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竜との遭遇(その5)

「いや……その可能性もあるかも知れないが、深層まではまだまだ遠い。魔物を生み出している、あるいはそれらを統べる主のようなものがいるとして、それはまた別にいるのではないか」


 そのやり取りが耳に入ったのか、ジュディが彼らの元にすたすたと引き返してきて、横から口を挟む。


「誰も目撃してはいないという話だったけど、この竜はそもそも〈裂け目〉の魔物ではない。この子は外からここに堕ちてきたのよ」

「この子……?」


 ジュディが訳知り顔で説明した内容もさることながら、彼女が竜をそのように呼んだことに、リディアは驚きと困惑を隠せなかった。

 レイモンドも竜を刺激しないように声色を抑えながらも、その場でジュディに詰め寄るのだった。


「貴殿らの探し物というのが、この竜だったのか。このようなものを探し当てて、なんとするのだ」


 詰問に近い鋭い口調でのレイモンドの問いかけに、ジュディはただ微笑み返しただけだった。

 貴婦人とのサロンでの世間話ならその応対でも許されるだろうが、ここはそのような和やかな席ではない。はぐらかされた、と不満顔でさらに追及を重ねようとしたレイモンドを、敢えて遮るようにジュディは告げた。


「レイモンド少尉。この金竜の件、いったん私に預けてはくれないかしら?」

「預ける? どういう事だ」

「今はこの竜は傷ついている。けれど傷が癒えればここから飛び去っていく事も難しくはないでしょう。傷が深すぎるわけでも、〈裂け目〉の魔物に襲われて深刻な状況にあるわけでもない事が分かってひと安心したわ。砦には決して危害が及ばないようにするから、この件は私に任せて欲しい」

「腑に堕ちぬ。このような怪異を前に、何をどう任せよというのか。討伐するのであれば傷を負って弱っている今が好機に決まっている。何故それをみすみす見逃せというのか」


 レイモンドの言に、次第に熱がこもってくるのが分かった。


「この〈裂け目〉の怪異については我ら騎士団の領分だ。だからこの竜についても、見つけてしまったからにはマイエル大尉に報告しないわけにはいかぬ」


 そのように力強く断言したレイモンド少尉を前にして、ベルナールがその場に半歩進み出てきて、ジュディの隣に並ぶ。


「……どうするか決めてくれ。おれはそれに従う」


 そう言った老騎士の右手が、それとなく腰に下げた剣の柄に添えられているのを見て、ジュディはそっと首を横に振ってため息をついた。


「リディアさん、あなたならどちらの言い分に分があると思う?」


 急に名指しされて、リディアは少し気後れしながらも、軽く咳払いをしたのちにおのが所見を述べる。


「委細は知らねど、ジュディ殿はこの金竜がここにいるとあらかじめ知った上でこの裂け目を訪れたのであろう。それに比べれば我らは何も事情を知らぬも同然、あなたたちの言い分にはもう少し真摯に耳を傾けるべきであろうとは思う。……だがここで、騎士殿が剣を抜くというなら、話は変わってくる」


 そう回答したリディアの声色も、何かを警戒するように固い口調であった。


「……でしょうね。ベルナール、そのように皆さんを警戒させるのは良くないわね」

「そうか」


 老騎士は短く返事をすると、取り敢えず半歩、いったんはジュディの後ろへと引き下がった。しかしその手はいまだ、剣に置かれたままだった。

 それを横目に見て、ジュディがため息を漏らす。


「……必要とあれば、私がマイエル大尉と直接話し合いをします」

「あの御仁、話を聞いてくれるかな?」

「まずは話してみる。……レイモンド少尉。そういう事でよろしい?」


 彼女はベルナールとそのように言い交したのち、レイモンドに確認を求める。

 そのような念押しに、応とも否とも、その場では明確な返答を濁したレイモンドであった。





(次話へつづく)

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