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砦の騎士団(その3)

「リディア。君はどう考える?」

「ギルドの事なら、人手に余剰があって何もすることがない、という事も無かろうとは思う。新しく武芸者が来たという話なら先方は歓迎するだろうから、事情を説明して商人どもに押し付ければ済む話ではないか」

「そうかも知れぬが、そう処置するにしても事情をマイエル大尉の耳に入れておく必要はあるだろうな」


 レイモンドはそれだけを言い残すと、その場からそそくさと引き下がっていく。

 残されたリディアはしばし険しい顔で訪問者たちをじっと見ていたが、そのうちもう一度ふうっとため息をついた。


「お二人とも、このような僻地でこのようにあれこれ誰何されるような面倒な目にあうとは思ってもみなかったであろう。……私もお二人が王国に仇なす曲者と決めつけたものではないが、こういうのは話が上へ行くほど余計な横やりが差し挟まれてくるものでな」


 しばし辛抱されたし、と短く付け加え、先ほどのレイモンドが戻ってくるのをじっと待つのだった。


 そのレイモンドはと言えば、一人では戻ってこなかった。

 ほどなくして現れたのは他の騎士たちと同様の甲冑姿ながら、ひときわ眼光の鋭い、髭面の男だった。


 歳の頃は五十は過ぎていただろうか。すらりと背の高いレイモンドがすぐ後ろに控えているから小柄に見えたかも知れないが、他の騎士たちに比べれば上背はそれほどではないにせよ、肩幅はがっしりしていて立ち姿は堂々としていた。何より、男が姿を現しただけで、騎士たちや自警団の者たちの間の空気までもがぴりっとしたものに変わったのが分かった。成り行きでその場に居合わせたアランとルカの二人の年少者たちも、思わず居住まいを正すのだった。


 男は並んで立つジュディとベルナールを厳しい眼差しでじろりと見やると、傍に控えるレイモンドに手短に告げた。


「……なるほど。そういう事なら、中で話をしよう」


 付き従うレイモンドはその場に残り、男はと言えば踵を返して来た方へと戻っていく。もう一人の随伴である僧服姿のおどおどとした痩せた男が、慌てて後に続く。


 レイモンドもまたリディアに一言二言耳打ちしたのち、くるりと踵を返し一足遅れて先の男を追いかけていく。それを横目に見送りつ、リディアはもう一度物憂げにため息をつくと、やれやれと小さく呟いた。


「お二人とも。申し訳ないが一緒についてきてほしい」


 言われるがままに、女騎士のあとをジュディは静かに追従していき、そのすぐ後ろにベルナールも渋い表情で続く。とりあえず砦の敷地に立ち入ることは許可された、という事のようだった。


 リディアの案内で二人が通されたのは、正門からすぐの所にある建屋の中だった。戸口をくぐっていくつか扉を過ぎると、食堂のような広い部屋に通された。見回せば壁面に十字の意匠の彫り細工があり、どうやら礼拝堂か何かだと窺い知れた。

 その広間の真正面に、先ほどの眼光鋭い男が彼らを待ち構えていた。


「御覧の通り、立派な歓待の間があるわけでもなし、所帯じみた場所で申し訳ない」


 礼拝堂ではあるが、最初の見立て通り食堂でもあるのだろう。大勢が集まれる場所、という事でそのように兼ねられているという事のようだった。


 その部屋に、招かれざる来訪者であるジュディ達を取り囲むようにして、腰に剣を下げた甲冑姿の男たちがあとからあとから、ぞろぞろと同じ広間に集まってくるのだった。その数、総勢で十四、五名ほどであっただろうか。


「取り急ぎ集まれるのはこの面々といったところか」


 真正面の男が、広間をぐるりと見まわして呟いた。

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