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第2話 間違えた判断

ユロンが村の広場に到着したとき、既に何人か集まり始めていた。

そのことから、ユロンの野菜が如何ほどの物か計り知ることが出来る。


「みんな、おはよう。今日はずいぶん早いね」


「おはよう、ユロンちゃん。それがね。よく分からないんだけど、今日はみんな早く目が覚めたらしいのよ」


一番手前にいた肉屋のフローラが答えた。


彼女は肉を捌く名人で、彼女が捌いたら、どんなに固い肉でもたちまち口の中でトロケるようになってしまうのだ。


「そうなんだ。不思議なこともあるもんだ…あっ!」


突然ユロンが大きな声を上げたものだから、集まっていた人が驚いてユロンの方を見た。


「あら、どうかしたの?」


逸早く驚きから立ち直ったフローラがユロンのことを心配げに聞いた。

他の人もみんな心配そうにしていた。


「いや、大したことじゃないんだけど…もしかしたら、それは俺のせいかもしれない」


「あら、どうして?」


ユロンが深刻そうな顔をして言った。


「それは…今日の野菜はいつも以上にいい出来だったから。みんながそれを感じ取ったのかもしれない」


………


「「「ッアハハハ」」」


一瞬の静寂の後、その場にいた全員が笑い声を上げた。

そんな中でもフローラの声は際立っていた。


「そうかもしれないね。ユロンちゃんの野菜は美味しいから、こんなことが起きても不思議じゃないね」


実際これは冗談ではなく、基本的に自給自足が当たり前のこの村でも野菜だけはユロンから買うという人は少なくない。


「そんなに俺の野菜が楽しみでしたか?」


「そりゃあね。ユロンちゃんの野菜は美味しいし安いからね。それに今日のはこんなことが起こるくらいなんだから、とっても楽しみだね」


フローラは、ユロンがふざけたつもりで言ったことに対して、プレッシャーを与えるような言葉を返した。


「うっ。そこまで言われるとちょっと自信がなくなっちまうなあ」


「フフ、冗談だよ。そんなことより早く野菜を売っとくれよ。あんなこと聞かされたら、もう我慢できないよ」


そうフローラが言うと、周りにいた人も大きく頷いた。


「分かったよ。少し早いけどお客様の要求には応えようかな」


そう言ってユロンは足元にあったベルを手に取り、それを大きく振り出した。


カラン カラン カラン


「さあ今日も野菜の販売を始めるよ!今日の野菜は自信作だよ!いつも通り一房銅貨十枚だ!早くしないとなくなっちゃうよー」


ユロンの元気な掛け声とベルの音を聞いて、家からたくさんの人が出てきた。

ちなみに一房といっても、街で買おうものなら銅貨四十枚は下らない量である。それが十枚で尚且つ美味しいのだから人気にならないわけがない。


なぜそんなことが出来るのかというと、そもそもユロンは野菜の販売で生計を立てているのではなく、自給自足の生活をしていて余った野菜を売っているので、どんなに安く売ろうとも売った分が全て収入となるのである。


「ユロンちゃん、これとこれとこれを三房ずつ頂戴な」


「はいよ」


「こっちはこれを四房」


「了解」


「私はこれを二房とそれを一房ね」


開始してすぐに大繁盛だ。


しかし、荷車で運んでいることや繁盛するあまりこんなことも起きてしまう。


「あっ!これ傷ついてるわよ」


「ああ、ホントだ。ごめん。じゃあそれは貰っていいよ。それからこれもお詫びにね。ホントに悪かったね」


ユロンのこういうところも人気になる要因だったりする。


「ユロン、おはよう。今日は始めるの早くない?」


販売を始めて三十分が経ち、野菜がほとんどなくなり人もまばらになってきたとき、周りと比べるとかなり若い娘が後ろからユロンに抱きついた。


「おはよう、アリス。もしかして出遅れたか?フローラさんに催促されちまってさ。ごめんな」


ユロンは今の状況に何の反応も示さず、娘――アリスと挨拶を交わした。


「そっかぁ。それじゃあしかたないね。でも、今日はユロンの自信作だって聞いてたから少し残念かも」


ユロンの野菜は販売を始めてすぐに売切れてしまうため、少しでも出遅れると無くなってしまうことがあるのだ。


そんな出遅れた一人であるアリスが残念そうにしているのを見て、ユロンは足元の包みをに渡した。


「安心しろ。そう言うと思って、別に分けてあるから。いつものでいいだろ?」


アリスはその包みを見て破顔させた。


「ありがとう!ユロンの野菜は美味しいからお父さんもお母さんもとっても喜ぶよ!」


アリスの笑顔を見てユロンも顔をほころばせた。


「そんなに喜んでもらえるんなら、こっちとしても作った甲斐があるってもんだ」


アリスはユロンの幼馴染で親同士も仲が良かった。

そのためユロンの両親が亡くなってからはアリスの両親に世話になっていたので、ほとんど家族のような関係になっていた。


「あっそうだ!今日はこれが終わった後街に行くつもりだから、何かほしいものがあったら言ってくれ。それと、このことを他のみんなにも言っといてくれると助かる。頼めるか?」


あまり人が外に出ないこの村にとって、ユロンのように街に行く人はとても貴重で、他の人から用事を頼まれることは普通なのだ。


「任せて!フローラさんにでも言えば、あとは勝手に広がるでしょ。あっ!私は香辛料をいくつかお願いね。メモ渡すから、あとでウチに来てね」


「ああ、わかった。じゃあ、またあとでな」


「うん、またね」


そう言ってアリスは野菜の入った包みを大事そうに抱えて帰っていった。





「じゃあ、はい。これよろしくね」


しばらく経って、野菜も全て売れ、用事も一通り聞いたユロンは支度を整え最後にアリスの家に寄り、買い物リストを受け取った。


「うげぇ。重いものばっかじゃねぇかよ。フザのことも考えてくれよ。あいつも結構な年なんだから」


フザというのは、ユロンがいつも連れている愛馬のことだ。

フザは畑を耕したり、荷車を引いたりとユロンの生活に欠かせない存在なので、ユロンは家族のように可愛がっている。


「しょうがないじゃない。こっちにも生活があるんだから。」


「って言ってもなあ。今日は何だかいつもより用事が多くてな」


用事と言ってもアリスのように買出しだけではなく、時には商談までやるやることもある。


そんな中、今日の用事は特別多く、ユロンも自分が持つ一番大きな荷車を持ってきている。


「そんなにあるの?なんなら私がついて行ってあげようか?」


「んーいや、これくらいならついて来てもらうほどじゃねぇよ。一人で大丈夫だ」


ユロンはあまりに頼み事が多いときには、アリスに手伝ってもらうときがある。

しかし、今回は多いといってもすぐ終わるものばかりだったので、申し出を断ることにした。


「そう…じゃあよろしくね。いってらっしゃい!」


「お、おう。いってきます。」


ユロンは、二人で出かけられるかもという目論見が外れて落ち込んだアリスを見て若干動揺したが、すぐにいつもの元気な顔に戻ったので安心して村を出発した。




その判断がこれからの自分の人生を大きく変えるとも知らずに……

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