眠れぬ夜、目覚める力
はじめまして。拙作を読んでいただきありがとうございます。
この物語は、平凡な青年が“自身の血がエリクサー”だと知らぬまま、世界の変化に巻き込まれていく物語です。
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会社を出た夜道は、やけに静かだった。
街灯の明かりが、まるで濃い霧の中に溶けていくみたいにぼやけて見える。
耳が良くなったせいか、遠くの車の音も、人の話し声も、妙に鮮明に聞こえた。
……気味が悪いほどに。
家に帰ると、服を脱いでそのままシャワーを浴びた。
汗と油の匂いが流れていくのを感じながら、ふと腕を見る。
昼間に擦りむいた傷が――消えていた。
跡形もなく、皮膚は新品みたいにツルツルしている。
「……は? いや、確かにあったよな……?」
慌てて鏡を覗き込むと、顔色も良すぎるくらい良かった。
目の下のクマも消えている。
なんなら、肌の艶まで増してやがる。
不健康な工場勤めの男が、美容パックでもしたみたいだ。
おかしい。どう考えてもおかしい。
だけど、身体の奥からあふれてくる“力”のようなものが心地よくて、
しばらく湯船につかりながら、ぼんやりとその感覚に身を任せていた。
――その時だった。
湯面が、淡く光った。
まるで湯そのものが“生きている”みたいに、静かに揺れている。
指先を触れた瞬間、光がスッと引いていく。
まるで、俺の体から放たれた何かが水を浄化したように。
「……なんだよ、これ。」
風呂を出て、タオルで頭を拭きながら鏡を見ると、
胸の中央――昼間、痛みにのたうち回った場所が、
まだほのかにピンク色に光っていた。
心臓の鼓動に合わせて、ぼんやりと脈打っている。
寝ようとベッドに入っても、全然眠れない。
体が熱い。血が燃えてるみたいだ。
頭の中で、何かがずっと鳴っている。
声とも音とも言えない、不思議な響き。
「……返せ……」
微かに聞こえた。
誰かの声。
それが耳の中じゃなく、心臓の奥で響いた気がした。
「返せって……何を?」
返事はない。ただ、胸の鼓動だけがどんどん速くなっていく。
やがて、光が強くなり――そして、ふっと消えた。
その瞬間、体の痛みも、熱も、すべて静まった。
気づけば、窓の外が少し明るい。
朝になっていた。
「……寝てたのか、俺。」
夢だったのか、現実だったのか。
ただひとつ確かなのは――
俺の中で何かが、もう“人間じゃない何か”に変わり始めているってことだった。




