第7話 意外な出会い
大変遅くなりました。
しばらく続きます。
今の状況を説明しよう。
場所はユロンが最初に通された部屋で、そこにはボロボロになって正座させられているユロンとニナと
それからもう一人バスローブに身を包みユロンに最上級の殺気を向けている蒼髪の女性がいた。
なぜこんな状況になったのかを説明するには、ユロンが風呂に入った直後にまで遡る必要がある。
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カラカラカラ
ユロンが扉を開けると、中から湯気が溢れ出てきた。
そのままユロンは洗い場に座り、扉の近くに置いてあったタオルと石鹸を使って体を洗い始めた。
泥、汗、そして最後に血、今日一日分とは思えない量の汚れがユロンの体から落ちていった。
ユロンは桶で汲んだお湯で泡を落として、湯船にその体を沈めた。
するとユロンは徐に自分の臭いを嗅ぎ始めた。
そこからは石鹸の匂いに混じって微かにだが血の臭いがした。
(やっぱ少し残るか)
その場で体を擦ってみたが、臭いは取れず諦めて肩までお湯に浸かった。
「ふぅ~生き返るな」
そして今日あったことを振り返っていると、不意に人の気配を感じた。
ユロンが気配がある方へ向かうと、浴槽の端に人影が一つあった。
「スゥ、スゥ」
湯気のせいで姿は見えないが、寝息がするのでどうやら寝ているようだ。
「疲れてるのは分かるが、湯船で寝るなんて危ないぞ」
ユロンはその人を起こそうと近づいていくと、だんだん湯気が薄くなりその姿が見えるようになった。
「えっ?」
寝ている人の姿が全て見える距離まで来たとき、ユロンの体は硬直した。
そこには浴槽の淵に寄り掛かり、その小さな胸を規則的に上下させているまだ年端もいかない少女がいた。
少女はその蒼く長い髪を放り出し、陶磁器のように白い肌には一点の曇りも無かった。
ユロンは今自分が置かれている状況を整理することにした。
(えーとまず、ここはマルクニスの兵舎だよな。ニナに言われて風呂に入った。汚れを落として湯船に浸かった。
人の気配を感じて見てみたら、そこには小さい女の子がいたっと)
ユロンはしばらく考えた結果、決断をした。
「よし!とりあえず起こそう。風呂の中で寝るのは危ないからな」
そう言って少女を起こすため肩を叩こうと手を伸ばしたとき、何かを感じ取ったのか少女が目を覚ました。
互いに視線が重なり、嫌な沈黙が二人の間に流れる。
「「………」」
ここは風呂場であり互いに一糸纏わぬ姿である。
ユロンは少女を起こそうとするため少女に向かって手を伸ばしていた。
その姿は何も知らない人から見れば、ユロンがこれから少女を襲おうとしているようにも見れる。
その上、二人の高低差上少女の目の前にはユロンの一物があるわけで……
「「………」」
数瞬の沈黙の後、少女の視線がユロンの顔からどんどん下に向かうと、少女はその上気して赤くなった顔をさらに赤くした。
「あ、あの…「イヤーーーーーーーーーーーー」っぐふぅ!」
少女は悲鳴を上げながらユロンの腹へと、その小さな拳を深くめり込ませた。
少女の力は弱かったが拳が小さいので、力の掛かる面積が凝縮されたようだ。
ユロンは言い訳をする暇も無く一撃で沈められた。
少女は猶も気絶しているユロンに対して桶で追撃をしていた。
その攻撃は悲鳴を聞いて駆けつけたニナが来るまで続けられた。
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そして、現在に至る。
少女は何かを思い出し、顔を赤くしてユロンへの殺気をさらに強めた。
「まあまあ師団長殿、そう怒らないで下さい。いいではありませんか裸くらい。減るものでもありませんし」
「ニナさん、その発言は女性としてどうかと思いますよ。そんなことだといつまで経ってもいい殿方と巡り会えませんよ」
「な!もしかして先日の縁談を蹴ったこと根に持ってます?」
「いいえ、別に根に持ってなんかいませんよ。ただあの後、先方やいろいろと手配してくださった方々に頭を下げただけですから、根に持つようなことはありませんよ」
「っう!そういうのを根に持ってるって言うんじゃありませんか?」
ニナのおかげで少女のユロンに対する殺気は軽くなったが、その分の怒りがニナに向かってしまった。
そのまま少女がニナに対して説教を始めてしまったので、ユロンは居所の悪さを感じた。
「ところでニナさん、この変態は誰ですか?このまま視界に入れておくのは不愉快なので、この場で切り伏せてしまっても構いませんか?」
「ちょっ変態って…」
「何か不満が?」
自分にも非があるとは言え、あまりにも物言いに異議を申し立てようとしたユロンは少女の迫力に言葉を飲み込んでしまった。
「いえ、別に」
「そうですか。では遺言はありますか?」
そう言って少女は手元の剣を振り上げた。
それを見たニナは慌てて少女を止めた。
「ちょっと待って下さい、師団長殿。この者は姫様の誘拐事件の重要な情報を持っているんです。さすがに師団長殿でも、勝手に殺すことは出来ません!」
その後、少女を宥めるのに三十分が掛かった。
「そういうことなら早く言って下さい」
「何度もいいました。はあ」
ニナは憔悴しきっていた。
「では、早速尋問を始めましょう」
「「えっ?」」
少女の言葉に思わずユロンもニナも変な声が出てしまった。
「何がおかしいんですか?姫様を攫った賊なのでしょう?」
この少女はどうやら素敵な勘違いをしているようだ。
「はあ」
ニナのため息に少女はまた機嫌を悪くさせた。
「なんですかそのため息は?この男は姫様を攫った賊の一味なのでしょう?」
「ですからこの男は…」
ニナが少女を納得させるのにさらに一時間を要した。
その間放置されていたユロンは、いつの間にかお茶を入れて二人のいい争いを観戦していた。
次回もこんな感じです。