闇医者登場
「ピンポーン」
インターホンが鳴った。
俺はまだ床に膝をつき、息を整えていた。胸の奥――心臓があるはずの場所が、今もじんじん熱い。
リナは涙の跡を残しながらも、満面の笑みで部屋中を走り回っている。
車椅子は部屋の隅で、もう必要ないと言うように静かに佇んでいた。
「……ほんとに歩けるようになったんだな」
「当たり前でしょ!信じられないけど……でも、信じるしかないのよ!ほら、ジャンプだってできるわ!はっ!」
ぴょんっ。
高級絨毯の上で白いワンピースがふわりと舞う。
リナの笑顔は、まるで太陽みたいに眩しかった。
「いや、普通にすげぇ……何したんだ?」
「知らないわよ!でも……本当にありがとう」
その一言に、胸の奥が熱くなる。
だが――
「で、なんでキスしたのよ!?いきなり!」
顔真っ赤。
どうやら人工呼吸をするか迷ってたら、勢いで唇が触れたらしい。
……そんな事故、リアルにあるんだな。
「いや俺も知らねぇよ!?苦しくて倒れてて、気づいたら唇が柔らかくて――」
バチッ!
指先から火花が飛んできた。
「言うなバカ!!」
「ひぃっ!?痛っ……静電気系ツンデレかよ」
「ち、違う!ツンたまたまデレが漏れただけよ!」
いや、それを世間ではツンデレって言うんだよ。
******
しばらくして扉のロックが解除されると、扉が勢いよく開いた。
「おーっす!入るぞー!リナちゃーん!愛してるぜー!!」
金髪・サングラス・白衣+アロハ。
医者というより、夏フェスから逃げてきた犯罪者。
「……誰?」
「この世界で一番信頼できる闇医者よ」
「信頼の方向性どうなってんだ」
「おっ?あんたがリナを泣かせた男か!男気あるじゃねぇか!」
「いや泣かせてねぇから!?感動で泣いてたんだよな!?」
「そ、そうよっ……!もう黙って!」
男は俺の肩をバンバン叩く。
「オレはDr.クロ。趣味はギャンブル、特技は脱税!」
「堂々と言うなよ」
「困ったら言え。国の一つくらい消してやる」
「怖っ!!」
リナが咳払いする。
「クロ、私の足を診て」
クロはリナの足を一瞥し、固まった。
「……歩いてるじゃん。いや嘘だろ。筋萎縮どうした?」
「治ったの。さっき」
クロが俺を見る。
笑顔が消え、医者の眼になった。
「……お前、こっち来い」
ソファに座ると、クロがそっと胸に手を当てる。
微かな温かさが伝わってくる。
「………………は?」
「何だよその顔」
「いや、ちょっと信じられねぇ……」
クロは青ざめ、俺の胸を軽く叩く。
「心臓どこいった?」
「……は?」
「無いぞ。完全に無い。代わりに――」
飲み込む音がした。
「魔石が入ってる。最高位の生命魔核。……神の臓器だぞこれ」
「は?」
「お前……概ね人間だ」
「概ねって何だよ!!」
リナが俺の腕をぎゅっと掴む。
「アヤトはアヤトよ。文句ある?」
「ひゅ〜!かっけぇ!惚れるぜリナちゃ――」
「黙れ」
秒速で制圧。強い。
******
「アヤト。冒険者にならない?一緒に戦いましょ」
その声に胸が熱くなる。
――誰かを守れる自分でいたい。
昨日から、そう思い始めていた。
だが、クロが低い声で遮る。
「やめとけ」
「なんでだよ」
「冒険者登録には魔力測定がある。エリート冒険者が10なら……お前は1000だ」
「……は?」
「測定した瞬間、国に拘束。研究所でバラされる。まぁ、あくまで俺の予想だから冗談だ。」
「冗談じゃねぇのが冗談じゃねぇ!!」
クロは親指を立てる。
「冒険者よりサポーター。後方支援、治療、護衛。これが安全だ」
リナは唇を尖らせつつ、微笑む。
「じゃあ決まりね。私のパーティーに入りなさい」
「……いいのか?」
「当然よ。私の命の恩人で――」
顔が真っ赤になる。
「……大切な人なんだから」
胸の魔石が、ドクンと鳴った。
クロが咳払い。
「それと、もう一つ残念なお知らせだ」
「まだあんのかよ」
「魔法は使えない」
「は??」
「魔力は海だが魔力経路がゼロ。だから魔法は出せない」
「じゃ、作れば……?」
「町一個分の体積になれば可能だな」
「それもう人じゃねーだろ!!」
俺の夢が、また一つ砕け散った。
******
帰り際、クロが俺の耳に囁く。
「アヤト。絶対に誰にも触れるな。キスなんてもってのほか」
「……あれは理由があって」
クロは俺の話も聞かずに続ける。
「お前の血は“治癒”じゃない。世界の構造を書き換える力だ」
背筋が凍る。
その瞬間――
窓の外。ビル影で光る双眼鏡がこちらを狙っていた。
誰かが……俺たちを見ている。
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