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闇医者の戦い方

スライムの残骸を片付け、俺たちはさらに奥へ進んだ。

足元の粘液が乾くたびに、胸の魔石がじくりと疼く。


初めて自分の力で魔物を倒した――その高揚感が、まだ身体の奥で燃えていた。

だけど同時に、体のどこかが冷えているような、そんな変な感覚が残る。


「……いけるかアヤト。顔、半分死んでるぞ?」


クロが肩を軽く叩く。


「お前の顔も似たようなもんだろ……」


「は?俺はいつだって爽やかイケオジだが?」


「どこが」


リナが即答した。

クロは胸を押さえ、嘘泣きする。


「ツンデレJKに刺された……!おじさんのハートに魔法ダメージ……!」


「はいはい、元気ならそれでいいわ」


リナは苦笑しながら先を歩く。

その背中を追いながら、俺も気持ちを落ち着かせた。


――だが。


「火球っ……撃てぇぇぇ!!」


「シールド!前衛、下がるな!!」


奥から冒険者たちの怒号。

武器の衝突音、魔法の炸裂音。

空気がピリつく。


クロは一度視線を向けてから、すぐ手を上げた。


「んーー、一旦引くぞ」


「え?助けなくていいのか?」


「今の俺らが割って入ったら逆に危険だ。

それにお前、今“生身+不死身バフ”だろ」


「…………否定できない」


リナが小さく囁く。


「今あなたが目立つのはまずいわ。

回復の仕組みとか……色々、バレたら困る」


胸の魔石にそっと触れる。

トクン、と脈打った気がした。


(……そうだ。俺が普通じゃないって、誰かに気づかれたら)


病院じゃなく――研究所行きの未来だ。


「なら……戻るか」


踵を返そうとしたその時。


「おっと」


クロの足が止まる。

前方の暗闇で、黄色い光が無数に揺れた。


ギラッ。

赤い目がこちらを睨む。


「……ゴブリンの大群?」


ぎしぎしと不快な声。

剣、牙、爪。ぞろぞろと群れが姿を現す。


「おいクロ、これ避けられるか?」


「余裕。俺、優しいからな?

“ガキにはバトルさせない運動”してる」


言い終えるより先に――


クロが軽く右手を上げた。


パンッ!!


乾いた破裂音。

同時に、先頭のゴブリンの頭が霧になった。


「…………」


俺とリナ、固まる。


「……拳銃?」


クロは満面の笑み。


「そう、男のロマン。あと医者として切開もできる便利ツール」


「いや用途がおかしい」


「え?心臓に1ショットで開胸できるんだぞ?

業務効率爆上がりだろ」


……医療倫理ってなんだっけ。


ゴブリンたちが一斉に突撃。

叫び声、牙、血の臭い。


クロの身体がひらりと揺れる。

空間が歪む。


「“Point Gate”」


銃口とは別の空間が開き、

そこから弾丸が飛び出す。


パン、パン、パンパンパンッ!!


見えない方向から同時に頭蓋が砕かれ、敵が倒れていく。


「空間経由の射撃……」


リナが息を呑む。


クロは指を鳴らし、にやりと笑う。


「空間魔法、便利だろ?」


「キメ顔するな。さっき重いって文句言ってたじゃない」


「戦闘中は強がりたいお年頃なんだよ。褒めなさい」


言い合いながらも、クロの腕は微動だにしない。


次の瞬間、周囲の空間が六つ裂けた。


「“Hex Gate Burst”」


六方向から弾丸が交差し、

オーケストラのような連打で次々に敵の頭を吹き飛ばす。


ドシュッ!ドシュッ!ドシュッ!


生温い血と脳漿。

地面は真っ赤な池に変わり、静寂が戻った。


俺は呆然と呟く。


「……銃だけじゃないんだな」


「そりゃそうだ。俺は“ただの医者”じゃねぇ」


銃を回して腰に差し、ゆっくり拳を握る。


「魔法も改造も、全部“生きるため”に使う。

殺すためじゃなく――救うためだ」


クロの左目の奥、埋め込まれた魔石が青く光る。


リナが以前言っていた。

クロは昔、ろくでもない奴で、借金の代償に身体を実験に使われたと。

魔法も身体能力も制限され、副作用に苦しむ身体になった、と。


(……それでも立ってる男なんだ)


全てのゴブリンが沈黙した時、

クロの膝がガクッと落ちた。


「っ……はぁ、はぁ……クソ……!」


顔色は青白い。

腕が震え、冷や汗が滲む。


リナが駆け寄る。


「……副作用、出た?」


「当たり前だろ。

体の機能を魔石に置き換えてんだ……

長時間使えば……こうなる……っ」


クロは静かに膝をつく。


「魔法だけじゃ足りねぇ。身体だけでも足りねぇ。

両方削って……俺はここに立ってんだよ」


「クロ……」


「だからよ、アヤト」


クロは苦しそうに、それでも誇らしげに笑う。


「お前の力は……簡単に手に入れたもんじゃねぇ。

大事にしろ。……その命は、“便利道具”じゃねぇ」


胸の魔石が熱くなる。

心臓じゃない、もっと深いところが響いた。


気づけば、クロの足元には、静かに転がる死体の山。


リナが静かに言った。


「帰りましょう。今日は……十分よ」


「……そうだな」


撤収だ。

俺たちは入口へ向かう。


クロは歩きながら笑う。


「ふぅ……腹減った。

帰ったら焼肉……いや鍋がいいな。タンパク質、大事だし」


「……まだウサギ鍋食べるの?」


「もちろん。あとスライム汁も。美容に良さそうだろ?」


「絶対嘘」


リナが呆れ、クロは俺の肩を叩く。


「よし。退場だガキ共。今日はよく頑張った」


夜の外気は冷たく、透き通っていた。

街の灯りがじんわり目に染みる。


俺は空を仰ぎ、ふと呟く。


「なぁクロ」


「んだよ」


「……俺、いつかあんたみたいになれるか」


クロは苦笑して――笑った。


「無理」


「即答!?」


「俺は俺。

そして――お前は、お前の“化け方”がある」


胸の魔石が鼓動する。

夜風が肌を撫でた。


(化け方……か)


いつか分かる日が来るのだろうか。


「じゃあ……帰ったら鍋にするか。ゴブリンの」


「ウサギですらないの!?スライムは絶対やめて!!」


「ハハッ、いいねぇその若さ!

じゃ俺は焼酒煮込みで――」


「クロは胃を労れ!!」


夜空に笑い声が弾けた。


戦いは終わった。

でも冒険は――まだ、始まったばかりだ。

もしよろしければ、評価とブックマークの方をよろしくお願い致します。


次回は11/10中に投稿したいと考えています。

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