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ベータだった俺が後天性オメガになったら、幼馴染アルファがもっと過保護になりました  作者: 一ノ瀬麻紀


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33/45

33 バイト仲間として

 バイトを始めてから、半月が過ぎようとしていた。大学生活もバイトも全てが順調で、逆に心配になってしまうくらいだ。

 けど、俺の最大の元気の源の泰雅(たいが)がいない。夜寝る前にベッドに転がって天井を眺めていると、特に寂しさを感じてしまう。


 泰雅と離れてからしばらくは、ほぼ毎日ビデオ通話をしていた。寝る前に顔を見ながら話をして、一日が終わる。幸せな時間だった。


 だけどある時、泰雅の様子がおかしいことに気づいた。

 泰雅の声はいつもより張りがなく、疲れた様子を隠せていなかった。しかも目元に薄っすら隈も出来ていた。

 慣れない場所での生活だし、いくら優秀な泰雅でも、親父さんの代理というのはとんでもなく負担が大きいんだと思う。


 でも泰雅は、無理やり俺との時間を作ってくれていたんだ。

 なんで俺は気づかなかったんだろう。自分のことで精一杯で、泰雅のことを何にも考えてやれなかった自分が嫌になった。


 泰雅が忙しくなったことと、滞在先が変わったことで、今は連絡を取ることも難しくなってしまった。

 顔も見られない、声も聞けない。だけどせめてメッセージだけでもと、毎日送った。

 少しでも、泰雅の元気の源になれますように。



圭太(けいた)くん、バイトどう? 忙しい?」


 久しぶりにバイトがない日。俺は柊と大学の学食でゆっくりと食事をとっていた。

 大学生活もバイトも順調だけど、自分も気づかないうちに疲れが溜まっているのかもしれない。久しぶりに柊とゆっくりとした時間を過ごせて、癒されているなぁとしみじみと感じた。


「うん、順調だよ。でもやっぱ疲れてんのかなー。柊と話をしたら、なんかすごく元気が出た気がする。やっぱり柊はヒーラーかもしれないな」

「ヒーラー?」

「ああ。回復系の職業っていうのかな。ほら、ゲームとかアニメとかで出てくるやつ」

「あまりよくわからないけど、圭太くんの元気が出るなら、僕たくさん回復魔法かけちゃうよ」


 俺の例え話に、柊は手で宙にくるくると円を書いて『元気になぁれ〜』と俺に魔法をかけてくれた。そして最後ににっこりと微笑む。

 くー! 可愛すぎる。本当に柊は天使だ。


「柊、ありがとなー。元気出たわ」

「うん、それならよかった。……でも圭太くん、無理してない?」

「え?」

「だって、いつも何かっていうと泰雅くんの話をするのに、最近全然聞いてないなって思って……」

「そ、そうか?」


 いつもふわふわしている柊だけど、こういう時は鋭いなって思う。

 もともと気遣いができるやつなんだろうけど、もしかしたらオメガとして生きていく中で、まわりを注意深く観察する癖がついてしまったかもしれない。


「大丈夫ならいいけど……。圭太くん、元気が取り柄なのはわかるけど、たまには弱音を吐いてもいいんだよ?」

「柊、本当にお前は優しいやつだ! ありがとなぁ。今日はもう時間がないから、近いうちに話を聞いてもらおうかな」

「うん、聞かせて? その時はまた魔法をかけてあげるね」


 柊は、自分が大変な思いをしてきたからか、他人の痛みをわかろうとしてくれる。優しくて、可愛くて……柊には、幸せになってほしい。


「柊こそ、龍星とはどうなんだよ?」

「うん? 龍星くん? ふふ、変わらず仲良しだよ。でも、やっぱり大学に進学して、龍星くんも忙しいみたい。アルファとしてたくさんの期待を背負っているからね」

「そっかぁ。アルファも大変だな……」


 アルファは勝ち組なんて言われるけど、やっぱりアルファだって大変なんだ。持って生まれたものに恵まれているとはいえ、努力を怠ればそれなりになるだろうし、努力した分だけ報われると思う。


「俺たちも、負けてらんないな。……がんばろうぜ!」

「そうだね。僕たちにしかできないこともあるしね」


 俺と柊は固い握手を交わす。近いうちに寮でゆっくり話をする約束をして、学食を後にした。



「圭太くん、お疲れ様。今日もありがとうね」

「あ、大地(だいち)くん。お疲れ様」


 十一月も後半に差し掛かり、キッチンの簡単な仕事なら効率よくできるようになってきた。難しい料理はマスターにお願いするけど、俺がお客さんに出す料理も作っている。

 普段は泰雅が作ってくれることが多いけど、実は俺も料理を食べるのも作るのも好きなんだ。それが役になっているから嬉しい。


「今日の午後は大学の講義はあるの?」

「午後? 今日は買いたいものがあるから、駅方面行こうと思ってて」


 今日は午後の講義がないので、本当は午後までバイトに入りたかったけど、マスターの急な用事で午後は休みにすると伝えられた。なので買い物でも行こうと考えていたんだ。


「じゃあその前に、ちょっとランチにでも行かない?」

「ランチ?」

「そう。いつもはここの二階だけどさ、たまには外でランチもいいかなって」


 歳も近いから『大地くん』と呼ぶようになった俺だけど、その頃からか、大地くんとの距離が近くなった気がする。よく話をしたり一緒に食事をすることも増えた。とは言っても、いつもはここ『喫茶にしむら』の二階にあるマスターの居住スペースを借りていて、外に出ることはない。


「そんなに長居はできないけど、それでもいい?」

「もちろん」


 大地くんはベータだし歳も近いからか、元ベータの俺と話がすごく合う。泰雅とは違った意味で、一緒にいると楽なんだ。

 泰雅の心配する顔が一瞬よぎったけど、昼間だし、マスターにもちゃんと言って行くし、大丈夫だろう。もちろん、泰雅にメッセージを送るし。


「じゃあ、閉店後の片付けを手伝ったら、出かけようか」

「了解!」


 俺はそのあと、大地くんとランチの約束をしたことをマスターに伝えた。マスターは俺を近くまで呼び寄せ『彼は大丈夫なの?』と、小声で聞いてきた。

 バイトで雇ってもらうマスターには、(つがい)がいることをちゃんと伝えてある。今回の採用は、大学を通してのオメガ雇用枠なので、申告義務もあるんだ。


 俺は、ちゃんと泰雅に連絡を入れるし、短時間で解散予定だから大丈夫だと伝えた。

 一般的には、必要がある時以外は、第二の性の話題に積極的に触れることはあまりよく思われない。だからマスターは大地くんに聞こえないように、声をひそめながら話しかけてきたんだと思う。


 でも俺は、大地くんのことを気の合うバイト仲間だと思っている。マスターは、俺がオメガだから心配してくれたのかもしれないけど、友達と遊びに行くのは全然おかしくないだろう?

 マスターは俺の説明を聞いて納得してくれたけど、第二の性って、やっぱり面倒くさいなって思ってしまった。

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