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第5話 生存者

ガイールとニナが他とは違い血がまだ完全に乾ききっていない現場に着いたとき、

そこには数人の兵士とクエリオスの鎧を着た死体が四つ、村人と思われる男女、それから荷車に繋がれた馬が一頭いた。


「なぜ馬がこんなところに?」


ガイールが近くにいた兵士に聞いた。


「はっ。自分が村の周辺を調べたところ、少し離れたところに放置されていました。

積荷も調べましたが、特に怪しいものもないので、とりあえずここに連れてきました。

その際、暴れた馬に蹴られて一人が軽傷を負い、現在治療中です」


「分かった。それで生存者は何処だ?」


ガイールの質問にさっきとは別の兵士が答える

「はい。生存者はこの男です。我々が見つけたときは気を失っていたのですが、呼びかけると目を覚まして受け答えもしっかりしています。

隊長達が来る前に衛生兵にも診せましたが、特に異状はありませんでした」


「じゃあこの血は一体?」


「返り血と思われます」


「わかった。ご苦労だったな。他に生存者はいたか?」


「いえ。彼だけです」


「…そうか。わかった」


今度はニナは鎧を着た死体の顔を確認した。


四つの内一つは損傷が激しすぎて判別出来なかったが、他のものは情報と照らし合わせた結果、姫を誘拐した賊の一味であることが分かった。


ニナが四人の死体を指しながらユロンに質問する。


「これは君がやったのか?」


「ああ。だが、まだ仲間がいると言っていた」


「その娘は?」


ニナがアリスを指差した。


「俺の幼馴染だ。そいつらに殺された」


「そう。君、名前は?」


「ユロン…ユロン・グローグ。この村の住人だ」


「っ!」


ユロンの名前を聞くと、ガイールと周りの兵士が反応した。


兵士の一人が声を上げた。


「副隊長、自分はこの男のことを知っています。おそらく副隊長も聞いたことがあると思います」


「どういうことですか?」


ニナが聞き返すと、兵士は一度ユロンの顔を見てから答えた。


「はい。こいつはあの有名な“おちこぼれ”です」

「っ!!…噂で聞いたことはありましたが、本当に彼なんですか?」


「はい。間違いありません」


「そうですか」


「“おちこぼれ”とは一体なんだ?」


ガイールは自分が考えていたことと違う話が出てきたので、ニナに聞くことにした。


「聞いたことありませんか?あのサインシアに入学したにもかかわらず、魔術を一切使うことが出来ずに中退したおちこぼれがいる、という噂です」


「ああ、それなら聞いたことがある。しかし彼のことだったな」


ガイールは腕を組み、ユロンの方を見た。


ユロンはその顔に見覚えがあるように思ったが、今はそんなことを考えていられる余裕はなく、全く思い出せない。


「隊長、彼のことご存知なのですか?」


「いや、知っているというほどでもないが、名前に少し覚えがあってな。

だがまあ、名前と言っても名ではなく姓の方だが…」


「姓?姓というとグローグですか?」


「そうだ。若いお前達でもクエリオスの兵士なら“ウォーレン”という名くらい聞いたことがあるだろう?」


「もちろんです。私を含め多くの兵士たちが英雄ウォーレンを目指し、日々精進しています」

「そう、その英雄だ。私は先の戦争時は彼が率いる部隊の新米兵士だったのだよ」


ガイールが何かを懐かしむような目で遠くを見ながら言った。


「それがどうかしたのですか?」


「もちろんだ。言ったであろう?姓を聞いたことがあると」


そこでガイールはユロンに向き直った。


「ユロンと言ったね。君の父君は英雄ウォーレンいや、ウォーレン・グローグだね?」


「「「っ!」」」


ニナを含めた兵士が全員驚愕の表情を浮かべた。


「まさか、あの英雄のご子息がおちこぼれだなんて…何かの間違いではないのですか?」


ニナがガイールに詰め寄る。


「それは彼に聞けば分かるだろう。どうなんだね?」


「はい。その通りです。何処かで見たことがあると思ったら、親父の部下の方でしたか。どうりで…」


「この通りだ。それにいくら賊とはいえ、兵士を四人も倒しているのが何よりの証拠だろう」


「ですが…これは本当に君がやったの?」


ニナは念のためもう一度ユロンに確認した。


「はい。早くに両親を亡くした俺を、ここの村人全員が育ててくれました。そんな家族も同然のみんなをそいつらは殺したんです」


ユロンが握り締めていた拳にさらに力を込めると、爪が肉に食い込み血が流れ出た。


それを見たニナはガイールに申し出た。


「そう…ガイール隊長。この男私に預からせて下さい!」


ニナも過去に家族を山賊に殺された経験があるので、自分とユロンを重ねてしまったようだ。


「うむ。わかった。そちらは君に任せよう」


ニナの事情を知るガイールは、ニナの考えを悟りその申し出を受け入れた。


「君はこのままその者を連れていったん街に戻れ。それ以外は私と共に残党の行方を追う。すぐに出発するぞ!全員馬車に乗り込め!」


「「「はっ!」」」


ガイールはそのままニナ以外の兵士を引き連れて、その場を後にした。


ガイール達が去った後、ニナはその身に纏っていたトゲトゲした雰囲気を消し去り、さっきより幾分か優しくユロンに話し掛けた。


「さて、君にはいろいろと聞きたいことがあるから、一緒にマルクニスまで来てもらいたいんだけど、いいかな?」


「あ、ああ、構わない。でも、少しの間だけ待ってくれないか?」


ユロンはニナの変わりように少し戸惑いながらも、大切なことは忘れずにいた。


「どうしたの?」


「みんなをきちんと葬ってやりたいんだ。みんなを助けられなかった俺だけど、せめてそれぐらいはしてやりたいんだ」


「…そう。分かったわ。よかったら私も手伝うわ」


ニナはユロンの心情を察し、慎重に言葉を選びながら発言した。


「ありがとう。助かるよ」


ユロンもその気遣いを察し、快くニナの申し出を受け入れた。


「そう。じゃあまずは自己紹介でもしようかしら。私はニナ、ニナ・ガレッシュ。年も近いみたいだから気軽に“ニナ”って呼んでね」


「それなら俺もユロンでいい。よろしく、ニナ」


「ええ、こちらこそ」


ユロンとニナは握手をして、村人の埋葬に取り掛かった。

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