『僕は地虫、見上げた空を征くものよ』のあらすじ
『僕は地虫、見上げた空を征くものよ』
あらすじ
僕の名前は茂部影。年齢は四十五歳。独身。彼女なし。結婚歴なし。車なし。地位なし。名誉なし。実家暮らし。年収二百万円以下。ないないづくしの人間でいわゆる社会の底辺だ。
僕は学生時代に内定を貰えず、仕方なく非正規社員…いわゆるアルバイトになった。そこの会社で数年間勤めたあと僕は職を辞め、いくつか、三社ぐらいだったかな?を転々とし、今の倉庫内作業に就いたのは十数年前だ。僕はアルバイトだから気楽に働けている。職場はとても居心地がよく、働く環境も一日五時間だ。
でも、そんなとき母さんが倒れてそのまま逝ってしまった。僕の実家は元々公営住宅にあり、母亡き今、配偶者もいなくて六十五歳以下の僕は公営住宅を追い出されることになったんだ。
両親の遺してくれた遺産はあった。でもそのお金は僕が働いて貯めたものじゃない。だから僕は相続放棄した。僕はお兄ちゃんだから、家庭を持っている弟と妹に全部その遺産をあげたんだ。
このときの僕は知る由もなかったんだ。中年アルバイトの底辺の僕が独りこの社会で生きていくという難しさを。
僕は大地の底辺から上を見上げる地虫だ。地面を這い回る地虫だ。そしてきっちりとスーツを着こなした人達が僕の遥か上空を優雅に翔んでいく。彼ら、彼女らは綺麗な黄金虫だ。彼ら、彼女らの翅はキラキラと陽の光を反射する。煌びやかに輝く黄金虫達が何匹も僕の遥か空を翔んでいく。きっと僕みたいな地虫達なんか視えていない―――。だけど、だからこそ僕は地を這ってでも生きてやる。独りで生きて生き抜いて独りで散っていく。僕も最期には空を征く綺麗な黄金虫になれることを夢見て・・・。
2019年の同人誌即売会にて、無料配布したチラシのあらすじ
僕の名前は茂部影。年齢は42歳。独身。彼女なし。結婚歴なし。車なし。地位なし。名誉なし。実家暮らし。年収二百万以下。ないないづくしの人間でいわゆる社会の底辺だ。そんなことはどうでもいい、勝手に言わせておけ。氷河期とかなんとかかんとか言って、こんな僕達をたくさん作ったこの社会も悪い。下流中年も掬い上げてくれる政策はないのかな?
僕は氷河期の所為で学生時代に内定を貰えず、取り合えず非正規社員…いわゆるアルバイトになった。そこで数年間勤めたあと、僕は職をいくつか、三社ぐらいだったかな?転々とし、今の職場に就いたのは十数年前だ。傍から見ていて、正社員の人達はいつも疲れた死にかけのゾンビみたいな顔をしていて、十連勤とか十二連勤とか、とても辛そうだけど、僕はアルバイトだから気楽に働けている。職場はとても居心地がよく、働く環境も一日五時間ととてもいい、個人的な趣味のイベントでどうしても休みたいときは休ませてくれるし、アルバイトだから、がみがみと言われることもない。正社員の就業環境の厳しさを横目で見ていて、僕はもう正社員になろうとは思わない。周りのバイトの同僚達もみんな僕と同じことを言っている。
正社員にならなくても年金暮らしの実家で親と同居しているから餓えることもないし、一定量のお金を家に入れていたらなんの問題もない。
と、僕はそんなことを思っていたんだ。でも、そんなとき母が倒れてそのまま逝ってしまった。僕の実家は元々公営住宅で母亡き今、六十五歳以下の僕は公営住宅を追い出されることになったんだ。
家庭を持っている弟と妹に『今まで好き勝手生きてきたくせに』とか『財産を食い潰したの兄さんだ』と散々言われたさ。母さんの葬儀代を除いた、親の財産は他の二人のきょうだい達に持っていかれた僕は無一文になってしまった―――
それでも僕は正社員になろうとは思わない。だって正社員になると土日祝日は休めなくなって、趣味の活動ができなくなるから。僕はこれまで母さんがいた頃に作ってくれていた食事は食えなくなったとしても、餓えてもいいから僕を縛り付ける正社員にはなりたくないんだ。さて、安い家でも探すとしますか。
このときの僕は知る由もなかったんだ。中年アルバイト男が独りこの社会で生きていくという難しさを。
僕は大地の底辺から上を見上げる地虫だ。地面を這い回る地虫だ。そしてきっちりとスーツを着こなした者達が僕の遥か上空を優雅に翔んでいく。彼ら、彼女らは綺麗な黄金虫だ。彼ら、彼女らの羽はキラキラと陽の光を反射する。煌びやかに輝く黄金虫達が何匹も僕の遥か空を翔んでいく。きっと僕みたいな地虫達なんか視えていないんだ―――。だけど、だからこそ僕は地を這ってでも生きてやる。独りで生きて生き抜いて独りで散っていく。僕も最後には綺麗な黄金虫になれることを夢見て・・・。
新作『僕は地虫、彼らは黄金虫』ここに始動。 著:いぶきスタイル/高口爛燦