覚醒の兆し
光が口元から漏れ出した瞬間、全身が焼けるように熱くなった。
心臓の鼓動が異様に早まり、血が逆流するような痛みが走る。
周囲を見渡すと、時間が止まったかのように静まり返っていた。
同僚のおっさんも、蛍光灯のチカチカも、ピクリとも動かない。
――何だ? これは死ぬ前に見るっていう走馬灯か?
だが、なんでこんなに心臓が痛ぇんだ。
手の甲の血管が浮き上がり、焼けつくような痛みが全身を駆け抜ける。
しばらくすると、止まっていた時間がゆっくりと動き出し、同僚が口を開いた。
「んー。それじゃあ、俺は女房と娘がいるから帰るわ。あ! さっきの夜の話は言うなよ。ん? どうした? 具合でも悪いか?」
俺は手を振って「大丈夫だ」と合図を送る。
――なぜか本能が、“バレてはいけない”と叫んでいた。
「そうか? じゃあ、また明日な。」
同僚のおっさんが帰って数分後、俺は息ができなくなった。
胸を押さえ、その場に倒れ込む。心臓の奥に、何かが埋め込まれていくような感覚――。
「はぁ……はぁ……何だ、これ……?」
その時、吐いた血だけでは済まなかった。
胸元が黄金に輝き始める。まるで心臓そのものが消え、代わりに何か異質なものが生まれたかのようだった。
痛みは徐々に消え、気づけば先ほどの激痛が嘘のように治まっていた。
俺は洗面所に向かい、顔を洗って水を飲む。
「……まずい。」
普段飲んでいる水が、水道管の味しかしなかった。
それに――視界が異常だった。真っ暗な部屋でも、猫のようにすべてが見える。
明らかに、普通じゃない。
胸元を見ると、さっきまで痛かった場所が、淡いピンク色に光っていた。
「ま、まさか……これは魔石か? でも……ありえねぇ。」
魔石――ダンジョンや魔物の体内にしか存在しない、生命の核のような物質。
それが人間にできるなんて、聞いたことがない。
けれど、今この身体に“それに似た何か”が宿っているのは間違いなかった。
身体の調子はいい。
視力、聴力、味覚……すべてが異常なほど鋭くなっている。
だが、身体は重い。まるで、この肉体が新しい力を受け止めきれていないようだった。
「……とりあえず、今日の仕事は終わったし、帰って考えよう。」
俺は会社を出た。
変化の理由なんてわからない。
けれど、あの胸の光――あれだけは、何か重大な“始まり”を告げている気がした。
夜は静かだった。
だが、俺の中では、何かがずっと鳴り響いていた。
世界が変わる音――その予感だけが、確かに胸の奥に残っていた。




