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あ、俺(達)主人公です。〜幽霊少女と3人の異世界冒険譚〜  作者: 酒ッ呑童子三号
第一章【のどかな国と、見えない悪意】
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第16話【下水道の決戦】

「来るぞ!」


イブの声掛けと同時に、ラットキングの激しい斬撃が嵐の様に二人に襲いかかる。アイルは強く足を踏ん張り、剣を使いその斬撃の全てを打ち払う。

そしてラットキングの斬撃が緩んだ瞬間、すかさずアイルは姿勢を低くする。


「ピーカーブー!」


イブはアイルの頭上スレスレに土の弾丸を放つ。

ラットキングは体全体を仰け反らせ、その弾丸を避ける。


「そこっ!」


体を反らしたラットキングの隙だらけの体を、アイルが一閃真っ二つに切ろうと剣を振る。

しかしラットキングは手首だけを回転させ、二本の刀を合わせて全力の一撃を防ぐ。


「はははははぁっ!」


ラットキングは笑い声を上げながら、バネのように体を跳ね上げた。

大きく刀を振り上げ、一瞬の隙も見つからない程の連撃をアイルに叩き込む。


「足元注意だ!」


イブが地面を強く杖で突くと、ラットキングの足元だけが泥の様に軟化した。ラットキングの足は一瞬沈み込み、攻めの手が一瞬止まる。

もう一度アイルは頭を下げ、イブが杖をラットキングの頭に向ける。


「二度は喰らわん!」


ラットキングは刀を頭の前でクロスさせ、土の弾丸を防ぐ準備をする。だがイブの杖からは強力な光が放たれ、ラットキングの目を潰した。


「二度も使うかよバーカ!」

「目眩しか.........!」

「うおおおお!」


アイルが剣を振り上げ、ラットキングの頭目掛けて剣を振り下ろす。

ラットキングは目を強く瞑ったままアイルの剣を刀で受け止め、アイルの腹に蹴りを入れた。


「ヴっ」

「アイル!」


イブは片手でアイルを受け止め、風の刃を作り出してラットキングに飛ばす。

ラットキングは噛み砕く様に刀を動かし、風の刃を片っ端から消し去った。


「クソが!」


イブは強く杖を地面に立てると、ラットキングとの間に分厚い土の壁が出来上がった。

だが一瞬で切れ目が付き、ラットキングが土の壁を体で突き破った。


「はははははこんなショボイ土壁で! .........は?」


ラットキングは素っ頓狂な声を上げ動きが止まる。

それもそのはず、目の前にはイブしかいなかったからだ。


「ッ!」


天井からアイルがまるでギロチンの刃の様に落下する。

ラットキングは刀でギリギリで受け止めるが、受け止め切れず肩から腹にかけてを浅く切り裂かれる。


「灼熱、炎海、太陽の槍!」


イブは短く詠唱をしながら杖を振り回し、炎を杖の先に集め傷口を抑えるラットキングに向けた。


獄炎爆発(エクスプロージョン)!」

「くっ!」


杖の先の炎が膨れ上がって爆発し、ラットキングを飲み込み下水道をマグマの海にする。

一瞬で熱気が真兎達の喉を焼き、ネズミ達の死体は水で洗い流されたかのように消え去ってしまう。


「ははははは! 天才魔術師を甘く見たな!」

「イブ! 足場を考えろ馬鹿!」

「黙れ! 僕の事を低く見積ったこいつの.........!」


イブが急に静かになる。

その胸には背後から突き刺された刀が、肋骨の間から飛び出していた。


「正直、驚いた」


魔力を失ったマグマはゆっくりと消え、ラットキングはイブの胸から刀を引き抜く。

肉の焼ける臭いと、冷たな風が下水道を吹き抜ける。


下水流(げすいりゅう)影踏み乱歩(かげふみらんぽ)。特殊な歩き方で相手の視界の外を歩く技だ」

「お前ぇぇぇ!」


アイルは剣を構えラットキングに斬り掛かる。

ラットキングは刀にイブを突き刺したまま、アイルの前に突き出した。イブの苦しむ姿にアイルが足を止めた瞬間、もう片方の刀でアイルは切り裂かれる。


「ぐぅ.........!」


アイルは壁に叩き付けられ、鎧の隙間から大量の血を流す。ラットキングは軽く刀を振り、イブを下水道の隅に投げ捨てる。


「個々の強さはあるが連携が甘い。思想、殺意、覚悟、戦法。それら全てを擦り合わせて、初めて連携と呼べる物が出来上がる。それに、足手まといがいるのも良くない」


ラットキングは刀に着いた血を振り払い、アイルの首元に向ける。


「殺してやる。死体はバラして闇市場に流してやろう」

「ぐ.........」


アイルは向けられた刀を掴み、自分の首から遠ざけようと力を入れる。だがラットキングはピクリとも刃先を動かさず、ゆっくりとアイルの喉に刀を進める。


「おい」

「足手まといが、とっとと消え失せろ。貴様如きに興味は無い」

「エル、アイツをアイルから離してくれ」

「は〜い!」


エルはラットキングの目の前で実体化し、ラットキングは驚きその場から大きく飛び退いた。


「な、なんだ.........?」

「おい」


ラットキングは真兎の方に顔を向ける。

真兎はイブからもらったナイフを一本右手に握り、ラットキングに視線を向けていた。


「やめろ.........! お前じゃ勝てない、逃げろ.........!」

「イブ、俺は大丈夫だ。任せてくれ」


真兎はナイフを両手でしっかりと握り、刃先をラットキングに向ける。両足を大きく開き、しっかりと地面を踏み締め踏ん張る。


「なんだ、何をしている?」

「このナイフ一本でお前を()()

「.........ふふ、ははははっ! やってみろ!」


ラットキングは刀を上下に構え、真兎の出方を伺う。

真兎は手の中に魔力を注ぎ込み続け、両手でしっかりと握ったナイフに重力を重ねがけする。

真兎の手から血が滴り落ち体がゆっくりと前に地面を滑り始めた時、ラットキングの本能にやっと危険信号が放たれた。


「くっ、なんだ。何をしている!」


ラットキングが冷や汗を浮かべ、その場から離れようとした瞬間。

真兎はしっかりと握ったナイフを手放した。


「【重力砲(グラビティキャノン)】」


真兎の手を離れたナイフは重ねがけされた重力に従い、音の速さを超えてラットキングに向かって放たれる。

ラットキングはナイフの発射と同時にその場から離れたが、ナイフはラットキングの脇腹を大きく抉っていた。


「が.........ごふっ」


ラットキングはその場に崩れ落ち、傷口を抑えて口から血を吐き出す。

飛んでいったナイフは下水道の壁を突き破り、硬い岩盤にぶつかり粉々に砕け散っていた。

真兎はナイフに引っ張られ剥がれた手の平を、だらりと垂らして痛みを我慢する。


「マト.........!」


アイルが地面に手を付きながら立ち上がる。

真兎はすかさずアイルを支え、笑顔を向けた。


「大丈夫、心配してくれてありがとう」

「違う.........!」


アイルが真兎を抱きしめ、その場から倒れる様に押し退ける。その瞬間ネズミの歯の様な粗雑な斬撃が、下水道の一部を削り取った。


「まだ立ち上がってくる.........奴はまだ諦めていない.........!」

「その通りだ.........予想外の、一撃だったがな」


ラットキングは自分を覆っていた灰色の布を取り払い、それを傷口に詰め込んで止血していた。

ラットキングが一歩動くごとに、傷口に詰めた灰色の布が血に染まる。


下水流(げすいりゅう).........」

「まずい.........!」


ラットキングは刀を上下に構えながら、歯を食いしばって真兎を睨み付ける。

ラットキングの腕が人間の目では捉えられない程の速度で振られ、いくつもの斬撃が重なって真兎の体の表面が齧り取られた様に消えていく。


「どこ見てんだっ!」


鋭い音と光が下水道内を駆け巡り、一閃の光がラットキングの体を貫いた。ラットキングの体は大きく跳ね、その場で痙攣を起こし動きを止める。


「が、な、な、なんだ!? 何が起きた!?」

「天才には奥の手があるんだよ.........! やっちまえ!」

「あぁ、もちろんだとも!」


アイルは剣を構え、ラットキングの体に突き刺そうと突き出す。

しかしラットキングも痙攣し続ける体を無理やり動かし、二本の刀でアイルの剣を体ギリギリで受け止めた。


「こんな、ガキ共に.........!」

「く.........!」


ラットキングの傷口を塞ぐ灰色の布はすっかり赤く染め上がり、ボタボタと吸い取りきれなかった血が地面に落ちる。ラットキングはアイルの剣をゆっくりと押し返し始める。


「押し負ける.........!」

「アイル.........!」


真兎がアイルの剣を一緒に握り、全身の力を振り絞ってラットキングに剣を押し返す。

だがラットキングとの力はちょうど拮抗し、下水道内に荒い呼吸音と撒き散らされる血液の音だけが響いていた。


その瞬間、半透明の手が二人の手と重なる。

大きく息を吸い込み、エルは実体化して剣を押し込む。


「ぐおおおおおおおおおッ.........!!!」


ラットキングの雄叫びにも似た絶叫。

それが収まる頃には、ラットキングの体を一本の剣が貫いていた。


「.........」


二人は肩を寄せながら、下水道の床に座り込んでいた。

マグマで溶けて固まった歪な石床の座り心地の悪さに、二人は小さく吹き出してしまう。


「な〜に笑ってんだ馬鹿二人、刺された僕を心配しろよ」

「軽口叩けるくらいには元気なんだろ? 全身切られてる私の方が重症だよ」

「空気に傷口が触れると激痛なんだけど、先に治療してくれないか?」

「エルはおなかすいた!」


三人と一体は緊張の糸が切れた安堵感からか、くすくすと笑い合う。

真兎は地面から手を持ち上げると、皮膚の剥がれた手の平がラットキングの血で真っ赤に染まっていた。

真兎はそれをしっかりと握り込み、剣がラットキングの体を貫いた時の感触を思い出す。


「なぁ、アイルが最初に人を殺した時はどうだったんだ?」

「え? .........私は生きる為に殺した。マトと一緒だよ」

「そうか、俺はなんだか清々しい気分だ」


真兎はラットキングの血溜まりの中に大の字になって寝転び、背中を伝う冷たな感覚を味わった。

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