私の心からの本音を…………。
「私の……大好きな………ユウトさんに………」
そう言って…、
涙を流しながらだったけど……、
何故だかこうしなきゃいけないって思って……、
これで戻るかも知れないって思って………、
肩の後ろに手を回して抱き寄せ…………、
大好きなユウトさんの唇に……………、
私のファーストキスを………………。
捧げた…。
いきなり展開だという方はすいません。
実際は、二章前半の続きですので、許して下さい。
いつものごとく、
ユウトがこうなったのには訳があります。
ではでは