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第9話 侵入者その名はローラ

ユロンはフザに乗りながら帰路についていた。


しかし、今まで住んでいた家は奴らに荒らされてしまいとても過ごせるような状態ではない。


そのためユロンは一日で墓標で埋め尽くされた村の広場を通り過ぎ、村から少し離れた納屋に向かっていた。


納屋は冬の間の保存食や野菜の種を保管するのに使っていたため、村からは離れていて奴らに荒らされることもなかった。


村の復興の目処が立つまではしばらく納屋で生活するつもりだ。


そして納屋が見えてくると、ユロンは不思議な気配を感じた。


気配の数は一つだが、その気配は明らかに納屋のからしている。


「ちょっとここで待ってろよ」


ユロンは納屋から少し離れたところにフザを残して中の様子を窺った。


手には納屋の外に転がっていた鉈を持ち、慎重に納屋に入っていく。


するとそこには確かに人の気配があり、何かを咀嚼する音が聞こえる。


おそらく納屋にあった保存食だろう。


ユロンは気配を消し、食べることに夢中になっている侵入者の首に鉈を当てた。


「動くな。手に持っているものを置け」


侵入者は口の中にあるものを飲み込み、掴んでいたものか手を放した。


よく見ると、侵入者が食べていたものは干し肉だった。


それが分かるとユロンはさらに怒りを抱いた。


侵入者が食べていた干し肉は、ユロンが丹精込めて育てた家畜をしょうがなく潰して作ったものだ。


「両手を挙げてこちらを向け。ゆっくりとだ」


侵入者がユロンの方を向いたとき、ちょうど外から入ってきた月の光が侵入者の顔を照らした。


侵入者は女だった。


しかしただの女ではなかった。


女は元は上等そうなボロボロになったドレスを身に纏い、全身泥と傷だらけだった。


手首にある縄の痕から拘束されていたことが分かる。


(奴隷にしては身なりがいいな。人攫いにでもあったのだろうか。でもこんなドレスを着れる身分の者をさらう機会などそうそうあるもんじゃない)


ユロンが考えに耽っていると、女が口を開いた。


「わ、ワタクシは怪しいものではありません。私はクエリオス王国第三王女のローラです」


「俺はユロン・グローグこの納屋の持ち主だ」


ユロンは鉈を女の首から離した。


「あんたは何者だ?ここで何をしてる?」


「だから私はこの国の王女です。故あって勝手に上がりこんでここにあった食料を食べていました」


「堂々と言うことか。要するにただの泥棒か」


ユロンの言葉に女は憤慨した。


「なっ!泥棒なんて失礼な。私は王女だと何度も言っているでしょう!」


「じゃあ仮にあんたが王女様だったとしよう。だとしたら、なんで王女様がこんな汚らしい納屋で泥棒まがいのことをしてるんだ?」


「そ、それは…」


女は口を噤んでしまった。


「そら見ろ。明日朝一で近くの街の警備隊に突き出してやる」


ユロンが納屋の外に出て口笛を吹くと、フザが応えてこちらに歩いてきた。


「今のは?」


戻ってきたユロンに女は口笛のことを聞いた。


「あ?今のは俺の馬を呼んだんだ。フザはそこいらにいるゴロツキよりも頭がいいんだ」


二人の間を沈黙が支配する。


女は沈黙が耐えられなくなったようで口を開いた。


「私は護衛の兵士に裏切られ、隣国のムラトニア帝国にさらわれる途中で何とか抜け出してきたのです。ですが…抜け出せたのはいいものの、ここが何処か分からずに路頭に迷っていたところこの納屋を見つけたのです。あとはさっき言った通りです。碌に食事も与えられていなかったので、悪いこととは分かっていましたが、自分を制することが出来ませんでした。本当に申し訳ありません」


女はそう言うとユロンに深々と頭を下げてきた。


女の話を聞いてユロンには思い当たることがあった。


(そういえばさっきニナが姫様を攫った賊がどうとか言ってたな。じゃあこいつがそのお姫様ってことか!)


「おいあんた、今の話本当か?嘘偽りはないな?」


「はい」


女――ローラはユロンの目を見てはっきりと答えた。


「そうか。おいお姫様、こっち来い」


「私にはローラという名前があります!お姫様ではありません!」


「はあ、ローラ様こちらに来て下さい」


「貴方はこの納屋の持ち主なのでしょう?なら貴方は私の命の恩人です。敬称などお付けにならないで下さい」


「…ローラ、こっちに来てくれ」


「はい♪」


ローラが行くとそこにはぐったりしたユロンと干草の上に布を置いた簡易的なベッドがあった。


「これは?」


「一応今夜のあんた…「ローラです!」…ローラの寝床だ。幾ら何でも地べたに寝かすわけにはいかないからな。朝になったらマルクニスまで送ってやる。それまで少しでも体を休めとけ」


「貴方は何処でお休みになるのですか?」


「俺のは別にある。さすがに一緒には俺が厳しいから」


「そうですか。ではお言葉に甘えて」


ユロンはベッドに横になったローラの上からさらに一枚少し厚手の布を掛けた。


「体を冷やすのは良くないからな。出来ればその傷も治してやりたいんだが、生憎と俺は魔術が使えなくてね」


「いいえ、十分過ぎるほどのお持て成しです。感謝しています」


肩を竦めるユロンにローラは笑顔を向けた。


不覚にもユロンはその笑顔に見蕩れてしまった。


「何か私の顔に付いていますか?」


「い、いや何でもない。おやすみ」


「おやすみなさい」


ユロンは納屋の外に出るとそこで待っていたフザの首を撫でた。


フザは気持ち良さそうに目を細め、その場に座り込んだ。


ユロンの今夜の寝床である。


「世話掛けるな」


ユロンはフザに背中を預け一時の安らぎに身を任せた。

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