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あ、俺(達)主人公です。〜幽霊少女と3人の異世界冒険譚〜  作者: 酒ッ呑童子三号
第一章【のどかな国と、見えない悪意】
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第19話 【出発】

暗闇の中、あのドス黒い殺意で出来たオーラが目の前に立ちはだかる。逃げても逃げても追いかけてきて、巨大な鎌が空を切る。突然見えない壁にぶつかり、ドス黒いオーラが大鎌を振りかぶる。

次の瞬間、自分の首が跳ね飛ばされた。


「うわっ!」


ベッドから飛び起き、周囲を見回す。

真兎はさっきまで見ていたものが悪夢だと理解し、落ち着くために深呼吸をひとつした。


「よぉ、随分とうなされてたな?」

「イブ.........ナイトメアはどうなった?」

「あぁ? あ〜.........まぁ。ジルア・キャットがぶん殴ってぶち殺しちまった」


イブは歯切れ悪そうにそう答え、手に持ったパンと水筒を真兎に投げ渡した。

真兎は水筒の水をぐびぐびと飲み、空腹に気付いてパンを貪る様に齧る。


「.........全身が痛い」

「あの距離を落下して水に落ちたんだ、コンクリートに落下するのと同じくらいの衝撃だろうよ。あれで気絶しないアイルの体はどうなってんだかな」

「アイルはどこに行ったんだ?」

「エルと食料品を買い出しに行ったよ、次の目的地が決まったからな」


イブは地図を取り出し、ベッドに投げ出された真兎の膝の上に広げる。


「お前が寝てる間にエルが次の場所を感知した。この街から北へ数日、隣国メイルヘム共和国領地。魔術と研究の街【()()()()()()】だ」


イブは地図を指差す。

そこにはまるで、倒れた人型の様な形の街が描かれていた。


「変な形の街だな」

「出発はお前が目を覚まして一日後、つまり明日だ」

「待てよ、旅に必要な物とか用意出来るのか? 第一俺達には資金が.........」

「ほらよ」


イブが真兎に顔に向かって、真兎の財布を投げ渡す。

真兎はキャッチするが、予想外の重量に押され自分の手が顔にぶつかる。

ジャリジャリと硬貨の擦れる音が、絶えず財布の中から鳴り続ける。


「ラットキングは一級の賞金首だ、三等分しても十分な程のな」

「.........人を殺して金を貰うのか、複雑な気分だな」


少し項垂れ財布を握りしめる真兎を見ながら、イブは大きくため息を吐いた。

ラットキングの死体は見つからなかった。B(ブラッディ)N(ナックルズ)が地下下水道を隅まで探したが、鼠に齧られて原型を無くした複数の死体しか見つからなかった。

証拠品となる様な拠点も、ネズミ共の生活の跡も、二本の刀も見つからなかった。だがジルア・キャットは大金をイブに握らせた。


『あの状況証拠から見るに、私はお前達を嘘吐きだとは思わにぁい。実際衛兵からも証言は出ているからにぁ』

『だが死体も無ければ証拠品も無い。そんな状態なのに賞金が出る訳がねぇ。つまりこの賞金はお前らが用意したものだな? どういう意図だ、僕は騙されないぞ』

『賞金首をボロボロになりながら殺ったのに、褒美無しじゃ可哀想にぁ。先輩冒険者からのささやかな贈り物にぁ』

『.........』

『新人冒険者様のおかえりにぁ、送ってやれにぁ』


イブはジルアとのやり取りを思い出し、大きな舌打ちをした。

真兎はその様子を見て首を傾げるが、イブは「何ともない」と突き放す様に言った。


「おおいイブ見てくれ! 新しい剣を買ったんだ、カッコイイだろう!」

「ごはんもいっぱい買った〜!」


騒々しくアイルとエルが、部屋の扉を破る勢いで入ってくる。アイルの腰には新しい剣が提げられており、前に使っていたのと同じような直剣だった。


「マト! 良かった目が覚めたんだな!」

「マト〜!」

「二人ともおはよう、怪我は大丈夫か?」

「私は誇り高き騎士だよ、戦いの傷は誉れ傷さ!」

「顔の擦り傷は跡なく治療させたのにカッコつけんな」

「おいイブ! せっかくマトが知らないんだから黙っておいてくれよ!」

「マト、これあげる!」


エルはアイルのマントの中から小さなナイフを取りだし、真兎に手渡した。

柄には小さな宝石が埋め込まれており、鋭く研がれた刃は革製の鞘にしっかりと収められている。


「ありがとう、エル」

「エルちゃんがどうしてもと言ってね、イブと私で半分ずつ出したんだ」

「耐久性には優れているはずだ、好きに使え」

「二人ともありがとう。大事にするよ」


真兎はナイフを両手でしっかりと握り、膝の上に置いた。イブは地図をすかさず回収し、くるくると丸めてカバンに入れた。


「それじゃあ次の目的地も共有したし、今日は解散だ。各々好きに過ごせ、明日の朝出立するぞ.........ふぁぁ」


イブは大きな欠伸をし、部屋のもぅ一つのベッドに横になってすぐに寝息を立て始めた。

アイルはその様子を見ながらくすくすと笑う。


「彼、キミが寝ている間ずっと番をしてたんだよ」

「そうなのか.........?」

「実際私達の中で、彼が一番仲間の事を大切にしているのかもね」


アイルはまた小さく笑いながら、鎧を外してイブをベッドの端に追いやる。

そして空いたスペースに横になる。


「私も今日は早めに寝るとしよう、キミも早く寝たまえよ」


アイルは部屋の明かりを消し、ベッドに潜り込む。掛け布団を全てイブから奪い、イブは寒そうに唸り声を上げた。


真兎はそう簡単には眠れず、数十分経ってからベッドを抜け出した。

まだ少し痛む関節を動かしながら、真兎は部屋を抜け出し瓦礫まみれの街に出る。

外はもう暗闇に落ちていたが、屋根の上を走り回る足音は聞こえない。


「マト、おさんぽ?」

「エル.........眠れなくてね」


エルはふよふよと真兎の周りを周り、月明かりを浴びてくるりと回転した。


「おさんぽしよ!」

「そうだね、少し歩こうか」


街の至る所でランタンの明かりに照らされた人達が、大量の瓦礫を片付けている。黒いスーツを纏ったB(ブラッディ)N(ナックルズ)達も、瓦礫の撤去を手伝っている。


「.........マト!」

「ん? あ、アンジェリカさん!」


薄着で瓦礫撤去の作業を続けていたアンジェリカが、手を振って真兎の元に走り寄ってくる。

そして勢い良く真兎の手を握り、祈る様に頭を下げた。


「助けに来てくれてありがとう.........君達がこの街に来なければ、この国はずっとこのままだった。ありがとう.........」

「そんな、ただ困ってた人を助けただけですよ。怪我は大丈夫なんですか?」

「あぁ、私はすっかりピンピンしているよ。回復魔術(ヒール)で疲労は取れないがこの国のためだ、いくらでも頑張れるさ」


アンジェリカは少し笑みを浮かべ、自分の頬を書いて視線を逸らす。


「そういえば妹さんは」


そこまで言って真兎は慌てて口を閉ざした。

ラットキングは攫った人をバラして売り払ったと言っていた。つまり、この街で消えた冒険者達は生きていない。

真兎はその事を伝えるべきかと悩みながら顔を上げるが、アンジェリカは全てを理解しているかの様な表情を浮かべていた。


「.........大丈夫、きっと見つかる」

「.........そうですね、きっと見つかりますよ」


二人の間に微妙な沈黙が流れる。

何か話題を作ろうと真兎は周囲を見渡すが、アンジェリカが真兎の手をぎゅっと握りしめた。


「改めて、この国を救ってくれてありがとう。私は生涯君達への感謝を忘れないだろう」

「俺はただ助けてくれたアンジェリカさんを助けただけです。それに、街をこんなにしてしまった原因は俺達にもあります。明日には出発とか言ってますけど、俺だけでも復興を手伝わせてください」


そう言うと、アンジェリカは少し複雑な顔を見せた。

周囲を見回し人がいないことを確認すると、耳打ちで静かに話し始める。


「説明はしてはいるのだが、それでも街を壊された事に憤る住人も多くてな。身の安全のために早めの出立を提案したんだ、最初は二人も同じ事を言っていたよ」

「.........家が壊されたらそりゃあ怒りますよね。分かりました、予定通り明日出発します」

「あぁ、ほとぼりが冷め復興が終わった頃に遊びに来てくれ。盛大な歓迎を準備しておこう」


少し眠気が湧いてきた真兎は、大きなあくびをする。

その様子を見てアンジェリカは笑みを浮かべ、真兎の手を引いて立ち上がった。


「宿まで送ろう」

「はい、お願いします」


真兎とアンジェリカは連れ立って宿に歩き始める。

エルはその様子を少し遠巻きに見つめながら、大きなあくびをした。



翌朝、まだ霧の張る街の中。

三人は荷物を馬車に詰め込んでいた。


「よ〜し食料品、寝具、消耗品。全部詰め込んだな?」

「キミの荷物がほとんどだけどね.........一体何を買ったんだい?」

「あ? あぁ.........ま、次の街でのお楽しみだ」

「アンジェリカさん、馬車を用意して下さりありがとうございます。ほんとに貰ってもいいんですか?」

「あぁ。これくらいしか出来ないが、是非とも貰ってくれ」


アンジェリカは頷きながら、馬の頭を撫でる。

イブが馬車の荷台に乗り込み、アイルと真兎は御者台に乗り込んだ。


「そう言えばキミ達にはもう一人居たと報告があったのだが.........その人はどこに?」

「エルだよ〜!」


エルは突然実体化し、荷台の屋根を貫通して上半身を元気に出した。


「おぉ、君がもう一人かい?」

「.........ぶはっ」


エルは限界を迎え息を吐いて霊体化し、その様子にアンジェリカは目を丸くした。


「今のは.........?」

「俺達の仲間で、幽霊のエルです。訳あってあの子の体を探して旅をしてるんです」

「おいマト、喋り過ぎだ」

「なんで、別に隠す事もないだろう?」

「.........いや、女神様への信仰が厚い者の前では控えた方がいい。命とは女神様だけが好きに出来るものだ、幽霊の存在なんて認めないだろう」

「あれ? アイルは全然そんな素振り見せてないけど?」


アイルは金の髪の毛をかき揚げながら、アンジェリカに向かってアイコンタクトを送る。


「私は女性には優しいんだよ、良ければ今度食事でもどうかな?」

「ふふ、またこの街に来たら応じてあげるよ。道中は長く危険だ、どうか旅の無事を祈るよ」

「はい、それではまた!」


真兎の言葉を合図に、アイルが手網を操り馬を歩き出させる。

ガタガタと車輪の音を響かせながら、三人と一体を乗せた馬車は密かにイルテンの街を後にした。

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