短編物語 「とある春休みの喧嘩騒動」 中編
前後編で終わるつもりが、
まさかの、中編はいりま~す!
物語は作者の予想もかけ離れた展開に。
では、どうぞ!!
「待ちやがれぇ!」
「誰が待つかぁ!」
非常に不毛と呼べるようなやり取りをしながら、俺と八橋と女の子は走っていた。
「つうか、何でいるんだよ?八橋!!」
取り合えず、知らない訳でも無いので質問してみる。
「はぁ?お前こそ何でいんだよ!黒石!?」
むぅ、質問に質問で答えられるとは…。
「用事だ!文句あるか?」
「別に無いけど、悪名高いからな…、黒石…」
「な、な訳ないだろう!」
失礼な!何て、言いがかりだ!
思い当たる節なんて!
「え?遅刻、反抗、授業中寝てる、課題出さない……」
………………。
「あとは……」
「もう良いだろう!俺を苦しめて楽しいか!」
「いや、別に楽しくないけど…。ゆ、有名だぞ?」
このやろう!哀れみの目で見てんじゃねぇ!!
女の子もちょっと、可哀想な物を見る目に移行しやがったよ!
……………………。
今度から、自粛しよう…。
そう決めた黒石さんだった…。
つうか…。
「そんなこと、言ってるけど、お前こそ悪名高いぞ?」
そう、そう言う八橋も余り良い噂は聞かない…。
「はっ?俺にか?」
うむ。
驚いた顔をしているが、八橋の方が悪名高いことで有名だ(俺基準)。
と、言っても俺には友達が三人しかいないから、その一人から聞いただけだけど…。
悲しい…。
じゃなくてぇ!!
その驚きの内容とは…。
「だって、痴漢に、ストーカー、幼女誘拐、はたまたろ…」
聞いた内容をそのままダイレクトに伝えた。
「違うわ!誤解だわ!むしろ誤解しか無いわ!」
「え?違うの?」
激しく突っ込む八橋。
「普通に考えたら分かるだろ!」
確かに…。
おかしいな。
聞いた情報通りに言ったんだけど…。
なんてこと考えていると女の人が、
「ま、まさか、そんな人だったなんて…、ぼ、僕を助けたのも…」
と距離を取り出す。
それに慌てる八橋。
「違うから!完全なる誤解だよ!ちょ、距離とるな!」
離れていく女の人を説得する八橋を見ていると呑気だと思うな~。
だって、走って必死に不良から逃げているんだよ?
忘れがちだけども…。
「つうか、お前!誰から聞いたんだ!」
「紅君からだけど?」
八橋の質問に答えると…。
「んにゃろう、あいつめ…」
と、八橋が明後日の方向に敵意を見せる。
それを見て、二人は知り合いなんだ、とかどうでも良いことを考える。
今、話題になったオレの友達。
紅聖二。
明るく、友達が多い。
なんと言うか説明しずらい性格だ。
普通と言えば、普通。
変わっていると言えば、変わっている。
独特のテンションで周りを楽しませてくれる。
おちゃらけている様に見えるけど、根は凄くいい奴だ。
何度も言うが俺の少ない友達。
多分、紅君は八橋を普段弄っているので、そんなことを言ったんだろう・・・。
あれ?じゃあ、俺が八橋について悪いうわさしか聞かないのは友達が少ないから?
・・・・・・・・・、悲しくなってきた・・・・・・。
と、そんなことを考えていたら、不良がかなり近くに来ていた。
やばっ!
「待ちやがれ!」
「うぎゃああ!誰だ待つかよ!モブ!」
「ちょ、相手を怒らせてどうすんだ」
どうやら、凄く混乱しているようだ。俺は。
くっ!かくなる上は!
「八橋!この状況を打開する良い方法があるぞ!」
「何だ?」
「まず、お前がわざとらしく転ける」
「うんうん…。で?」
相づちを打つ八橋。
「俺達はお前を置いて逃げる。万事解決。あとは任せた!」
「成る程!って、アホかぁあ!」
「あぶな!」
い、いきなり殴りかかるだと!?
なんて奴だ!
こいつ人間としての良心は無いのか!?
「何するんだよ!」
「こっちの台詞だわ!何て作戦考えてやがる!却下だよ!」
「チッ!」
「舌打ちするんじゃねぇ!」
くっ、勘づきやがったか…。
こいつの頭なら気付かないと思ったのにな…。
「おい、さらっと失礼なこと考えてないか?」
「さぁて、何のことですか?ワケわからんのことよ?」
「確信犯だ!日本語がおかしいぞ!」
「うるさいよ!証拠はあんのかよ!!」
「えぇ!?逆ギレ?!」
やべぇ、何かこいつとの会話楽しいな。
だけど、こんなことを考えているうちも不良は距離を近付ける。
あと、二メートルも無い。
仕方ねぇな…。
一か八か。
「ごめんね!」
「えっ?」
俺は走ってついてきた女の子を勢いをつけてお姫様抱っこしながら、反転する。
「「「「なぁ!」」」」
いきなりのことに八橋と不良グループは驚きを顔に露にする。
その間に男子としては小柄な(=低い)体を活かし、相手の間をすり抜けた。
不良達も慌てて反応しようとしたが、勢いをつけすぎていたスピードを殺すことが出来ず、ぎこちない動きだったのでなんとかかわせた。
まさか、仲間を裏切るなんて、誰も考えもしないだろう。
更に運良く(悪く?)、八橋が何かに躓いて転けた。
不良は立て続けに起こる事態に対処できず、八橋に足をぶつけて転けた。
鮮やかに。
丁度、俺と不良の立ち位置が入れ替わった構図に、とてつもなく好機を悟った。
その隙に俺は逃げ出す。
「じゃ!あとは任せたぜ!八橋!!」
「なぁ!?置いていくなよ!!」
「知らん!頑張れよ!主人公!」
高らかに笑いながら逃げ出す黒石さん。
正義は必ず勝つ!
かなり距離をとった後、ちらりと後ろを見ると、こかされたことにキレた不良から逃げる八橋が別の道に逃げるのを確認した。
中々気の効いた選択に「やるじゃん!」と心の中で称賛する。
どうして、この時笑いながら、八橋を見捨てたのかは分からなかった。
普段の俺なら役目を逆にしていた筈だ。
だけど、何と無く、何と無くだけど、あいつならやってくれると信じられたのだ。
もしかしたら、俺は何と無しに気付いたのかもしれない。
あいつは、悲しみの悲劇に望まれない者タイプだと…。
伊達に長らくボッチをやっていない。
だが、今はそんな無意識の思考などどうでもよく…、
俺は余り仲の良くない筈の奴をこんなに信用していることを心地よく感じていた。
「それで、その時どうしたの?」
「えぇっと、ちょっと、テンパっちゃて…、立ち上がっちゃったんだよね……」
「あぁ…。それはキツイよね…。僕も経験あるからさ~」
「ホント?」
今、現在。
俺は女の子と楽しくお話しをしていた…。
あの後、最初の内は八橋のことで「た、助けなくて、良いの!?」とか、「戻ろうよ!」とか、八橋を心配する様な言動を見せていたが、俺が…「大丈夫!あいつはゴキブリより生命力高いから!」とか「あいつはな、実は異世界の魔王なんだ」とか言い含めてたら、今の状況に着地した訳だ…。
黒石さんは初対面の子とは、会話スキル高いのである!
とまぁ、そんなことは置いといて~。
女の子は首の辺りまで茶色の髪を伸ばしていて、一人称は僕。
被った…。うん。
いかにも、ボーイシュな感じだが、見方を帰ると可愛らしくも見える顔立ちをしていて、かなりの美形だ。
性格は元気が良くて、活発な明るい子である。
そんな子と。
「で、~~~~だったんだよ!」
「え?ほんとう?凄いね!」
楽しく駄弁っているのである。
しばらく、駄弁っていると…、女の子が…。
「あれ、あの人って……」
と、ある方向を向いて呟いたので、そちらを見ると…。
何と八橋が居た…。
所々、服が傷付いてはいるが、体には傷一つ無い。
どうやら、無事だったようだ…。
最初の頃こそ、俺は驚いてはいたが、奴なら当然か…、と、そんなに互いを知らない筈の相手に無駄な根拠を乗せる。
次に俺は八橋に手を振った。
こちらの居場所を知らせるためだ。
どうやら、八橋はそれに気付いた様で、ニッコニコ笑顔で手を振り替えしてくる。
そのまま、駆け足で近付いて来た八橋は右手を上に上げる。
俺はその意味を咄嗟に理解し、座っていたベンチから立ち上がり、右手をあげ返し、やれやれ、といった感じで、ゆっくりと近付いていく。
やがて、お互いの距離が近付いていき…。
あと、一メートルを切った所で…。
八橋はスピードを更に上げた。
俺は、それに気付かず声を張り上げる。
「へい!八橋!ハイタッ「誰がゴキブリ魔王だ!!!」ゲブラバッ!」
腹を殴られた…。
分かっていた…。分かっていたさ…。
俺が八橋を見捨てた時から、こうなることは…。
でもな?
一つだけ言わせてくれ…。
「八橋…、突っ込む所が違くね…?……ゴフッ…」
普通見捨てたところを切れるだろ・・・・・・。
最後の力を振り絞った俺は血へドを吐き倒れ伏すのだった…。
「で?」
「いや、悪かったよ…」
只今、俺は八橋に謝っていた。
謝石さんだ…。
くそっ、この屈辱忘れないぞ!
「いや、何でそんな目で睨む…?」
「父上の…仇……」
「誰もお前のお父さんを殺した覚えがないんですが!?」
「貴様は自分が葬った者の顔を覚え……」
「いや、覚えて……てる訳ねぇ!だって、誰も葬って無いもの!。あやうく騙される所だった…」
「チッ」
「舌打ちすんな!」
まるで十年来の友達と話すような乗りが楽しい。
そんな一種の漫才を続けていると…。
「クスクス…」
小さな笑い声が聞こえた。
他でもない女の子からだ。
気になって、俺と八橋は、女の子の方を見てしまう。
すると、笑いを堪えているであろう女の子の姿が視界に入った。
「む?どうかした?」
聞いたのは、先程、話をしていた俺だったが、八橋も同じ質問を持ってるに違いない。
「いや、ごめんね?君達の会話が余りにも面白くて…」
目からうっすら涙を浮かべながら語る女の子。
そこまでか?そこまでなのか?
俺と八橋がポカンとしていると、女の子は、
「それに他の人もおんなじ反応みたいだよ?」
と付け加えた。
「「へっ?」」
思わず、声をダブらせる俺達。
気になって、周りを見てみると皆が暖かい目をしていた…。
………………………。
「グフッ!」
ー八橋に9999のダメージー
先に倒れたのは八橋だった!
「や、八橋ぃ!いやぁああ!グハッ!」
ー黒石に99999のダメージー
続いて倒れる俺!
だって、しょうがないんだもの!
こんな人だかりで騒いでたのも悪いんだけれどもさぁ!
あの通りすぎる人達の、お兄さん達は見守ってるから遠慮なく続けて良いよ?って目が精神的にくるんだよぉお!
特に俺が八橋が倒れたのに反応した時…。
生暖かさが加速した。
俺がいやぁ!と叫んだのは、そのせい…。
「アハハッ……」
更に遂に我慢の限度を越したのか女の子が声を出して笑い始める。
やぁめぇてぇえ!もう、黒石さんのライフはゼロよ!!
ちらりと、横を見ると同じことを考えているであろう八橋が虚ろな目をしていた。
あぁ、俺はあんな目をしているのか…。
後に残ったのは、そんな感想だった。
何故だろう。
最近の物語はこんな終わり方ばかりだよう…。
あ、まだ、続くよ?
あの後、ダメージから回復して、八橋は「じゃ!従姉妹探さないといけないから!」と逃げ出し、俺は留まって、散々話した後、一つのことを思い出す。
あ、そう言えば、頼まれ事をしていたな…、と。
仕方なく、別れのあいさつを告げるとする。
「すまん!この後、用事があるんだった…」
「あ、こんな時間…。僕も用事あるんだったよ…。それじゃあ、ここら辺でお開きかな…?」
その言葉に…。
自分から切り出した会話にちょっと…。
「むぅ………」
ちょっと、納得がいかなかった…。
「そっか、じゃあな…」
「うん。じゃあね!」
そう言って立ち上がり、駆け足で離れていく女の子…。
もう二度と会うことは無いだろう、その女の子は…。
去り際に立ち止まった。
目で見送っていた、俺は少し驚く。
女の子はそのまま顔だけをこちらに向けて…。
「……井坂京奈…」
そう呟いた。
それが、この子の名前らしい…。
「黒石優斗だ!また、会おうぜ!」
俺がそう返すと、女の子は一瞬驚いた表情を見せた気がしたが、直ぐにニッコリと笑ってその場を立ち去った。
女の子は振り返らなかったが、俺はずっと、その方向を見ていた。
やがて、見えなくなった所で…。
「ふぅ…」
と、溜め息を付いた。
楽しかったのだが、これから用事があるのを思い出したのだ。
それに、女の子とは、二度と会うことは無いだろう。
そんな中。
「あれっ…?」
一つの台詞が頭に引っ掛かった。
井坂京奈…。
女の子はそう名乗った…。
何か、忘れている様な…?
その名前に何処か聞き覚えがあって…。
マリ姉の言葉を思い出す…。
『今度の土曜日、そこで井坂ちゃんって子を案内することになっていたのだけれど………』
……………………。
「何てこった…」
そう、言いつつも俺の顔は正直な様で…、にやけていた…。
待ち人は近くに居たのだ…。
それに気付かなかった、だけなのだ。
「アホらしっ…」
感傷的な別れが馬鹿らしくなったのだ…。
女の子が最後に笑っていたのは、実は俺の名前に気づいて、にやけていたのだ。
俺を脅かそうと…。
「全く、良い性格してるぜ……」
流石は、マリ姉の知り合いか…。
俺は、楽しくなってきた待ち合わせ場所に、急いで向かおうと足を早める…。
女の子と同じ道を…。
待ち合わせ場所は同じなのだ…。
道も同じに決まってる…。
そして、地下鉄街に降りる階段に差し掛かった所で…思わず…。
「何だ…これっ……」
そう呟いた。
監視カメラが設置されておらず、場所によってはかなり長い…。
この町唯一の死角で…。
地下に出たら、沢山人が要るの筈なのに…、ここだけは滅多に人が通らない……、そんな場所に………。
井坂ちゃんの鞄が落ちていた…。
踏まれた後が付いた、その鞄は、明らかに争った形跡で…。
俺は、その場に立ち止まってしまった……。
いかがでしたか?
驚きの終わり方をした中編。
このシリーズはネタは有るけど、
書くのが難しかったり。
実はこのお話で出てきた
二人は作者の友人の小説のゲストキャラとなります。
八橋ショウタ「ミス・スタート・ストーリー」(モッチー)
紅聖二「紅ドロップ」(ビタミンA)
実は今後の物語でも出てきたり。
気になる方は調べてみてください。
では、長くなりましたが一週間後にこの次を。
終わったら増えすぎる気がするキャラの解説を入れます。
ps第二章の続きが友人に絶賛されて、調子乗ってます。
自身で書いて、かなり美味く書けたと思うので期待しててください