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八月の杉  作者: 中村雨歩
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杉子の絵

 放課後、美しく陽が美術室を赤く染めている。リュウこと八代はいつもの様にキャンバスに向かって座っている。筆は持たずにただ絵を見つめている。


 ガラガラガラガラ。音を立てながら、杉子はぎこちなく久しぶりの美術室に足を踏み入れた。戸の開く音にさも期待せずに八代は振り向いた。そして、驚愕した表情と体を硬くした。


「スギ・・いや、川村さん・・・」


「あ、久しぶり・・リュウオウくん、元気してた?」

 杉子もぎこちなく、上擦らせながら声をかけながら、次の言葉を紡いだ。


「あのさ、その絵見せて」


「え?いや、これは・・・」


 遮ろうとする八代をヒョイっと交わしながら絵を覗き込んで言った。


「この絵のモデルは・・・私なの?」


「え、い、いや、いえ、違いますよ。そんな勝手に描いたりしないですよ・・・」


 その言葉に、杉子は息を吐いて、下を向いた。そして、顔を上げて笑った。


「そうだよね。うん、そうだよ」


 杉子は、うんうんと頷きながら、腕を組んで言った。


「ごめんね。邪魔しちゃって」


 そう言いながら、杉子は足早に美術室の後ろのドアに向かって行った。その後ろ姿に八代は声をぶつけた。


「ごめんなさい!この絵は杉子さんです。あ、ごめん、川村さんです。勝手に描いてごめん」


 その言葉に杉子は振り返り、絵の前まで戻って来た。そして、八代に言った。


「なんで、謝るの?私、こんな綺麗じゃないよ。ふふ、でも嬉しい」

 笑いながら、そう言う杉子を直視できずに八代は言った。


「ダンスの時、すごく綺麗、いや、カッコ良くて描きたいなと思いました・・・」


「ふふ、有難う。あのさ、敬語やめてよ。同い年だよ。あ〜それとも、私がデカいから先輩だと思ってた?失礼だな〜」


「いや、デカいなんてそんな・・思って無いです。じゃなくて、思ってないよ」


「うん、じゃあ、今日から敬語は無しだよ。また、来るね!優奈に早速報告しないといけないからね。またね!」


 そう言って背を向ける杉子に呼び止める様に声を掛けた。


「あ、僕の名前は、八代、八代健。リュウオウじゃないから」


 その言葉に目を丸くしてから、笑った。


「そうなんだ。分かった。八代くん、八代健くんまたね!」


 美術室を後にしようとする杉子に軽く手を振りながら、八代は幸せを噛み締めた。


「またね・・か。また会える・・・。そして、二回も名前を呼ばれた・・・」

  夕陽に照らされて長く伸びた影は柄にも無く、大きくガッツポーズを決めていた。


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