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あ、俺(達)主人公です。〜幽霊少女と3人の異世界冒険譚〜  作者: 酒ッ呑童子三号
第一章【のどかな国と、見えない悪意】
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第10話 【視線】

三人と一体は廃墟を後にし、宿への帰り道を辿っていた。

イルテンの街は昨日と変わらず賑わっており、食べ物のいい香りが鼻をくすぐる。


「あれたべたい!」


エルが指を刺し、三人はやれやれと言った様子で露店に向かう。

本日エルが所望したのは果物を小さな皿に盛り、上から飴で固めて帽子の様な形にした飴細工だった。

人数分の四つを買い、真兎がエルに向かって飴細工を差し出す。


「スゥゥ.........あむっ」


エルは大きく息を吸い実体化し、飴細工に齧り付く。


「え?」


真兎は困惑した表情で自分の持つ飴細工を見る。今までの様に実体は残り味だけが失われるのではなく、エルは飴細工その物を齧り取った。


「ボリ.........バリ.........ゴリゴリ.........」


エルは至福の表情で飴を噛み砕き、満足そうに脱力する。

体の透明度が元に戻り、実体化を解除したのが見て取れた。


「おわぁ! い、今女の子が消えた.........!」

「えっ!?」


ヨボヨボの老人が、エルがいる場所を指差し狼狽える。

周囲は一瞬ざわつくが、老人の慌てふためく様子を見て幻覚を見たのだろうと一瞬で興味を失っていく。


「行こう、マト」


アイルは少し早足でそう言うと、真兎の手を引いてその場を離れた。

少し離れた路地裏で、一足先にその場を離れていたイブと合流する。


「よぉ。.........この飴細工美味いぞ」

「エル、ほかのひとから見える.........?」

「反応を見るに一瞬、実体化の時だけっぽいね」

「エル、あまり人前では実体化しないようにしよう。約束出来る?」

「うん! やくそく!」


エルは笑顔で元気にそう言い、早速実体化して飴細工の残りを一口で食べた。


「私達は抱える秘密が多いな。女神様はなんと仰るだろうか」

「テメェ敬虔な信徒ぶってるが、女神様の教えの中に女遊びを咎めるのが無かったか?」

「それはそうだが、私は抜け道を使っているから問題ない」

「くっだらねぇ。食い終わったし、僕は先に部屋に戻ってるからな」


飴の刺さっていた棒を投げ捨て、イブは先に宿に帰ろうと踵を返す。

しかし、その瞬間イブはピタリと動きを止めた。


「.........あ?」


目だけで周囲を見回し、ピタリと視線を定める。

路地の出口、大通りに繋がる道。そこの壁から露店商人らしき男がこちらを覗いていた。


「何見てんだゴラァ!」

「イブがポイ捨てするからだろ。すいません、こっちで捨てますから!」


真兎が謝罪し棒を拾い上げると、男は顔を引っ込めた。

真兎はため息をつきながら自分とエルの食べ終わった飴細工の棒と纏めて、カバンの中に突っ込んだ。


「イブ、あんまりポイ捨てしちゃダメだぞ。ゴミくらい自分で片付けなきゃ」

「.........?」

「何の顔だ? 待って、何を見てるんだ?」


イブは何かを訝しむ様な顔で周囲を見渡している。

アイルも同じ様に、何か違和感を感じているのか体を強ばらせている。


「あれ、なに?」


エルが上空を見上げながら呟く。

真兎がそれに釣られて空を見上げると、真上の建物の屋根に誰かが顔を引っ込める。逆光で顔は分からなかったが、その目だけが赤く光っていた。


「な、なんだ.........今の?」

「何がだ?」

「今、人みたいなのが屋根の上から.........」

「街中でも視線を感じていたが、私がイケメンすぎたからだと思っていたよ」

「あぁ、こんなに人通りの少ない場所でもずっと見られてるのはおかしいと思ってたんだ」

「な、なに二人とも?」

「一度部屋に戻るぞ、僕達はもう標的らしい」


イブは杖を握り直し、宿への道を急ぐ。

アイルも周囲をもう一度見回し、真兎の背中を押して歩く。

真兎は困惑しながらイブの後を着いていく。

路地裏にもビッシリと、行方不明者の捜索願いが貼られていた。

________________________

「ここまで来れば大丈夫そうだね」


アイルは大きく息を吐きながら、部屋の扉にもたれ掛かる。

イブは部屋の中を見回しながら、自分の荷物に走り寄って中身を探る。


「なぁ、何があったんだ? 教えてくれよ」

「あれはだれなの〜?」


真兎とエルは未だ困惑顔で、アイルとイブを交互に見つめる。

アイルは昨日の捜索願いを取り出し、それを二人の前に並べる。


「私が昨日寝た子から聞いた情報だが、行方不明者は冒険者が多いらしい。そして今日の路地裏の捜索願いだが、名前から察するにほとんどが余所者。冒険者だった」

「僕は昨日捜索願いを見せられた時点で気付いてたがな!」

「賢い魔術師様はやっぱり違うね」


アイルは嫌味を言いながら、自分の荷物を纏め始める。

イブは自分の荷物を必要な分だけ持ち、いつでも街を出れる様に準備を済ます。


「マト、ボーっとしているがお前に一つ教えてやる。冒険者ってのは厄介事、危険な事を避ける鋭い嗅覚が必要不可欠だ。脳みそに刻んだらとっとと荷物を纏めろ、街を出るぞ」

「い、一体どういう事だよ!?」

「私達は既に標的になったらしい。何がきっかけだろうか、昨日の女の子かな?」

「あの数だ、冒険者を片っ端から攫ってんだろ」


コンコン


その瞬間、部屋の扉がノックされた。

アイルはすぐさま剣に抜き戦闘態勢を取り、イブも杖を構えて扉を睨む。


「イルテン守備隊だ。近くの露店で盗難騒ぎがあったんだが、そこで怪しい三人組冒険者の話が出た。少し話を聞かせてもらいたい、ここを開けろ」

「どうする.........?」


真兎は二人に問い掛ける。

二人は一瞬視線を交し、頷くと武器を下ろして平静を装う。


「開けてくれ、マト」

「分かった」


真兎が扉を開くと、そこには数人の衛兵が宿の廊下にぎゅうぎゅうと詰まっていた。


「詰所まで同行してもらう」

「はいはい」


イブは荷物を持ち、衛兵の前に進み出る。

真兎とすれ違う瞬間、イブは小声で囁く。


「冒険者の心得、権力には従えだぜっ」


イブはアイルの真似をして真兎に下手くそなウインクをし、衛兵と共に宿の外に向かう。

次にアイルが真兎の隣をすれ違う瞬間に、小声で囁く。


「ふふ、イブのは僕の真似かい? 全然似てないよね。ぜっ!」


アイルはそう囁いて真兎に自然なウインクをし、衛兵と共に宿の外に向かった。

そして最後にアイルの後に続き、エルが真兎の前でふわりと立ち止まる。


「ぜっ!」

「ぶふっ」

「そこ! 何を笑っている!」


下手くそなウインクに思わず真兎は吹き出す。

衛兵は困惑と恐怖の目を真兎に向けるが、真兎は誤魔化す為に必死で咳き込む真似をする。


「すいませんすいませんっ! ごほっごほっ! 荷物持って今出ます!」


真兎は自分の荷物を持ち、廃墟から持ってきた勇者アルタイルの本と廃墟にあった手記を荷物に突っ込んで部屋を出る。

衛兵は部屋の中に誰も残っていない事を確認し、扉を閉めた。

________________________

「この部屋でしばらく待て」


衛兵はそう言い残し、三人を一つの部屋に閉じ込め鍵を閉める。


「くぁ.........呼ばれたら起こせよ」


イブはそう言うと自分の荷物を枕に、杖を抱きしめてスヤスヤと寝息を立て始めた。

アイルは部屋の扉を開けようと試みるが、やはり鍵が掛かっていて開かない。


「早めにこの街を離れたいんだがな」

「どうして?」

「衛兵に連行されてる最中も、ずっと誰かが私達を見ていた。人攫い共は衛兵が脅威に感じていないらしい」

「国家権力だぞ? そんな事あんのか?」

「イブ。相手が誰か分からないのならば、低く見積もらない方がいい」


アイルの真剣な眼差しにイブは鼻を鳴らし、舌打ちをしてそっぽを向いた。

アイルは部屋の隅に座り、剣をいつでも抜ける様に腕の中に抱える。


「今日も順番に眠ろう。私、イブ、真兎の順番だ」

「ぐがが.........すやぁ.........」


イブの嫌に大きな寝息が気に触ったのか、それとも窓から差し込む日差しが眩しいのか。少しばかり目を細めた。


「マトも今のうちに眠っておけ。嫌な予感がする」

「.........少し眠れなさそうだから、本でも読んでおくよ」


真兎はそう言って、自分の荷物に詰め込んだ本を開く。

勇者アルタイルの本を取り出そうとするが、一緒に引っ張り出された手記が地面に落ちる。

その拍子にページが捲れ、真っ黒なページが一瞬姿を見せる。

真兎は真っ黒なページに興味を示し、アルタイルの本を戻し手記を開く。そしてしばらく読み進めるが、誰かの日記が書いてあるだけだった。

何か人の秘密やプライベートを覗き見ているようで、真兎はページを捲る手を止めた。


「それなに〜?」

「誰かの日記だよ」


エルが興味津々に聞いてくる。

真兎はエルに笑いかけながら、わざとらしくページを捲って答える。

その瞬間、何かの予感を感じ真兎は視線を手記に落とした。


「.........腕を見つけた?」

「うで? エルの?」

「ちょっと待ってね.........」


真兎は姿勢を正し、手記をじっと読み込む。

ちょうどそのページから仕切り直すかのように、事細かく物事が書かれていた。


『今日、腕を見つけた。先祖から受け継ぐ暖炉の中に隠されていた。布で包まれ、暖炉の内側。一番温度の高い場所に隠されていた。布は既に焼け焦げていたが、腕はまるで今切り落とした様に新鮮だった。この腕は、一体なんだろうか』

「.........暖炉の裏?」


日が落ち小さな窓から差し込む光が心許なくなっていく。

暗闇に落ちる小部屋の中で、真兎は一人食い入るように手記を見つめていた。


『私の名前はクミッツ・サリエル。しがないただの、農家のはずだった。』

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