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マリアの告白

 相変わらずマリアは可憐だった。どうやったらあんなにふわふわした巻き毛になれるのかしら?クリスティンは自分のまっすぐでさらさらの銀髪に思わず触れてしまう。

 マリアに見られているのに気がついて、お待たせしましたと挨拶をして勧められた椅子に座った。


 高位貴族だけが持てる学院内の個室。食堂に併設されており、放課後のカフェの利用も出来る。ご令嬢達は、街中のカフェへ行かずとも楽しいお茶の時間を過ごせるのだ。マリアのように昼食時もこの個室を利用している学生も多い。料理人は各家から派遣されているから、食の好みや万が一禁忌の食べ物があっても全て把握している。何より他の生徒の視線を気にせずに済む。つまり、学院内個室は高位貴族への優遇措置の一環でもあるわけだ。

 同席している子爵家の令嬢は卒業後は侍女になるのだろう。マリアの目配せでお茶を運んでから退席した。


「わたくし辛いのです。あの方を思うと食事も喉を通らず、夜も眠れませんの。どうしたら良いのでしょう?」


「お気持ちはきちんとお伝えされましたか?リコッタ様の素直なお気持ちを」


 前回も同じ話を聞かされたので、気持ちを伝えてみたらどうかと、とりあえず言ってみたのだが。

 マリア・リコッタは見かけの柔らかな印象とは違って、なかなか頑固な所があった。もっともそれが侯爵令嬢として育てられた者として、譲れない事だと言われたら返す言葉もないのだが。


「いえ。あの方にはお会いできないのです。どうしてもお顔が見たくて、一度待ち伏せのような事をいたしましたの。ええ、あの方が立ち寄られる場所で待っておりました」


「まあ!リコッタ様は情熱的ですね。それで?」


「わたくしに会釈だけして去っていかれたの。まるで、わたくしなどどうでも良い存在みたいに」


 なんという事だ。アルバート様は婚約者にそんな態度を取る人なのか。ちょっとがっかりだわ。

 クリスティンが思わず眉を顰めていると、マリアは慌てた。


「いえ、あの、違うのです。きっと馴れ馴れしくしてはいけないと自制されたのだと思いますわ。ほら、変な噂が立つといけませんでしょう?」


「変な噂も何も、リコッタ様との事は有名なのだから、そんな不躾な噂を流す者などおりませんよ」


 にっこり笑って安心させるように言ってみるが、どうもマリアの求めるような答えではなかったらしい。


「あの方はきっとわたくしを望んではいらっしゃらないわ。わたくしは噂になっても良いのです。寧ろ、誰もが認めざるを得ない程の噂になりたいのですわ!」


 何だろう、マリアの切実な願いと先ほどのアルバートが一致しない。アルバートは誤解があるなら解きたいと口にしていた様な気がする。


「リコッタ様のお辛いお気持ち、わたしに全てわかるわけではありませんが、でもひとつだけ言える事があります。

 とにかくおふたりでしっかり話し合う事が必要なのではないかと思うのです。疎遠なわけではないのでしょう?月に一度はお茶会もあるでしょうし、寂しいお気持ちを包み隠さずにお伝えしてみてはどうでしょうか」


 先ほど、貴女様の婚約者様が妙な事を仰ってましたよ、というのを伝えようかどうか迷ったけれど、第三者の自分が間に入ることで、言葉を曲解される危険は犯したくない。


「お二人でよく話し合われるのが一番だと思いますよ」

「ええ、そうね。お茶会ね、ええ、そうよね。エマーソン様がそう考えるのが自然なのね」


 マリアの目が少し泳いだのが気になるが、何か不都合な事でも口にしてしまったかしら。


「わたくし達の婚約と言うのは名ばかりで、子どもの頃に親同士が決めた事です。ですから学院外でお会いする事はないのです。安心してくださいませ」

「安心?」

「こちらの話よ、お気になさらないで」

「ともかくあの方がお好きなのでしょう?ご自分の気持ちに正直になられて、たとえば毎日のランチをお誘いしてみるとか、思い切って行動されてはどうでしょう?」

「それは出来ないわ」

「何故?リコッタ様に誘われたらきっとお喜びになりますよ」

「そうかしら」

「ええ、受け合いますわ」


 だって、さっきの貴女の婚約者様は結構必死に見えましたよと、心の中でつぶやいてみる。


 マリアは長いまつげを伏せた。その憂いを帯びた美しい顔は何故か自信が無さげである。

 王家とも縁続きになる高貴な美少女が、好きな相手とすれ違っていることに悩んで困惑している姿は、同性から見ても守ってあげたくなる。

 こんな可愛い人を悩ませているなんて困った婚約者様だ。


「リコッタ様、このままでよろしいのですか?お気持ちを伝えられては如何ですか」

「だけど、わたくしの気持ちが迷惑だったらどうすれば良いの?とても立ち直れないわ」

「まさか。リコッタ様に好意を持たれて困る人などいらっしゃいませんよ」


 アルバート様だってきっとそう、何かすれ違っているだけなのよ。


「ずっと言おうと思っていたのですけれど、クリスティン様とお呼びしても?わたくしの事はマリアと」

「そのような恐れ多いです」

「わたくし達級友ではありませんか?貴女とは仲良くなりたいと思っているの。どうかマリアとお呼びくださいな」

「わかりました。それではわたくしはクリスで。家族や親しい人はクリスと呼ばれていますの」

「まあ!まさかの愛称呼びを許していただけるなんて、これは自慢出来ますわ!

 クリス様どうぞこれからも末長くよろしくお願いいたしますね」



 結局どうしたら良かったのかわからないクリスティンだったが、マリアがとても嬉しそうだったのでまあ良いかと思った。


「わたくし達お友達ですわよね、クリス様」

「はあ、そうですね」

「垣根は壊さないといけません。貴女なら本音で話せるお友達になれると思うのです」

「はあ」


 何故かグイグイ来るマリア、返答に困っていると

「……わたしね、堅苦しいのは苦手なのよ。肩が凝っちゃうでしょう?

 たくさんお喋りしたら素がばれてしまうから、なるべく済まし顔をして学院では最低限しか喋らないようにって言われているのだけど、これが結構辛いの」


 マリアは笑って、喉がかわいちゃったと、お茶のカップを持ち上げてくいっと一気に飲んだ。


「あ、熱くは?」

「大丈夫よ、冷めてるから。わたし猫舌なの。だからいつも冷まして飲むの。ねぇ、クリス様も普通に喋ってくれないかしら」

「マリア様?一体どうされましたの?」

「だからこれが本来のわたしなのよね」


 クリスティンは、目の前の少女の変化に驚きすぎて言葉が出てこない。


 マリアは子爵令嬢を呼ぶと、お茶のお代わりをお願いした。


「うふふ、驚いた?いつも令嬢でいるのって疲れるわね。だから、クリスも気を楽にしてくれたら嬉しいわ。貴女には聞いて欲しい事がいろいろあるの」



お読みいただきありがとうございます。

美少女豹変の理由は次回。

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