23 友達からの連絡
泰雅に高校の時の話を聞いた後、柊に連絡をした。柊には龍星がいるから大丈夫だとは思うけど、公衆の面前であんなことになったのは、俺にも原因がある。それに、やっぱり友達が傷ついているかと思うと、気になって仕方がなかった。
けど、電話に出たのは龍星だった。イレギュラーなことが起きたせいか、予定より早くヒートが来てしまったらしい。やっぱり、柊にかなりストレスがかかってしまったんだろう。申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
それから一週間がすぎて、週明けの月曜日。久しぶりに柊と学食のオメガエリアにやってきた。
「圭太くん、心配かけちゃってごめんね」
「柊が元気そうでよかった。……ごめんな、柊を巻き込んじゃって」
「巻き込むだなんて! 圭太くんは悪くないよ」
柊はそう言ってくれるけど、あの出来事は明らかな俺への逆恨みだ。辻本が口走っていた言葉を、柊も聞いている。ここで、ただの高校の時の同級生だと伝えても、逆に不安にさせるだけだろう。
俺は、柊が不安にならないように、少しだけ事情を話すことにした。
「あいつ、高校の時の同級生なんだ。オメガへの偏見があるみたいで、高校の時にもちょっとしたトラブルになってな」
「高校の時の同級生だったんだね……」
「ああ。まさか、あんな形でまた再会するとは思わなかったけど……」
卒業間際に高校を辞めたと風の噂で聞いたから、どこか遠くへ引っ越したのかと思っていた。だから、バッタリ街中で出会うとは思っていなかったし、柊まで巻き込んで、いきなり罵倒されるとは思わなかった。
高校三年間、教室の片隅で静かに過ごしていた辻本の姿を思い返し、首をひねった。本来の辻本は、きっとあんな暴言を吐くような奴じゃなかったんだ。あいつに、一体何があったんだろう。
「圭太くんも、大変だったね」
「ありがとな、柊。でも俺は、偏見になんて負けないさ。前を向いてまっすぐ進むだけ」
「圭太くんは強いね」
強いのかどうかはわからない。でも、どんな時でも自分らしくいたいとは思っている。ベータであってもオメガであっても、俺自身は変わらない。……そう思えるのは、ずっと泰雅が俺に寄り添っていてくれたからだと思う。
「泰雅がそばにいてくれるから、大丈夫って思えるんだ」
「僕も……龍星くんがいるから、頑張れるかな」
「ああ、きっと大丈夫だ」
柊は今まで、俺の知らないような世間の冷たい風に晒されてきたのかもしれない。けど、最近の柊を見ていると、きっと大丈夫だって思える。
「……でも、無理はするなよ?」
「うん、ありがとう」
「さ、今日は何食べようか?」
「僕、日替わりランチAがいいな」
「じゃあ俺はBにするかな」
先週末の出来事は、もしかしたら、オメガにとっては避けて通れない道なのかもしれない。それだけ軽んじてはいけない出来事だったけど、俺も柊も今はしっかりと落ち着いている。ちゃんと向き合うことができたんだと思う。
俺たちは、こうやってまた、日常に戻っていく。……そして、少しずつ強くなっていくのだろうか。
テーブルの上に運んできた日替わり定食を、美味しそうに食べる柊の笑顔を見ていたら、この笑顔をいつまでも守ってあげたいと強く思った。
◇
8月初旬。すっかり蝉の鳴き声も日常に溶け込み、今年もエアコンが手放せない季節になっていた。
「圭太。委員長から、連絡が来てる」
「え? 委員長?」
「ああ」
高三の秋にオメガに転化した俺は、授業をオンラインに切り替えた。そして年明け早々には、辻本とのトラブルに巻き込まれ、大学入学統一試験を受けることができなかった。
そのことを心配した何人かが連絡をくれたけど、詳しい話をすることはできず『家庭の事情』と、ごまかすことしかできなかった。
そんな感じだったので、いつの間にか、誰からの連絡も来なくなった。あの時の俺は、まだ正直に話す気持ちになれなかったから、連絡が途絶えたのは仕方のないことだと思っている。
けど、特に仲の良かった委員長からも連絡がこなくなったのは、さすがにこたえた。
委員長と大樹と俺と泰雅は中学の頃からいつも一緒の、仲良しグループだ。泰雅だけはアルファと診断され、他はみんなベータだったけど、俺たちの関係は変わらなかった。
「黙っていて悪かった」
「なんのことだ?」
泰雅は、急に俺に向かって深く頭を下げた。どうしたんだ、一体。
「圭太が、みんなからの返信に困っていることは気づいていた。だから先生を通して『自宅学習を優先しているから、直接本人に連絡するのは控えてほしい』と伝えたんだ。……委員長と大樹には、俺から直接連絡をした」
泰雅が、そんなことをしていたとは驚いた。
たしかに俺は、オメガに転化しトラブルに巻き込まれ、その上試験を受けられず落ち込んでいた。いろいろなことがいっぺんに起きすぎて、表面では強がっていたけど、結構しんどかったんだ。
そんな俺の状態を理解し、連絡をしてくれていたんだな。だからみんなは連絡するタイミングを逃し、今に至ったのだろう。きっと、完全な音信不通になるのは俺が寂しがると思って、泰雅が窓口になってくれたんだ。
「……委員長は、なんて言ってきたんだ?」
「久しぶりに、集まらないか? って」
「そっか、会おうって言ってくれたんだ」
クラスメイトだけじゃなく、委員長と大樹までもが音信不通のままになってしまって、もう忘れられているかと思っていたから嬉しい。
「気にかけてくれてありがとな。俺から距離を置くような態度を取っちゃったし、みんなが連絡くれなくなるのはしょうがないって思ってたんだ。でも、みんなも気を使ってくれてただけなんだな」
「圭太の元気な様子を教えてくれるだけでいいからって、何度か連絡はもらっている。その都度、圭太に伝えると言ったんだが、大学生活が落ち着いてからでいいよって言われたんだ」
卒業式で久しぶりに会った友達に、何か聞かれるかと思ってちょっとドキドキしたけど、みんな休み前と変わらない様子で接してくれた。
きっと聞きたいことはたくさんあったのに、俺のことを思ってそっとしておいてくれたんだな。
クラスメイトの気遣いも泰雅の優しさも、オメガに転化した俺には、今まで以上に身に染みるような気がした。




