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【坂井陽治の話】

●語り手・坂井陽治さん(36歳)  聞き手・高遠



 わけが分かりませんよ。

 運命の人って、なんなんですか。帆波には他に、付き合ってる男でもいたんでしょうか。

 でも、少なくとも結婚式の日まで、そんなそぶりは全然なかったんです。アニメだかVtuberだか、よく分からないキャラクターが好きだったのは聞いてましたけど、空想と現実の区別はついてましたよ。

 結婚生活がこれから始まるところだったのに……。


 帆波と結婚しようと思ったのは、正直なところ、親の勧めがあったからです。結婚相談所に入会したのも親に言われたからでした。

 僕、そもそも結婚する気なんてなかったんですよ。だって結婚って、相手の人生がのしかかってくるじゃないですか。子供が生まれたら、その分まで。

 誰かの生きざまに責任を持つなんて、面倒臭くて嫌だなって……。

 でも、気付けば僕も三十五歳を過ぎてて、会社の同期はほぼ結婚してるし、中には幼稚園に行ってる子の親もいます。なんだか、一人取り残されている気がしました。

 そのときちょうど、親に『早く孫の顔を見せろ』って言われたのもあって、婚活を始めました。

 結婚相談所では最初、二十代の女性を紹介してほしいって頼んだんです。親に孫を抱かせるなら、嫁さんは若い方がいいでしょう。

 でも、相談員さんが勧めてきたのはみんな三十歳以上の人でした。

 その中で、帆波が一番若かったんですよ。容姿は僕の好みから少し外れていましたけど、そんなわけで、試しに会ってみることにしました。

 そしたら、帆波も僕と同じでさほど結婚願望があるわけじゃなく、親に拝み倒されて結婚相談所に入会したクチでした。互いに周りに流されている者同士だからか、『何が何でも結婚しよう』みたいにギラギラしていなくて、気楽でしたね。帆波と一緒にいると、疲れないんです。

 帆波も『あなたの前だといつもの自分でいられる』と言ってました。

 どうも以前、変な男に付きまとわれたことがあって、僕と会うのに幾分身構えていたようですが、杞憂だったと胸を撫で下ろしてましたよ。

 夫婦として一生を共にする……それを考えたとき、ありのままの自分を出せるというのは大事なことだと思いませんか?

 だから、半分は親の敷いたレールと分かっていながらも、僕は帆波にプロポーズした。

 帆波はすぐさま受け入れてくれました。

 少なくともそのときは、彼女の目に僕だけが映っていた。僕の奥さんになる、と覚悟を決めてくれていたはずなんです。


 様子がおかしい、と思ったのは、式を終えて用意していた新居に行ってからでした。

 いわゆる新婚初夜、というやつですけど……式やら何やらで疲れていたので、その日は色っぽいことは何もなく、僕らはさっさと眠りにつくことにしたんです。

 夜遅くなっていくほど、帆波の表情が暗くなりました。

 時折、はっと振り返ったりして……まるで、誰かの呼び声に気付いたみたいに。

 僕の隣で、なぜかひどく居心地が悪そうにしていました。

 そしてポツンと


『違う』


 って……。

 翌日になると、帆波の言動はもっとおかしくなりました。

 僕の顔を見て肩を竦めたり、首を横に降ったり……。具合が悪いのかと思って聞いても、そうじゃない感じでした。


『あの人が呼んでる』


 帆波はそう言ったんです。

 もちろん、『呼んだ』のは僕じゃない。僕が必死で身体を揺さぶっても、帆波はまるで反応しなかった。代わりに、妙にうっとりした顔で、何もない空間を見るんです。

 まるで、そこに誰かがいるみたいに。

 その日はそんな調子で埒が明かなくて、もう一晩経っても変わらなかったら帆波の親御さんに連絡しようと僕は考えました。

 でもその前に、最悪なことが起きた。

 日付が変わってすぐ、帆波は新居のマンションの屋上から飛び降りました。

 すぐに自殺と断定されて、それからSNSの存在を思い出して、見てみたらあんなメッセージが……。


『運命の人が呼んでるから、そっちに行くね』


 くそっ。どうしてこんなことになったんだ。俺の何が悪かったんだよ。

 やっぱり結婚なんて、するもんじゃないな……。


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