再び、三度、美術室
夏から秋に向かう時期の夕日は本当に美しい。窓の外の夕日を眺めながら、美術室に向った。優奈が言っていた事はまだ分かりきっていないけど、私は八代くんに会うと何だか安心するから、自分の心が、話しをしたいのだと思う。この気持ちに素直に従おうと思う。
八代くんはいつもと同じようにキャンバスに向かい合っていた。ガラガラとドアを開いて入っていくと、いつもと同じように、びっくりするような顔で振り返る。もう何度目?そんな驚かなくていいのにと思って、笑ってしまう。
「あ、杉子さん」
いつも通りの声と台詞。笑ってしまう。でも、それが有難い。
「上手く描けてる?」
「はい・・うん、まだ納得はいってないけど、コンクールまでに完成させる」
提出日が近いのだろう。いつになく真剣な眼差しと、力強い返事。
「気にしないで、続けて」
私は、夕陽に照らされながら真剣な顔をしている男の子を見ている。机に頬杖を突きながら、眺めている。こんなゆっくりとした時間は感じたことが無かったかもしれない。
「ねえ」
「はい」
「私、ドイツに行くかも」
「え、ドイツ?旅行?いつ?」
びっくりしながら、私を見る顔が可愛い。愛おしいとすら感じる。
「夏祭りが終わったら。お母さんの新しい旦那。つまりは、私のお父さんだよね。そのお父さんの国に行くことになりそう」
お父さんを、お母さんの新しい旦那なんて、酷い言い方だと思う。そう言って、涙が出た。
「あ、え、な、泣かないで」八代くんは、いつもの八代くんらしく、動揺してる。でも、次の瞬間、予想外の動きをした。私自身も、吾輩の辞書に無いことをした。
八代くんは何故か涙を流しながら、私の前に立った。私は、彼に抱きついて泣いてしまった。
「私は、いらない子なの・・・季節外れの杉の子なんだよ」
「何を言ってるんだよ。ハッシーも、ダンスクラスも・・・それより、いらない子だったら、家族で外国に連れて行こうなんて思わないでしょ・・・。それから、ぼ・・くも・・」
彼の言葉を聞き切る前に私は美術室を飛び出した。恥ずかしくて。
ガシャンと音を立てたドアの前で膝が折れた。廊下の冷たい床に膝を付いて泣いた。
「スナックのチーママにならなくて済みそうだね」
そう言って、優奈がハンカチをくれた。
「何なんだよ。もう、訳が分からない」そう言ってる私を優奈は抱き起こしながら言った。
「訳分からないくらい、あんたは色んな人に愛されてるんだよ。さあ、帰るよ」
優奈に抱えられながら、学校を出た。もうすっかり夜だった。
月が出ていた。その月はカウントダウンを刻んでいるように見えた。誰かなのか、何かなのかは分からないけど、お別れが近付いている。




