表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あ、俺(達)主人公です。〜幽霊少女と3人の異世界冒険譚〜  作者: 酒ッ呑童子三号
プロローグ【三人の冒険者と幽霊少女】
1/21

プロローグ 3人の物語

その日。四人は別々の場所でそれぞれ違った予感をさせていた。

一人はいつもと変わらぬ日常を過ごす予感を。

一人はこれからの人生が下り坂であるという予感を。

一人は己の夢の為にこれから歩む修練と成長の予感を。


そして一人は、これから巻き起こる波乱と冒険。見た事もないものを見て、感じた事のない事を感じる。第二の人生の予感を。


________________________

何も変わらない日常。

学校が終わり、いつもの通学路を歩いていた。

見慣れた光景、見慣れた街並み。見慣れた人達と、そこにいるだけの自分。

すぐ左手の公園では仲良さそうに、知らない親子がキャッチボールを行っている。

そして何の変哲もない少年の手には、一年間空っぽのままの進路希望調査書が握られている。

付箋がいくつも貼られ、担任や生徒指導の先生からの催促や励ましの一文が書かれている。

すぐ側の車道で速度を出す車の風に飛ばされない様に紙を軽く握りながら、少年は紙をじっと見つめて呟いた。


「なりたいもの.........」


少年はずり落ちかけた鞄を肩に掛け直す。

少年に特にこれと言って、なりたいものはなかった。少年は幼い頃の記憶を思い出しながら、必死にやりたい事を探す。

しかし思い出は泡沫の様に淡く、薄ぼんやりとしたモヤが掛かっていた。


「あ」


少年の脳裏に、幼い頃の一つの記憶が蘇る。

そして衝動的にペンを取り出し、その紙に文字を書き殴る。

抑える物もなく書いたその字は酷く不格好だが、少年の確かな決意が篭っていた。


「.........いや、無いな。明日先生に新しい紙を貰うか」


少年は書き出した内容を見て呆れた様に笑い、紙をくしゃくしゃに丸めようとした。

その時、ふと少年の目の前に子供が飛び出した。

子供は手に野球のグローブを嵌め、地面を転がる白いボールを追いかけている。


「止まれっ!」


その子供に向かって、同じ様にグローブを嵌めた男が叫ぶ。

ボールは転がり柵を潜り抜け車道に転がり落ちる。

子供は無邪気にそのボールを追いかけ、柵を乗り越えようとしていた。


突然トラックのクラクションが、少年の背後から鳴り響く。

振り返ればそこには3トントラックが、減速しながら迫っていた。運転手は必死でブレーキを踏んでいるのが表情から読み取れるが、トラックの慣性は子供を轢き殺すには十分過ぎる速度が出ていた。


迷いはなかった。


少年は車道と歩道を隔てる柵を乗り越えた少年を抱き上げ、力を振り絞って歩道側に投げ飛ばした。

少年は空を飛び放物線を描き、父親の腕によって抱き止められた。


事故現場には学生鞄と、【勇者】と書かれた進路希望調査書だけが落ちていた。

________________________

青年は汗を全身に浮かべながら飛び起きる。


「.........はぁ、はぁ」


魔術使って水を出し、口をゆすいで部屋の隅にあるバケツに吐きだす。

痛む頭を抑えながら、机の上の財布代わりの皮袋と杖を持ち部屋を出る。

纏った該当はボロく、今にも崩れ落ちそうな風貌をしている。

木製の階段を下り、酒場の隅の席に座る。


「あ、また来てくださったんですね〜! ご注文は何にいたしましょうか?」

「.........お酒」


元気で笑顔を向けるウエイトレスに気圧され、顔を伏せながらボヤくように注文する。

ウエイトレスは笑顔のまま首を傾げる。


「.........強めのお酒を、お願いします」

「はい! かしこまりました〜!」


ウエイトレスは犬の耳をふかふかと動かしながら、尻尾を振って注文を厨房に伝えに行く。

その背中を見つめながら、外界から身を守る様に机に伏せる。


こんなはずじゃなかった。


そんな言葉が脳裏をよぎる。

何度も何度もこの言葉が頭の中で繰り返される。自分が否定され、崩れていく音がする。

杖を強く握り、ただ周囲の喧騒を聞き流し続ける。


「よぉ兄ちゃん。何してんだ?」

「.........なんすか」


ドカッと音を立て、大柄な男が真向かいに座る。

青年は白の混じった黒髪の間からチラリと一瞬睨みつけ、目を背ける。その男の背後、酒場の反対側にニヤニヤとした様子でこちらを見る集団が見える。

恐らく罰ゲームか何かで話しかけに来たんだろう。


「いやいつも一人で飲んでるから気になってな。何があったんだ?」

「.........チッ。お前には関係ないよ」

「おいおい、そりゃ酷いな。一杯奢るから教えてくれよ」

「.........故郷を追われたんだよ。信じてた人に裏切られて、今は一人だ」

「へぇ、そりゃ辛いな。どうして追われたんだ?」

「.........一杯で話せるのはここまでだよ。とっとと失せろハゲ」


男は自分の頭を手で覆い、一瞬で顔を真っ赤にして立ち上がる。


「てめぇガキ! 口の利き方を知らねぇようだな!」

「.........大声を出すな、頭に響くだろうが」


遠くから見ていただけの男達がやって来て、顔を真っ赤にした男を宥めている。

僕はゆっくりと立ち上がり、杖を手にした。


「やろうってのかガキィ!」

「.........席を変えるんだよ。それにお前らじゃ僕の足元にも及ばない」

「おい、聞き捨てならねぇな」

「魔術師のガキが、調子に乗りやがって」

「まぁちょっと痛めつける位なら問題ねぇだろ」


柄の悪い男達に一瞬で囲まれる。

僕は杖を強く握り、魔力を込めて足元から炎の渦を発生させる。


「アチィッ!」


男達は一瞬怯み距離を取るが、その瞬間に岩石を打ち出し男の一人をノックアウトする。


「よくもやりやがったな!」

「やかましいな、口を塞いでやるよ」


手の中で水を作り出し、蛇の様に操って煩い男の口にねじ込む。

そして吐き出そうとする男の動きに合わせて繋がったままの水を操り、男を酸欠で失神させる。


「三色の魔術師か.........!」

「いいや違うね」


杖を軽く掲げ、杖の先端を強く発光させる。

背後から忍び寄っていた男は目が潰れ、その場に蹲った。


「僕は天才だよ。この世で最も優秀な魔術師だ」


杖を大きく頭上で振り回し、地面に突き立てる。

その瞬間魔力を纏った鞭の様な樹木が地面から飛び出し、残った男達を壁や天井に叩きつける。

まだ目が見えず蹲ったままの最後の一人の首元に、杖を突きつける。


「ば、化け物.........」

「誰も理解しなくていい。僕は一人でいい。この世界で僕以上はいないからな」


杖を大きく振りかぶり、跪いたままの男の顎を打ち上げる。

ひっくり返った男は気絶し、それを呆然と見る先程のウエイトレスが目に入った。


「こいつらの奢りらしい、修理費もこいつらに頼む」


呆然とするウエイトレスの手から、注文した酒を勝手に受け取る。

次の瞬間、鋭いビンタ音が酒場に響いた。


「出禁です!」


僕は酒の入った容器を握りながら、酒場の外に放り出される。

零れかけた酒を飲み干し、空の容器を道に投げ捨てた。

________________________

まだ日が昇る前の、霧掛かった街。

数週間を過ごした場所を降り、凝り固まった体を大きく伸ばす。


「ん〜っ! いい気分だ!」

「騎士様や」


馬車を操っていた老人が、目の前にやって来て深々と頭を下げる。


「道中魔物の襲撃を退けてくださって、ありがとうございます。おかげで無事たどり着けました」

「なぁに、騎士として当然の事をしたまでだよ。ご老人」

「.........失礼かもしれませんがあの見事な太刀筋、【スターダスト】の」


自分の指を自分の口元に添え、老人に対して軽くウインクをした。

老人はハッとした様に口を閉ざし、頭をもう一度下げた。


「私の旅は今日ここから始まるんだ。過去も経歴も全て捨てて、騎士として歩み始めるんだ」

「申し訳ございません.........」

「ご老人は幸運だ、私と言う歴史の一ページ目を目撃したんだ。家族に自慢してやるといい」


腰まである長い金髪を振り、赤いマントを大きく翻す。


「長い道中世話になったな! ご老人、お元気で!」

「騎士様も、どうかお達者で。貴方の旅路に女神の加護があらんことを」


綺麗に磨かれた鎧で朝日を浴びながら、まだ誰もいない街を歩き始める。

これから先巻き起こるであろう冒険と成長を夢見て、浮き足立った足で大通りを行く。


「ちょっと! 離してください!」


ふと、そんな上機嫌な耳に女性の悲鳴が聞こえてきた。

何事かと周囲を見渡せば、路地裏の奥で二人の男が一人の女性を取り囲んでいた。


「おい! 貴様らその薄汚い手を離せ!」


迷う事無く路地裏に入り、女性の肩を掴む男の腕を捻りあげる。


「なんだテメェ!?」

「おいボウズ、痛い目見たくなきゃ消えろや」


男達はドスの効いた声で凄みを効かせるが、捻りあげた腕をへし折る事で返答とした。


「ぐぁっ!」


男が情けない声を上げて、腕を抑えて地面にしゃがみ込む。

もう一人の男のが大振りで殴りかかってくる。

私は剣を抜き、一瞬でその首に剣を突きつける。


「動くな。これ以上動けば喉を貫く」

「ぐ.........! 舐めやがって.........!」


喉に剣を突きつけられた男は両手を上げて降参した。

だが、その視線が自分の真後ろに向いているのを見逃さなかった。

素早く剣を振り抜き、背後からナイフで不意打ちしようとしていた男の腕を切り飛ばす。


「がぁぁぁっ!」

「綺麗に切り飛ばした、今医者に行けば治るぞ」

「覚えてやがれッ!」

「いでぇ.........いでぇよぉ.........ッ! 俺様の腕が両方ゥ.........!」


二人の男は支え合いながら、切り飛ばした腕を持って退散していく。

私は剣の血を振り払い、腰の鞘に収める。


「大丈夫だったかい、お嬢さん?」

「は、はい.........」


助けた女性は顔を真っ赤にし、もじもじと私から視線を逸らして返答する。

私は満更でもなくその女性の髪を撫で、耳元に顔を近付ける。


「怪我とかしたの? 呼吸が荒いよ?」

「い、いえ怪我はしてないです!かっこよくって......... ど、ドキドキしちゃって.........」


私は迷わずその女性の顎に指を添わせ、優しく撫でる。

騎士修行の前に、英気を養うのも大事だ。

私は女性の肩を抱き、まだ静かな街を歩き始めた。

________________________

静かな静かな闇の中。

何も見えないし何も感じない。

何も覚えていないし、何もかもが存在していない。

それでも確かに明日はやって来る。

今日も膝を抱え、ただ闇の中に存在し続けている。

明日はきっといい日になるさ。

・感想

・いいね

・ブックマーク

・評価等


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ