カードゲーマーたちよ……
とある夜の街。その路地裏にて……。
「おら、金出せよおっさん」
「はははははっ! そんなキョロキョロしても誰もここまで来ねーよ」
「そ、バカだねー。逃げ込むにしてもさぁ、そこ、行き止まり! ははははは!」
「逃げるなんてそんな、痛っ! や、やめ」
「おい、もう一発殴ろうか? ん? 殴ろうかぁ? はははっ、ほら、財布もーらい!」
「ああ、やめてくれぇ……」
「クソッ、大して入ってねーなぁ。会社員だろ? その歳で平か? さすがにクレジットカードがないわけ、お、あった……ん?
いや、なんだこれ、おいおい、おっさん、財布の中に何入れてんだよ。これ、なんかのカードゲームのやつか? えっと、サキュバスインフィニティ……?」
「あ! そ、それ!」
「それは……」
「ん? これがなんだよ? 光ってるけどレアカードか? にしてもエロいなこれ、いや、そんなことよりマジでクレジットカードねえのかよ! おい、別に財布持ってんじゃねーだろうなぁ!」
「そ、そのカード、俺、ネットニュースで見た! 最近メチャクチャ流行ってるカードゲームで、えっと、確か六十万とか! レアカードだよレアカード!」
「え、マジかよ! そんなたけーの!?」
「……ふっ、そうだとも。おぉっと、そう強く握らないでくれよ。
そう、そんな風に優しく、現実の女の子に触れるように指先をしなやかに。
ふふふふ、傷一つで価値が大変落ちてしまうからねぇ。
因みに六十万というのはカードショップの販売価格で、売るとなるともう少し金額は低いが、それでも五十万買取は堅いだろうねぇ」
「だろ!? やっぱな! すっげー!」
「いや、おっさん。なに語ってんだよ……。まあ、いいや。こいつを代わりに貰ってくって、いってぇ! なにすんだよ! 落ちちまったじゃねえか! 傷でもついたら――」
「そいつは六十万のカードなんかじゃないぜ」
「は……?」
「チッ」
「六十万のは再販してない初期のブースターパックから、ごく低い確率で出るレアだ。
そいつは最近発売されたスターターデッキに必ず入っている一枚……。光ってはいるが実質千円で手に入る大した価値のないカードだ!」
「マジか……おい、おっさん! 騙しやがって、っていやお前詳しいな。やってんの?」
「ふふふふ、さすがに気がつきますか……ですが昨今、転売が横行し、商品自体、品薄なのでねぇ。
大した価値がないというのは訂正してもらいましょうか。それに、そのインフィちゃんは私にとってお守りみたいなものなんでねぇ」
「フン、そいつは悪かったな。だが価値を偽り、不平等なトレードをしようとするシャークトレードはカードゲーマーの風上にも置けないぜ!」
「いや、トレードというか俺ら一方的に奪おうとしてたじゃん……」
「そこまで言うのなら……しますか? 私とプレイをねぇ」
「フン、アンティルールか。面白い。受けて立つぜ!」
「いや、お前……その束、デッキってやつ? がっつりやってんだな」
「俺のサキュバスデッキがお前の躯を愛撫するぜ!」
「ふっふっふ、私のサキュバスデッキで根こそぎ搾り取ってやりますよ」
「どっちもサキュバス!?」
「風俗がテーマなんだってよ! うおー! あちぃぜー! 二人とも、俺が四つん這いになる! カードが汚れるから俺の背中を使え! あ、でもそれじゃ俺がプレイを見えねえ! くそー! どうすればいいんだ! あ、下に服を敷けばいいんだ!」
「いや、お前までなに興奮してんだよ。馬鹿かよ」
「いけ! サキュバスライトニング! 速攻でいかせろ!」
「カウンタースペルマジック……発動! 『タイマー戻し』これにより、あなたのキャストは意気消沈。このターン、行動不能になる。ふふふ、時短は勘弁願いますよぉ」
「フッ、回れ輪廻の花……こっちもスペルマジック発動! 『妖花旋廻』これで新たに三人のキャストをフィールドに入店させるぜ」
「やりますねぇ……ですが所詮は体験入店。逃げられないといいですがねぇ! そう、たとえばこんな風なことがあってね!」
「なに! それは!」
「カウンタースペルマジック『親バレ』を発動! さ、ご退店願いましょうかねぇ」
「くそっ、先に『パネマジ』のカードを引いていれば!」
「ふははははは! 夜はまだまだこれからですよぅ!」
「うおおおおお! すげえ攻防戦だぜ!」
「いや、最低かよ……。恥ずかしげもなく、マジでなんなんだよ。なに見せられてるんだよ俺は。こんなの製作者のオナニーだろ……。
ああもう、やってろやってろ。鞄の中に他の財布か何か……何だこの箱。うおっ、カードがギッシリ。おっさん、どんだけ好きなんだよ……いい歳して、えっ、全部同じだ。なあ、これもレアカード?」
「それをこっちへ渡してもらおうか」
「は、え、誰だアンタら……」
「ふふふっ、やっと来ましたか」
「な、おっさん! どういうことだよ!」
「元々、ここでそれの受け渡しを行う予定だったんですよ」
「それって、このカードの束か?」
「まさかそれは……偽造カード!」
「マジかよ!」
「偽造って、ええ? なんで……あっ」
「そう、価値のあるカードは、そのままお札を刷るようなもの。やらないはずがないでしょう」
「この野郎……カードゲーマーの風上にも置けないぜ!」
「そういう俺らはカツアゲの常習犯だけどな」
「このプレイも時間稼ぎのためのもの。……ですが、続けましょうか。
ただし、勝利報酬は変わりましたがねぇ。そちらが勝てば無事、帰してあげましょう。ただし負けたら」
「フン、皆まで言うなよ、いくぜ! 俺のターン! スペルマジック『出戻り』を発動! 甦れ! 俺のキャストよ!」
「頼む、勝ってくれぇ……」
「いや、普通に逃げようぜ。こいつらも騒ぎを起こしたくないだろうし」
「あのー、ちょっといいですか?」
「今度はなんだよ……え、警察……?」
「フン、来たか」
「なに!? ま、まさかぁ!」
「そう、そのまさかさ。俺たちはカツアゲの常習犯。この辺りは警戒区域となっていたんだよ」
「くっ、時間稼ぎをしていたのはそちらも同じだったのか……」
「うおっー! すげー! 罠の応酬だぜ!」
「いや、たまたまだろ。つーか、どうすんだよ! ここ行き止まりなんだぞ!」
「はいはい。全員、何か身分を証明する物とか出してもらえますかぁ?」
「あ、あの、これ……」
「いや、おっさん。カード見せたって……」
「……なるほど、どうもー! 夜なんであまり騒がないでくださいねー」
「え? は? なんで帰って……?」
「ふっ、最強のカードを切っただけですよ」
夜の歓楽街に響く笑い声。
色に遊びに誘われ、誘蛾灯に寄せられる羽虫のよう。
虫を追い求める男の子。今や女を追い求める男。
されど、男は少年の心を忘れない。
今も昔もカードゲームは心を惹く。
今も昔も人は賭博に溺れる。
かつては花札。今はトレーディングカード。
けれど、一番強い札はいつの世も同じ。
警官の袖の下。お札が楽しげに舞い踊る……。