第8話 ペンダント
こんにちは!
最近は漢字の変換がわからなくなり、調べても結局わからなくなる汐夜です。
第8話読もうとしてくださりありがとうございます。
なんだか少しずつ字数が増えている気がします。
今回はミカエルを庇ったレイモンドがどうなるのか気になる所だと思います。
少しでも皆様に楽しんでいただけたら嬉しいです。
今回は後書きにおまけも用意しています。
おまけはレイモンドの視点で進んでいきます。
そちらも読んでいただけたら嬉しいです。
この作品は「アルファポリス」様にも掲載させていただいています。
「大丈夫だミカエル。俺を信じろ」
そう言って剣を構えるレイモンドさんにボアが突進する。
「レイモンドさん!!」
ボアが立ち止まる。俺はやっと動くようになってきた手足に力を入れ、立ち上がりボアの様子を見る。
ボアの首元に槍が刺さっていた。槍の飛んできたであろう方向に目をやる。そこにはグラオウルフを全て倒し、自身の血なのか返り血なのか区別がつかない程血色に染まったエレナ隊長がいた。
「ミカエル、大丈夫か?」
剣を納めたレイモンドさんが俺に歩み寄る。腕から流れる血が手から指を伝い滴り落ちる。
俺のせいだ。
「レイモンド!」
茂みに隠れていたはずのシャノンさんがレイモンドさんの怪我に飛びつく。同時にエレナ隊長は俺達の前にいるボアと少女と再び対峙する。その間にシャノンさんは応急処置を施す。
「嫌! 嫌!! 嫌!! 嫌!!」
少女が急に声を張り上げ、泣き出す。彼女が泣き出したのに反応してボアがまた動こうとする。
ボアに刺さっていた槍から血が地面に落ちる。血のついた草花がみるみる枯れていく。枯れた場所から霧のような空気が出始める。
「逃げろ!!」
エレナ隊長が初めて声を荒げる。走る彼女の後ろには刺さっていた槍が光を帯びて消え、そこから大量の血と霧が出てくるのが見えた。普通の霧ではないというのは色を見ただけでわかる。今すぐ走って逃げなければいけないのも分かっている。でも、背中を強打した影響か恐怖からか思ったように足が動かない。
「ミカエルさん、掴まってください」
シャノンさんが肩を貸してくれるが霧はすぐ後ろまで迫っている。エレナ隊長も急いで肩を貸してくれる。だが、俺達は全員霧に包まれた。
包まれる瞬間、息を止めた。長くはもたないだろう。皆も苦しそうだ。
もう駄目だ….。
諦めかけた時、左から眩しいぐらいの光が現れる。それはエレナ隊長の胸元からだった。全員を包むように広がる。光の中では霧が消え去り、空気が吸える。周りにはまだ霧が漂っているのにこの光のおかげか何ともない。
エレナ隊長は制服の首元を緩め、中に手を入れる。何かを取り出したが眩しくて見えない。
次第に霧がなくなると、光も徐々に消えていく。光を放っていたのはエレナ隊長の髪と同じ色をした石のぺンダントだった。
それは何ですか? やさっきの光は何ですか? とか聞きたい事はあるのに、いつも無表情のエレナ隊長が苦しそうな顔をしているから俺は何も言えなかった。
周囲を見渡す。少女と魔獣の姿はどこにも見当たらない。霧に乗じて逃げたのだろう。一面に生い茂っていた木々や草花は枯れ果て、大地すらも水分を失い、地割れを起こしている。グラオウルフの死骸も残っているのは骨のみだ。あれが自分の身にもと考えるだけで背筋が寒くなる。
「ぐ….」
「レイモンド….! 今….治療..します」
その場に座り込んだレイモンドさんの傍でシャノンさんは自分の鞄を開け、中身を出し始める。包帯やら乾燥させた草や花、見たこともない物まで沢山の物が出てくる。
「ミカエルさんも….背中….打っているので….座ってて..下さい。後で….診てみます」
「はい。….あの! 俺のせいで….こんな事になってしまって….すいませんでした!」
背中の痛みに耐えながら精一杯頭を下げた。今回の事でまた異動になるだろう。最悪、討伐隊から外されるかもしれない。今更どうしようもない後悔が押し寄せる。
「全員生きてるんだ。それで良いじゃないか。エレナもそう思うだろ?」
「うん。ミカエルの考え方、動きはいい。問題は実力のなさ。次は自分に合った戦い方をしたらいいと思う」
叱責を覚悟していたが、まさか助言されるなんて。ゆっくり頭を上げる。怪我の治療をされながらも俺に笑いかけるレイモンドさんを見て、喉の奥が痛くなる。
「俺….次、あるんですか….?」
声が震える。
「あるでしょ。今回失敗したなら、それを踏まえて次に活かせばいい。ミカエルは他の隊に行きたいかもしれないけど、私達はイーサみたいに自分のとこの隊員を手放す事はしない」
その言葉に堪えていた涙が溢れ出す。
「あざば! なまい“ぎいっです”い“まぜんでじだ! ごれがらば、ごごろい”れがえでがんばりまず!」
「え? 何で泣く….?」
エレナ隊長の困惑した声とレイモンドさんの笑い声が聞こえる。俺は涙が止まらなかった。
悔しかったんだ。勝てなかった上にレイモンドさんに怪我までさせて。
嬉しかったんだ。討伐隊に入隊してからギフトがないという理由で自分の考えも行動も先輩隊員に否定され続け、ただ言われた通りに動く日々。そんな俺がここで少し認められて。
エレナ隊長は自分から手放す事はしないと言った。それなら俺も手放さないようにしよう。役に立つような人間になろう。俺はこの瞬間にそう心に誓った。こんなにいい人達を離してはいけない気がする。
レイモンドさんの治療と俺の治療が終わっても俺は泣き続けた。日も暮れ、夜になり王都に着いた頃、やっと涙を流しきった。
本部に着くなりすぐに医務室で連れて行かれた。各々怪我の様子を診てもらう。怪我の具合を聞いたエレナ隊長は
「報告してくる」
とだけ言い残し、シャノンさんと一緒に部屋を出て行った。レイモンドさんは相当酷い怪我らしく、今後の経過を見るために医務室のベットで少しの間過ごすらしい。医務室の人は怪我を見るなり、
「何て素晴らしい応急処置なんだ!!」
と、こちらにも聞こえるくらい大興奮していた。一方俺は大した事がなく、なんだか少しつまらなそうに薬を塗られるだけだった。
治療を終え、ベットで眠っているレイモンドさんの傍へ行く。腕には包帯が巻かれてとても痛々しい。
「そんなに見つめられると照れるんだが」
少しだけ照れたように笑うレイモンドさん。その姿にまた涙が出そうになったのをなんとか堪えた。
「座ったらどうだ?」
ベットの横に置いてある椅子に座るよう勧められて座る。
「背中、大丈夫だったか?」
「俺は大した事なかったです」
「そうか。よかった」
どう見てもレイモンドさんのほうが酷い怪我しているのに。
「あの….本当にすいませんでした」
シャノンさんが処置していなければ大盾も剣すら握れないかもしれないと言われていた。大事には至らなかっらが、俺の責任だ。
「ミカエル、謝罪なら沢山もらった。もう謝らなくていい」
「でも….俺は….自分を許せません」
「うーん….。あ、それならミカエルに頼みがあるんだ」
少し考えたのち、頼みがあると言われ飛びつく。
「何ですか!? 何でもします!」
「今回で俺の大盾とミカエルの剣、どっちも壊れただろ? ミカエルは次の任務までに代わりの剣が渡されると思うけど、俺の大盾は特注でな」
「はい」
「騎士団専用の鍛冶場がここから離れた所にあるんだが、道中魔獣も出るからな。ミカエルにもついてきてもらいたいんだ」
「はい! 俺でよければご一緒させてください」
そんな場所があるなんて知らなかった。精一杯役に立てるように頑張ろう。
「そこでミカエルも自分に合う剣を作ってもらおう」
「….へ?」
間抜けのような声が出た。いつもは支給された剣を使っていたから、自分に合う剣なんて考えた事もなかった。俺にも作ってもらえるだろうか。
「エレナには後で俺から言っとくからな」
「はい! 楽しみです!」
「楽しそうだね」
振り返ると報告を終えたエレナ隊長とシャノンさんが立っていた。椅子から立ちあがろうとしたのを彼女に制される。
「報告してきた。とりあえず明日は休み。そしてレイモンドは治るまで安静に。治り次第、訓練を行うように。今日は以上。皆お疲れ様」
「お疲れ」
「お疲れ様です」
「はい!」
各々思い思いに返事をする。
「レイモンドと話がしたい。シャノンとミカエルは外してくれる?」
返事を口にするよりも先にシャノンさんの腹の音が鳴る。
「….ミカエルさん。….食堂..行きませんか….?」
恥ずかしさからかお腹をおさえ、声を震わせながらご飯へ誘われた。もちろん断る理由もない。俺は承諾した。
「ありがとう….ございます….!」
俯いてる彼の顔は見えない。でも声が嬉しそうだ。
「私も後で行く」
「わかりました….!」
俺達は他愛のない話をしながら食堂へ向かった。
シャノンとミカエルが席を外した後….
「どうした? 改まって。もしや、恋愛話か?」
冗談のつもりで言う。エレナは幼い頃から討伐隊に身を置き、常に前線で戦ってきた。周りより幼いこともあり、他の隊員の結婚や恋愛には全く興味を示さない彼女がついにという期待も少しはある。
「いや、ミカエルの事なんだけど..どう思う?」
まさか期待が現実になった! 嬉しいような寂しいような気持ちになる。子を持つ親はこんな気持ちになるのか。
「ミカエルは良い男だと思うぞ。素直だし、感情豊かだし。エレナとも合うと思うぞ! ただシャノンも良い男だと思うが」
「何でシャノンが出てくる? ミカエルと合うって何の話?」
「え? エレナの恋愛話じゃないのか?」
「何を言ってる。私はミカエルの剣の腕の話をしている」
あ、そっち….。エレナに恋愛はまだ早かったか….。
「剣の腕か….。まだ何とも言えないが、何か気になる事が?」
多分、あの折れた時の事を言いたいのだろう。俺は見る余裕がなかったからな。
「ミカエルの剣は騎士団で支給されてる普通のやつだけど、あの大振りは大剣を扱う時の動きだった」
「うーん。俺にはわからないな」
「そっか。じゃあ少し調べてみる」
そうだ。あの事を言おう。
「エレナ、別件だけど治ったらミカエルと鍛冶場に行かせてほしい」
「いいよ。行ってきな」
あっさり承諾された。彼女はこういう時、絶対に希望を通してくれる。幼いのにしっかりしてると感心する。
「行くなら、魔獣の相手を全てミカエルにさせて」
とんでもない事言い出したな。
「何で?」
「あの剣の実力では今後必ず彼は死ぬ。大剣を扱えるような筋力もない。それなら普通の剣を扱えるようにレイモンドが教えてあげて。レイモンドは元々剣の腕いいから期待できる。….じゃ、ご飯行ってくる」
返事も待たずエレナは出て行ってしまった。
「了解。うちのお嬢さま」
誰もいない部屋で呟くように返事をした。