銀条タケルという少年の過去
銀条タケルは、生まれた瞬間から“勝ち組”として世界に迎えられた。
大手広告コングロマリット、銀条グループ。
日本だけでなく国際的な広告戦略と政治ネットワークを持つ巨大企業。
その社長を父に、完璧な礼儀作法と社交界の教養を持つ母を持ち、
タケルは“エリートたる宿命”の中で育った。
寝る前に聴かされるのは童話ではない。
幼いタケルの枕元で読み聞かされていたのは、
《世界の成功者列伝》
《帝王学――人の上に立つために》
そんな声が、子守唄の代わりだった。
幼少期から魔法の才能も突出していた。
属性は希少な“空属性”。
テレキネシス、風圧、視界操作――
育てれば軍事レベルの支配力を持つと評価された。
教師は言った。
「あなたは選ばれた子です。トップに立つための、天に選ばれた才がある」
タケルは信じた。
疑う理由はなかった。
自分は特別で、上に立つのが当然だと。
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中学、高校と、タケルの人生は常に上昇する線を描いた。
成績はトップ、魔法もトップ。
人脈も財力もある。
家格でも実力でも、同世代に勝てる者はいない。
生徒会長――
当然の結末だった。
周囲は従い、女子は憧れ、男子は肩をすくめる。
それが普通の日々。
だが、ひとりだけ違う少女がいた。
ホテル王国。
その若き社長――リナ・クレスト。
同級生であるはずなのに、彼女はすでに“社会の頂点”を生きていた。
タケルは初めて、自分と同格の存在を見た。
いや――認めたくはないが、
気づいていた。
自分と同じ高さに立つ者だと。
リナは才気があり、美しく、凛としていた。
人を見下さず、それでいて誰よりも高い場所にいた。
傍らに立つ姿が、似合うと思った。
この世界で、並び立つのは自分だけだと。
タケルの中で決まった。
「あの女は、いずれ俺と家庭を築く運命なのだ」
それは恋というより、
所有欲と運命論と誇りの融合。
だが――
それは突然だった。
リナが事故で車椅子になったという噂が流れた。
最初、タケルは冷静だった。
「そんなもの、彼女ならすぐ乗り越える」
だが現実は冷酷だった。
リナは静かになり、校舎に姿を見せなくなった。
周囲は労った。
教師たちも、同級生も、優しく声をかけた。
タケルだけが――違った。
「弱った姿を見せる彼女を、愛せない」
完璧であるはずの存在が、不完全になった。
彼は怖かった。
失望したわけではない。
むしろ逆だ。
完璧な存在が傷ついた姿を見ると、
胸が締めつけられて、息が苦しくなる。
それを“弱さ”だと認めたくなかった。
だから、離れた。
そして自分に言い聞かせた。
「強き者には強き者がふさわしい。
…幼い夢を引きずる必要はない」
タケルは、リナから目を逸らした。
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それが、昨日までの話だった。
校舎の廊下。
歓声と光の中を歩くリナの姿。
――歩いている。
車椅子も杖もなく。
あの頃より強く、美しく、誇り高く。
胸の奥に、何かが破裂した。
取り戻したい。もう一度隣に立つ資格を証明したい。
そう思った。
だが――リナの視線の先に、知らない男がいた。
魔力も才能もない、凡庸な男。
優しい空気を纏いながらも、どこか泥臭く、
生きる匂いをまとった人間。
そしてリナが、こう言った。
「大事な人」
タケルの世界が音を立てて崩れた。
心には“誇り”ではなく、
もっと鋭く、もっと黒い感情が満ちた。
嫉妬。
恐怖。
認めたくない敗北感。
そして――
「あの男を排除する」
それが、銀条タケルの選んだ答えだった。
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また、次回の投稿は本日の12:00を考えております。




