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八月の杉  作者: 中村雨歩
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建の卒業式

 惰性と誤魔化しで通い始めた高校生活は、思いも依らない思い出に溢れていた。小学校の卒業式も、中学校の卒業式も泣いた事なんてなかったのに、涙が流れて仕方が無い・・・。


 しみじみ泣いている僕の後ろから、木下が迷惑にも肩に全体重をかけて号泣している。うるさい!って、言いたくなる程泣いている。木下もこの高校生活にただならぬ思い出があるのだろう。気持ちは分かるから黙っていた。そして、やった姿勢を正して言った。


「リュウオウ殿じゃなく、八代! また会おう! 俺たちの結婚式には絶対呼ぶからな!」

 そう言いながら、山瀬に轢きずられるように消えて行った。


 木下と山瀬は付き合っている様だ。結婚を前提として。


 空を眺めた。真っ青だった。


「僕は毎日、そして、今も杉子さんと同じ空を見ている。必ず迎えに行きます」

 そう言って、拳を握った。


「建! 卒業おめでとう」父の声に振り返った。


「父さん、式に来てくれて・・・ありがとう・・・」


「当たり前だろう。でも、お礼を言ってくれるなら、一つ、付き合ってくれるか?」


 その言葉に頷いて、何年ぶりだろうか、久しぶりに父と歩いた。そして、その行先に驚いた。あの神社だった。


「ここがママとパパと、建の始まり。結びの場所なんだ。お参りをしよう。この日を感謝して」

 父は手を合わせて、涙を堪えている様だった。父の隣りに立つ僕の間に誰かいる?月代・・・? いや、母だ・・・。何故かそう感じた。


「ごめんね。二人共ごめんね」そう言って、母は僕と父を抱きしめた。ような気がした。涙が溢れた。今日はどんだけ泣くんだ・・・。


「一瞬でごめんね!」大きなその声の方向を見るとハッシーがいた。


「ツッキー行くよ。リュウは杉子を迎えに行ってね。また会う日までお互い頑張ろうね!」


 その声で、母が消えた。


 その日の父と歩いた家路を忘れない。母がいなくなってからの父の悲しみと僕への愛情が流れ込んで来るようだった。僕は、こんなに愛されていた・・・。夕陽に照らされた赤い雲が僕の奢りと愚かさを抱き去ってくれた。

 そして、夜には月が出ていた。ずっと気になっていたけど、月代を夏祭りから学校で見なくなった。誰も口にしないから何か訳ありなんだと思ってたけど、違っていたようだ。さっきのハッシーの言葉ではっきりした。月代は母だったのだ。僕にははっきり見えていたけど、月代は、僕とハッシーにしか見えていなかったのだ。


 僕は愛されていた。それに気が付いて人生が変わった。そして、愛する人ができた。愛する人を必ず迎えに行きます。


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