表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
八月の杉  作者: 中村雨歩
18/23

再び、三度、美術室

 夏から秋に向かう時期の夕日は本当に美しい。窓の外の夕日を眺めながら、美術室に向った。優奈が言っていた事はまだ分かりきっていないけど、私は八代くんに会うと何だか安心するから、自分の心が、話しをしたいのだと思う。この気持ちに素直に従おうと思う。


 八代くんはいつもと同じようにキャンバスに向かい合っていた。ガラガラとドアを開いて入っていくと、いつもと同じように、びっくりするような顔で振り返る。もう何度目?そんな驚かなくていいのにと思って、笑ってしまう。


「あ、杉子さん」

 いつも通りの声と台詞。笑ってしまう。でも、それが有難い。


「上手く描けてる?」


「はい・・うん、まだ納得はいってないけど、コンクールまでに完成させる」


 提出日が近いのだろう。いつになく真剣な眼差しと、力強い返事。


「気にしないで、続けて」

 私は、夕陽に照らされながら真剣な顔をしている男の子を見ている。机に頬杖を突きながら、眺めている。こんなゆっくりとした時間は感じたことが無かったかもしれない。


「ねえ」


「はい」


「私、ドイツに行くかも」


「え、ドイツ?旅行?いつ?」


 びっくりしながら、私を見る顔が可愛い。愛おしいとすら感じる。


「夏祭りが終わったら。お母さんの新しい旦那。つまりは、私のお父さんだよね。そのお父さんの国に行くことになりそう」

 お父さんを、お母さんの新しい旦那なんて、酷い言い方だと思う。そう言って、涙が出た。


「あ、え、な、泣かないで」八代くんは、いつもの八代くんらしく、動揺してる。でも、次の瞬間、予想外の動きをした。私自身も、吾輩の辞書に無いことをした。


 八代くんは何故か涙を流しながら、私の前に立った。私は、彼に抱きついて泣いてしまった。


「私は、いらない子なの・・・季節外れの杉の子なんだよ」


「何を言ってるんだよ。ハッシーも、ダンスクラスも・・・それより、いらない子だったら、家族で外国に連れて行こうなんて思わないでしょ・・・。それから、ぼ・・くも・・」


 彼の言葉を聞き切る前に私は美術室を飛び出した。恥ずかしくて。


 ガシャンと音を立てたドアの前で膝が折れた。廊下の冷たい床に膝を付いて泣いた。


「スナックのチーママにならなくて済みそうだね」

 そう言って、優奈がハンカチをくれた。


「何なんだよ。もう、訳が分からない」そう言ってる私を優奈は抱き起こしながら言った。


「訳分からないくらい、あんたは色んな人に愛されてるんだよ。さあ、帰るよ」


 優奈に抱えられながら、学校を出た。もうすっかり夜だった。


 月が出ていた。その月はカウントダウンを刻んでいるように見えた。誰かなのか、何かなのかは分からないけど、お別れが近付いている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ