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旅人(その5)

 ついさっきまで夢中で餌をはんでいたチェスターを見て、老騎士は相貌を崩し、にやりと笑った。


「魔物に襲われているのかと思って慌てて駆け付けてみたが……飼い犬か?」


 どうやら遠目にチェスターがじゃれているのを見て、ルカとアランが魔物と対峙しているのかと思って助太刀に駆け付けたという事のようだった。


「……こいつは、チェスターっていうんだ」

「サバクオオカミだな。人に慣れているとは、珍しいな」

「魔物にねぐらを襲われて、赤ん坊だったこいつだけ生き残ったんだ」

「砦で育てたんです。大きくなりすぎたので砦の中での飼育は許可できないってマイエル大尉は言うんですけど、城壁の外に出してもなかなか離れてはいかなくて」

「なるほど。人に慣れて、今更野生の群れに戻るわけにもいかんという事かな……」


 そうつぶやいてしげしげと頷く偉丈夫を前に、アランが居住まいを正して、誰何した。


「それで、あんたらは一体何者なんだ?」


 その言葉に、老騎士は肩をすくめて無言のまま何かを促すように傍らの女性を見やる。女性はと言えば一つため息をつくと、渋々と一歩前に進み出てきた。


「あなたたちはあそこに見える砦の住人ね? まだ年若いようだけど、砦の守備兵か何かなの?」

「おれらは自警団だよ。砦には騎士団が詰めているんだ」


 アランと旅人たちとがそのようにやり取りしているのを見て、隣のルカも慌てて居住まいを正した。


 自警団が正門を守るのは一番には魔物への警戒があった。当番だけで対処出来そうであれば対処し、数が多いなど難しいと思えばだれか人を呼ぶ。あまりに急に襲ってきた場合など、間に合わないとなれば鐘を打ち鳴らすか持たされた笛を吹くかして、とにかく誰かに助けを求める規則だ。

 それに比べれば、何気に気が重いのは人間の対応だ。あいにくとルカは自分が当番の間に来訪者に当たったことは無かったし、今のところルカやアランが知る限りでは砦を破ろうという曲者が現れた事は無かったが、仮にそのような剣呑な相手だった場合、まず矢面に立つのはその日の当番の者たちだった。


 しかもいま現在二人が立っているのは正門の前ですらない。この旅人たちがそのような刺客のたぐいだった場合に、助けを呼ぶべき大人も近くにはいない。砦の正門前には二人の交代の自警団員がすでに配置についていたが、彼らに事後を託してさっと引き下がれるような距離でもなかった。

 餌を横取りされては一大事と警戒して唸りを上げるチェスターを見て満足気に笑う姿をみれば、悪い人間ではなさそうだが、油断は出来ない。

 アランは意を決して一歩踏み出し、声高に詰問した。


「お前たちは、ふもとのカイエス砦から来たのか……?」

「カイエス砦?」


 そのように問われてもどこか釈然としない様子の二人に、アランは丁寧に説明するようにあらためて問い直す。


「あんたら、裂け目をわざわざここまで降りてきたんだ。山のふもとにもう一つ砦があったのは見ただろう。そっちから来たんじゃないのか?」

「ん……方角が違うな。我々はそちらではなくて、西まわりにこのカイエス山に来たんだ」

「西から? じゃあ自由都市の方から国境地帯を超えてきたのか」


 アランは思わず声を上げてしまった。


「あんたらだけで? わざわざこんなところまで降りてきて、いったい砦に何の用があって来たんだ……?」

「別に、砦に用事があったわけではないのだけれど……」


 女性が、少々困惑したかのようにそうつぶやいた。


「じゃあ、いったいどこに用事があるってんだ」

「おそらくは、ここよりも下に」

「下に?」


 彼女の言葉に、アランは思わずルカと顔を見合わせた。





(次話へつづく)

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