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あ、俺(達)主人公です。〜幽霊少女と3人の異世界冒険譚〜  作者: 酒ッ呑童子三号
プロローグ【三人の冒険者と幽霊少女】
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第6話 【晴れて今日から冒険者】

朝日が昇る頃、真兎はエルと一緒に誰もいない街を歩いていた。

早朝のひんやりとした空気が肌をくすぐり、エルも少し肌寒そうだった。


「寒いか?」

「.........ねむい」

「朝早いからなぁ.........俺の肩に掴まれるか?」

「うぅん.........」


エルは真兎の肩に上半身を預け、洗濯物の様にだらりと垂れる。

しかしすぐに体は通り抜け、真兎の胴体からエルの上半身が出るという珍妙な格好になってしまった。


「.........今日の夜は早めに寝るんだよ」

「うん.........」

「なんブフッ.........だ、その.........アハハハハッ!」


突然笑い声が聞こえ、周囲を見渡す。

アイルが笑いを堪え切れずに、真兎の後ろから回り込んでくる。


「どうなってるんだい、それ!?」

「エルが眠いらしくって、楽に運べないかなと試行錯誤してたらこうなったんだ」

「私達以外にエルちゃんが見えなくって良かったよ」


アイルは背負った鞄を掛け直し、懐から何かを取り出し真兎に投げ渡した。

動物の皮で出来た柔らかい皮袋で、振るとちゃぷちゃぷと音が鳴る。


「どうせ今日の朝までぐっすりだったろ、マトの分の食料も買っておいたから安心しておくれよ」

「ありがとうアイル! 実はギリギリでエルに起こされちゃって.........」

「ははは! エルちゃんは優秀だね」

「おっせぇぞテメェら」


道の先から怒号が聞こえてくる。

大きな荷物を背負ったイブが、ガッシャガッシャと荷物を鳴らしながら詰め寄ってくる。


「朝日が昇る頃には集合だと言ったよな? 昇って何時間経ったと思ってやがるんだ?」

「すごい荷物だね、何が入っているんだい?」

「あぁ? .........僕の人生だよ。とにかくさっさと出発するぞ!」


イブはカリカリしながら山の様な荷物を背負ったまま、街の入口。イルテンの方向にゆっくりと歩き出した。


「確かに、馬車移動を提案するのも頷けるね」

「イブ! 俺もその荷物持つの手伝うよ!」

「触んな! テメェはテメェの心配してやがれ!」


エルはそんな賑やかな三人の周囲をふよふよと漂いながら、パーティーはイルテンへの道を進み始めた。

________________________

出発してから半日。

アイルとエルを先頭に、一行はイルテンへの道を順調に進んでいた。


「ハァッ.........ハァッ!」

「流石に手伝うって! 俺のわがままなんだから手伝わせてくれよ!」

「うるせぇ.........! 中の物を壊されたらたまったもんじゃねぇ.........!」


真兎はイブの後ろに周りいつでも支えれる様にスタンバイし、イブは山の様な荷物を担ぎ汗だくで怒号を飛ばし続けている。


「あの二人、いつまでやるつもりなんだろうねぇ」

「けんか?」

「喧嘩と言うか、意地の張り合いかな? どちらにせよくだらないね」

「くだらない!」

「ところでエルちゃん、お腹すいてないかい? 軽食を持ってきたんだ」

「たべる〜!」


アイルはクスクス笑いながら懐から小さな袋を取り出し、封を解いて小さな飴玉を取り上げた。

エルは大きな口を開け、アイルの指ごと飴玉をたべる。


「.........あまい! おいしい!」

「それは良かった。味もまだまだあるからいっぱい食べるといい」

「わ〜い!」


エルは次々と飴玉を食べ、通り抜けて味のない飴玉が量産されていく。

アイルはもう一つ包みを取り出し、新しい飴玉とエルが食べた飴玉を混ぜた。


「お〜い二人とも、そろそろ一度休憩にしないか?」


アイルは未だ言い合いを続けるイブと真兎に手を振って呼び掛ける。

二人の視線がアイルに集まると、アイルは近くの森の入口あたりを指さした。


「そこはダメだ、あそこの木の下で休憩するぞ!」


イブはガチャガチャと荷物を揺らしながら森とは正反対の、道から少し離れた大きな木に向かって歩いていく。


「どうしてだい? そっちは遠いじゃないか」

「バカが。あの森の入口に何がいたか見たか?」

「何かいたのか.........? 俺は何も見えなかったけど」

「お前ら冒険者辞めろ。人喰い虫が木に張り付いてたろ。人喰い虫の餌になる死体が落ちてるってことだから、感染症の危険性だけじゃなく、盗賊や魔物の狩場になっている可能性があるんだよ」


真兎とアイルは振り返り、森の入口を凝視する。

その瞬間、森の中から何かが光を反射した。獣の牙か、よく研がれた刃物か。遠すぎて二人に判別はつけられなかった。


「あの木の下は見晴らしもいいし今は丁度日陰だ、一時間程は休めるだろう」

「そんなに休むのか? 俺はまだまだ」

「空気も読めねぇのか? そろそろ一雨降りそうだ、通り雨だろうし雨宿り含めた休憩だ」

「な、なるほど.........」


木の根元にどかっとイブが座り込み、荷物を下ろす。

そして真兎を指差す。


「マト、お前は旅が壊滅的に下手だ。アイル、お前も下手くそだ。どうせ何も考えず甘ったれた考えしてるんだろ。僕はある程度旅に慣れてる、これからの指示は僕に従ってもらうぞ。異論はあるか?」


二人揃って首を振る様子に、イブは満足そうに頷いた。

空にはいつの間にか雲が広がっており、いつ雨が降り出しても不思議ではない天気になっていた。


「お前らも休憩しておけ。軽食もよし、寝るのもよし、ただあまり離れるなよ」

「そうか。丁度飴玉を持ってきたんだ、みんなで食べないか?」


アイルはそう言いながら、懐から飴玉の入った包みを取り出した。

包みを解きイブに差し出すと、イブは何の疑問も持たずにその飴玉を口にした。


「.........おい」

「.........あははははっ! ごめんごめん、ついやってみたくなってね!」


イブは顔を顰めながら無味の飴玉を舐め続ける。

アイルは真兎にも一つ飴玉を取らせ、自分も一つを摘んで口に含んだ。


「お、当たりだ! ちゃんと味がある!」

「無味だ.........」

「よく分からねぇ茶目っ気を出しやがる奴だな.........」

「でも女の子からはよくそういう所が可愛いって言われるよ?」


アイルは至極当然と言った顔で首を傾げ、その様子を見てイブはもう一つ飴玉を口にした。


「.........金髪イケメン野郎のモテ自慢ほど聞いてて無駄なものはねぇな」

「ははは、すまないね」

「ところで二人はさ」


真兎が口を開く。

地面に広げて置かれた飴玉の包みから一つを取り上げながら、真兎は二人に顔を向ける。


「二人は今までどんな生活を送っていたの?」

「秘密だよ」

「言わねぇ」

「えぇ.........」


アイルとイブは即答し、真兎は困惑しながら二人を交互に見る。

二人も訝しんだ様な顔をしながら、お互いの顔を見ている。

周囲はすっかり暗くなり、土砂降りの雨が降り出していた。


「あめ.........」


エルがポツリと呟く。

その言葉に反応する様に、アイルとイブがゆっくりと立ち上がった。


「あれ、だれ.........?」

「お、エルは気付くか。優秀だな」

「マト、キミは少し離れておくといい。木から離れないようにね」

「え?」


真兎は言われるがまま大木にピッタリと背中を付ける。土砂降りの雨の向こう側に、何かが動いたのが見える。


「な、何かが動いた!」


真兎が大声を上げたと同時に、雨のカーテンの向こう側から剣を持った人型の化け物が飛び出した。


「マッドショット!」


イブが杖を振り、泥の塊を化け物の顔にぶつける。

視界を奪われた化け物は一瞬動きを止め、次の瞬間にはアイルの剣によって切り裂かれた。


「ギがぁっ」


切られた化け物血を流しながら悶え苦しみ、地面に転がって呻き声を上げた。

その化け物の皮膚は緑色で、人間よりも背は小さい。醜悪なバランスの顔には、下卑た笑みにも見える表情が張り付いている。

そんな化け物の胴を踏み、アイルは首に向かって剣を向ける。


「ゴブリンだね、どうしようか」

「殺す。一択だろ」

「ま、待ってくれよ! 何も殺さなくても.........」


真兎が声を上げると、イブはゴブリンの頭に杖を突き付け大きなため息を吐いた。


「こいつは魔物だ。人間に似ているが、昨日のマタンゴと何も変わらない。それにゴブリンは魔物の中では知性が高い、集団で動き村を襲う事もしばしばある。ここで逃がせば人間に対して必ず復讐を企てる」


ゴブリンの処遇を話し合っている最中、ゴブリンは鳴き声を上げながら雨の向こう側を睨み付けていた。

エルはそんなゴブリンの視線の先をじっと見つめ、雨の向こう側に何かが光ったのを見つけた。


「.........ふん!」


突然雨の向こう側から飛んで来た矢を、アイルが真っ二つに切り裂いた。

流れる様にイブが火球を放ち、雨のカーテンの向こう側に人型の火だるまを作り出した。

火だるまはしばらくのたうち回り、雨の中で倒れて動かなくなった。


「冒険者が旅の自由が保証されている理由の一つに、魔物を駆除する役割を担っているからと言うのがある。僕達冒険者は様々な恩恵を受ける代わりに、人に害なす魔物を殺す。これは冒険者のルールだ」

「.........」


イブはナイフをローブの下から取り出し、真兎に向かって差し出す。


「お前がやれ」

「どうして.........」

「冒険者をやっていく為には命を奪う覚悟が必要だ、咄嗟の場面で動けなくても困る。ここで最初を経験しておくんだ」

「.........っ!」


真兎はナイフを受け取り、地面に膝を着く。

雨で濡れた地面が泥となり、膝を生暖かく包み込む。

ゴブリンはアイルに踏みつけられたままじたばたと動き、必死でナイフから逃げようとしている。


「首を狙え。魔物と言えど生物だ、弱点は人間と変わらん」

「うっ.........」


ナイフを少し持ち上げ、ゴブリンの首に押し当てる。ひんやりとした鉄の感触と死の予感を感じ取ったのか、ゴブリンは低い唸り声を上げ真兎をじっと睨みつけた。


「ごめん.........ごめんなさい.........ごめんなさい.........」


真兎はナイフを一気に振りかぶり、ゴブリンの首に深く突き刺した。

ゴブリンの首からは大量に血が吹き出し、ゴブリンは溺れる様な絶叫を上げる。飛び跳ねた血が真兎を赤く染め上げ、真兎は思わず目を閉じた。


「おめでとう土門真兎(つちかど まと)、お前は晴れて今日から冒険者だ」


土砂降りだった通り雨はいつの間にか過ぎ去り、イブの言う通り空は晴天に戻っていた。

真兎は目を開き、自分の手で動かなくなったゴブリンをしばらく見つめていた。

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