表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あ、俺(達)主人公です。〜幽霊少女と3人の異世界冒険譚〜  作者: 酒ッ呑童子三号
プロローグ【三人の冒険者と幽霊少女】
5/21

第4話 【幽霊少女エル】

銀髪で半透明な少女は、ワンピースの様な服を舞わせながら真兎を見つめる。


「エル.........それが君の名前?」

「なま、え.........? える?」


エルは真兎に向けて指を差す。


「える、える?」

「いや、俺はエルじゃない。君が」

「ゲホッゲホッ! なんだこいつは........」

「コホッコホッ、本当に箱の中に人が.........?」


黒い煙は床に吸い込まれるように薄れ、その奥からイブとアイルがゆっくりと近付いてくる。

イブはエルの姿を見ると動きを止め、凝視しながら杖を向けるべきかどうかを見定めている。

アイルはエルの姿をまじまじと見ると、軽い足取りでエルに近づく。


「キミとってもかわいいね! あの箱の中に入っていたのかい?」


アイルはエルの手を取ろうとするが、するりとすり抜けアイルは盛大にこける。

エルはそんなアイルに興味すら示さず、周囲をキョロキョロと見回し続ける。


「どうした? 何かを探しているのか?」

「.........わかんない」

「おいマト、こいつはなんなんだ。お前は何か知ってるのか」


イブは真兎に向かって杖を向けながら、エルを横目でちらちら見る。

エルは両手を広げ、真兎と杖の間に割り込む。


「だめ!」

「なっ、なんなんだコイツ!」

「だめなの!」

「.........クソが」


イブは杖を下ろし、舌打ちしながらフードを被って顔を逸らした。

アイルがよろけながら立ち上がり、顔に着いた泥を拭いながらエルに向かって跪く。


「突然失礼しましたお嬢さん、お名前を聞いてもいいかな?」

「.........? エルは、エルだよ」

「エル、可愛らしい名前だね。どうしてあの箱の中に入っていたんだい?」


アイルの指を追って、エルの視線が地面に落ちている壊れた木箱に吸い込まれる。

次の瞬間エルは身体を震わせ、真兎の背中に逃げ込んだ。


「こわい.........」

「この箱がかい?」

「こわい!」


エルは癇癪を起こした子供の様に大声を上げ、アイルが持った木箱に対して背中を向けた。

アイルは持っていた布で箱の残骸を包み込む。


「ほら、これで大丈夫だ!」

「.........」

「.........ひとまず、落ち着こうか。私達は何一つ理解出来ていない」


アイルは抜きっぱなしだった剣を鞘に納め、大きくため息をつきながら部屋の出入口近くに座った。

イブは地面に描かれた魔法陣を観察しながら、そのすぐ側に座る。

エルは真兎の背中にぴったりとくっつき、真兎は二人のちょうど対角線上に座った。


「もう.........俺を殺そうとしない?」

「いや、言い切れはしない」

「だが色々起こりすぎだ、結論を出すのは一つ一つ整理した後だ」

「そうか.........」


真兎は部屋の壁に背中を付け、大きく息を吐いた。

エルはふよふよと真兎の周囲を飛び回りながら、イブとアイルを交互に観察している。


「へんなかみ!」

「あぁ!? 失礼な奴だな、生まれつきだよ!」

「うまれつき.........?」

「最初っからこうだったんだよ」

「そうなんだ.........」

「お前は結局なんなんだよ。おいマト、こいつはなんだ説明しろ」

「分からない.........助けを求める声が聞こえたから、箱を開けただけだ。それ以外何も知らない.........」

「使えねぇなぁ.........!」


イブはイラついた様子でアイルから箱をひったくる。そして部屋の隅に移動して、エルに箱が見えない様に背中を向けながら布を乱暴に解く。


「クソ.........なんだこれ、マジでなに? .........いつの時代のだよクソが.........」


イブはブツブツと小さく呟きながら、一人で箱を調べ始める。

エルは真兎の肩越しにそれを見ているが、真兎とアイルは半透明のエルの体越しに目が合っている。


「えっと、エルは半透明だけど幽霊だったりするの?」

「.........」


エルは口を閉ざし、暗い表情をしながら真兎の膝の上に座る。


「.........エル、ころされた」

「殺された? 誰にだい?」

「わかんない。バラバラにされた.........」

「バラバラ.........?」

「酷い.........」


アイルはエルの言葉を繰り返しながら、自分の記憶を探る。

そして両手を打ち合わせた。


「思い出した! キミは」

「魔王退治の時の神の巫女だろ、どうせ」

「イブ!」


アイルの言葉を遮り、イブがボソリと呟く。

イブは木箱を布で包み、アイルに投げ渡す。


「その箱の底面に古い文字を見つけた。劣化年代的に言えば魔王退治があった1000年以上前のだろうな」

「じゃあ魔王退治は御伽噺じゃないし、この子は神の巫女って事かい?」

「ま、待ってくれ。何の話だ? 一つ一つ教えてくれよ」


真兎は困惑した様子で二人に尋ねる。

アイルとイブは顔を見合せ、イブが大きく咳払いをした。


「1000年以上も昔、邪智暴虐の限りを尽くしていた」

「魔王エステルがいて、勇者一行と6人の協力者。そして.........巫女に倒されたって話?」

「知ってるんじゃねぇか。巫女がどうなったかは知ってるか?」

「いや.........」

「巫女は魔王との決戦で光になって世界に散り、魔王の力を弱まらせたんだよ。その巫女の見た目はこんな感じの銀髪の少女って話だ」

「じゃあエルはその.........巫女なのか?」

「恐らくな」


エルは何の話をしているのか分かっていないようで、ふわふわと真兎の周囲を漂いながらうつらうつらとしている。

その様子を見てアイルは部屋の外の様子を見る。


「もう日が落ちているな。夜の森は危険だ、今日はここで一泊しようか」


エルは空中で横になり、ふよふよと漂いながら薄目を開ける。


「からだ.........」

「どうした? エル」

「からだ.........もどってほしい.........」

「うん、分かった。俺が何とかするよ」

「えへへ、ありがとう.........」


エルは目を瞑り、地面スレスレを浮きながら眠ってしまった。

そんなエルの様子を見ながら、イブは足元を照らす小さな光を出して真兎に杖を向ける。


「おいマト、色々聞きたいことがある。是が非でも答えてもらうぞ」

「あぁ、何でも答える」

「あの重力魔術はどこで使えるようになりやがった?」

「あれは.........女神様から貰ったんだ。魔王を倒す為に役立ててくれって」

「女神様から? お前.........!」


アイルが剣を抜いて立ち上がろうとするが、イブがそれを片手で制する。


「まぁまぁ、大体事情は分かった。女神様から力を貰ったから、禁忌魔術が使える。筋は通るだろ?」

「禁忌魔術ってなんなんだ.........?」

「簡単に言えば神様の使う魔術だ。【命を操る魔術】【天候操作魔術】【星降りの魔術】そしてお前が使った【重力魔術】の4つが禁忌魔術に指定されている」

「.........確かに女神様から与えられたのなら、納得はできる」

「アイルは僕の見立てによると、信仰心の強い女神教信者と見た。あまり女神様の事で迂闊に発言するべきじゃねぇな」


アイルは剣を収め、腕を組んで唸り声を上げ始める。


「なぜ女神様はマトに禁忌魔術を.........?」

「簡単な話だ、歴史の勉強は苦手か?」

「なんだと?」

「魔術の歴史に禁忌魔術の別の成り立ちが言い伝えられている。戦争などで人間が禁忌魔術を使うと、戦争に無関係な者等へ甚大な被害が出るから禁忌に指定した。だから女神様は禁忌魔術と知らずに与えたんだろう」

「.........教会の教えに反する。だが、確かにそれなら納得がいく」

「勝手に納得しないでくれよ。俺はこれからどうすればいいんだ.........?」

「「絶対に使うな」」


アイルとイブが声を揃えて真兎に詰め寄る。

真兎は少し怯みつつも、唾を飲み込み大きく三度頷いた。

二人が大きなため息をつきながら真兎から顔を離すと、真兎は大きく深呼吸しながら二人に向き直った。


「これからどうするって言うのはこの力じゃなくって、パーティーの事だよ」

「解散だ。元パーティーメンバーまで縛り首には流石にならないだろう」

「それはダメだ。後にこのバカがトチって禁忌魔術が使える事がバレた時、あまりに早すぎるパーティー解散は異様な経歴として目を引くだろう」

「.........私達も縛り首、か」

「それなら程々の時間パーティーを組んでから解散の方が怪しまれない。それに、エルの存在は魔王に関する大きなヒントになると僕は睨んでいる」

「エルが?」

「確かに。巫女だとしたら語り継がれなかった魔王に関する情報を持っているかもしれないな」


ふよふよと地面スレスレを漂うエルに視線が集まる。

寝顔はとても幼く、何かを食べる夢を見ているのか口の端からヨダレが垂れている。


「可愛いな.........」


アイルがポツリと呟く。

そして次の瞬間二人の顔を見て、同意を求める様に目を丸くした。


「可愛いだろこの子!?」

「まぁ.........程々にな」

「言われてみれば、まぁ」

「なんだい揃いも揃って無反応! まるで私が異常みたいじゃないか! 年頃の男なら恋話の一つや二つするものだろう!?」

「僕はもう20だ」

「え.........俺18だけど、年上だった。んですね」

「敬語は辞めろ、気に入らねぇ」

「あ、うん」

「マトは私と同い年の癖に世間知らず過ぎるな.........」


アイルはそう呟きながら、拳を握って三人の真ん中に突き出した。


「とにかく。私はさっきのイブの話を聞いた限り、パーティーを続ける事には賛成だ。それに騎士としての修行はしなければならないからね。これから改めて、よろしく頼むよ二人とも」

「けっ」


イブは気だるそうに拳を突き出し、アイルの拳にぶつける。


「結論僕は無駄だと思えばすぐに抜ける。禁忌魔術の事がバレそうになれば迷いなく殺す。あくまで僕の目的は魔王である事を忘れるなよ」


最後に真兎が二人の様に拳を突き出す。


「俺はこの世界を何も知らないし、この力を使えないのなら戦力にもならない。それでも魔王を倒したいし、エルを助けたい思いがある。俺も全力を尽くすから、どうか力を貸して欲しい」


三人は拳を突き合わせ、お互いの目を見る。

こうして最終目的地は違っても同じ目標の名の元に、三人組の冒険者パーティーが結成された。

その様子をぼうっと見ながら、半分眠った脳でエルは静かに微笑んだ。

・感想

・いいね

・ブックマーク

・評価等


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ