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あ、俺(達)主人公です。〜幽霊少女と3人の異世界冒険譚〜  作者: 酒ッ呑童子三号
第一章【のどかな国と、見えない悪意】
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第8話 【イルテンののどかな一日】

大通りに並び立つ料理の並んだ露店を、エルはふらふらと目移りしながら吟味している。

真兎とアイルはエルの後をついて歩きながら、露店に並べられた料理に目を輝かせていた。


「すっごい美味しそうだな.........」

「店主、この料理を三つ包んでくれよ」

「あいよ」


アイルは財布を取りだし、料理三つ分の銅貨を差し出した。


「待ってくれアイル、俺も出すよ」

「いや、キミは今手持ちが少ないだろう? 後で返してくれればいいよ」


アイルはウインクしながら、木の皿に盛られた肉と野菜を炒めた料理を差し出した。

真兎は内心申し訳なく思いながらその料理を口に運ぶ。その瞬間、心の中の罪悪感など一瞬で吹き飛んでしまった。


「なっ! 美味い.........!」

「うん、辛い味付けに甘みのある羊のチーズがよく合っている! 後でイブにも買っていってやろうか」

「エルもたべる!」


エルはアイルがスプーンで掬い上げた料理を一口で食べ、頬を両手で包んでその場で跳ねた。


「からい!!!」

「あぁ。辛さをチーズの食感でカバーしているから、味だけを食べるエルちゃんには辛いのか」


アイルはエルに水を差し出しながら、味のなくなった料理を食べる。

三人はあっという間に料理を完食し、皿を返してもう一度大通りを歩き始めた。


「あれたべたい!」

「またか? .........あれは!」

「知っているのか、アイル?」


エルが指さした少し大きな露店を見ると、アイルは目を輝かせて財布を取りだした。


「あれはイルテン焼き、この街イルテンの名物さ!」

「通りで行列が出来ている訳だ」

「おいしいの?」

「イルテンの名産物を豪勢に使ったあの料理は、いわばこの国を表現する料理。世界でも有名な絶品料理だよ」


真兎達は列に並び、アイルはウキウキとしながら列が進むのをじっと待つ。


「おい、そこの二人組」


突然声を掛けられ、真兎は周囲を見渡す。

アイルは槍を持った二人組の衛兵の方を向き、首を傾げた。


「どうしました、衛兵さん?」

「お前達、見慣れない顔だな。何を目的でこの街に来た」

「観光ですよ。街の入口で身分証も見せましたから、不法侵入ではありませんよ」

「.........ふん。信用ならんな、連行させてもらうぞ」


片方の衛兵が舌打ちをしてアイルを睨みつけるが、もう片方の衛兵がその肩を叩いた。


「自分が城門でチェックしました。問題はありません」

「チッ.........それならそうと先に言え!」


乱暴な衛兵は無口な衛兵を殴り付け、舌打ちをしながら離れていった。

無口な衛兵はズレた兜を被り直し、真兎とアイルに向かって頭を下げた。


「すまない。今この街はピリピリしているんだ、許してくれ」

「え、はい.........」


無口な衛兵はもう一度頭を下げ、乱暴な衛兵を追いかけて人混みの中に消えていった。

アイルは腕を下げ、剣を直ぐに抜ける位置から手を遠ざけた。


「どうやら治安はあまり良くないみたいだね」

「.........あの無口な衛兵、街の入口で俺達をチェックしてた人だよな」

「そう言えばそうだね。衛兵は兜を被ってるからあんまり見分けがつかないや」

「マト! アイル! じゅんばんきたよ!」


エルがワタワタと手を動かし、前方を指さす。

いつの間にか空いた列を進み、露店で商品を注文する。

その露店では串に刺さった独特なフォルムの料理が飾られており、肉や野菜のいい匂いが露店の奥から漂ってくる。

肉と野菜を纏めて料理し、最後にチーズを巻いて焼き固めた串料理が三本用意される。

アイルが代金を手渡すと、その串料理は持ちやすい様に紙に巻かれて差し出された。


「ありがとう。.........ん?」


アイルは受け取ったイルテン焼きの紙を剥ぎ取って、真兎の前に広げて見せる。

真兎は三本のイルテン焼きを受け取りながら、その紙を眺める。


「.........行方不明者?」

「捜索願いっぽいね。どうやらこの街がピリピリしている理由がわかって来たよ」


アイルは自分のイルテン焼きを齧りながら、真兎とエルの分のイルテン焼きを包んでいる紙を剥がして広げる。

そこにはそれぞれ違う人物の捜索願いが書かれていた。


「【ミッシャー・シゲル】、【ロジャー・スゥ】、【マッケンセル】。男性二人と女性一人、歳もバラバラっぽいね」

「ふぅむ.........」


アイルはイルテン焼きを齧りながら、自分達の足元を見る。そこには今まで気付かなかったが、おびただしい数の捜索願いが捨てられていた。

まるでカーペットや地面の模様の様になった捜索願いには、何十人何百人もの似顔絵が三人を見つめていた。

________________________

「みつけた!」

「.........あ?」


イブはやかましいエルの声で目を覚ますが、部屋の中にエルの姿は無かった。

寝ぼけて聞き間違えたのかともう一度あくびをして、イブはベッドの上で目を瞑る。


「.........ん?」

「やぁやぁ! 部屋を取ってくれてありがとう!」

「へぇ、結構狭いんだな」

「エルすごいでしょー!」

「.........クソが」


部屋の扉が急に開け放たれ、アイルと真兎とエルが入ってくる。イブは舌打ちをしながらベッドの上に座り込み、杖を向けてぺちぺちとベッドの縁を叩いた。


「テメェらこっから入ってくるなよ。これは僕のベッドだ」

「構わないさ、人数分あれば.........三人分しかないな?」

「幽霊にベッドは要らないだろ、いるのは墓だけだ」

「なら私は外で泊まってこようかな。イブの為に買ってきたお土産と一緒に〜」


アイルは手に持ったお土産をわざとらしくイブに見せつけながら、大袈裟な動きで部屋の外に出ようとする。


「おい、待てよ。何買ってきたんだ?」

「いいんだいいんだ、気にしないでくれよ。この絶品料理は私が野宿中に食べるからさぁ」

「おい待て、分かった。ベッドは話し合って決めていい、だからそれを早く僕に渡すんだ」


いつの間にか部屋中に蔓延していた、お土産のいい匂いにイブは敗北した。

ベッドから降りてアイルに詰め寄り、勝ち誇った顔のアイルから料理を奪い取る。


「うぉ.........これは.........っ!」

「ふふふ、噂に名高いイルテンの名物料理達だ。楽しんでくれよ」


イブはアイルから受け取った料理を、目を輝かせながら食べ始める。エルはベッドにダイブして、そのまま通り抜けて床に沈んでいく。


「それで誰がベッドを使うんだ?」

「私以外の三人で使うといい、少し調べたい事があるからね」

「アイル、昼間の捜索願いか?」

「捜索願ぃ?」


イブは口いっぱいに料理を詰め込みながら、すっとんきょうな声を上げた。

真兎がイブの持っている紙を指さし、イブは自分が持っていた包装紙が捜索願いだった事に気が付く。


「誰だこいつ」

「その人だけじゃない、この街では何人も行方不明者が出ているらしい」

「ほ〜ん.........どうでもいいや」


イブは心底興味なさげにそう言うと、くしゃくしゃと丸めて部屋の隅に投げ捨てた。

アイルはその様子を見ると肩を竦め、必要最低限の荷物を持って部屋を出て行こうとした。


「アイル、俺も連れて行ってくれよ。誰かが困ってるなら俺も力になりたいんだ」


真兎が自分の少ない荷物を持って立ち上がる。

アイルはくすくすと笑いながら、真兎の肩を軽く叩いた。


「夜の街は危険が付き物さ、私一人の方がやりやすい」

「でも.........」

「大丈夫だ、明日の朝また会おう」


アイルはそう言い残し、真兎を置いて外に出て行ってしまった。

真兎は取り残され、ベットに腰掛け肩を落とした。


「おいマト、アイルのカバンから油を取ってくれ。僕がテトロで持たせたやつだ」

「あ、あぁ.........」


真兎はアイルのカバンから油を取り、イブに渡す

イブは部屋を照らすランタンに油を注ぎ、自分の荷物の中から本を取りだした。


「火は勝手に消すなよ、寝るならこのまま寝ろ」

「何を読んでるんだ?」

「魔術書だよ、魔術に関しての理論や応用方法が書かれているやつだ。天才の僕には何の価値もないゴミだがな」


アイルはつまらなそうにページを捲りながら、ベッドに寝転がる。

エルは暇そうに自分のベッドの周囲を飛びまわり、つまらなそうにあくびをする。


「な、なぁ」

「ダメだ」


真兎が口を開くが、一瞥すらくれずにイブは否定する。


「どうせ『俺も外に行きたい』だろ、馬鹿が」

「そうだよ.........! 俺は困ってる人がいるなら助けになりたい、俺も力になりたいんだ!」

「それは力のある奴が言えるセリフだ。お前の今の状況は言わば捕虜、ある程度の自由をくれてやってるだけ感謝しろ」

「.........」

「アイルほど僕は優しくない。僕が監視している間は絶対に外に出さないからな」


真兎は自分のベッドに寝転がり、布団を頭まで被って目を瞑る。久しぶりのちゃんとした寝床と旅の疲労が重なり、真兎は一瞬で眠りに落ちてしまった。



次に真兎が目を覚ましたのは、日が昇ると同時だった。

この世界に来てからの習慣がすっかり見に染み付いてしまい、早朝に自然と目が覚めてしまった。


「すぅ.........」


イブはベッド上で膝を抱え、丸まるように眠っている。エルはベッドに右半身を沈ませながら、ふよふよとホバリングしていた。

真兎は二人を起こさない様に荷物を持ち、イブからもらったナイフを持って部屋を出た。


「俺だって誰かを助けたいんだ.........」


噛み締めるように真兎は呟き、まだ誰もいない街に駆け出した。

その瞬間、路地から出てきたカップルにぶつかりそうになる。


「おっと」

「わぁ! ごめんなさい!」

「大丈夫かい? .........って、マト?」


真兎が顔を上げると、気まずそうな顔のアイルが綺麗な女性と一緒に立っていた。


「アイル? その人は.........?」

「あぁ、昨日の夜知り合った人だよ」

「.........お前、だから一人で行きたがったのか?」

「まぁ、それもあるね」


アイルは悪びれもせずにそう言い放ち、真兎はその場に膝を着く。

自分の勝手な想像と現実が違った事に大して失望し、勝手に失望した自分自身にガッカリしていた。

だがアイルはそんな心中には全く気付かず、真兎の肩を心配そうに揺らしていた。



「なにやってんだ、あいつら.........」


そしてそんな二人の背中を、部屋を飛び出したエルを追いかけて飛び出したイブが眺めていた。

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