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【佐々川心優の話】

●語り手・佐々川心優(みゆ)さん(30歳)  聞き手・高遠 編集部より深山くんがサポート

(※ライター注 心優さんは佐々川帆波さんの従姉妹。インタビュー時は子連れだったので、安全のため編集部の深山くんにも同席してもらいました。時折子供が割り込んできて話がそれますが、できる限りそのまま書き起こしてあります)



 こらー、はると。おうちの中でバタバタ走らないで!

 あ、息子がうるさくてすみませーん。今三歳十か月で、めちゃくちゃ元気っ子なんですよぉ。

 あの男の人……深山さんでしたっけ。うちの怪獣の面倒、見てくれてありがとうございます。

 はると、深山おにいちゃんの髪、そんな引っ張ったらダメだよ!


 こうやって子育てで忙しくしているうちに……帆波ちゃんがいなくなってから半年以上過ぎちゃったんですね。

 未だに信じられません。

 だって、あんな死に方……。

 すみません。思い出したら泣けてきました。互いに一人っ子同士だったし、住んでいた家も近かったから、私と帆波ちゃんは小さいころから姉妹同然だったんです。

 中学生になると部活とかで忙しくてあまり会わなくなりましたけど、五年前、私の結婚式のときには喜んで駆けつけてくれたんですよ。

 私は、昔からお嫁さんになるのが夢でした。

 お嫁さんというより、専業主婦……かな。両親が共働きで毎日せかせかしてたから、私はゆったり子育てしたいなーと思ったんです。

 だから、大学を出てすぐ婚活を始めました。

 え、ちょっと早いですか? そんなことありませんって。二十代で子供を産みたかったので、ちょうどよかったですよ。

 婚活にはマッチングアプリを使いました。幸いにも、今の夫……(てつ)くんとそのアプリで出会って、すんなり結婚できたんです。

 アプリの使い心地ですか。うーん、人それぞれじゃないですかね。

 結婚相談所の方が安心感はあります。だって、アプリだと結婚が目的じゃなく、遊び相手が欲しくて登録してる人もいますから。そういうのに引っかかると時間が無駄になっちゃうでしょう。

 それに、アプリってスマホで簡単に登録できるから、手軽な分『変な人』も多いんです。

 一昔前、出会い系サイトっていうのがありましたよね。あれもそうでしたけど、ネットで素性の分からない人と繋がるのって、トラブルになりやすいんですよ、やっぱり。

 私は幸い何もなかったですけど、同じアプリを使ってる子がいろいろ言ってました。

 しばらくアプリのメッセージ機能でやり取りして、いざ実際に会ってみたら登録してあるアイコンの写真と全然違う人が来た……なんてことはしょっちゅうあるみたい。

 粘着質な人にネットストーカーみたいなことされたみたいな話も聞きますし。

 でも、そういうトラブルって結婚相談所でも起こるでしょう?

 現に帆波ちゃんも、結婚相談所の男性会員からしつこくされたってぼやいてましたよ。

 帆波ちゃんのプロフィール写真を見た男性が、帆波ちゃんが断ってるのにもかかわらず、運命の人だとか言って迫ってきたそうです。

 まぁ、すぐ収まったみたいですけど。


 だから、帆波ちゃんが結婚相談所で会った人のお嫁さんになるって聞いて、少しだけ心配でした。

 だって帆波ちゃんって、『何が何でも結婚したい』ってタイプじゃなかったから。

 アニメのキャラが恋人だっていつも言ってて、仕事以外はそのキャラのことばかり考えてました。現実の男性には興味がなかったんですよ。

 そんなこんなしているうちに三十歳を過ぎちゃったもんだから、帆波ちゃんの両親が強引に結婚相談所に入会させたみたいです。

 あとはもう『流れ』じゃないですかね。

 本人たちそっちのけで、両親とか結婚相談所の人が、二人の結婚を猛烈に後押ししてました。帆波ちゃんたちは、その流れに乗っただけというか……。

 実際、帆波ちゃんはお相手の人……陽治さんと何度デートしても、結婚の現実的なビジョンが見えてなかったような気がします。

 一緒にいて楽しくなかったわけじゃないみたいでしたけど、いつまでに入籍して、どこに新居を構えて、子供はいつもうけるか……そういう具体的なことはちっとも考えてなかったんじゃないかな。


 もっとも、お相手の陽治さんも、帆波ちゃんと似たような感じでした。

 私は結婚式の前に一度、彼に会っています。帆波ちゃんが紹介してくれて、食事会をしたんです。私の夫や子供も一緒でした。

 そのとき、陽治さんは帆波ちゃんとのデートの思い出とかじゃなく、趣味のツーリングのことばかり喋ってました。

 私の夫は、食事会から帰ったあと『ありゃ、結婚するより男友達と遊ぶ方が楽しいタイプだな』ってポツリ。私もそう思います。

 もういい歳だし、周りは歓迎してるし、相手にも大きな瑕疵はない――だから帆波ちゃんたちは結婚を決めたんじゃないですか。

 この人『が』いい、じゃなくて、この人『で』いい、みたいな。

 とにかく、二人ともあんまりよく考えないまま物事が進んでた気がします。


 まぁでも、結婚って案外そんなものなのかもしれないですね。男女のドキドキはなくても、夫婦として一緒にいるうちに情が湧くだろうし。

 流されるみたいな形だったとしても、二人が式を挙げることになって私はよかったって思いました。

 和装の結婚式も、とーっても素敵でした。

 帆波ちゃん、最初はドレスを着てチャペルで式をしたいって言ってたんですけど、結婚相談所の人に強く勧められて白無垢にしたみたい。

 茶髪だったのを黒髪に戻したのもあって、よく似合ってましたよー。

 あ、写真見ます? 式の途中、私のスマホで撮ったんですよ。

(※ライター注 白無垢姿の帆波さんが一人で写っている画像を見せてもらう。あとで当方のメールアドレスにも転送してくれました。この項目の最後に添付)


 あ、こら、はると! ママ、お姉さんとお話してるんだから邪魔しないで。

 え……? おじさんがいる? この写真に写ってるの?

 ママ、このときは帆波ちゃんしか撮ってないよ。写ってるのも一人だけでしょ。

 やーねー、もう。何を見間違えてるのかな。ほら、はると、あっちでお兄ちゃんと遊んでおいで。

 もー、すみません。あの子ってば煩くて。

 ……そういえば、結婚式で撮った他の写真を見てるときも、はるとはしきりに『おじさん』とか『黒いおじさん』って言うんですよ。誰のことだろう。


 それより、改めて花嫁さんの写真を見てください。帆波ちゃん、綺麗でしょう。

 なんとなく……で結婚に踏み切ったのかもしれないけど、少なくとも式の日は幸せそうに見えました。帆波ちゃんも、陽治さんも、双方の親も。

 みんな笑ってた。このまま温かい家庭になると確信してたはずです。

 なのに帆波ちゃんが『あんな死に方』をして……。


 ニュースになったのでご存じですよね。

 帆波ちゃんは結婚式の三日後に、マンションの屋上から飛び降りたんです。

 警察は、自殺と断定しました。

 帆波ちゃんが飛び降りたところに争った様子はなかったし、監視カメラか何かの映像でも、自分で柵を乗り越えるところがしっかり映ってたって……。

 あと、遺書みたいなものがあったんです。

 でも私、帆波ちゃんが自殺するなんて信じられない。何かの間違いに決まってます!

 だって、死ぬ三日前には花嫁衣裳を着て笑ってたんですよ。

 それに何より、遺書の内容が……。

 あれじゃ、いくらなんでも陽治さんが可哀そうすぎます。


 え、どんな内容だったか……?

 正確に言うと、遺書じゃなくて、最後のメッセージになるのかな。

 帆波ちゃん、SNS上に婚活用のアカウントを作ってたんです。親しい人たちだけに限定公開する形で。

 当然、お相手の陽治さんは閲覧を承認してもらってました。私もそうです。

 帆波ちゃんが飛び降りて、警察に事情を聞かれたとき、私たちはそのアカウントの存在を思い出しました。

 それで慌てて見てみたら、最後の投稿は帆波ちゃんが死ぬ二十分前にされてました。

 警察曰く、そのポストが遺書代わりなんじゃないかって……。

 そう言われてみれば確かにそうなんですけど、でも、内容が変なんです。

 後日、落ち着いたらスクリーンショット送りますね。


 そのポストを見ていて、私、思ったんですけど……。

 帆波ちゃん――もしかして、陽治さんの他に好きな人がいたのかなぁ。



※添付 (白無垢姿の帆波さんの写真)

※心優さんより、帆波さんのXアカウントのスクリーンショット待ち

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