愛さないのは親の方だ
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
虐待の話。
親を愛さない赤ん坊は居ないんですよ。
子供は無条件に親を愛するよ。愛さないのは親の方だ。彼女はそう一言だけ言って、読んでいた本を手渡した。
昔からぼんやりとしている。何を考えているかよく分からない。けれども時折吐き出す言葉は酷く人の胸を抉って、中々治してはくれなかった。
彼女の真意を知る為に、彼女から借りた本を読んでみる事にした。親から虐待を受けている子が、それでも親を愛する話だった。どれ程体に青アザ付けても、骨が折れても、それでも親に対して愛してると言う子の話だった。余りにも歪んだ無垢なる子供の愛情だった。
「どうだった?」
渡り廊下でばったりと会った時、彼女はぼんやりとした顔で僕の顔を見詰めていた。相変わらず亡霊の様に儚く、何処か虚ろな表情は全くもって真意が読めない。
僕は持っていた文庫本を彼女に返す。彼女は黙って受け取った。
「あんまり後味の良い終わりではなかったよ。その子の思いが報われる事も無かったし」
あの物語の結末は女の子が虐待の果てに亡くなった。白い素肌を全て青アザで染めるくらいの虐待を受けて亡くなった。それでも女の子は死ぬ最後の時まで実の親に向かって『愛してる』と言い続けた。
「そう。私も同じ。よく『子供を愛さない親なんて居ない』って言うけれど、普通は逆なんだよ。『親を愛さない子供は居ない』の。だって親以外の人なんか知らないから。その人に縋り付く事でしか生きていけないから。だから一生懸命子供は親を愛するんだよ。それでも親が子供を嫌い続けたら、何時しか子供の方が嫌って親を愛さなくなるの。だからこの物語は特例。本当に特例」
言い終わるのを見計らった様に僕らの間に風が吹き抜けた。それは彼女のスカートのラインを思い切り捲り上げると、太ももを晒した。彼女は押さえ付けようともせず、ただぼんやりと立っていた。その時に見えた光景は、この物語に登場する女の子のようだった。
「私も親を愛するわ」
「……」
そう言って僕の隣を去る。引き止める事は出来なかった。
親になった事はありませんが、そうやって無条件に愛し、愛された事はあります。
どんな扱いを受けても、幼い子は親やら兄姉を愛します。
それでも耐えられなくなったら、相手を嫌うし憎むんです。
ふと仕事をしていて思いついたお話です。
物凄く生々しい話。
けれどもこれこそが本質だと思います。
最後はあえてぼかしました。
ただ一つ言えるのは『この子も小説の子と同じような物を持っている』という事だけです。
あの方の小説の親子関係は、何時もこれに帰する気が……。