第十七物語 「dream after…」
場面はもう一度変化する。
「ここは…?」
そこは大きな木下だった。
そこで、女の子は三匹の動物達と遊んでいた。
女の子と動物達はすっかり、仲良しだ。
今は木陰で少し休憩をしている所だった。
相変わらず人間の友達はいない……。
『私って、本当に体が弱いね…』
何か女の子にあったのだろうか?
少し悲しそうな顔をしている。
『にゃん…』
『そんなこと関係ないって?……うん、ありがと…』
何を言っているのかは、分からないが、慰めているのは確かだとユウトは思う。
そんな確信があったからこそ、暖かく見守れるのだ。
『ワォン!』
『ピィ!』
『皆もありがとね……。本当に…。今日ね、皆に言わないといけないことがあるんだ…』
女の子が神妙な面持ちをして動物達を真っ直ぐ見詰める。
ユウトもここまで見てしまったのだがら、話を聞く体制だ。
おそらく、自分が居ることの意味は此処にあると思って…。
『実はね……、二日後、私、この町から出ていくんだ……』
「!?」
『ワン!』
その言葉に最初に反応したのはユウトだが、返答を返したのは狼のラッセル(彼女が名付けた)だった。
『ううん。この村には戻ってくるつもりだよ…。戻って来れたらだけどね…』
おそらく、文脈的にラッセルは、もう帰ってこないのか?に似た文を聞いたのだろう。
戻ってくると言った筈なのに、女の子の顔に暗い影が差す。
それは、女の子の不安が感じ取れるものだった。
もしかしたら、何かしらの事情が有るのかもしれない。
そんなことをユウトが考えている間に女の子は話を始める。自身について…。
『私って体が弱いよね…』
ゆっくりと穏やかな口調で話し出す女の子。
『皆には教えてなかったけど、それって悪い病気なんだ…』
動物達は真剣な趣で大人しく女の子の話に耳を傾けている。
『治らないかもって言われるような…病気。沢山の病院で匙を投げられちゃった。だから、長くは生きられないかもしれないの……。もって、あと、五年くらい…』
「っ!?」
ユウトは今までの態度を崩して言葉を失った。
女の子は暗い表情をして、頭を下げる。
だが、次に顔を上げた時には、その暗い表情は消えていた。
『だけどね…、遠くにある街で治せるかも知れないお医者さんが見つかったってお父さんが言ったの…!頑張れば治るかもって!』
その言葉と共に、女の子の顔には笑顔が戻っていた。
反対にユウトの顔の表情は誰にも見えない。
何故かは知らないがユウトはうつむいている。
『勿論、治らないかも知れないし、治っても辛いリハビリがある。でも、私頑張ってくるよ。一生懸命頑張ってくる。だから、皆、待っててくれないかな?』
『ニャア~』
『わん!』
『ピィ!』
「ありがとう…!」
動物達の返事に笑顔を返す女の子。
この子達の信頼の証なのだろう。
その風景はとても和やかなものだった。
だから、だろうか?
その場にいるユウトがとても異質なような気がするのは…。
「何でだよ…」
一人呟き始めるユウト。
「何でなんだよ!何でそんなに皆笑ってられるんだよ!確かにそれが正しいかも知れないけど、少しくらい頼っても良いだろう!」
誰が見てもそれが最善と思える行動に異を唱えるのはおかしいと思うだろう。
感情のままに叫ぶユウトの声は当然誰にも届くことはない。
その行為に意味はない。
それでも叫び続けるユウト。
「俺には分かるんだよ!分かっちまうんだよ!それが俺の能力なんだよ!」
感覚共有。
五感を繋げるのとは違い、こちらは想いや気分や感情を主に繋げさせる能力。
だがら、伝わるのだ。
「なんで、我慢するんだよ!なんで、吐き出さねぇんだよ!なんでなんだよ!お前ら!」
ラッセルの女の子が帰って来ないかも知れない、という不安が。
ミューの会えなくなるくらいなら止めたい、という迷いが。
ミカンの一番付き合いの長い自分が何かしてあげれないのか?という葛藤が。
女の子の死ぬことへの恐怖や皆と会えなくなることの寂しさが…。
治るかも知れないのは事実だが、その確率は僅かだということが…。
全部、流れ込んでくるのだ。伝わるのだ…。
だが、それでも…。
動物達は騒がない。
女の子の決意を尊重するために。
女の子は泣きわめいたりしない。
皆を不安にさせないように。
それが四人の絆であり、思いの強さなのだ。
それは、ユウトにも分かる。
だけど、それに納得出来たわけじゃない。
分かると理解するとでは、別なのだ。
「少しくらい、甘えたって良いだろう!少しくらい、泣いたって良いだろう!」
誰にも届かない言葉を叫び続けることは無意味だ。
それも分かっている。
だが、理解はしていない。
否、したくないのだ。
「だからさ!素直になれよ!」
叫び声がその場に響いた。
そこで、場面は、また、切り替わる!
場所はあの木下だった。
『今日でこの村とお別れだね…。皆はちゃんと出来るかな?』
どうやら、動物達とお別れを済まして、最後にこの木の近くに来たのだろう。
その顔はとても悲しそうだった。
『また、戻ってくるかな?これたら良いな…?次に来るのはいつかな?』
段々と女の子に近付くユウト。
『大丈夫だよね?お父さんも言ってたし。私が頑張れば…』
(せめて、せめてこの手が届いたら)
だけれども、そこに意味はないだろう。
こちらから、向こうに干渉することは出来ない。
精々、こちらから触れるだけだ…。
向こうは気付くことも出来ないが。
女の子の顔は寂しさに少しずつ侵食されていく。
『大丈夫……だ、……よ………ね…?』
そう、呟く女の子の頬を一筋の雫が流れ落ちた。
その雫を直ぐ様、必死に拭う。
『あ、あれ、お、か…しい………なぁ……?』
ぷるぷると震えだし、今にも泣き出しそうな女の子。
その姿が見ていられなくて…。
ユウトは、その小さな体を抱き締めた。
『っ?』
女の子の顔に疑問符が浮かぶ。
『あれ?何だろう?これ?……?』
だが、そこに嫌悪感などはない。
寧ろ…、
『暖かいな……』
そう呟いて、目を閉じ、身を任せる女の子。
ユウトはなにも言わず、ただただ、その小さな小さな体を抱き締めていた…。
声が届かないなら、行動で示す。
それがユウトの出した女の子に対する答えだ。
『でも、何でだろ?誰もいない筈なのに………。安心する…』
そう呟く、女の子。
確かに女の子からしたら、誰かに触られていると言う感触はない。
ユウトは触ることこそ出来るが、相手の動きに干渉することは出来ない。
ならば、何故、本来伝わらない筈の温もりが伝わっているのか?
それは、ユウトの能力にある。
ユウトは、五感と感覚を女の子に共有化したのだ。
今、ユウトが感じているのは女の子の体温、感触。
それをそのまま、能力により、女の子自身に返しているのだ。
だから、少女は人特有の暖かさを感じるのだ。
(安心してくれたのは嬉しい。でも、少し寂しいかな…?)
だが、これはユウトの暖かさではない。
少女は自分の暖かさを自分で感じているだけ……。
ユウトが本当の意味で贈れている物は何も無いのだ。
それでも、今、笑顔を見してくれるならば…。
奇跡は自分には起こらない。
自分の出来る範囲で、自分の出来ることだけをする。
見返りなんて、笑顔だけで十分。
それがユウトの心情だ。
だが、心の何処かではそれを否定している自分もいた。
(また、何も出来ない。俺には奇跡なんか起こらない。でも、あいつは違うんだろうな…)
ユウトは自分の親友と呼べる奴の顔を思い出していた。
(あいつはさ…、一生懸命で、理屈なんてなく奇跡を起こす。未来を絶対に掴み取る)
(あいつといたら分かる。あいつは主人公だと…。あいつならこの子も…)
そこまで考えて、その思考を外に追いやるユウト。
急に馬鹿らしくなったのだ。
(今はこの子のことだけを考えろ)
自分が今出来ることはやり通す。
今出来るのは、この子の不安を安らげることだ。
ユウトはそう結論に至った。
そのまま、何分もたっていく。
最後に一際強く抱き締め、女の子から離れた。
そして、そのまま立ち去って行こうとして、
『ありがとう!』
その女の子の声に振り向いてしまった。
『誰だかは分からないけど、ありがとう。私を元気付けてくれて…。この木の精霊さんかな?違うかな?』
可愛く首を傾げる女の子。
その言葉に固まってしまうユウト。
それは伝わる筈のない物が伝わった小さな奇跡と呼べるかも知れない事象。
そして、
『私に元気をくれてありがとう!戻ってきたら、会えるよね!』
女の子に最高の笑顔を見せ付けられてしまうユウト。
(あ~。やっぱ、もう少し頑張ってみたいな…)
その顔を見て、そう考えてしまうユウト。
だけれども、現実は残酷でどんなに足掻いてもそれは無理だ。
何故ならここは…。
突然、ユウトの視界が歪み出す。
いつもの場面が切り替わるのと違い、世界から切り離される感触。
明確なタイムリミット。
(待ってくれよ!まだ、終わらないでくれ!)
(たった今、決意したばっかなんだよ!足掻かせてくれよ!)
だが、ユウトの願いは空しく、女の子がどうなったかも分からないままもとの世界に引き戻されてしまう。
そして、光が目に入り込んでくる。
「ぅう…」
「あら?おはよう。ユウちゃん…」
「(今までのは夢か…。ちょっと寂しいかな…)」
胸に微かな虚しさが走る。
「(俺のするべきことは、多分やり遂げられたかな?)」
そんなことを思い、すぐさま頭から消す。
夢の話だ、と切り替えようとしたのだ。
顔の方向をマリナに向ける。
「マリ姉。おはよ…」
目が覚めたユウトにマリナの顔が一番に目に入り、挨拶をする。
良くあることだ。
「あ、起きたんですか?良かった」
だが、そこにユウトの知らない第三者の声が聞こえた……。
これは、余り無い経験だった。
「(誰だろう?知らない声だ…?いや、違う。俺はさっきまで子の声を…)」
ユウトは声の方を向く。
そんなユウトの目に入ったのはオレンジのショートヘアの子。
ヒマリだった。
「(間違いない!)」
そんな確信がユウトを襲う。
姿はあのときより成長しているが、その子は間違いなくあの女の子だった。
それが分かるとユウトはいてもたってもいられなくなった。
そんな時、人間は感情のままに行動してしまう。
思わず、ユウトは女の子に抱き付いてしまう。
「えっ!?」
驚いた声を上げるマリナにも気付いてはいなかった。
「ありがとう!動物達を救ってくれて!いっぱい頑張ってくれて!今日まで笑ってくれて!生きていてくれて!頑張ったね!一杯、頑張ったね!本当にありがとう」
一方的に言葉を発し、ヒマリを更に強く抱き締めてしまうユウト。
ヒマリが大きくなってここにいる。
それは、病気に打ち勝ってリハビリも沢山頑張ったと言うことだ。
「ふぇ?な、何のことですか?」
泣きながら自分を褒め称えるユウトは、事情を知らないヒマリにとって混乱の元だったが…。
「(でも、何でだろう?この人に抱き付かれても不快じゃない…。寧ろ、不思議と安心できる…。暖かいな……)」
ヒマリはそんなことも考えていて、次第にその考えに身を任せ目を閉じその暖かさに身を任せることにした。
「(昔、同じ様なことがあったような…?でも、今の方が…良いかな?)」
木下で不思議な体験をしたことを思い出すヒマリ。
ユウトはあの時出来なかった温もりを与えたのだ。
「(あの時、あの木下で、私を助けてくれたのは…、この人だったのかな…?違うかも知れない…。でも、合ってたら…、再開出来たってことなのかな?)」
そうだったら、とても素敵だなと思い、そのまま身をゆだね続ける。
何分と時がたっただろうか?
何時間かもしれない。
ひだまりの様な暖かく心地の良い時間だった。
お互いがお互いの温もりを心地よく感じる。
そんな中、始めに言葉を発したのは……。
「で?二人は何をしているのかしら?」
「「!?」」
完全に蚊帳の外だったマリナだった。
部屋の暖かな温度が一気に氷点下に落ちる。
「ち、違うんだマリ姉!」
「違う?起きたら、いきなり女の子に抱き付いていて、何が違うのかしら?」
「ひぃ!」
マリナの狂気を込めた言の葉に怯え出すユウト。
「違うんです!マリナさん!」
「あら?ユウちゃんに抱き付かれて満更でもないような顔して無かった?」
「はひっ!あ、あれは!」
顔を真っ赤にし、手を何度も振りながら弁解しようとするヒマリ。
「さぁて、二人共~?」
そんな二人に冷たい声が投げ掛けられる。
「「は、はい!」」
ほとんど、条件反射で答えた二人にマリナは笑顔でこう告げた。
「どんなお仕置きが良いかしら?」
ニッコリ!
「「た、助けてぇええ!!」」
その後、宿には男の断末魔と女の子の微かな悲鳴が響き渡ったそうだ。
はい!いかがでしたか?
個人的には手応えを感じた十七話でした。
まず、始めに…
ユウトがいたのは夢の世界です。
何故、過去の現実に繋がってしまったのか?
それは作者にも分かりません。
魂と言うあやふやな概念は時に奇跡を起こす。
そんな話です。
でも、ユウトのした行動は一見、夢の観点からみると、現実に干渉する奇跡の様に感じられますが、現実の観点からすると、過去の辻褄合わせと言う運命にそった行動となってしまいます…。
なので、ユウトの奇跡とは、女の子が笑ってくれたことを指しています。
ではナゼナニ夕凪さんのコーナー。
Qなぜ、ヒマリちゃんの過去にユウトが登場で来たんですか?
はい、これは良い質問です(誰からだよ?
明らかに過去にトリップしちゃいましたね。
ユウトさん。
まぁ、物語だから?とぶちぎれるんですが、ちゃんと理由は存在します。
Aユウトが過去を知らないうちに共有させたからです。
なので、本来は既におこった事象に干渉することは出来ない筈なのですが、
何故かヒマリちゃんは気付いちゃいましたねぇ?
何故かなかな~。
まぁ、
今後の展開にご注目を!!
さて、では、ここらで、お開きします。
ヒマリちゃんは今後の物語にどう影響するのか?
この村はどうなってしまうのか?
などを楽しみに待ってくれるとありがたいです!
ではでは!




