25 クラス会のお知らせ
航平たちと久しぶりに会ったあの日以来、俺たちは、頻繁に連絡を取り合うようになっていた。
ちょうど夏休みに入ったというのもタイミングが良かったんだと思う。空白の時間が嘘のように、俺たちは他愛もない会話をしたり、気軽に遊びに行く約束をしている。
そんな中、八月のお盆に合わせて、高校三年生の時のクラスで集まる話があるんだけど、と連絡が入った。帰省する人も多く、集まりやすいんだと思う。
「泰雅、高校の時のクラス会やろうって誘われたんだけど……」
高校三年生のクラス会となると、泰雅はクラスが違うから一緒には行けない。俺の気持ちを尊重してくれるとはいえ、過保護な泰雅のことだ、あっさりと送り出してくれるとは思わない。
俺は泰雅のあまり変化のない表情を読み取ろうと、顔を近づけた。
「なんだ、キスでもねだってるのか」
「なっ! 違うって!」
「冗談だ」
泰雅の言葉とか仕草とか表情とか、些細なことで俺は一喜一憂する。感情が目まぐるしく変わるんだ。でも泰雅はいつも余裕で、俺ばっかりが振り回されているような気がする。
泰雅が真顔で『冗談だ』と言って済まそうとするのも、なんだか納得がいかない。
「なんだよ、俺ばっかりドキドキしてさ。泰雅も、たまには俺にドキドキしてくれてもいいのに!」
クラス会の話をしにきたはずなのに、本題が変わってしまっていることも構わず、話を続けた。俺ばっかりドキドキして、泰雅だけ余裕なんてずるいじゃないか!
ちょっと拗ねたように口を尖らせながら言う俺に、泰雅はふっと目を細めた。
「表情に出ないからわかりにくいかもしれないけど、心の中はいつも圭太のことばかり考えて、ドキドキしている。圭太だけじゃない、俺も一緒だ」
泰雅はそう言って、近づいた俺の唇にそっと触れた。
「おっ……おう、そうか……」
ストレートな泰雅の言葉と、唇に触れた温かな感触に、俺はモゴモゴと口をつぐんだ。
泰雅も同じ気持ちだってわかったのは嬉しいけど、ドキドキは静まるどころか大きくなっている。
「圭太の言葉ひとつひとつで、俺は心が揺さぶられるんだ。……ただ、言葉にするのはそんなに得意じゃないから、不安にさせているならごめん」
「そんなことない! 不安とか、そういうんじゃないんだ。……俺、泰雅が初めて好きになった人だし、初めての恋人だし、他の人がどうとかわかんないんだ。だから、俺のほうこそ、泰雅が不安になったりしてたらごめん」
「不安ではない。……けど、心配になることはある。圭太はベータの心のまま、行動を起こそうとするから」
「あー……。それは反省してます」
オメガになっても俺は変わらない……そういう気持ちを持つのは全然いいと思うんだ。ただ泰雅が言うのは、オメガのリスクへの自覚がなさすぎなんだよな。そのせいで、トラブルに巻き込まれたとも言えるんだし。
「圭太の行動を制限するつもりはない。けど、気をつけてほしい」
「もちろん気をつける。でもそんなに心配しなくても大丈夫だ。三年の時のクラスは、全員ベータだし」
「ほら、そういうところだ。さっき言ったばかりだろ」
泰雅からたしなめられ、俺は言葉に詰まった。さっき言われたばかりなのに、またやってしまった。
辻本とのトラブルがあった時も、もっと人気のある場所にいたら、あんなことにはならなかったかもしれない。同じように、自覚なしにベータの感覚のまま動いてしまうかもしれない。
このままじゃ、泰雅の心配の種が尽きないよな……。
「ああ、そうだな……ごめん。ちゃんとネックガードもしていくし、クラスメイトにオメガになったと報告もした上で、気をつける」
「行く前に、十分なマーキングをさせてくれ」
「会うのはベータだぞ?」
「それでもだ」
「うん、わかった。念には念をだし、泰雅の匂いに包まれていたほうが俺も安心するし」
泰雅はベッドに腰掛けると、俺を手招きした。そして足の間に挟むように座らせると、俺の頭の匂いをくんくんっと嗅いだ。
「風呂入ってないから臭いだろ!」
「風呂上がりに同じ匂いになるのもいいけど、風呂前は圭太の匂いが強くて好きだ」
「ほんと、泰雅はずるい。俺も泰雅の匂い嗅がせろよ」
抱え込まれていた俺はすっと立ち上がり、向きを変え膝立ち状態で、正面から泰雅に抱きついた。そしてスーハーと大きく息を吸い込んだ。
「うん、やっぱりこの匂いだ」
番になったからというのもあるかもしれない。けど俺は、そうじゃなくても泰雅の匂いは特別だと思っている。もし俺がベータのままだったとしても、きっとこの匂いは安心する匂いなんだと思う。
俺たちはしばらくの間、抱き合ったまま、思う存分お互いの匂いを堪能した。
そろそろ風呂に入らないとなぁと、名残惜しい気持ちで体を離し、俺たちは立ち上がった。
「本当は俺も一緒に行きたいけど……」
「さすがに無理だなー」
高校三年生の時のクラスの集まりだ。クラスメイト全員が泰雅のことを知っているとしても、ついていくのは違うと思う。
アルファとオメガの集まりなら、それぞれのパートナー同伴というのは普通かもしれないけど、ベータの世界観でそれは理解し難いことなんだ。
「まめに連絡入れるし、GPSチェックしていいし、帰りも店まで迎えにきてくれるだろ? 二次会も誘われても行かないで帰るからさ」
「二次会……圭太が行きたいなら……」
「大丈夫、クラスメイトと会うのも楽しみだけど、泰雅と離れたら、すぐに会いたくなると思う」
「もしかしたら、帰りの約束の時間より少し早く近くにいるかもしれないけど、許してくれ」
「あはは! 相変わらず過保護だなぁ」
泰雅の言う『少し早く』がどの程度だろうって、ちょっと心配に思いながらも、泰雅のそんな過保護がすごく嬉しい。
本当は俺だって、泰雅を連れて行って『俺の番だ』って自慢したいんだ。
「でもうちのクラスの奴らはみんな泰雅のこと知ってるし、どんな反応するのかなぁ」
「俺たちはいつも一緒にいたから、みんな納得するんじゃないか?」
「そうだな、航平も大樹も驚いてたけど、あっさり受け入れてくれたもんな」
久しぶりに会う予定のクラスメイトの顔を思い浮かべていたら、教室の隅の窓際で、いつも本を読んでいた辻本の姿を思い出した。
あいつは……来るわけないよな。
「どうした?」
「ううん、なんでもない」
一瞬顔が曇ったのを、泰雅は見過ごさなかったみたいだ。俺が誤魔化したのもわかったと思う。
それでも泰雅はそれ以上は言及しようとはせず、そのまま何もなかったように風呂に向かって歩いて行った。




