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あ、俺(達)主人公です。〜幽霊少女と3人の異世界冒険譚〜  作者: 酒ッ呑童子三号
第一章【のどかな国と、見えない悪意】
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第15話 【下水道】

地下に降りるにつれて、下水の臭いが立ち上ってくる。

真兎は顔を顰めながら、地面に降り立つ。


「古い下水道の様だね.........?」


アイルは周囲を見回しながら、静かに呟く。

地下空間には遠くから水音と、地上で起こっている爆発音が振動となって地面を揺らしていた。


「ここはもう誰も使っていない下水道」


暗闇の奥から声が聞こえる。

闇の中から産まれ落ちる様に、灰色の布を被った集団がゆっくりと進み出てくる。

アイルは剣を抜き、真兎を守る形で前に出る。


「我々の邪魔をするな」

「それは出来ない。可愛い女の子に頼まれたからね」

「なら死ね」


ネズミ達が一斉に散らばり、下水道の脇道に姿を隠す。


「そこっ!」


アイル達のすぐ側の脇道から、ネズミが飛び出しナイフを振り下ろす。アイルはネズミを弾き飛ばすと、灰色の塊は別の脇道に一瞬で姿を隠した。


「暗殺者らしい、不意打ち狙いのヒットアンドアウェイ。どことどこが繋がっているんだ.........?」

「アイル、こんなに静かなのにアイツら足音がないよ」

「暗殺者はそういうものさっ!」


アイルはまた脇道から飛び出したネズミに剣を振り、胴を真っ二つにした。

ネズミ達が飛び出すペースが早くなり、アイルは素早くネズミ達を次々と切り伏せる。


「マト! 私の後ろから絶対離れるなよ!」


嵐の様にネズミ達が代わる代わる脇道から飛び出し、アイルに切り掛る。

目まぐるしく様々な方向から襲いかかって来るネズミ達を、アイルは真兎の周囲を回りながら切り殺す。

真兎の前にどんどんとネズミ達の死体が積み上がり、流れ落ちる血液は一瞬で下水流を赤く染めていく。

どんな角度からの攻撃も対応し、綺麗にカウンターを入れ殺す。どれだけ不意打ちをされても、次の瞬間には体制を整え次の攻撃に備えている。

足元の血で足を滑らせても、体を捻って片手で地面を突き飛ばし元の姿勢に戻る。

何人ものネズミ達が一斉に襲いかかろうとも、僅かなズレを縫うように一人一人確実に始末する。


「やはり見事な剣術だ.........!」

「アイル!」


ネズミ達の合間に紛れ、ラットキングがアイルに切り掛る。

予想外の攻撃に一瞬反応の遅れたアイルは、ラットキングの攻撃で剣を弾き飛ばされる。


「くっ.........!」


ラットキングは追撃をせず一歩後ろに下がり、アイルの様子をただ眺めている。

アイルは素早く死体からナイフを取り上げ、両手に構えてネズミ達の首を次々割いていく。

だがアイルの手はゆっくりと震え始めていた。間合いの短なナイフで先手を取られて勝てる程、アイルの腕は良くなかった。だから先手先手で攻撃をしなければならなかった。

それがアイルの心に負担となって、その両腕にトラウマという名の枷が現れた。


「はァッ.........! はァッ.........!」

「くくく、やはり受けの剣術か.........攻めに転じた途端に呼吸が乱れ始めたぞ.........!」

「見破られてる、なんとかしないと!」


真兎は周囲を見渡し状況を打開出来るものを探す。だが暗い地下の下水道に救いの手が落ちている訳もなく、ただ暗がりに紛れるネズミ達と目が合うだけだった。


「エル、エルは?」

「ぐっ!」


周囲を見回す真兎の耳に、アイルの声が入る。

視線を上げると、アイルの肩に深々とナイフが突き刺さる。

動きの止まったアイルに向い、一斉にネズミ達が飛び掛ろうとする。

その瞬間、空中でネズミ達の胴体が真っ二つに裂かれた。


「おい貴様、俺の部下になる気はないか?」

「な、なに.........?」


ラットキングは片方の刀を収め、アイルに向かって空いた手を差し伸べる。

アイルはその手を弾き飛ばし、即座にラットキングを睨みつけた。


「ふざけるなよ悪党が.........!」

「まぁ落ち着け。俺もただの悪党という訳では無いのだよ」


ラットキングは積み上げられた死体の山に腰掛け、手に持った刀をネズミの死体に突き刺して立てた。

そしてゆっくりと自分の顔にかかった灰色の布を取った。


「暗殺者集団だった頃のネズミと言う組織は、一流だけが取り揃えられていた。だからこそ目を付けられ、壊滅にまで追いやられた」

「王族貴族関係なく殺したんだ、当然だろう」

「いいや、違う。俺達は一流だった。誰も死なない、誰もヘマをしない。スケープゴートがいなかったんだ。だから王族貴族が躍起になって全員に高額な賞金を付けたのだ」


ラットキングは一枚の手配書をアイルの前に投げ落とす。

そこには、ラットキングの文字と大きく【処刑済み】の文字が書かれていた。


「犯人に出来るんなら誰でもよかったんだ、俺でなくてもな」


ラットキングは大きくため息を吐きながら、その手配書を踏みつけた。


「酷い話だとは思わんか? あれだけ殺し回って伝説として語り継がれる程になったのに、実際奴らの興味があったのは俺の形をした影だ。俺の事など最初から誰も見ていなかった」


真兎はこっそりと落ちていたナイフを拾おうとするが、アイルが目でそれを制止した。

ラットキングは軽く鼻でその行為を笑いながら、満足そうに話を続ける。


「だから俺は王様になる事にしたんだ」

「は?」

「なんだって?」

「俺はこの世のどうしようもない奴らを集めて、国を適当に乗っ取り王様になるんだ。元からあった農畜産業で他の国と張り合い、暗殺業で他の国を圧倒する。そうすれば俺の名前は歴史に刻まれる」


ラットキングは大きく手を広げ、もう一度アイルに向かって手を差し出した。


「俺の護衛として雇ってやる、俺の国で二番目の地位だ。どうだ、悪くないだろう?」

「.........質問が二つある。一つ、この街で起きている誘拐事件にお前達は関与しているのか?」

「? もちろんだ。俺達が攫い、奴隷や人体パーツとして売り払っている」


ラットキングは不思議そうな顔をして、アイルの問いに答えた。


「何よりこの国の国王からの依頼だったからな」

「.........何だと?」

「知っているか? この国も元は治安が悪かったんだ。誰が広めたか、【旅立つ者はイルテンから】とか言う言葉を真に受けて冒険者が集まっていた。それに伴い治安は悪化、殺しや盗みが無い日は無かった」

「そんな話.........聞いた事がない」

「だろうな。暗部は他には見せないもんだ。それで国王は俺達を頼った、この国での自由を保証する代わりに、治安維持・冒険者の排除を依頼したのだ」


アイルの脳内では、否定よりも先にその理論的な話に納得してしまっていた。

辻褄も合うし、聞いていた話よりも治安は良かった。

信じたくはないが、事実冒険者が減った事で治安は多少良くなったのだろう。


「もう一つ、質問だ。攫った冒険者はどうした?」

「ほとんど殺して売り払った、残りも奴隷として売り払った」

「そうか、よく分かったよ」


アイルは短くそう答えると、ラットキングが差し出した手にゆっくりと自分の手を伸ばす。


「よく分かった。君達が真の悪だって事がね」


隠し持っていたナイフをラットキングの手のひらに突き刺し、アイルは剣を拾いに体を翻す。

次の瞬間ラットキングの丸太の様な足が、アイルの体をくの字にへし折って蹴り飛ばした。


「がぁっ.........!」

「アイル!」


ラットキングは自分の手のひらからナイフを引き抜き、転がっているネズミの死体に投げ刺す。


「ゴミが、力量差を理解せず牙を剥く。攻めの下手な貴様の様な蛆虫を役立ててやろうと言うのに」

「黙れ.........私が蛆なら貴様はネズミだ。下水道を這って逃げ隠れ、誰にも知られる事なく死んでいくのがお似合いだ」


アイルは剣に手を伸ばすが、その腕をラットキングが踏み付ける。真兎はすぐにその足を剥がそうとしがみつくが、ラットキングの足はビクともしない。

ゆっくりと刀を引き抜く音が、下水道に反響する。


「お前達の次は地上で騒ぎを起こしているどこかの馬鹿だ。この国を乗っ取る瞬間に騒がれても困る」

「.........地上の騒ぎはお前達じゃないのか?」

「なんだと?」

「どこかの馬鹿.........」


下水道に鼻につく声が響く。

足音と、杖を付く音がゆっくりと近付いてくる。


「口の利き方に気を付けろよドブネズミ、駆除されたくなければな」


フードを外し、その人物は杖をラットキングに向ける。


「イブ!」

「伏せてろ役たたず共!」


イブが杖を軽く振ると、何十本もの火柱が周囲に立ち昇る。そしてそれは何体もの蛇に変わり、一斉にラットキングに牙を剥いて襲いかかる。


「優秀な魔術師だなっ!」


ラットキングは刀を振るい、炎の蛇を真っ二つに割く。

その一瞬の隙をつき、真兎はアイルを抱えてイブの元に走った。


「イブ、どうやってここが分かったんだ?」

「あぁ? そりゃあ」

「エルがよんだ〜!」


天井から上半身を出し、エルが元気に返事をした。

ラットキングは炎の蛇を全て切り裂き、狂気的な笑みを浮かべてイブの方に歩き出す。

イブは魔術をラットキングに放ちながら、チラリとアイルと真兎の様子を見る。


「動けるか? どちらにせよ逃げるか戦うかどっちか選べ!」

「逃げよう!」

「いいや.........ここでアイツを倒す!」


アイルは握り締めた剣をもう一度持ち上げ、ラットキングに向けて構える。

イブはその様子を見てニヤリと笑みを浮かべ、アイルの後ろに隠れる様に下がった。


「なら守りは任せたぜ!」

「後衛から援護を頼む!」


二人は迫り来るラットキングに向かい、それぞれ武器を構えた。

ラットキングは二本の刀を上下に構え、大きく息を吸い込んだ。


「死出の旅路を踏む準備は出来たか? 全員纏めてネズミの餌だ!」

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