戦いの後はパンツ!パンツ!パンツ!
――夢を見ていた。
懐かしいはずなのに、心臓を冷たい手で握られるような夢。
古い木製のテーブル。魔道ランプの揺れる光。
父は火魔法で肉を温め、母は水魔法でスープを注ぎ、
妹は光魔法で皿をきらめかせながら笑っていた。
温かくて、賑やかで、魔法が飛び交う希望の食卓。
――ただ、その輪の中に俺はいなかった。
「……いただきます」
誰かの声が響く。
俺は端の椅子で、小さな乾いたパンと水の入っていないコップを見つめている。
魔法が使えない俺に、席はなかった。
気づけば家族と時間をずらして食事をし、
声を交わさない日々が一ヶ月以上続いた時もあった。
中学の頃からバイトをして、
期限切れ前のパンと弁当が、俺の唯一のご馳走だった。
(俺もいつか、誰かを守れる人間に……)
そう願いながら。
――夢は、そこで途切れる。
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目を開ける。薄暗い天井。昨日の泥と血の感覚が蘇る。
胸の魔石が、ドクンと脈打つ。
……そして気づく。
俺、パンツ一枚。
洗濯中、他の服なし。
社会的に終わりそうな朝に、ドアが叩かれた。
「アヤト!開けて!今すぐ!」
「ちょっ、待っ――」
ガチャ。
「おは――……っっ!?」
リナの目が見開かれる。
金髪、ワンピース、天使みたいな顔。
対して俺、パンツ。世界、終了。
「な、なんでパンツ!?犯罪!?変態!?」
「いや、服洗ってて……昨日死にかけたし……」
「死にかけてパンツは繋がらない!!」
震えるリナ。
カーディガンを投げつけられる。俺装備。そして精神ダメージ。
「……で、仕事は?」
「退職代行使った」
「魔法より便利ってどういう世界よ……」
スマホが震え、闇医者クロから着信がきた。
クラからの電話=何かあると俺は思った。
するとクロの陽気な声が携帯から聞こえてきた。
『よし結論。二人は今日から一緒に暮らせ』
「は?」
「ちがっこれはその!!安全で!!でも嫌じゃないけど!!あぁもう!!」
耳まで真っ赤で叫ぶリナ。
クロはふざけながらも真剣に言う。
『つまりだな、アヤトはお前さんは狙われる。だから、少しでも狙われないようにリナの近くにいろ。それが一番安全だ。』
リナは小さく息を吸い、そっぽ向きながら袖をつまむ。
「……来なさい。今日から一緒に住むわ。守るためよ。ほら、勘違いしないで」
(不器用な優しさ、刺さるだろ)
「ありがとう。頼らせてもらう」
「別に……頼られるの、嫌いじゃないけど」
電話が切れ、静寂につつまれる。
しばらくするとリナが口を開く。
「……荷物少なすぎじゃない?」
「服と歯ブラシだけ」
「人生の背景、重すぎて笑えないんだけど」
「うるせぇ」
何かこういった会話も楽しくていいな。
「明日、放課後合流して……初ダンジョンよ」
「怖いけど楽しみだな」
「覚悟しなさい。パーティーリーダーとして鍛えてあげるから」
胸の魔石が、ぽっと暖かく灯る。
パンツ一丁で始まった朝でもいい。
俺は、ここから変わる。
「じゃあ、引っ越すか」
「…その前に服買うから!絶対!」
「すいません……」
選ばれなかった俺が、今は誰かと並んで歩いている。
明日、ダンジョンへ。
胸の奥が、期待で震えた。
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また、次回の投稿は明日の7:30を考えております。




