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砦の騎士団(その1)

 商売になりさえすれば、商人が危険を冒してでもやってくるのは分かる。

 それ以外だと、武芸者が来るのも分からなくはない。ハルムダールの大平原に跋扈する魔物どもが、このカイエス山にある〈大地の裂け目〉から這い出てきているというのは広く噂に伝わっている話だ。そこで具体的に〈裂け目〉に降り立って、大物に挑んで腕を上げ名を上げようという命知らずの武芸者が、ごくまれにではあったが時折思い出したようにこの砦にまでやってくる事が無いわけでも無かった。


「とはいってもなあ……おっさんの方はともかく、あんたのその細っこい剣じゃ、魔物相手に簡単に折れちまうんじゃないのか」

「これはただの護身用」

「じゃあ、魔物が出たらどうするんだ」

「そのために、おれが一緒に来てるつもりなんだが」


 そう言った偉丈夫と、親子ほど歳の離れて見える隣の女性とを交互に見比べて、どうしたらよいものかとアランは天を仰いだ。

 そんな少年の心境を知ってか知らずか、女性が問いかける。


「それで、どうやったらここを通してもらえるのかしら?」

「ここを押し通ったとして、どうするんだ」

「ここよりも下、もっと下層まで行きたい。……駄目かしら?」

「駄目だ」


 きっぱりとそう言い放ったアランを見て、女性の方が困惑して眉をひそめる。


「……あなたがそれを決めるの?」


 彼女は訝しげな眼差しでアランをじろりと見やる。……口調こそ毅然としていたし隣にいるルカよりはよっぽど頼もしげに見えただろうが、何とは言ってもアランにしたところで外部の来訪者からみれば年端もゆかぬ子供には違いなかっただろう。


「……決めるのはマイエル大尉だけど、きっと同じことを言うさ」

「では、そのマイエル大尉なる御仁に面会を求めます。……そういった話であれば取り次いでくれる?」


 問われて、アランは返答に窮した。

 いずれにしても、こんな岩場の斜面で押し問答をしていてもらちが明かない。アランの判断で、二人は渋々ながらに旅人たちを門の前まで連れ帰ってくる形になった。


 少年たちがそうやって押し問答している間に、正門前にいた自警団の歩哨が騎士団に注進したのだろう。二人が正門まで戻ってみると、一同を出迎える一人の騎士の姿があったのだった。


「リディア!」


 勇ましい甲冑姿を見かけるなり、ルカが手を振った。


「ルカ、それにアラン。ご苦労さま」


 かけられたねぎらいの言葉を聞けば、そこにいた騎士は女だった。

 本来はルカ達は持ち場を外れたのであるから叱責もやむなしという所だったが、リディアと呼ばれたその女騎士はその点には目くじらを立てる事はなく、子供たちが連れてきた二人の旅人に毅然とした表情で向き合うのだった。


「この時期に旅人とは珍しい。……私は王国軍騎士見習いのリディア。お二方の、まずはお名前なりともお伺いしてもよろしかろうか」


 すらすらと述べられた口上は堂々たるものだったが、老騎士の方がおや、と訝しげに首を傾げた。

 老騎士から見れば年若い女に見えただろうが、見たところ二十代の半ばもしくは後半、見習いというほどの駆け出しには見えなかった。


「失礼ながら、お見受けしたところ立派な騎士殿に見える。おれは何か聞き間違えをしたかな?」


 そのように問われたリディアはと言えば、露骨に渋い表情になるのだった。


「……それが正式な身分であるから致し方ない。騎士である、と説明すれば詐称となってしまうゆえ」


 リディアは出鼻をくじかれたようにぶっきらぼうにそのように答えた。老騎士はべつだん意に介した風でもなく、そうか、と短く相槌を打つばかりだった。

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